
2部降格、ケガでの出遅れ…それでも再び輝き始めた橋岡大樹。ルートン、日本代表で見せつける3−4−2−1への自信
FIFAワールドカップ・アジア最終予選、現在3勝1分の日本代表は、11月15日にインドネシア、19日に中国とアウェイでの2連戦を迎える。この大事な場面で久しぶりに招集メンバーに名を連ねたのが橋岡大樹だ。今年1月にイングランド1部・プレミアリーグ所属のルートンへの移籍を果たし、リーグ戦10試合に出場するも、チームは18位で2部・チャンピオンシップに降格。迎えた新シーズンはケガで出遅れたものの、復帰後はスタメン出場を続けて好調を維持している。3−4−2−1のウイングバックとセンターバックを担える橋岡の日本代表での起用法も気になるところだ。初挑戦のチャンピオンシップ、そして日本代表復帰について、橋岡大樹がその胸中を明かした。
(文=田嶋コウスケ、写真=REX/アフロ)
「2部降格」「ケガでの出遅れ」は超えるべきハードル
ルートンの橋岡大樹が再スタートを切った。
所属先のルートンは昨季プレミアリーグを降格圏の18位で終え、橋岡も今季から戦いの場を2部のチャンピオンシップに移すことになった。チームメートと共に1年での「プレミア復帰」を目指している。
しかし気持ちを新たに迎えたプレシーズン期間に、橋岡をケガが襲った。7月16日に行われたウクライナのFKルフ・リヴィウとのプレシーズンマッチで左ふくらはぎを負傷。試合に復帰できたのは10月19日のワトフォード戦で、約3カ月の離脱を強いられた。
本人によるともう少し早いタイミングで復帰することもできたが、「ふくらはぎのケガは危ない。繰り返すかもしれないから」と用心し、チームドクターと相談しながら慎重に復帰の時期を見定めていたという。そして満を持してピッチに戻ってきた。
復帰試合の翌節から先発メンバーに戻り、11月9日のミドルスブラ戦まで5試合連続でスタメン出場を続けている。スタートこそ出遅れたが、橋岡のイングランド挑戦2年目がこうして始まった。
もちろん、本人も気持ちを高めている。「2部降格」「ケガでの出遅れ」といった障壁をモノともせず、超えなければならないハードルと前向きに捉えている。橋岡は力強く言う。
「昨シーズンが終わったときから、周りのみんなに『チャンピオンシップで結果を出す』と言っていて。『俺は絶対に結果を出すから』と。ここで結果を出せなかったら終わりぐらいの気持ちでやっています。悔しい気持ちをぶつけて活躍し、周りをギャフンと言わせたい」
「CBもできるし、WBはもっとできる」
11月1日に行われたWBA戦では、3−4−2−1の右ウイングバック(WB)として出場した。橋岡はこれまで3バック一角のセンターバック(CB)として出場することが多かったが、ルートンでの希望ポジションはこの右WBである。
同位置での出場は、チーム事情により急遽チャンスがまわってきた。左WBのレギュラー選手が累積警告で欠場となり、これまで右WBを務めていた選手が左サイドに移った。その空いた右WBに橋岡が入った格好だ。
このチャンスを逃すまいと、サムライ戦士はピッチを走りまわった。攻撃参加時は高い位置まで駆け上がり、守備時は最終ラインまで戻ってゴールを守った。試合後は、ロブ・エドワーズ監督からも褒められたという。
「これまでずっとCBで出ていたので、やっとWBでプレーできた。自分本来のプレーができたかなと。監督からも『よくやった』と言われました。
今日の試合でこのチャンスをつかめなかったら、またWBはやらせてもらえないと思う。結果として、『CBもできるし、WBはもっとできる』と思ってもらえたはず。ファーストチョイスはWBで、CBでもプレーできると」
1−1で迎えた試合終盤には、橋岡に決定的な得点チャンスが訪れた。左コーナーキックに日本代表がニアサイドに飛び込み、ドンピシャのタイミングで強烈なヘディングシュートを放った。しかしポストを直撃しゴールならず──。
決まっていれば決勝弾となってチームを勝利に導いていたが、試合はそのまま1−1のドローで終わった。「惜しかったですね?」と聞いてみると、橋岡は「そうですねぇ」と悔しそうな表情を見せる。「決まっていれば完璧でした。そこがまだちょっと足りないところ。ただ、あそこを毎回狙ってくれれば、自分は絶対に当てられる。もっと多くボールが欲しいですね」と続け、今後もセットプレーから果敢にゴールを狙いたいと意欲を示した。
「プレミアとチャンピオンシップは違う」
橋岡が身を置くチャンピオンシップは、2部リーグならではの厳しさがある。国内リーグ戦は、全24クラブからなるトータル46試合の長丁場。20クラブ、38試合制のプレミアリーグよりも試合数が多い。
