監督交代の先に問われるもの。アメリカ3連戦が映したなでしこジャパンの現在地

Opinion
2026.04.20

ニルス・ニールセン前監督の契約満了を受け、コーチだった狩野倫久氏が代行監督として率いたアメリカとの3連戦は、なでしこジャパンにとって現在地を測る重要な実戦となった。パリ五輪王者であり、エマ・ヘイズ監督のもとで進化を続ける世界屈指の強豪を相手に、日本は1勝2敗。ヘイズ監督は日本を「守備面では世界でも最高のチームの一つ」と評した一方、アメリカが主力組をぶつけて勝ちにきた第3戦では0-3で敗れ、差も浮かび上がった。この3連戦が示した日本の現在地と、次期監督選考で問われるものを考える。

(文=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=AP/アフロ)

本気のアメリカが映した日本の現在地

アメリカとの3連戦は、なでしこジャパンにとって現在地を測るには十分すぎる舞台だった。

相手は、女子サッカー界屈指の名将エマ・ヘイズ監督のもと、2027年女子ワールドカップを見据えた強化を進めるFIFAランク2位の強豪だ。ヘイズ監督自身もシリーズ前に日本を「アジア王者」で「世界最高クラスのチーム」と評価し、「素晴らしいテスト」だと位置づけていた。

実際、初戦のサンノゼには1万7435人、第2戦のシアトルには3万6128人、第3戦のコロラドには1万7589人が詰めかけ、アメリカの女子サッカー人気の高さを裏づけた。アメリカがこのシリーズを、競技面でも興行面でも本気の舞台として扱っていたことは明らかだった。

その相手に、日本はアジア王者として立ち向かった。ニルス・ニールセン前監督の退任後、次期監督が決まらないまま、重要な3連戦を迎えたことも事実だった。狩野倫久代行監督は渡米前、「個の力を高めながらチーム力も上げていく必要がある」「この3試合を思い切ったチャレンジにして、その先につなげていくことが大事」と述べている。この3連戦は、チームの現在地だけでなく、日本の強化体制の輪郭も映し出した。

3試合で見えた収穫と差

3連戦の結果は、日本の1勝2敗だった。初戦は前線から圧力をかけて渡り合ったが、セットプレーと局面の質で上回られ、植木理子の反撃弾も及ばず1-2。第2戦は、アメリカが先発11人全員、日本も9人を入れ替えた中、日本が守備で相手の前進を抑え、浜野まいかの先制点を守り切って1-0で勝利した。第3戦は、アメリカが再び主力組を並べ、第2戦から10人、日本も9人を変更して臨んだが、決定力とフィジカル面の差を見せつけられ、0-3で敗れた。

狩野代行監督は渡米前、「できるだけ多くの選手を起用し、思い切ってチャレンジしてもらえるように後押ししたい」と話していた。実際、日本は3試合でGKを3人使い分け、フィールドプレーヤーも毎試合9人を入れ替えながら戦った。流れの中で3バックと4バックを使い分けた点にも、日本の戦術理解と対応力は表れていた。一方で、世界トップクラスとの差もまた浮かび上がった。

この3試合で、日本はボール保持率でもアメリカを上回れなかった。ESPNのデータでは、第1戦が38.9%、第2戦が33.3%、第3戦が34.6%。3試合で喫した5失点のうち3失点はセットプレーで、アメリカの4得点にはローズ・ラヴェル、リンジー・ヒープス、ナオミ・ガーマ、ソフィア・ウィルソンら主力組が絡んでいた。シリーズ全体で見れば、アメリカが主力を複数起用した時間帯では、一枚上手だった。

今回は8人まで交代可能な特別レギュレーションで、修正や複数起用を試せる余地も大きかった。日本は3試合とも交代枠を使い切った一方、アメリカは初戦と第2戦では枠を使い切らず、結果を求めながら世代間融合を進めていた。ワールドカップ本番の5人交代では、日本はこの3試合で見せた修正力や運用をそのまま持ち込めるわけではない。

「守備面では世界最高」ヘイズ監督の言葉が照らすもの

第3戦前日の会見で、アメリカ女子代表のエマ・ヘイズ監督は、日本についてこう語っている。

「日本の選手たちは非常にテクニカルで、早い段階からポジショナルプレーの土台が育まれています。ただ、今の日本はそれだけではありません。守備面では世界でも最高のチームの一つだと思います。コンパクトさ、全員が連動して前から奪い返すところ、そのタイミングを読む力、ボックス内の守備、どれも素晴らしい。日本相手に1点先に取られると、そこから試合をひっくり返すのは本当に大変です。多様性と柔軟性を持ちながら、勝利を目指して戦えるチームだと思っています」

