「ドイツ大会以上のインパクトを」守備の要・南萌華が見据える、ワールドカップに挑むなでしこジャパンの勝機
7月20日に女子ワールドカップが開幕する。池田太監督率いるなでしこジャパンは、7月14日にパナマ代表との国際親善試合を行った後に開催地のニュージーランドに入る。2011年以来の世界一を目指す池田ジャパンで、守備の軸を担ってきた一人がASローマ所属の南萌華だ。対人の強さを武器に、セリエAやUEFA女子チャンピオンズリーグの舞台で経験を積み、2度目のワールドカップメンバー入りを果たした。海外挑戦で自信をつけ、満を持して臨む今大会にかける思いを聞いた。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=ムツ・カワモリ/アフロ)
中堅として臨む2度目のワールドカップ
――ローマでハードなシーズンを過ごしましたが、オフは少しゆっくりできましたか?
南:ワールドカップもあるのでそこまで長く休むことはできなかったんですが、家族とゆっくり過ごすことができたので、しっかりリフレッシュできました。
――2019年に続き、2度目のワールドカップ出場が決まりました。メンバー発表はどのような状況で見ていたんですか?
南:自宅で、YouTubeのライブで見ていました。発表の瞬間は自分の名前が呼ばれるかどうかドキドキしました。これまで一緒に戦ってきた選手の中で、名前が呼ばれなかった選手もいるので、その選手たちの分も責任を持って戦わなければいけないなと身が引き締まる思いです。
――2019年のフランス大会はグループステージ初戦のアルゼンチン戦に出場しましたが、その後はベンチから試合を見守り、ベスト16敗退という悔しい結果でした。今大会では、どんなことを目標にしていますか?
南:前回は年齢が下のほうだったこともあって、先輩方に引っ張っていってもらった感じでした。その中で、個人的にもチームの力になれずに悔しい気持ちで終わったのを覚えています。でも、この4年間で成長できた実感がありますし、海外で1年間プレーしたことで自信もついたので、今回は試合に出続けてチームの勝利に貢献することや、「海外挑戦で力がついたな」と思ってもらえるようなパフォーマンスをしたいです。
――前回のワールドカップでは、ディフェンダーの中で最年少でした。今回は高橋はな選手(23)や石川璃音選手(19)など、年下の選手たちも入っています。チーム内での立場も、以前とは違いますね。
南:そうですね。今回のメンバーでは真ん中ぐらいの年齢なので、年上の選手と年下の選手をつなげたり、若い選手が楽な気持ちで伸び伸びプレーできるようにしてあげたいです。若い時は年上の人たちとなかなか話せなかったり、遠慮してしまう部分がどうしてもあって、試合でも「あの先輩に呼ばれたからパスを出す」という感じでプレーに影響することがあります。そういうふうになってほしくないので、普段からよくコミュニケーションをとって、お互いになんでも言い合える関係を築いて、みんなが自分の力を最大限に発揮できるようにしていきたいと思っています。
ローマで広がったプレーの幅
――対人プレーや空中戦の強みを、セリエAでもコンスタントに発揮して、加入1年目でリーグのベストイレブンにも選ばれました。これまでのキャリアを振り返って、どんなことが1対1の強さの源になったと思いますか?
南:レッズレディースユースで育ってトップチームに昇格して、大学1、2年の頃は試合に出られず、自分の力のなさを感じていたんです。ただ、その時にスタメンで出ていた(菅澤)優衣香さんや(安藤)梢さんと紅白戦でマッチアップして1対1を磨くことができました。だからこそ、U-19代表やU-20代表で海外の選手と急に対戦しても対応できる手応えを感じていましたし、レッズで環境に恵まれたことは大きかったと思います。
――相手をうまく牽制するような腕の使い方も、その時に鍛えられたんですか?
南:(菅澤)優衣香さんは1対1の時に、前にぐいっと入ってくるのが上手なんですよ。それを見て、相手の前に入ってインターセプトするために手は使えたほうがいいなと感じていたんです。それで、ディフェンダーの選手でお手本を探していたときに、代表で(熊谷)紗希さんが手を使って相手をかき分けていくプレーをやっているのを見て、これだ!と。相手を押す力とか相手との距離感を保つ力もすごく大事なんだなと感じて、紗希さんのプレーから腕を使うタイミングなどを学びました。そのために、上半身の筋トレもしっかりやるようになりましたね。
――三菱重工浦和レッズレディースと代表の先輩たちから肌で学んできたんですね。ローマではセンターバックだけでなく、左サイドバックでも新境地を切り開きました。タスクや役割の違いはどのように整理していたんですか?
