広島で「街が赤と紫に染まる日常」。NTTデータ中国・鈴森社長が語る、スポーツと地域の幸福な関係
スポーツが非日常ではなく、“日常の一部”として街に溶け込む広島。週末の居酒屋では、カープの「赤」とサンフレッチェの「紫」、異なるチームのユニフォームに身を包んだ人々が、互いの試合を語り合い、やがて一緒に盛り上がる――。NTTデータ関西が立ち上げたスポーツコミュニティプラットフォーム『GOATUS(ゴータス)』にもファーストパートナーとしていち早く参画したNTTデータ中国の鈴森康弘社長に、広島、中国地方のスポーツ、スポーツと地域の関係について聞いた。
(インタビュー・構成=大塚一樹、写真=森田直樹/アフロスポーツ、写真提供=NTTデータ中国)
赴任初日の夜、居酒屋で見た「シュールで幸せな光景」
「ふらっと街の居酒屋に入ると、店内にカープの『赤』とサンフレッチェの『紫』のユニフォームを着た人たちが溢れかえっていたんです」
昨年6月、NTTデータ中国に赴任した鈴森康弘社長は、本社がある広島にやってきた最初の日に、どの地域とも違う独特の熱気を感じたという。
「東京から送った荷物が片付かず、疲れ果てて夕食を食べに入った店でのことでした」
その日はNPB・広島東洋カープと、Jリーグ・サンフレッチェ広島の試合が行われた日だった。
「お互い顔見知りとは思えない人同士が、お酒を飲みながら『こっちの試合はこうだった』『いやこっちは……』と言い合っている。野球とサッカーという二大人気スポーツの地元球団、クラブということもあり、傍から見ると白熱しているように見えたのですが、お店のテレビでハイライトが流れると、最後は一緒になって盛り上がっている」
不慣れな街、しかも引っ越し疲れの中、たった一人で遅い夕飯を食べていた鈴森社長にとって、その光景はこれまで見たことのない「シュールなもの」だったそうだ。
「よその土地から来た私にとっては、何とも不思議な光景で、同時に、『なんかみんな幸せそうだな』と感じたのをよく覚えています」
会話のきっかけは天気と出身地、そしてカープの話
広島には日本のプロ野球の中でも特異な‟市民球団”を源流とするカープと、Jリーグ発足当初に加盟した‟オリジナル10”に数えられるサンフレッチェが存在している。特に長い歴史を誇るカープは、NTTデータ中国の商圏である鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県でのコミュニケーションには必須の話題だ。
「広島では、お天気の話、出身地の話、そしてカープの話。『今年はどうですかね?』なんて話が鉄板ですね」
東京から転勤してきて、事前に得ていた知識や情報もあったが、鈴森社長にとっては、初日に目にした光景が、地域への理解を大きく助けることになった。
「もう一つ驚いたのは、カープでもサンフレッチェでも、みなさん家からユニフォームを着てそれぞれの試合会場に行くんですよね。MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島、エディオンピースウイング広島ともに広島駅から近いこともあり、電車に乗らなくても行けるというのもあるのかもしれません。あとで気づいたのですが、スタジアムに行くと駐輪場がとんでもなく大きいんですね。みなさん自転車や徒歩で観戦に出かける。広島ではスポーツは単なるイベントではなく文字通り‟生活の一部”なんだなと実感しました」

プロスポーツクラブが多く、育成年代のレベルも高い‟スポーツ王国”
野球とサッカーだけではない。広島にはバスケットボール・Bリーグの広島ドラゴンフライズ、バレーボール・SVリーグの広島サンダーズ(旧:JTサンダーズ広島)に加え、ハンドボールの安芸高田わくながハンドボールクラブ、イズミメイプルレッズ広島、フットサルの広島エフ・ドゥなど多彩なスポーツクラブがそれぞれ存在感を示している。
中国地方で見ても、岡山にはJ1ファジアーノ岡山、山口にはJ3レノファ山口FC、島根にはB1島根スサノオマジック、鳥取にはJ3ガイナーレ鳥取と三大プロスポーツリーグに属するクラブが存在している。
育成年代においても、全国大会でも上位を占める野球、サッカーをはじめ、全国高校駅伝(男子)で最多優勝を誇り、青山学院大学・原晋監督の出身校としても知られる世羅高校(広島)、今年の春高バレーで準優勝を果たした女子バレーボールの強豪・就実高校(岡山)など、5県それぞれが特定の分野で全国の頂点に君臨するスポーツ王国として知られる。
「例えばサンフレッチェ広島のサッカースクールは広島駅周辺で活動していることもあり、日常的に練習風景が目に入る環境にあります。中高生もがんばっている姿を目にするからこそ応援したくなるというのはあるかもしれません。子どものころからスポーツを身近に感じ、自然に打ち込むようになった地元の選手も多いのではないでしょうか」