チェルシー時代に浜野を指導するなど、日本人選手の特長にも精通するヘイズ監督の評価には説得力がある。戦術理解の高さ、守備の強度、連動性、試合の流れを読む力。そして、先に点を奪えば簡単には崩れないチームになっているということだ。

だが、主力組が並んだアメリカとの第3戦は、その課題も映し出した。アメリカは、1対1の局面で一人はがして起点を作り、個の強さやフィジカルの部分でも迫力を見せつけた。ヘイズ監督の評価は、日本の積み上げを示す一方で、その先に必要な上積みも浮かび上がらせた。

監督退任が映した、支える体制の曖昧さ

2大会ぶりの優勝を決めた3月21日のアジアカップ決勝から1週間もたたないうちに、ニルス・ニールセン前監督は契約満了となった。佐々木則夫氏が示した「甘い」「ぬるい」「情熱や技量が足りない」という説明は大きな反響を呼んだ。

ワールドカップ優勝から逆算して監督に高い基準を求めるのは当然だろう。だが、その「修正」や「突き詰め」を、監督個人にどこまで背負わせていたのかという疑問は残る。

アジアカップ中、練習会場にはコーチ陣やテクニカルスタッフ、メディカルを含め、選手26人に対してスタッフは20人近くが帯同していた。狩野コーチとリア・ブレイニー コーチが現場の準備や整理を支えていたことはうかがえた。だが、その先の役割分担までは外から見えにくかった。

長い選考プロセスを経てニールセン氏を選んだのであれば、その強みをどう生かし、どこを補うのかまで整理されて然るべきだったはずだ。

2011年のワールドカップ優勝時と比べれば、移動や宿泊、練習環境、帯同スタッフの人数など、なでしこジャパンを支える環境は確実に整ってきた。だが、世界の強豪国と比べた時に不足しているのは、その機能分担の明確さと、それぞれの専門性を生かす体制だろう。

この点で、日本は世界の強豪国との差がある。アメリカ女子代表では、エマ・ヘイズ監督の下にアシスタントコーチ、GKコーチ、プログラムディレクターらが置かれ、分析、パフォーマンス、対戦相手のスカウティングまで役割が明確に整理されている。ヘイズ監督は、チェルシー時代から戦術構築力とチーム全体を束ねるマネジメント力の両面で高く評価されてきた指導者だが、その強みを周囲が専門性で支えている。しかも、そうした体制は昨今になって整えられたものではなく、少なくとも2019年にジル・エリス監督がワールドカップ連覇を果たす前から、海外人材も含めて築かれてきた。

イングランドも、サリナ・ウィーフマン監督を長年支えたアルヤン・フーリンク氏の後任として、ヤネケ・ベイル氏、アービド・スミット氏をアシスタントに据え、体制を切れ目なくつないでいる。スペインも、ソニア・ベルムデス監督を支えるコーチングスタッフが、技術、戦術、フィジカル、メンタルの各側面をまたぎながらチームを動かしている。

次の監督選考で問われるもの

森保ジャパンも、元日本代表の経歴を持つコーチ陣やテクニカルスタッフが役割を分担しながらチームを支えている。名波浩コーチが攻撃面、前田遼一コーチがセットプレー、齊藤俊秀コーチや長谷部誠コーチが守備面を支え、最近加わった中村俊輔コーチにはPKを含む細部の上積みが託されている。代表監督は、複数の専門家を束ね、強みを引き出し、最終判断を下す存在でもある。世界のトップに近づくほど、その分業は洗練されている。

「ニールセン監督は十分だったか」を問うのであれば、「組織として、監督が成果を出せる環境を十分に用意していたのか」ということまで問う必要がある。

結果として契約は更新されず、重要なアメリカ3連戦を代行体制で迎えることになった。この3試合が、選手間のコミュニケーションや現在地を確かめる貴重な機会になったのは間違いない。一方で、来年の女子ワールドカップを見据えれば、このタイミングで監督が定まらないまま重要な実戦を迎えたこと自体、順調な流れとは言えない。

今回新設され、佐々木氏が就任した女子ナショナルチームダイレクターというポストも、JFAが女子代表の統括と支援のあり方を見直そうとしている表れに見える。

次の強化試合は6月6日、大阪での南アフリカ戦だ。次期監督の人選はもちろん重要だが、それは出発点に過ぎない。戦術設計やセットプレー、分析、フィジカル、メンタルをどう役割分担し、その監督が力を発揮できる体制まで整えられるか。問われるのは、その全体像だ。

<了>

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