なぜ阪神は優勝を逃し続けるのか? 求められるドラフトと育成の変革
2005年を最後にリーグ優勝から遠ざかっている。日本一はわずかに1回で、楽天と並ぶ最下位だ。人気と資金力は球界でトップクラスにもかかわらず、なぜ阪神タイガースはこれほどまでに優勝を逃し続けているのか? 常勝軍団になるためには何が必要なのか?「スポーツニッポン(スポニチ)」で阪神担当記者を務める巻木周平氏に、現場で見てきたからこそ感じる変革の必要性を伝えてもらった。
(文=巻木周平、写真=Getty Images)
優勝から遠ざかる阪神。いったい何が必要なのか……?
4位、2位、6位、3位、3位(10月24日時点)。私が担当記者になった2016年からの阪神タイガースの順位です。そんな私は10月いっぱいで現場を離れることになりました。そこで、およそ4年半取材してきた26歳の私が『阪神が常勝軍団になるために必要だと思うコト』を大きく2つにまとめたいとおもいます。
阪神の優勝は2005年が最後で、セ・リーグではDeNAに次いで2番目に遠ざかっています。2リーグ制以降の優勝5回もDeNAに次ぐ2番目の少なさ。日本一1回はリーグ最少です。そんなチームに提言するなんてエラそうなコトはいいません。記者として「ココはちょっと気になるかな……」と思った点を述べたいと思います。「そんな考え方もあるんやなぁ」ぐらいで読んでいただければうれしいです。
常勝軍団への道 その1:ドラフトで高卒野手を獲得せよ
過去10年のドラフト会議で阪神は高卒野手(捕手含む)を11人指名しています。一方、セ・リーグで優勝回数が最も多い巨人は倍近くの19人。パのソフトバンクは3倍以上の38人獲得しています。
育成環境や経営方針が違うため一概にはいえませんが……大卒、社会人出身、独立リーグ出身ということは、高校時代にプロレベルに達していなかった、もしくは「もう少し力をつけてから」と判断した選手です。高校生時点で「迷わずプロ」と決断した選手との違いは否めないでしょう。
こんなデータもありました。過去10年の球団別タイトルホルダーの人数です。阪神は12球団中3位タイの19人を輩出。計36回は同7位です。一方……、高卒入団の選手に限ると人数は2人で12球団最下位タイ。計2回はワーストで、高卒野手はゼロです。個人タイトルがすべてではありません。しかし、球界を代表する選手が生まれていないのは事実です。
とはいえ「ドラフト下手」とはいえません。近年に目を向けると、2013年ドラフトの岩貞祐太(外れ外れ1位)、梅野隆太郎(4位)、岩崎優(6位)、2015年の青柳晃洋(5位)、2016年の大山悠輔(1位)、糸原健斗(5位)、2017年髙橋遥人(2位)、2018年の近本光司(外れ外れ1位)など。大卒、社会人出身で獲得した選手が主力に成長しています。
だからこそ余計に、高卒選手がカギになる気がしています。繰り返しますが、一概にはいえません。大卒でも社会人出身でも独立リーグ出身でも素晴らしい成績を残す選手は各球団にたくさんいます。「傾向として、高卒の方が大器の可能性は高いですよね」という話です。2019年プレミア12の決勝戦のスタメン9人中7人が高卒だったり、メジャーリーグで活躍する高卒が多かったりと各所で見られます。
そういったことを考えると、阪神から「大器を育てる」という気概は感じられません。育成環境を整えるという面も含めてです。高卒野手は過去10年で11人と紹介しましたが、2016~18年は3年連続ゼロ人です。生え抜きのレギュラーが欲しいチーム状況だったにもかかわらず。ここに、常勝軍団になれない一因があると感じています。
常勝軍団への道 その2:指導者の育成システムを構築せよ
長くなりました。2つ目は「指導」です。
ある程度以上の成績を残した選手が引退まもなく監督やコーチになるのが一般的です。これが当たり前な現状に疑問を感じます。プレーと指導はまったく別物だと思うから。一般社会で考えればわかりやすいかもしれません。
優秀な営業マンが営業部のマネジメントまでうまいとは限らない。寿司職人が飲食店経営も得意とは限りません。転身するにあたって学びの期間を設けるのは当たり前です。しかし、野球界は違います。これは決して、今の指導者が悪いという話ではありません。「指導を学ぶ機会がない」というシステムの問題を指摘しています。
取材させていただいて感じたことがこの問題です。球団は、指導者になる人材に対して、各国、各球団の指導方法を知ったり、コミュニケーションスキルを学ぶ機会を提供すべき。要職を任せるならかけてしかるべきコストでしょう。なぜそう思うのか。
指導者と選手の意思疎通ができていないケースがあったから。両者を取材していると、指導者の思いと選手の認識がズレていることが多々ありました。人と人である以上、当然なのかもしれません。しかし、改善の余地はあると強く感じます。そのために必要だと思うのが「指導を学ぶ機会」です。
指導者は、一流の実績や知識を持っていて、かつ、伝え方のプロでなければならないと思います。他球団を見渡しても、徹底したシステムを構築しているところは少ない。それらを本格的に学べるシステムが整えば、多くのメリットを受けられるのではないかと思います。
