「もっと寝ておけばよかった」21歳FW福田師王がドイツで痛感した“世界基準”と貫く“挑戦哲学”
今現在の姿だけを見れば、神村学園から直接ドイツへ渡った挑戦は遠回りに見えるかもしれない。だが、福田師王はそうは考えていない。ボルシアMGで苦しみ、レンタル先のカールスルーエでも簡単には出場機会を得られなかった。それでも21歳のストライカーは、自ら選んだ道を一度も後悔していないという。「今を見たらダメに見えるかもしれないけど、いずれ成功すれば全部正解になる」。完全移籍を勝ち取った福田が語った、ドイツでの3年間と現在地とは。
(文=中野吉之伴、写真=アフロ)
神村学園から直接ドイツへ。「無理」と言われても突っ込んだ
2025-26シーズン、ドイツ1部ボルシアMGからレンタル移籍したドイツ2部カールスルーエで結果を残し、地元記者から終盤には「完全にレギュラー」と称賛されるまでになった21歳のストライカー、福田師王。特に第27節から34節までの8試合で5ゴールをマークし、カールスルーエは完全移籍での獲得に踏み切っている。
スポーツディレクターのシモン・パウルスは「シオのクオリティについてはしっかりとわかっている。彼の持つダイナミックさ、ピッチ上で見せてくれるエネルギー、そしてゴールへの貪欲さは、我々のプレーアイデアとチームが目指す方向性に合致している」と、その資質に太鼓判を押す。来季チームの柱としての期待を感じさせる。
福田のキャリアは、日本国内のプロクラブや大学を経由していない。当時、神村学園からJリーグや大学サッカーを経ず、ブンデスリーガのボルシアMGへの移籍を決断したというのは、世間一般からすると驚きの一件。だが、本人は「いろんなことにトライするのが好きなんですよ。いろんな人に『無理』って言われても突っ込むタイプです」と言って、豪快に笑い飛ばす。
だからブンデス1部からオファーが届いたら、「そりゃ突っ込む」とケロリ。とはいえ想像以上に厳しい世界が欧州5大リーグのサッカーにはある。実際にドイツに渡ってからの3シーズンは簡単なものではなかった。ボルシアMGではU23からトップチームデビューを飾り、ブンデスリーガ初ゴールを決めることはできたが、そこから出場機会を増やすことはできなかった。レンタル先のカールスルーエではシーズン途中までは出場機会が多くはなく、苦しい時期を過ごしていた。
それでも、今季終盤の活躍によって完全移籍を勝ち取った。ドイツでの挑戦は、少しずつだが確実に前へ進んでいるのだ。では、あの時、ボルシアMGへの移籍を決断したことを、今振り返ってどう思っているのだろう?
根底にある「負けず嫌い」
「今を見たらダメに見えるかもしれないけど、いずれ成功すれば全部正解になる。今は頑張りどきだと思ってます。あの時これがあったからって。誰よりもつらい経験をしていると思うので、いいんじゃないですか」
この話を聞いたのは、第29節ビーレフェルト戦後のタイミング。少しずつ出場機会を増やしていた時期だ。スタメンの座もまだ勝ち取ってはいない。それでも自分への自信は揺らぐことなく力強く存在した。
それはドイツに渡ってからの3年間で、選手としてだけではなく、さまざまな経験を積むことができた実感があったからだ。
「人としても成長できたし、サッカー以外でメンタルも強くなりました。例えば誰に何を言われても気にしなくなりましたね。高校の時とかは気にしたりもしていましたけど、でも今は全然。『へーそうなんだ。そう思っているんだ』くらいの感じ。ラクになりましたね」
根底には昔から変わらない性格がある。
「小さい頃からずっと負けず嫌いです。何事も本気でやってました」
学校行事でも、遊びでも、本気。その負けず嫌いがあるからこそ、ドイツでも折れなかったのだろう。
「もっと寝ておけば」ドイツで痛感したフィジカルの差
だが、10代からドイツという厳しい競争環境の中で生きている。うまくいかないことのほうが多い。
「フィジカルだったり、身長もそうだし、体格とか。そういうのが足りなかったなって思います」
ボルシアMGで出場機会をつかみ切れなかった理由についてそう語る。そして、その課題に対して、日本時代への反省も口にした。
「日本の育成年代の時に、もっとちゃんと寝たり、もっとフィジカルトレーニングに取り組んでおけばよかったなって思います」
この言葉は非常に興味深い。日本では「技術がある」「点が取れる」ことで評価されてきた福田が、世界へ出たことで初めて、日常レベルのフィジカルや回復、身体づくりの重要性を痛感した。
