堂安律、フランクフルトでCL初挑戦へ。欧州9年目「急がば回れ」を貫いたキャリア哲学

Career
2025.08.22

日本代表MF堂安律が、ドイツ・ブンデスリーガのフランクフルトへ完全移籍した。クラブは来季のUEFAチャンピオンズリーグ出場権を手にしており、堂安はついに最高峰の舞台に立つ。ガンバ大阪から欧州に渡って9シーズン目、オランダとドイツで歩んだキャリアのなかでも、2020年に名門PSVから昇格組のビーレフェルトに移籍した決断は一見遠回りにも映るが、堂安自身が「強くなるための一番の近道」と語ったターニングポイントとなった。堂安自身の思考回路を振り返りながら、欧州でステップアップしてきたそのキャリア設計プランをひもとく。

(文=藤江直人、写真=アフロ)

CL初舞台へ、満を持してのフランクフルト移籍

挑戦の舞台を日本からヨーロッパへ移して9シーズン目。今夏にアイントラハト・フランクフルトへ完全移籍した日本代表のMF堂安律が、満を持して最高峰の戦いに挑む。

昨シーズンのドイツ・ブンデスリーガ1部で、クラブ史上最高位タイの3位に入ったフランクフルトは、今シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)への出場権を獲得している。

これまでにオランダのPSV、同じブンデスリーガ1部のフライブルクで、CLの1つ下の国際大会となるUEFAヨーロッパリーグ(EL)に出場した経験をもつ堂安は、フランクフルト移籍が決まった直後の8月8日に更新した自身のYouTubeチャンネルでこんな言葉を残している。

「チャンピオンズリーグがあるのは、(移籍を)決めるにあたって一つの要素になりました」

フランクフルトの公式ホームページ上で公開された動画では、さらにこう語っている。

「実は数カ月前から、代理人にフランクフルトでプレーしたいと伝えていました」

名門PSVから昇格組へ、異例の決断の背景

中学生年代のジュニアユースからガンバ大阪でプレーした堂安は、19歳になった直後の2017年6月にオランダ・エールディヴィジのフローニンゲンへ期限付き移籍。ヨーロッパでの挑戦をスタートさせたなかで、フランクフルトは延べ6つ目の海外所属クラブとなる。

フローニンゲンは1年目の2017-18シーズン終盤に堂安への買い取りオプションを行使。完全移籍した堂安は3年目のシーズンが開幕した直後の2019年9月に、アヤックス、フェイエノールトとともにオランダ・エールディヴィジの3強を形成してきた名門PSVへのステップアップを果たした。

しかし、堂安は自ら希望する形でPSVでのプレーを1年間で終えている。翌2020-21シーズン。12年ぶりにブンデスリーガ1部へ復帰したアルミニア・ビーレフェルトへ期限付き移籍した。

エールディヴィジからヨーロッパ5大リーグの一つ、ブンデスリーガ1部への移籍はステップアップとなる。しかし、対照的にPSVから昇格組のビーレフェルトへの移籍は、決してステップアップには映らない状況を誰よりも理解していた堂安は、実際にこんな言葉を残している。

「チームの格で言えば、もちろんPSVのほうが上なのは僕自身もよくわかっています。周囲からしてみれば、PSVで活躍したほうがさらにビッグクラブへ移籍できるとか、あるいは成長するための近道に見えがちかもしれません。ただ、少し遠回りに映るかもしれませんけど、僕にとってはさらに強くなるために、うまくなるための一番の近道だと感じて決断しました」

PSVの歴史上で初の日本人選手として、前出したようにELでもプレーしながら、堂安は時間の経過とともに違和感を募らせていった。エールディヴィジでは出場21試合、プレータイム1204分。フローニンゲン所属だった前シーズンの32試合、2814分から大きく数字を後退させていた。

「PSVでは自分の周りにスーパーな選手がいた分だけ、自分が1対1で仕掛けるのをやめてしまい、味方へのパスを選択する場面が多くなっていきました。本当に少しずつですけど、プレースタイルが自分らしくないというか、ネガティブなものになっていったと感じていました」

ビーレフェルトでつかんだ「自分らしさ」

ドイツで初めてプレーした2020-21シーズン。堂安はいきなり快挙を達成している。1982-83シーズンの奥寺康彦(ヴェルダー・ブレーメン)以来、38年ぶりにリーグ戦で全34試合に出場。そのうち先発が33回、プレータイムは全体の約94.1%にあたる2879分を数えた。