2部の1〜2位がプレミアに自動昇格となり、3〜6位に入った4クラブが残りの1枠をかけて昇格プレーオフを戦う。経営規模の小さい僻地のクラブもあって、ホーム&アウェイの移動距離が長く、体力的にも精神的にも過酷なリーグである。
しかも、ルートンは現在21位で降格圏付近に低迷している。エドワーズ監督へのプレッシャーも高まっているが、橋岡は「一回波に乗ればいけるチーム。良い選手も結構いるので、そこはまだ大丈夫。あと30試合ぐらいありますから、まだまだいけると思っています」と語り、長丁場だからこそ昇格のチャンスはあると力を込めた。そして、今季の展望についてこう言葉を続ける。
「もちろん1位、2位に入りたいですけど、(プレーオフ出場権が入る)6位までに入れば、プレミアに上がるチャンスはある。ただ、プレーオフでシーズンが長くなるだけなので、やはり1位、2位を狙いたいです」
――チャンピオンシップの印象は? WBA戦も終盤はロングボールが目立ちました。
「レベルは高いと思いますが、やっぱりプレミアとチャンピオンシップは違う。ロングボールが多いですよね。今日の終盤もそうでした。肉弾戦みたいになるので、体がより大きくなる。この強度にも慣れると思います」
昨季に比べると、橋岡は体が一回り大きくなった。ユニホーム姿を見ると、特に上半身がパワーアップしているのが分かる。サムライ戦士は言う。
「みんなからも『体がデカくなったな』と言われますね。チームの筋トレが毎日のようにあって。こなしていたら自然とデカくなりました」
自分で意識して体を大きくしたわけではなく、チームで課せられた筋トレメニューをこなしているうちに体が大きく仕上がったという。そのおかげで、WBA戦でも空中戦で競り負けることはなかった。
今季のチャンピオンシップでは、リーズの田中碧やブリストルの平河悠、ブラックバーンの大橋祐紀、QPRの斉藤光毅など、日本人選手が数多くプレーするようになった。「また違った意味で刺激になっているのでは?」と聞いてみると、橋岡は次のように返す。
「主力でやってる人は意外と少ない。今、田中碧選手が主力になり始めたところですが、チームで絶対に欠かせない存在にならないといけない。『あの日本人いいな』というふうに思われるようになれば、他の日本人選手もここに来やすくなるはず。自分もここで力を示していきたいと思ってます」
日本代表でも輝く「ユーティリティ性」
橋岡は、FIFAワールドカップ・アジア最終予選を戦う日本代表の11月シリーズ招集メンバーに選ばれた。直近の2シリーズではケガにより選外となっただけに、今回の代表戦に懸ける思いは一際強い。
「これまでの2回は、ケガで呼ばれなかった。代表は、前回のオーストラリア戦で引き分けています。次は中国、インドネシアとの戦い。両方アウェイ戦になるので、絶対に厳しい戦いになると思います。そこで自分がチームの力になれるよう頑張りたい」
橋岡には、複数のポジションでプレーできる「ユーティリティ性」がある。森保一監督が採用する3−4−2−1の両WBには、三笘薫や堂安律、中村敬斗、伊東純也といった攻撃的な選手が起用されているが、橋岡はこのWBだけでなく最終ラインのCBとしてもプレーできる。本人は「自分は右WBもできるし、ルートンでは右CBと左CBもやっている。そこは臨機応変に対応できる」とし、ポリバレントな能力でチームに貢献したいと抱負を語った。
日本人初の道。橋岡のイングランド挑戦2年目
橋岡は、何事に対してもとにかく前向きだ。そして、イングランドで高く評価される資質の一つである「コンフィデンス(自信)」に満ちあふれている。
プレミアからの降格が決まった直後は「2部に落ちた。あぁ落ちるんだ」とひどく落胆したというが、今では気持ちをきっちり切り替えた。目標は当然、プレミア昇格。そして、プレーのクオリティを高めることだ。
「降格は、もう過ぎたこと。あの時は悔しかったですけど、今は気持ちを切り替えています。 自分の目標に向かってやっていくだけです。チャンピオンシップで自分のプレーを見せつけて、『あいつすげえいい選手だな』と思わせたい。ここで輝きたいです」
過去を振り返ると、稲本潤一がアーセナル、フラムでプレミアに在籍した後、WBAとカーディフで2部リーグを戦った。またアーセナルに在籍した宮市亮も、ボルトンとウィガンへのレンタル移籍を通して2部リーグで修行を積んだ。
橋岡のように、プレミアから降格して同一クラブで2部リーグを戦うのは、イングランドの日本人選手では初めてのケースとなる。「今季がダメなら、すべてが終わりぐらいの気持ちでいる」と強い覚悟を決め、橋岡のイングランド挑戦2年目が始まった。
<了>
プレミアの“顔”三笘薫が背負う期待と懸念。日本代表で躍動も、ブライトンで見え始めた小さくない障壁
