オリックス吉田正尚が「“おそらく”不可能」と語った欲張りな信念。25年ぶり日本一へ、最後のピース
20日、オリックス・バファローズは東京ヤクルトスワローズとの日本シリーズに挑む。並々ならぬ意欲を見せるのが、吉田正尚だ。10月には右手の骨折で離脱し、今季中の復帰は絶望的とも報じられた。それでもクライマックスシリーズで電撃復帰を果たして存在感を見せつけた。25年ぶりの日本一へ――、そのカギを握るのは、この男に違いない。
(文=花田雪、写真=Getty Images)
オリックス打線で際立つ存在感。日本一に必要な最後のピース
頼りになる男が、帰ってきた――。
2021年11月10日、パ・リーグ クライマックスシリーズ(CS)第1戦。オリックス・バファローズのスターティングメンバーには「3番・指名打者・吉田正尚」の名前があった。
10月2日の福岡ソフトバンクホークス戦で死球を受け、右尺骨を骨折。そこからわずか39日間での電撃復帰だった。
復帰2打席目にはセンターへ安打を放ち、第2戦も2安打。本塁打、打点こそなかったがCS3試合で10打数3安打と、1カ月超のブランクを感じさせない結果も残した。
オリックスとしては1996年以来25年ぶり、チーム名が「バファローズ」となってからは初となる日本一を目指すために必要な最後のピース。
それが、吉田正尚だ。
今季は前述の骨折も含めて2度の戦線離脱を経験しながら、打率.339で自身2度目の首位打者、出塁室.429で初となる最高出塁率のタイトルを獲得した。
プロ3年目から4年連続で規定打席に到達し、打率3割もクリア。チームの「投の顔」が山本由伸なら、「打の顔」は間違いなく吉田正尚だろう。
20日から始まる日本シリーズではキーマンの一人になるのは間違いない。それほど、オリックス打線の中で吉田の存在感は際立っている。
「フルスイングという意識はない」。“欲張り”な打者
筆者は過去に何度か吉田本人にインタビューをしたことがあるが、その都度、「打者・吉田正尚は欲張りな選手だ」と感じてきた。もちろん、ここでいう「欲張り」とは良い意味を指す。
例えば――。
1度目の取材で、代名詞となっている「フルスイング」について質問した時のことだ。身長173cmとプロ野球選手の中では小柄な部類に入る吉田は、それに見合わぬ豪快なスイングで長打を量産してきた。話を聞くと、幼少期から一度も「逆方向に転がす」といった「小柄な左バッターのセオリー」を意識したことはなかったという。
そこには「背が低くてもホームランは打てる」というプライドが隠れているのではないか――。そんな思いで話を聞いたのだが、返ってきた答えは筆者の予想を上回るものだった。
「よく言われるんですけど、実はあまり『フルスイング』という意識はないんです。もちろん、強い打球を打ちたいという欲求はあります。そのためには強いスイングをしなければいけない。ただ、それでボールを捉える確率が下がるのも嫌なんです。『ホームランへのこだわり』はある意味では持っていますけど、それと同じくらいヒットも打ちたいし、打率も求めたい。打撃タイトルでいえば首位打者も本塁打王も打点王も、全部取りたいんです」
この言葉通り、吉田は取材の翌年、自身初の首位打者を獲得する。
ヒット一本、本塁打一本に貪欲であり続ける思考の裏側
さらに別の取材では、こんなことも話してくれた。
「野球は確率のスポーツで、特に打撃は圧倒的に『失敗』することの方が多い。ただ、逆をいえばそれだけ可能性が残されているということ。野球にはこれだけ長い歴史があるのに、いまだに『正解』が見つかっていない。これからも見つかることはないと思います。『打率10割』はおそらく不可能ですけど、そこを目指してヒット一本、本塁打一本を増やす努力は続けることができる。ちょっと、途方もない話ですけどね……(苦笑)」
最後に少し笑いながら語ってくれたのが今も印象に残っているが、プロ野球選手から「打率10割」という言葉を聞いたのは初めてだった。もちろん、本人も「不可能」と言ってはいるが、そこに「おそらく」という枕ことばがついたのも驚きだった。
「絶対に不可能」ではなく「おそらく不可能」――。
見方を変えれば、可能性はゼロではない、ととることもできる。
誰よりも結果を残しながら、誰よりもヒット一本、本塁打一本に貪欲であり続けるからこそ、その「存在感」はひときわ輝く。
数字以上に重要な存在。侍ジャパンで大舞台も経験済み
また、吉田の復活がチームにとって大きなプラスになった理由は、彼自身の能力や残してきた実績だけではない。2021年のオリックス打線の顔触れを見ると、彼の存在が数字以上にどれだけ重要かが分かる。
杉本裕太郎、宗佑磨、紅林弘太郎といった選手は確かに打線の中で大きな役割を担っているが、主力として年間通してプレーしたのは今季が初めてで、プロの世界で「大舞台」を経験したことはほとんどない。ベテランではT-岡田がいるが、打者としてはどちらかというとムラッ気のあるタイプだ。彼らは皆ハマるとすごい反面、脆さも併せ持っている。
一方の吉田には、過去4年間にわたってチームの主軸を打ち続けた信頼と実績がある。日本シリーズ出場は初めてだが、侍ジャパンではプレミア12、東京五輪とプレッシャーのかかる大舞台も経験済みだ。
加えて、共にクリーンアップを務める杉本との相乗効果も期待できるだろう。
プロ6年目、30歳にして才能を開花させた大砲の陰には、その前を打つ吉田の存在があった。吉田・杉本コンビの破壊力は、間違いなくリーグナンバーワンだ。
骨折した右手の状態は……注目は第3戦からの3連戦
そうなると気になるのが、骨折した右手の状態だ。CSでは3試合全てに指名打者として出場したが、ヤクルトのホームで行われる日本シリーズ第3~5戦は指名打者制を採用しない。スタメンで4~5打席立つためには、「守備」に就くことが絶対条件になる。
シリーズ直前、吉田自身は守備に就くことに意欲を見せているようだが、こればかりは患部の状態と相談しながらになりそうだ。けがをした箇所が利き腕のため、「ごまかし」がきくものでもない。
第1~2戦は間違いなく指名打者での出場になるだろうから、やはり注目は舞台を東京ドームに移した第3戦以降。
劇的な復活を果たした吉田正尚が、シリーズを通して「スタメン」に名を連ねるのか――。
最後の最後も、やはり勝敗のカギを握るのは、この男になりそうだ。
<了>
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