ここにも中国地方のスポーツと地域の結びつきの強さが見て取れる。
「スポーツが特別な非日常ではなく、日常の延長線上にある。この『熱』と『距離感』は、東名阪のそれと比べても明らかに質が違うものだと思います」
地域経済が「支える」豊かなスポーツ文化と未来への投資
中国地方は「する」スポーツが盛んな地域だが、大都市圏に比べ人口や財政で不利な分、「支える」力も重要になる。鈴森社長は、中国地方をけん引する広島のビジネス土壌にある特殊性を指摘する。
「広島は、経済同友会の規模が全国でもトップクラスに大きいんです。企業の代表や経営者が頻繁に集まり、そこには球団、クラブ関係者だけでなく、スタジアム経営に関わる方、スポーツに関わる方が普通にいらっしゃる。『今年の補強はどうだ』『ドラフトはこうだった』という会話が、経営者同士の情報交換として日常的に行われている」
奇しくも近年新装となったMAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島、エディオンピースウイング広島の両スタジアムを中心に、スポーツが盛り上がり人が集まれば、周辺の飲食店が潤い、交通機関が利用され、宿泊需要が生まれる。
「例えば、広島電鉄の路面電車が広島駅の2階に直接乗り入れるようになりましたよね。あれに乗って、新しいサッカースタジアムへ向かう人の流れができている。アウェイのサポーターもやってきて、街でお金を使ってくれる。スポーツには、そうやって地域経済を回す強力なエンジンの役割もできる」
地元の名士たちが、当たり前のようにスポーツを語り、支えている。そしてそれは、単に地域貢献という名のボランティアではなく、地域やそこで暮らす人々、未来を担う若者への‟投資”にもなる。
また2024年に誕生したエディオンピースウイング広島は、広島平和記念都市建設法に基づき整備された広島市中央公園内にある。原爆ドームのほど近く、文化施設が集中する立地は、広島にとって特別なメッセージである「平和」を内包している。
NTTデータグループは、地域の金融機関や自治体システムを支える企業だ。それだけに地域の特色を生かした活性化は、全国に9社ある地域会社に共通する大命題でもある。
日常に当たり前に溶け込んだスポーツの熱をどう生かすか。2024年にNTTデータ関西がリリースし、サービスインした『GOATUS(ゴータス)』は、スポーツと地域の熱を受け止める”器”になる可能性を秘めている。
‟熱”を生んだ忘れられないハイタッチ
NTTデータが得意とするテクノロジーを活用して地域の‟熱”を受け止め、地域経済全体と連動して「投資」を行い、新たなコミュニティを機能させる。そのための具体的なプラットフォームが『GOATUS』だ。
2024年12月にアプリ版がリリースされた『GOATUS』は、アスリートやチームとファンをつなぐコミュニティプラットフォームだ。ファンが「エール(ギフティング)」を送ったり、定額制の「パーソナルスポンサー」になったり、ファンの「推す力」をデジタルの力でアスリートに直接届ける機能を備えている。
「まだBリーグが始まる前ですかね。小さかった息子をバスケの試合に連れて行った時、運良くコート内で選手と触れ合う機会に恵まれました。身長2m超えの選手とハイタッチをしたときの興奮した姿は、息子にとって一生忘れられない思い出になったはずです」
選手にとってはずいぶん控えめなハイタッチだったに違いないが、その後、息子さんはかつて父親が打ち込んでいたバスケットボールを始め、昨年には八村塁が所属するNBA、ロサンゼルス・レイカーズの試合を観戦する貴重な経験も一緒にした。
「ハイタッチも現地でのNBA観戦も、テレビで10回観るより、生での1回、やっぱり実際の体験は特別なものですよね」
NBA観戦で感じたリアルな体験とテクノロジーの融合
鈴森社長には、もう一つの顔がある。社長に就任する前は、グループ企業のコンシューマー向けサービス開発の最前線にいた。数千万人が使うアプリの開発を主導し、UX(ユーザー体験)を磨き続けてきたプロフェッショナルだ。
昨年の息子とのNBA観戦、アメリカでのアリーナ体験は、スポーツと鈴森社長自身の領域であるテクノロジーの両面で衝撃的だったという。
「顔認証でチケットはもちろんスマホすら出さずに入場すると、まず巨大なスクリーン、音響に圧倒されました。映画館のスクリーンより大きい液晶画面にさまざまな映像が映し出され、そこに音楽と照明が連動する。その演出はまるで世界的なアーティストのライブ会場ですよね。チームやプレイヤーの詳細なスタッツがリアルタイムで表示され、もう一度見たいと思うようなプレイには、例の巨大なスクリーンに即座にマルチアングルでリプレイが出てくるのも現地観戦の“かゆいところ”に手が届くが仕掛けだと感じました。グッズショップでは商品を手に取って店を出るだけで決済が完了する。NTTデータの『レジ無し決済システム』と同じ仕組みですが、すべてがストレスフリーで、非日常のエンターテインメントとして完成されていました」