ただ、素朴な疑問が残る。苦戦が予想された昇格組のビーレフェルトをなぜ新天地に選んだのか。堂安は「試合に出られるかどうかで選んだわけではありません」と前置きしながら、PSVで迷い込んだ袋小路から抜け出すためにも、オランダ以外の国でプレーする必要があったと語っている。

「大きな成長曲線を描きながら、さらに化けていくためには環境を、つまりプレーする国を変える、というのが選択肢の一つになっていました。実際、国によるスタイルの違いはこんなにも大きいのかと、シーズンを通して新鮮な気持ちでプレーできました。オランダは3点取られても4点取ればいいという攻撃的なスタイルでしたが、ドイツはたとえば1-0で勝つとか、堅い展開になる試合が多いなかで守備のやり方もまったく違うと何度も感じていたので」

堂安の活躍もあって1部に残留したビーレフェルトは買い取りオプションの行使を検討したが、コロナ禍で資金難に陥った影響で断念せざるをえなかった。それでもガンバやフローニンゲン時代の感覚を蘇らせてくれたビーレフェルトでの1年間が、堂安のターニングポイントになった。

「相手をいなすようなプレーというか、遊び心がないと見ている人も楽しくないし、見ている人が楽しんでくれないと自分も楽しくないし、何よりも自分が楽しめなければ調子自体も悪くなっていく。そういった悪循環に陥らないように、かなり意識しながらプレーしていました。ビーレフェルトでもなかなか点が取れず、苦しい時期ももちろんありましたけど、そのなかでもチームが常に僕に自信を与えてくれた。そういう立場を与えてくれたチームの全員に本当に感謝しています」

フライブルクで結果を積み上げ「特別な存在」に

PSVへ復帰した堂安は、翌2022-23シーズンから再び戦いの場をドイツへ移した。ブンデスリーガ1部の中堅クラブに位置づけられるフライブルクへ、2027年6月末までの5年契約で完全移籍。目標にすえてきた「違いを生み出せる特別な存在」への挑戦を、いよいよ本格化させた。

1シーズン目の途中に開催された2022年FIFAワールドカップ・カタール大会。ドイツ代表とのグループステージ初戦、そしてスペイン代表との同最終戦で同点ゴールを決めて、森保ジャパンを逆転勝利に導く大活躍を演じた堂安は、フライブルクでの数字もシーズンごとに上向かせている。

5ゴール4アシストだった1シーズン目から、7ゴール2アシストの2シーズン目をへて、昨シーズンは10ゴール7アシストとついに2桁ゴールへ到達。フライブルクのユリアン・シュスター監督の言葉からは、現在進行形で堂安が目指す「特別な存在」の意味が伝わってくる。

「リツは相手ゴール前でより危険な存在になる、という大きなテーマに取り組んできた。彼は非常に野心的で、日々のトレーニング以外にも自分の体に対する投資を惜しまなかった」

堂安が歩んできた道をあらためて振り返れば、特にビーレフェルトでプレーした1年間に、日本のことわざの「急がば回れ」がそのまま反映されている。決して長くはないプロサッカー選手のキャリアで焦りを封印し、自らの立ち位置を客観的に見つめながらベストの選択を下してきた。

フランクフルトで臨むCLとワールドカップ、描くキャリアの続編

そして、ヨーロッパで迎える9シーズン目にしてCLに臨むフランクフルトとの5年契約を手繰り寄せた。2200万ユーロ(約37億7600万円)とされる移籍金は期待の表れであり、スポーティング・ディレクターを務めるマルクス・クレシェ氏は公式ホームページ上でこう語っている。

「リツは近年のブンデスリーガで真のクオリティーを証明してきた。フライブルクで発揮されたテクニック、スピード、マインドセットは確実に彼の存在感を際立たせた。私たちの目標達成を助けてくれるスキルをもつリツが、私たちと契約したことをうれしく思っている」

堂安のキャリア設計図には、クライマックスとなる続編も描かれている。来夏に北中米3カ国で共催される、自身にとって2度目のワールドカップへ100%の状態で臨む自身の姿から逆算するなかで、プレーする環境、つまりリーグを変えるリスクを排除した堂安はさらにこうつけ加える。

「居心地のいいフライブルクにずっといてはいけない、という思いもありました」

情熱と冷静さを同居させる27歳のレフティは、2023-24シーズン限りで引退したクラブのレジェンド、長谷部誠さんの象徴だった背番号「20」を継承。ホームのドイチェ・バンク・パルクにブレーメンを迎える23日のブンデスリーガ1部開幕戦から、新たな戦いをスタートさせる。

<了>

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