33歳で欧州初挑戦、谷口彰悟が覆すキャリアの常識「ステップアップを狙っている。これからもギラギラしていく」
鎌田大地の新たな挑戦と現在地。日本代表で3ゴール関与も、クリスタル・パレスでは異質の存在「僕みたいな選手がいなかった」
なぜ板倉滉はドイツで高く評価されているのか? 欧州で長年活躍する選手に共通する“成長する思考”
「同じことを繰り返してる。堂安律とか田中碧とか」岡崎慎司が封印解いて語る“欧州で培った経験”の金言
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
福岡ソフトバンクホークスがNPB初の挑戦。ジュニアチームのデータ計測から見えた日本野球発展のさらなる可能性
2025.07.09Technology -
J1最下位に沈む名門に何が起きた? 横浜F・マリノス守護神が語る「末期的」危機の本質
2025.07.04Opinion -
ガンバ×セレッソ社長対談に見る、大阪ダービーの未来図。「世界に通用するクラブへ」両雄が描く育成、クラブ経営、グローバル戦略
2025.07.04Business -
大阪ダービーは「街を動かす」イベントになれるか? ガンバ・水谷尚人、セレッソ・日置貴之、新社長の本音対談
2025.07.03Business -
異端の“よそ者”社長の哲学。ガンバ大阪・水谷尚人×セレッソ大阪・日置貴之、新社長2人のJクラブ経営観
2025.07.02Business -
「放映権10倍」「高いブランド価値」スペイン女子代表が示す、欧州女子サッカーの熱と成長の本質。日本の現在地は?
2025.07.02Opinion -
世界王者スペインに突きつけられた現実。熱狂のアウェーで浮き彫りになったなでしこジャパンの現在地
2025.07.01Opinion -
なぜ札幌大学は“卓球エリートが目指す場所”になったのか? 名門復活に導いた文武両道の「大学卓球の理想形」
2025.07.01Education -
長友佑都はなぜベンチ外でも必要とされるのか? 「ピッチの外には何も落ちていない」森保ジャパン支える38歳の現在地
2025.06.28Career -
“高齢県ワースト5”から未来をつくる。「O-60 モンテディオやまびこ」が仕掛ける高齢者活躍の最前線
2025.06.27Business -
「シャレン!アウォーズ」3年連続受賞。モンテディオ山形が展開する、高齢化社会への新提案
2025.06.25Business -
プロ野球「育成選手制度」課題と可能性。ラグビー協会が「強化方針」示す必要性。理想的な選手育成とは?
2025.06.20Opinion
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
長友佑都はなぜベンチ外でも必要とされるのか? 「ピッチの外には何も落ちていない」森保ジャパン支える38歳の現在地
2025.06.28Career -
「ピークを30歳に」三浦成美が“なでしこ激戦区”で示した強み。アメリカで磨いた武器と現在地
2025.06.16Career -
町野修斗「起用されない時期」経験も、ブンデスリーガ二桁得点。キール分析官が語る“忍者”躍動の裏側
2025.06.16Career -
ラグビーにおけるキャプテンの重要な役割。廣瀬俊朗が語る日本代表回顧、2人の名主将が振り返る苦悩と後悔
2025.06.13Career -
「欧州行き=正解」じゃない。慶應・中町公祐監督が語る“育てる覚悟”。大学サッカーが担う価値
2025.06.06Career -
「夢はRIZIN出場」総合格闘技界で最小最軽量のプロファイター・ちびさいKYOKAが描く未来
2025.06.04Career -
146センチ・45キロの最小プロファイター“ちびさいKYOKA”。運動経験ゼロの少女が切り拓いた総合格闘家の道
2025.06.02Career -
「敗者から勝者に言えることは何もない」ラグビー稲垣啓太が“何もなかった”10日間経て挑んだ頂点を懸けた戦い
2025.05.30Career -
「リーダー不在だった」との厳しい言葉も。廣瀬俊朗と宮本慎也が語るキャプテンの重圧と苦悩“自分色でいい”
2025.05.30Career -
「プロでも赤字は100万単位」ウインドサーフィン“稼げない”現実を変える、22歳の若きプロの挑戦
2025.05.29Career -
田中碧は来季プレミアリーグで輝ける? 現地記者が語る、英2部王者リーズ「最後のピース」への絶大な信頼と僅かな課題
2025.05.28Career -
風を読み、海を制す。プロウインドサーファー・金上颯大が語る競技の魅力「70代を超えても楽しめる」
2025.05.26Career