遠回りに見える3年間。だが、さまざまな寄り道が福田師王という選手に、「世界基準とは何か」を明確に示し、そこへの挑戦が実り多いからこそ、当時の決断を後悔することなどないのだろう。
「どんな試合でもゴールを決めたいし、決められると思っている」と語る福田。大物ぶりを感じさせるのは、ドイツのスタジアムの雰囲気について尋ねたときだった。2部でもスタジアムの集客率がとても高いドイツだけに、「(スタジアムの雰囲気は)めちゃくちゃいいです。カールスルーエも3万人ぐらい入るし、ファンはすごい」と語る。
ただ「そんな熱いファンの前でプレーすることの影響は?」というこちらの質問に対しては、「実はあんまり変わらないんですよね」と笑いながら、こう答えていた。
「影響はそこまでないですね。集中してるので。すごいとは思うけど、それ以上はあんまり。相手がバイエルンの時も、シュツットガルトの時も」
「たまに記憶がないことが…」
試合が始まると集中力がぐっと高まり、のめり込んでいく。その背景はどこにあったのだろう。幼少期から点取り屋だったわけではない。むしろさまざまなポジションを経験しながら育ったタイプだった。
「小学校はボランチとかセンターバックをやっていて、中1でもサイドバックとかサイドハーフ。ちゃんとフォワードやり始めたのは中2ぐらいです」
そんな福田だが、中学3年生の頃、自分の中で確かな感覚が芽生えたという。
「あれ、なんか俺、決めれるなって思ったのがそのころ。ここに蹴れば入るとか、ここにいればボールが来るなっていう感覚ですね」
説明は難しいらしい。だが、本人の中では明確に分かる感覚があるのだという。
「味方がシュートを打った瞬間に、こぼれてくるところに、自分がもう行ってる時があるんですよ。『来るな』って思って。体が勝手に動くんですよ」
ゴール前で生きるストライカーには、理屈では説明し切れない感覚を持つ選手がいる。福田もまさにそのタイプなのだろう。
実際、本人はゴールシーンの記憶が曖昧になることもあるという。
「たまにゴール決めてるんですけど、記憶がないことがあるんですよね。高校選手権で山梨学院と対戦した時とか、ドリブルで1人で持ち込んで決めたんですけど、記憶がないです。試合が終わってから、人に聞いたり、映像を見て気づくみたいな。『え? こんなことしたっけ』って。ゾーンに入ってる感じかもしれないです」
福田はそう言って笑った。
その視線の先は…。「面白い人生になるなって」
異国で競争し、生き残ろうとする中で、他人の評価に振り回されることもなくなったと言う福田に、気になっていたことがあったので尋ねてみた。
ボルシアMGでは今季オイゲン・ポランスキが途中から監督に就任したが、彼こそがセカンドチーム時代に福田のことを誰よりも評価していた指揮官だ。
「ポランスキが僕のことを取ってくれたんですよ。守備についてすごいうるさく言われましたね。間閉じてとか、プレッシャーのタイミングとか。めちゃくちゃ面倒見てもらってました。人間としてとにかく素晴らしい方ですね」
そんな恩人がトップチームの監督になったのだから、タイミング次第では福田がそこでもっと起用されていたかもしれない。監督交代がもっと早ければ、そんな未来だってあっただろう。それでも福田の感情は、そこに失望も憤りもない。むしろ逆だ。
「面白いです。面白い人生になるなって思ってます」
そう、彼の視線は、いつも未来へ向いている。
21歳ストライカーの挑戦はまだ始まったばかり
不安はないのか。そう尋ねると、福田は即答した。
「ないですね。とりあえず楽しんで、いろんなことにトライしたいです」
サッカー人生も、キャリアも、全部含めて面白いと言う。
無理に大きく見せようともしない。悲壮感もない。だが、自分の可能性は強く信じている。
今、日本代表には後藤啓介や塩貝健人ら、同世代の大型FWが台頭し始めている。競争は激しくなる一方だ。それでも福田は、他人を見て焦るより、自分の道を着実に進もうとしている。
遠回りにも見える数年間は、ストライカー福田師王を一歩一歩確実に世界基準へ近づけている。そして本人が、その道のりを楽しんでいるところが何より大事なのだろう。
「周囲に無理だと言われても突っ込む」
「今はダメに見えても、成功すれば全部正解になる」
ひたむきな21歳の挑戦はまだまだ始まったばかりなのだ。
<了>
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