もちろん、他にもたくさんの課題と、逆に、阪神ならではの強みもたくさんあります。それらを含めて、伝えるべきことは何かなぁと考えた結果、このようなコラムを書かせていただきました。最後までお付き合いいただきありがとうございました。
若造が書いていいものなのかと悩みましたが、“若造だからこそ書けることがある”と執筆を決断しました。私の拙劣な意見がファンの方々を含めたタイガースに関わるすべての皆さまの議論のきっかけになれば幸いです。本当にありがとうございました。
<了>
阪神・梅野隆太郎、真の武器はバズーカに非ず。MLB選手も絶賛「地味で痛い」技術とは
阪神・藤浪晋太郎が決して忘れなかった原点。「変えてはならぬ物を変え」歯車狂った692日
阪神・藤川球児“最後の挑戦”が始まる。別れのその日まで、魂の投球を目に焼き付けよ
阪神・近本光司はなぜ“2年目のジンクス”を脱せたのか? 今すぐ真似したい「3つの習慣」
この記事をシェア
KEYWORD
#COLUMNRANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
なぜ大谷翔平はDH専念でもMVP満票選出を果たせたのか? ハードヒット率、バレル率が示す「結果」と「クオリティ」
2024.11.22Opinion -
大谷翔平のリーグMVP受賞は確実? 「史上初」「○年ぶり」金字塔多数の異次元のシーズンを振り返る
2024.11.21Opinion -
いじめを克服した三刀流サーファー・井上鷹「嫌だったけど、伝えて誰かの未来が開くなら」
2024.11.20Career -
2部降格、ケガでの出遅れ…それでも再び輝き始めた橋岡大樹。ルートン、日本代表で見せつける3−4−2−1への自信
2024.11.12Career -
J2最年長、GK本間幸司が水戸と歩んだ唯一無二のプロ人生。縁がなかったJ1への思い。伝え続けた歴史とクラブ愛
2024.11.08Career -
なぜ日本女子卓球の躍進が止まらないのか? 若き新星が続出する背景と、世界を揺るがした用具の仕様変更
2024.11.08Opinion -
海外での成功はそんなに甘くない。岡崎慎司がプロ目指す若者達に伝える処世術「トップレベルとの距離がわかってない」
2024.11.06Career -
なぜイングランド女子サッカーは観客が増えているのか? スタジアム、ファン、グルメ…フットボール熱の舞台裏
2024.11.05Business -
「レッズとブライトンが試合したらどっちが勝つ?とよく想像する」清家貴子が海外挑戦で驚いた最前線の環境と心の支え
2024.11.05Career -
WSL史上初のデビュー戦ハットトリック。清家貴子がブライトンで目指す即戦力「ゴールを取り続けたい」
2024.11.01Career -
女子サッカー過去最高額を牽引するWSL。長谷川、宮澤、山下、清家…市場価値高める日本人選手の現在地
2024.11.01Opinion -
日本女子テニス界のエース候補、石井さやかと齋藤咲良が繰り広げた激闘。「目指すのは富士山ではなくエベレスト」
2024.10.28Career
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
10代で結婚が唯一の幸せ? インド最貧州のサッカー少女ギタが、日本人指導者と出会い見る夢
2024.08.19Education -
レスリング女王・須﨑優衣「一番へのこだわり」と勝負強さの原点。家族とともに乗り越えた“最大の逆境”と五輪連覇への道
2024.08.06Education -
須﨑優衣、レスリング世界女王の強さを築いた家族との原体験。「子供達との時間を一番大事にした」父の記憶
2024.08.06Education -
サッカーを楽しむための公立中という選択肢。部活動はJ下部、街クラブに入れなかった子が行く場所なのか?
2024.07.16Education -
14歳から本場ヨーロッパを転戦。女性初のフォーミュラカーレーサー、野田Jujuの急成長を支えた家族の絆
2024.04.15Education -
モータースポーツ界の革命児、野田樹潤の才能を伸ばした子育てとは? 「教えたわけではなく“経験”させた」
2024.04.08Education -
スーパーフォーミュラに史上最年少・初の日本人女性レーサーが誕生。野田Jujuが初レースで残したインパクト
2024.04.01Education -
「全力疾走は誰にでもできる」「人前で注意するのは3回目」日本野球界の変革目指す阪長友仁の育成哲学
2024.03.22Education -
レスリング・パリ五輪選手輩出の育英大学はなぜ強い? 「勝手に底上げされて全体が伸びる」集団のつくり方
2024.03.04Education -
読書家ランナー・田中希実の思考力とケニア合宿で見つけた原点。父・健智さんが期待する「想像もつかない結末」
2024.02.08Education -
田中希実がトラック種目の先に見据えるマラソン出場。父と積み上げた逆算の発想「まだマラソンをやるのは早い」
2024.02.01Education -
女子陸上界のエース・田中希実を支えたランナー一家の絆。娘の才能を見守った父と歩んだ独自路線
2024.01.25Education