南:「サイドバックをやっているからこその強みを見つけたい」と思ってプレーする中で、ビルドアップではセンターバックがボールを持った時の立ち位置やサイドハーフとの関係性を意識しました。左サイドハーフのエミリエ・ハーヴィ選手は仕掛けるのが得意なので、自分がオーバーラップしてスペースを消さないように、早めにボールを渡すようにしていました。
守備は1対1の数が多いことをプラスに捉えていました。一人で奪えなくてもセンターバックが取れるように誘導する守備を考えたり、プレーの幅は広がったと思います。
――代表でも、4月のポルトガル戦では3バックから4バックに変化する際にサイドバックに入っていましたね。
南:そうですね。3バックと4バックだと距離感が違うので、あの試合は急に切り替わった時に対応する難しさも感じましたが、ローマで経験を積んだ中で感覚的に対応できるようになった自信はありますし、どのフォーメーションになっても対応できるようにしたいです。
100パーセント以上の力を発揮できるチームに
――なでしこジャパンは池田監督の下で1年9カ月間チームを作っててきましたが、ワールドカップではどんなところが日本の強みになると思いますか?
南:代表は限られた活動期間でしか戦術やプレーをすり合わせることができないので、その中でどれだけ同じ絵を描けるかがすごく大事です。(池田)太さんはミーティングも頻繁にやって戦術のすり合わせにも時間をかけますし、100パーセント以上の力を発揮できるチームにしていく働きかけが上手な監督だとアンダー世代の時から思っていました。監督やコーチングスタッフに頼りすぎず、選手たちがしっかりと一つになって大会に向かえるようにしたいと思います。
――練習では攻守に再現性のある形に取り組んできた中で、それが試合でも見られるようになりましたね。
南:そうですね。ディフェンスライン、中盤、フォワードも含めたコンビネーションのパスからのシュートなど、全体がつながるような練習も多いので、それが試合でも出せるようになってきたと思います。
――昨年末から3バックに取り組んできて、強豪国との対戦も重ねてきましたが、手応えはどうですか?
南:いろいろな遠征を通して、3バックの良さとデメリットの理解は深まってきました。弱い部分を何度もやられてきた反省が生きていると思います。相手がボールを持った時に嫌がる立ち位置を取ることや、自分たちの攻撃の時に両ウイングバックが上がって厚みを加えることなど、大会では3バックの良さを最大限に発揮したいですね。その中で、個人で一つはがすところや1対1でやられないことなどは特に意識してやるつもりです。
結果を出して女子サッカーの盛り上がりの波に乗りたい
――大会まであと2週間と迫りました。改めて、今大会を通じて見てほしいポイントを教えてください。
南:大会が近づくにつれて取材を受ける機会もありがたいことに増えてきたのですが、2011年のドイツ大会優勝の時の話から入ることが多く、サポーターの方からも「あの時からファンになりました」と言われることが多いです。その時以上のインパクトを残さないと、それを変えるのは難しいと思います。
私自身、去年から海外に出て女子サッカーの盛り上がりを感じていますし、その波に日本も乗りたい!と感じています。男子のワールドカップで日本がすごい戦いを見せてくれて、日本の皆さんが一体となって応援していたのを見て、結果はもちろんですが、心を掴むプレーを見て、「この選手いいな」と思って応援してくれる方も多いと感じました。だからこそ、日本の女子サッカーを盛り上げるために、今大会はまず自分がピッチ上で毎試合、最大限の力を出し切ってプレーしたいと思います。
【前編はこちら】セリエAで2冠達成、出場時間世界一。なでしこCB南萌華が辿った激動の一年「ソーラン節を踊ってチームに馴染んだ」
<了>
なぜ猶本光は成長し続けられるのか? 「このままじゃ終われない」11年かけて掴んだ、なでしこジャパンW杯出場の舞台
「あれほど泣いた日はなかった」4年前の悔しさを糧に。なでしこ新エース候補、植木理子が挑むワールドカップ
なぜ浦和レッズレディースはこれほど強くなったのか? 国内2冠達成で新時代到来。逆境を覆した4つの理由
W杯イヤー、なでしこ奮起も”中継なし”に危機感。SNSで発信続けた川澄奈穂美の思いとは?
