SVリーグ女子の課題「集客」をどう突破する? エアリービーズが挑む“地域密着”のリアル
昨年新設されたバレーボールリーグ・SVリーグが2年目を迎え、女子カテゴリーの集客強化は喫緊の課題となっている。その突破口として白羽の矢が立ったのが、川崎フロンターレの「カルチャー形成」を担った面々が立ち上げたベンチャー企業「ツーウィルスポーツ(TWS)」だ。彼らが新たに手掛けるのは、福島県へ本拠地を移したデンソーエアリービーズ。地域密着の仕組みづくり、集客の改善、クラブの“文化”形成――。未知の領域に挑む実業団チームとTWSが、何を考え、現場で何を積み上げているのか。その舞台裏を追った。
(インタビュー・文=大島和人、写真提供=デンソーエアリービーズ)
カルチャー形成の立役者が担う「女子集客推進アドバイザー」
SVリーグの2シーズン目が、10月に開幕している。男子10チーム、女子14チームでスタートした新リーグは「ホームタウン」に根ざすコンセプトで、集客にも力を入れている。男子は初年度から大幅な観客増に成功している。一方で女子は2025年夏の世界選手権をきっかけに上昇機運があるものの、男子に比べて「伸びしろ」が大きい。
SVリーグが「女子集客推進アドバイザー」として白羽の矢を立てたのがツーウィルスポーツ(Two Wheel Sports/以下TWS)だ。川崎フロンターレの「カルチャー」を作った立役者でもある天野春果が代表取締役を務め、同じく川崎OBの恋塚唯、谷田部然輝とともに立ち上げたベンチャー企業だ。なお恋塚はBリーグのアルバルク東京でGMを務めたこともある。
彼らは2024年12月にSVリーグとの契約を締結し、集客・地域活動のサポートをしていた。2025-26シーズンからは新たにデンソーエアリービーズと契約し、クラブ単体へのサポートも開始している。
TWSが導く地域密着のリアル「コンサルというより…」
エアリービーズは愛知県西尾市を拠点にしていたが、2024-25シーズンからホームを福島県に移転した。郡山市をホームタウン、宝来屋ボンズアリーナをホームアリーナに定め、2027年からは練習場やクラブハウスなどの施設も郡山に移す。
しかし実業団チームとして活動してきた彼らにとって、「地域にどう根ざし、その課題解決に関わるか」「どう集客をするか」は未知の領域。だからこそ、TWSの持つノウハウが必要とされた。
TWSの恋塚は背景をこう説明する。
「女子集客プロジェクトのモデルケースを作っていく話の中で、SVリーグからオファーがあり、デンソーさんが手を挙げた形です。SVリーグは男女が共存している中で、男子だけをプロ化するわけにはいきません。女子をどう推進していくかが課題で、そこのテコ入れが必要でした。コンサルというより、中に入って自分たちも一緒に業務をやっている感じです」
SVリーグ自体が2026-27シーズン以降のプロ化、各クラブの法人化を予定している。リーグ視点で見れば女子のカテゴリーで「成功事例」を作ることが彼らのミッションだ。恋塚、谷田部の2人も試合前後を中心に福島へ足を運び、実務に携わりながら、スタッフに実地でノウハウを伝える取り組みをしている。
「常にスタッフと一緒に動くようにしています。実働で動く人が4人いるので、2人・2人みたいな感じです。僕は広報系と演出、ホームタウン系をやっています。谷田部はチケット、ファンクラブ、グッズ、飲食などをやっています」(恋塚)
エアリービーズの杉岡憲部長はこう述べる。
「我々に(集客、地域活動の)経験はほとんどなかったものですから、ぜひやってみたいと話をさせていただきました」
事務局を統括する福田実は言う。
「ポスター1枚でも、一つずつ教えていただいています。グッズ販売も並べ方、場所といった一つ一つが我々の学びです。一つの大会ごとに進化するように変わってきています」
ポスターを掲出するなら、既存のファン以外にも情報が伝わらなければいけない。
「『エアリービーズ』と書いても、エアリービーズを知らない人にはそれが何かわかりません。バレーボールの写真を出しながら『女子の試合』と伝える。開幕なら『開幕』と書く。単純な発想ですけど、我々だけでは思いつかないんです」(福田)
もっとも、ポスターは作ってからが勝負だ。谷田部はこう説く。
「川崎は交通網で考えると首都圏なので電車をメインに告知をしていて、ポスターは駅を中心に貼っていました。郡山は車社会なので、車で移動したところに何かあったほうがいいなと、現場に行って思いました。この時期だったら東北の人はタイヤをノーマルからスタッドレスに変えますよね。接点が何かないかなと思ったとき、例えばタイヤを交換するショップは組めるなと思いました」
「地域とのつながり方」「協業」「コラボレーション」
恋塚の役割の一つは「地域とのつながり方」をチームに落とし込むことだ。
「僕はどうデンソーを使ってほしいかとか、そういうレクチャーを行政へしに行っています。新聞社、テレビ局もすべて回りました。僕らが川崎にいたときは『プロクラブ不毛の地』と言われている状況からのスタートでした。それに比べると福島、郡山は最初からすごく好意的です」
地域密着はエアリービーズが福島に根づく上で決定的に重要だが、恋塚はその入口をこう説明する。