不便なことをテクノロジーで解決し、そのスポーツやクラブ、アスリートが作る世界観への没入感を高める。各選手の得点やアシスト、プレイタイム、シュート成功率などのスタッツやさまざまな角度から映し出されるリプレイ映像が、観戦体験の“濃度”を高める手助けとなる。スポーツ先進国・アメリカではテクノロジーの可能性を感じたが、同時にテクノロジーはあくまでも体験やそこから生まれる‟熱”を際立たせる黒子である必要性も感じたという。
「『GOATUS』もそうですが、やはり主役はリアルの場での体験や観戦した思い出、アスリートとの触れ合いにある」
息子とのNBA観戦という体験も、最初のハイタッチがあってこそ生まれたものであり、テクノロジーはそれを演出するために使われるべきもの。
「スポーツのデータ活用はパフォーマンスを高める上でも、観戦体験を深める上でも有効で、日本でもさらなる活用が進むと思いますが、あのイチローさんもデータだけを見ていると野球やスポーツの本来の面白さが損なわれるというお話をされています」
ユーザーの反応を見ながらサービスを改善し続けてきた鈴森社長だからこそ、データ、デジタル万能論ではなく、たとえデジタル空間のプラットフォームであってもリアルな体験やコミュニケーションを軸にしたテクノロジーの活用であるべきだと考えているという。

アスリートとのハイタッチと社長から新入社員への「いいね!」の共通項
アスリートと直接交流できるプラットフォームである『GOATUS』の可能性について話を聞いていると、鈴森社長は自身の若手社員時代のあるエピソードを披露してくれた。
「入社して間もない頃、今でいう社内SNSのようなシステムに何気ない投稿をしたら、当時の社長から『いいね!』がついたんです。部署中が大騒ぎですよ。『おい、社長が見てるぞ!』って(笑)。どんな内容の投稿だったかはまったく覚えていませんが、当時は雲の上の存在だった社長に反応がもらえたことを今聞かれて思い出しました」
数万人規模の会社の社長と新入社員とでは、リアルな場での接点はほぼ皆無に等しい。デジタルを介した社内SNSがあったからこそ生まれたタッチポイントだった。リアルな場での「ハイタッチ」と、デジタル空間での「社長からのいいね」は、遠く感じていた存在を身近に感じ、直接つながるという点においては同質の体験とも言える。
スポーツの熱を昇華させるプラットフォームへ
リアルな体験が“つながり”を生み、そこで生まれた“熱”はやがて熱狂へ。デジタル上の接点は、その熱狂をさらに加速させる。
「広島の熱、中国地方の熱をうまく使って『GOATUS』の発展に寄与できたらと思いますし、『GOATUS』が全国向けのプラットフォームとして大きくなれば、スポーツとファン、地域の新たな可能性が生まれるんじゃないかと思っています」
NTTデータ関西が立ち上げた『GOATUS』のファーストパートナーが「スポーツ熱」の高い中国地方を活動地域とするNTTデータ中国だったのは必然。スポーツと地域の新しい関係のモデルケースはスポーツが生活と切り離せないくらい当たり前に同化している広島、中国地方から始まるのかもしれない。
【過去連載前編】なぜNTTデータ関西がスポーツビジネスに参入するのか? 社会課題解決に向けて新規事業「GOATUS」立ち上げに込めた想い
【過去連載後編】「アスリートを応援する新たな仕組みをつくる」NTTデータ関西が変える地域とスポーツの未来
<了>
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[PROFILE]
鈴森康弘(すずもり・やすひろ)
NTTデータ中国代表取締役社長。NTTデータ入社後、オムニチャネル、AIサービスなどDX案件のプロジェクトマネージャを歴任し、2020年からはモバイル領域の複数のコンシューマ向けサービス開発プロジェクトの上位マネジメントに携わる。オフショアによるアジャイルプロジェクト、スマホ用モバイルアプリとサーバアプリの一体型開発など、さまざまなデジタルテーマに取り組み、2022年7月より「モバイルビジネス事業部」事業部長に就任。2024年7月よりCXに特化した「デジタルエクスペリエンス事業部」を担当。2025年6月よりNTTデータ中国代表取締役社長に就任。
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