ブライトンで高まる信頼。清家貴子が語るWSLの世界基準、三笘薫から受ける刺激とクラブが描く未来
WSLのブライトンで2年目を迎えた清家貴子は、チーム内投票で選ばれる年間プレーヤー賞を受賞し、攻撃の中心として存在感を高めた。フラン・カービーら世界トップレベルの選手たちとプレーしながら、世界トップクラスが揃うリーグの強度にも適応。FAカップ準決勝では同点ゴールを導くアシストで、クラブ史上初の決勝進出に貢献した。海外で得た手応え、三笘薫への尊敬、ブライトンで感じる女子サッカーの未来、そして新体制で2027年女子ワールドカップへ向かうなでしこジャパンでの現在地に迫った。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=REX/アフロ)
チームメートに選ばれた年間MVP
――今シーズン、ブライトンで選手たちが選ぶ年間プレーヤー賞を受賞しました。率直な感想を聞かせてください。
清家:選手たちに選んでもらえたことはすごく特別ですし、それだけみんなから信頼を得ているということなので、うれしく思いますし、その期待にもっと応えたいという気持ちも強くなりました。去年よりも、チーム愛が増して、チームのために勝ちたいという思いは強くなったと思います。
――さまざまな賞や候補に名前が挙がることについて、フォワードとして誇らしさもありますか?
清家:そういうものを目指してきたわけではないですが、評価されているという意味ではうれしいです。ただ、賞をもらうことや数字という形では見えないところで成長していきたいという思いが大きいです。ワールドカップやオリンピックを見据えているので、そこに向けてどれだけ個人として成長できるのかは、常に一番念頭に置いています。
――今季のブライトンでは、ローザ・カファジ選手、マディソン・ヘイリー選手との連係も攻撃面の大きな武器になっていましたが、フラン・カービー選手との関係性は攻撃の生命線に見えました。彼女のような世界トップレベルの選手と日常的にプレーする中で、学ぶことはありますか?
清家:学ぶことだらけです。技術も本当に高いですし、練習でもシュートを打ったら全部入ってしまいますから。今シーズン、ホームのウェストハム戦でアウトサイドで決めたゴールも、フランがいつもやっているシュートなので、勝手に真似してみたら入りました。
リヴァプール戦で見えた、成長の軌跡
――そのゴールも、日頃の積み重ねが出た場面だったのですね。では、清家選手にとって今シーズンを象徴する試合やプレーを挙げるとすれば、どの試合になりますか?
清家:FAカップ準決勝のリヴァプール戦です。得点はしていませんが、マディソン(・ヘイリー)の同点ゴールにつながるアシストがありました。試合を通じて、自分としてもドリブルで仕掛けることや、相手のディフェンスラインを下げることを狙ってプレーしていました。アシストのパスも、練習で取り組んできた形で、本当に狙い通りのゴールで、練習してきたものが大事な場面で出せたのはすごくうれしかったです。自分のドリブルで相手のディフェンスラインを下げられるようになったことは、今シーズン一番成長できた部分なのかなと思います。
――WSL(ウィメンズ・スーパーリーグ)で戦う中で、世界基準やリーグのレベルの高さを感じる場面はありましたか?
清家:今はWSLの強度に慣れてきた感覚があります。今シーズンは、そこまで他のチームとの差を感じることはなかったし、個人としても「本当にかなわない」と感じるようなマッチアップはあまりありませんでした。だからこそそこまで驚くようなシーンはなかったですし、おそらく他の日本人選手も同じように「全然できる」と感じていると思います。それが、なでしこジャパン全体の底上げにもつながっているのかなと思います。
――以前、代表とクラブで求められる役割が違うと話していました。ブライトンで積み上げてきたものと、代表で求められるものの違いをどう感じていますか?
清家:フォーメーションも戦い方も違うので、求められるプレーも違います。ブライトンで求められているもののほうが、よりシンプルというか、自分の仕事がはっきりしています。その中で今は思い切りプレーできています。
一方で代表になると、もっとたくさんのことを考えながらやらなければいけないし、より流動的に、いろいろなポジションでプレーして、広いエリアでボールを受けてプレーする必要があります。そこは代表期間でしか成長できない部分、感じられない部分でもあるので、代表のトレーニングは大事にしたいです。もちろん、個での突破力などは、クラブで積み上げてきた部分が通じると思うので、代表でも自分の得意な形に持ち込めるように工夫していきたいです。
――クラブで結果を残しながら、ゲームメイクの部分にも関わるようになったことは、代表で生きる部分もあると思います。自分のプレーが広がって、代表でも好影響を感じる部分はありますか?
清家:1対1の部分です。個人での仕掛けはもともと強みだと思っていましたが、チームでは右サイドでプレーする中で、より洗練されたというか、自分の形がはっきりしてきました。どう仕掛ければ抜けるのか、相手の立ち位置を見て判断できるようになってきています。そこはさらに自信を持ってできるようになっています。
三笘薫から受ける刺激と、女子専用スタジアム構想が示す未来
――同じ筑波大学出身で、現在は同じブライトンでプレーする三笘薫選手についても聞かせてください。三笘選手はケガの影響でワールドカップのメンバーには選ばれず、難しい時期を過ごしていますが、同じ代表選手として感じることはありますか?