「自分たちが地域を知らなかったら、プロモーションはかけられないし、認知もしてもらえません。チームは愛知から来たばかりで、スタッフの皆さんも『郡山』『福島』を最初は知りませんでした。僕らも川崎でやっていて当初はよく『こっちのことを知らないのによく来たな』と怒られましたけど……。ホームタウンにどんな武器があるのか、どんな長所があるのかを押さえなければいけません。自治体、メディア、パートナー企業といった組織の特性や、観光地、飲食といった要素を理解するところが大切です」
次のステップが「協業」「コラボレーション」だ。
「向こうのニーズに合わせてどう対応していくかです。僕らは何を求めているか、相手は何を求めているかを踏まえることが必要です。特に今まで関係性のなかった人たちとの信頼関係を築くためには、そこをしっかり見据えてやらないといけません」
そこには恋塚、谷田部の培った過去の「縁」が福島で活きるかもしれない。恋塚は言う。
「1チームでやれることは限られていますし、一緒にやったほうがいいところもあります。福島ファイヤーボンズ(バスケットボールB2)はアルバルクのとき僕の下でアシスタントGMをやっていた渡邉拓馬がGMをやっています。福島ユナイテッド(サッカーJ3)は僕らが川崎で事業をやっていたときの監督だった関塚(隆)さんがテクニカルダイレクターをやっていましたし、監督も(川崎の選手だった)寺田周平です。シーズン前に大同生命さんの郡山支店がデンソーエアリービーズの壮行会を開いてくれたときは、関塚さんに講演をしてもらいました」
実務で浮き彫りになる課題。チケット、座席、導線のリアル
もっとも、2カ月3カ月で結果が出る話ではない。エアリービーズとTWSは、現在進行系で様々な課題と向き合い、地道な改善をコツコツと続けている。
11月8日、9日のNECレッドロケッツ戦はチケットの完売したホームゲームだが、会場は収容人員の少ない福島トヨタクラウンアリーナだった。谷田部は振り返る。
「NEC戦なら、どうゾーニングして客席を増やすか、細かい対応が必要でした。収容人員は一応1500ですが、座席がちゃんと分かれていないベンチシートで、間引きをしないといけません。立ち見席は用意していますが、1000入っただけでもそちらに人が流れて、席詰めもまだままならないような状態になります」
どこに席を作り、どれくらい売り、どう誘導するか。そこもやはり「プロ」のノウハウが必要となる仕事だ。
客席だけでなく、チケットの問題もある。今はSVリーグに限らず紙のチケットがスマホチケットに移行する過渡期だが、それによるハレーションもあった。谷田部はこう口にする。
「当日に現券を欲しがる方がいて、そこがうまくいかなかったのは肌感覚としてありました」
開幕戦は郡山市による市民招待があったのだが、そこでも課題が浮き彫りになった。谷田部はこう振り返る。
「応募はあったのですが、当選した方を取りこぼしてしまいました。4000人くらいの集客が見えていたのですが、蓋を開けてみたら2400人ほど。チケットの申し込みをして当選された方は『チケットVに登録してチケットを取得する』という2段階目が必要になっていました。しかしチケットを受け取るところまでにたどり着けない方がかなりいました」
恋塚はイベント企画の名手だが、首都圏のチームとは勝手が違うようだ。
「僕が苦労しているのは、距離の問題です。川崎もアルバルクも、声を掛けたゲストの方は大体来てくれていました。関東はリハーサルを含めても拘束が大体3時間で済むから、その前後に仕事を入れられます。でも福島は1日の拘束になることが多く、金額も高くなるし、来てもらいにくいです」
失敗を糧に前進する。内部に育つ“変化”と学び
恋塚はそういった障害を決して後ろ向きには捉えていない。
「最初の想定とは違ったところを、失敗だとは思っていません。そこを知れただけ良かったし、現状を理解した中でどうやっていくかを少しずつ理解していけます。僕らの会社の特徴はカスタマイズです。(試行錯誤の中で)スタッフの方の理解も深まるし、その解決が僕らの行っている理由でもあります」
TWSの「現地で実際にやってみせる」「実情に合わせてカスタマイズする」手法に対して、エアリービーズ側も手応えを感じている様子だった。部長の杉岡は言う。
「一緒にやり始めて1カ月後くらいに内部で『どうですか?』と話をしたときに、全員がそれぞれの得たものを列挙してくれました。今もそれは続いていて、モチベーションの高さを非常に感じています」
事務局の福田はこう振り返る。
「『ここがやれていた』『ここはこうやったほうがいい』というように、自分が意見を持ち、動き出すことが増えてきています。みんなが考えるようになってきました」
プロスポーツの成功は知恵、信頼関係の積み上げだ。競技や土地によって正解は違ってくる。ただ「考えて、工夫して、情熱を維持してやり続けられる人材」を育てることができれば、どんなプロチームだろうと成功に大きく近づける。エアリービーズとTWSの取り組みは、SVリーグ全体にとって、きっと大きな意味のある挑戦だ。
【連載前編】女子バレー強豪が東北に移転した理由。デンソーエアリービーズが福島にもたらす新しい風景
<了>
【過去連載】川崎フロンターレの“成功”支えた天野春果と恋塚唯。「企業依存脱却」模索するスポーツ界で背負う新たな役割
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