[PROFILE]
南萌華(みなみ・もえか)
1998年12月7日生まれ、埼玉県出身。イタリア・セリエAのASローマ所属の女子プロサッカー選手。三菱重工浦和レッズレディースのジュニアユースを経て、2017年にトップチームに昇格。2018年のFIFA U-20女子ワールドカップフランス大会ではキャプテンとして日本を優勝に導いた。翌年、なでしこジャパン(日本女子代表)デビューを果たした。2022年7月にASローマへの移籍を発表し、1年目でスーパー杯とセリエAを制し、国内2冠を達成。UEFA女子チャンピオンズリーグはベスト8進出に貢献し、国内ベストイレブンにも選ばれた。172cmの高さと1対1の強さを武器に、7月のFIFA女子ワールドカップでは守備の軸として活躍が期待される。
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
なぜWEリーグは年間カレンダーを大幅修正したのか? 平日開催ゼロ、中断期間短縮…“日程改革”の裏側
2025.01.23Business -
総工費3100億円アリーナの球場演出とは? 米スポーツに熱狂生み出す“ショー”支える巨額投資の現在地
2025.01.23Business -
WEリーグは新体制でどう変わった? 「超困難な課題に立ち向かう」Jリーグを知り尽くすキーマンが語る改革の現在地
2025.01.21Business -
北米4大スポーツのエンタメ最前線。MLBの日本人スタッフに聞く、五感を刺激するスタジアム演出
2025.01.21Business -
高校サッカー選手権で再確認した“プレミアリーグを戦う意義”。前橋育英、流経大柏、東福岡が見せた強さの源泉
2025.01.20Opinion -
激戦必至の卓球・全日本選手権。勢力図を覆す、次世代“ゲームチェンジャー”の存在
2025.01.20Opinion -
「SVリーグは、今度こそ変わる」ハイキューコラボが実現した新リーグ開幕前夜、クリエイティブ制作の裏側
2025.01.17Business -
なぜブンデスリーガはSDGs対策を義務づけるのか? グラスルーツにも浸透するサステナブルな未来への取り組み
2025.01.14Opinion -
フィジカルサッカーが猛威を振るう高校サッカー選手権。4強進出校に共通する今大会の“カラー”とは
2025.01.10Opinion -
藤野あおばが続ける“準備”と“分析”。「一番うまい人に聞くのが一番早い」マンチェスター・シティから夢への逆算
2025.01.09Career -
なでしこJの藤野あおばが直面した4カ月の試練。「何もかもが逆境だった」状況からの脱却
2025.01.07Career -
錦織圭と国枝慎吾が描くジュニア育成の未来図。日本テニス界のレジェンドが伝授した強さの真髄とは?
2024.12.29Training
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
藤野あおばが続ける“準備”と“分析”。「一番うまい人に聞くのが一番早い」マンチェスター・シティから夢への逆算
2025.01.09Career -
なでしこJの藤野あおばが直面した4カ月の試練。「何もかもが逆境だった」状況からの脱却
2025.01.07Career -
卓球が「年齢問わず活躍できるスポーツ」である理由。皇帝ティモ・ボル引退に思う、特殊な競技の持つ価値
2024.12.25Career -
JリーグMVP・武藤嘉紀が語った「逃げ出したくなる経験」とは? 苦悩した26歳での挫折と、32歳の今に繋がる矜持
2024.12.13Career -
青山敏弘がサンフレッチェ広島の未来に紡ぎ託したもの。逆転優勝かけ運命の最終戦へ「最終章を書き直せるぐらいのドラマを」
2024.12.06Career -
非エリート街道から世界トップ100へ。18年のプロテニス選手生活に終止符、伊藤竜馬が刻んだ開拓者魂
2024.12.02Career -
いじめを克服した三刀流サーファー・井上鷹「嫌だったけど、伝えて誰かの未来が開くなら」
2024.11.20Career -
2部降格、ケガでの出遅れ…それでも再び輝き始めた橋岡大樹。ルートン、日本代表で見せつける3−4−2−1への自信
2024.11.12Career -
J2最年長、GK本間幸司が水戸と歩んだ唯一無二のプロ人生。縁がなかったJ1への思い。伝え続けた歴史とクラブ愛
2024.11.08Career -
海外での成功はそんなに甘くない。岡崎慎司がプロ目指す若者達に伝える処世術「トップレベルとの距離がわかってない」
2024.11.06Career -
「レッズとブライトンが試合したらどっちが勝つ?とよく想像する」清家貴子が海外挑戦で驚いた最前線の環境と心の支え
2024.11.05Career -
WSL史上初のデビュー戦ハットトリック。清家貴子がブライトンで目指す即戦力「ゴールを取り続けたい」
2024.11.01Career