清家:彼ほどサッカーに真摯に向き合っている人は見たことがないというか、本当にあんなプレーヤーはなかなかいないと思うので、本当に尊敬しています。だからこそ、ケガをした時は驚きましたし、ショックで、間に合うのかなという期待を抱きつつも、やっぱり悲しかったです。
――ブライトンは2030-31シーズンの開場を目指して、日本円にして150億円規模とも言われる女子専用スタジアム構想を発表しました。女子チームのためだけに大型スタジアムをつくるという計画を、選手としてどう受け止めていますか?
清家:ずっとスタジアムができるとは言われていたので、「やっとか」という思いもあります(笑)。女子のためだけにそこまで投資してくれるのはすごいことだと思いますし、盛り上げ方もすごく上手だなと感じます。正直、日本ではまだそこまで女子に投資するというのは考えづらい部分もあると思うので、すごいなと感じます。スタジアムが完成する時まで自分がブライトンにいられるかはわかりませんが、完成したところは見てみたいです。
――そうした投資や環境面の変化は、やはり選手としてのモチベーションにもつながりますか?
清家:そうですね。イングランドではフットボーラーという存在が、文化としてリスペクトされていると感じます。みんなフットボールが好きですし、そういう国でプレーできていることに誇りを感じます。
2027年ブラジル女子ワールドカップへ。新体制で始まる1年
――この後は6月6日の南アフリカ戦に向けた代表活動もあります。狩野倫久監督新体制となるなでしこジャパンで、ワールドカップに向けた1年をどんな時間にしていきたいですか?
清家:新体制になって、狩野さんはコーチとしてずっと関わってくださっていたのでもちろん知っていますが、チームが新しくなるので、そこに対する期待感はあります。ただ、プレーするのは選手たちなので、自分たちがどれだけまとまりを持って同じ方向を向けるかがすごく大事だと思っています。ワールドカップに向けた新スタートでもあります。FAカップが終わって、オフシーズン前のシーズン最後の合宿ということで、「最後だから頑張ろう」という気持ちになりがちですけど、しっかり気持ちを切り替えて、新たなスタートとして、チームが目指すところに向かってやっていきたいです。
――新体制では、内田篤人さんや近賀ゆかりさんなど、経験豊富なコーチングスタッフも加わります。その変化をどう受け止めていますか?
清家:世界のトップレベルでプレーしてきた方には、それだけの経験がありますし、サッカーに対する考え方や技術、経験を伝えてくれると思うので、すごく期待しています。近賀さんは世界一を経験しています。メンバーは違っても、優勝できるチームに共通する部分はあると思うので、そういう部分ではすごく頼りになる存在だなと感じています。
――ブライトンで結果を出してきた中で、目指す選手像に変化はありましたか?
清家:まずブライトンは、去年は5位で、今年は7位でした。WSLには「トップ4」が強いという考え方が強いので、そこに入っていきたいです。個人的には、(マンチェスター・)シティやアーセナル、(マンチェスター・)ユナイテッド、チェルシーにも勝てるチームになれると思っています。チームとしてはトップ4に入っていくこと、個人的には優勝争いに食い込んでいくことが目標です。
――トップ4に入れば、UEFA女子チャンピオンズリーグ圏内も見えてきます。その舞台への思いはありますか?
清家:今のところ、チャンピオンズリーグに対してそこまで強い思い入れはありません。出たこともないので、雰囲気もわからないですし、何とも言えないです。ただ、バルセロナやバイエルン、パリ・サンジェルマンのような強いチームがどんな感じなのかは気になります。でも、明確に「チャンピオンズリーグに出る」ことを目標にしているわけではなく、結果としてついてきたらうれしいです。今はリーグで、今のチームでもっと上に行きたいという思いが一番強いです。
――清家選手は、大きな目標を掲げるというより、目の前のことに向き合い、そこに順応していく力が強い印象があります。その感覚はご自身でもありますか?
清家:現実主義なんです。目の前のことにどう向き合うか、手の届くものにどうアプローチできるかを常に考えています。一試合一試合、一つ一つのプレーの積み重ねが次につながると思っているので、これからもそこに意識を向けながらやっていきたいです。
【連載前編】「シティに苦手意識はない」清家貴子が語る、FAカップ決勝進出ブライトン躍進の現在地
<了>
【2024年11月実施インタビュー前編】WSL史上初のデビュー戦ハットトリック。清家貴子がブライトンで目指す即戦力「ゴールを取り続けたい」
【2024年11月実施インタビュー後編】「レッズとブライトンが試合したらどっちが勝つ?とよく想像する」清家貴子が海外挑戦で驚いた最前線の環境と心の支え
【2024年6月実施インタビュー前編】浦和の記録づくめのシーズンを牽引。WEリーグの“赤い稲妻”清家貴子の飛躍の源「スピードに技術を上乗せできた」
【2024年6月実施インタビュー後編】WEリーグ得点王・清家貴子が海外挑戦へ「成長して、また浦和に帰ってきたいです」
[PROFILE]
清家貴子(せいけ・きこ)
1996年8月8日生まれ、東京都出身。ブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンWFC所属。三菱重工浦和レッズレディースの下部組織を経て、2015年にトップチーム昇格。2023-24シーズンのWEリーグで得点王、ベストイレブン、MVPの個人3冠を受賞。日本代表として2023年FIFA女子ワールドカップ、2024年パリ五輪に出場し、2026年AFC女子アジアカップ優勝を経験。2024年夏にブライトンへ移籍し、加入2年目の2025-26シーズンは公式戦11ゴール3アシストを記録し、チーム内投票で選ばれる年間プレイヤー賞を受賞。FAカップではクラブ史上初の決勝進出に貢献した。
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