
なでしこ岩渕真奈、3度目ワールドカップへ覚悟 ケガはあっても「全力でやる!」
岩渕真奈にとって、今大会で3度目の出場となるFIFA女子ワールドカップ。過去2大会はチーム最年少での出場だったが、高倉麻子監督が率いる今大会では自分より年下の選手が数多く選出された。
近年はたび重なるケガの影響もあり、なかなか思うように代表活動に参加できない期間もあったが、国際大会の経験が豊富で、高倉体制においては昨年のアジアカップで大会MVPに選ばれる活躍を見せた彼女には、多くの役割が期待されることになるだろう。
ワールドカップに向けた代表合宿が始まる直前の5月22日、今大会へ懸ける想いについて聞いた。
(インタビュー=岩本義弘[『REAL SPORTS』編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=UZA)
チームのために全力でやる
今回の2019年FIFA女子ワールドカップについて、岩渕選手はケガの影響もあり今年の代表活動には参加しておらず、5月のリーグ戦では足を痛めて途中交代していました。とはいえ、選ばれないということはないと思ってはいましたが、発表前に何か監督に言われたりはしてたんですか?岩渕:いや、それが何も言われていなくて。
もしかしたら選ばれない可能性もあるな、と思ったりもしました?岩渕:はい。ケガがなければいけるかなとは思っていましたが、(直前で)またケガをしてしまったので、選ばれなかったら仕方ないな、という気持ちでしたね。
今回、26歳にして3度目のワールドカップ出場となります。なでしこジャパン歴も、もう本当に長いですよね。その中で、高倉(麻子)監督の体制になってから、どういう感覚を持っていますか?
岩渕:自分を出せているな、とは感じます。
2011年のワールドカップで優勝していることもあって、今回のフランス大会もすごく注目度が高いと思いますが、そこに臨むにあたっての自身の目標は?
岩渕:ケガさえしてなかったら、全試合出て……とか言いたかったですけれど、ケガをしているので……何て言ったらいいですかね(苦笑)。でも、以前にも同じところをケガしているので、なんとなく感覚がわかるじゃないですか。もうだいぶケガの状態も良くなっているので、前向きに考えるようにはしています。とりあえず、長くピッチの上に立てたらいいなと思っています。
そうなれば、監督も岩渕選手の使いどころを考えますよね。岩渕:「焦らなくていいよ」とは言ってくれているんですけれど。それでも、自分自身としてはスタートから行きたいです。
でも、出たら全力でやっちゃいますよね?岩渕:全力でやります(笑)。自分自身、このワールドカップに懸けてやってきたので。だからとにかく、チームのために全力でやろうと思っています。
プレッシャーもあるからこそ、楽しみたい
ワールドカップやオリンピックなどの国際大会で、なでしこジャパンのユニフォームを着て試合に出るというのは、岩渕選手にとってどのような気持ちですか?
岩渕:昔は楽しさしかなかったです。今と比べて昔のほうが緊張しなかったというか、怖いものもなかった。でも、ある程度経験をさせてもらってきた中で、(ワールドカップでは)優勝、準優勝を経験して、いろいろなプレッシャーもあって、今は背負うものが多いというか……。家族の応援とか、ケガした時に支えてくれた人とかももちろんそうですし、背負うものが多いから、責任感はすごく感じますね。
最初に18歳で出場した、2011年のワールドカップ時とは心の持ちようは全然違うと。岩渕:全然違うと思います。優勝した後は、個人的にはそこまでの注目をされたかと言えばそうではないのですが、チームとしての注目度はそこで一気に上がりました。でも、その後ロンドンオリンピックの後は、「準優勝したのに、こんなに盛り上がらないの?」って思うぐらいでしたね。
確かに。準優勝ってすごいのに……というモヤモヤはありますよね、選手たちは。岩渕:自分自身があまり試合に出ていなかったからこそ、「え、すごいよね? 準優勝って?」というテンションでしたね(苦笑)。
あれだけ日本がマークされていた中で、決勝まで行ったというのは、本当にすごいことですよね。岩渕:奇跡の連続ではあったと思うんですよ。くじ運であったり。でも、もう少し盛り上がっても良かったんじゃないかと正直思いました。
(岩渕選手が決勝ゴールを決めた準々決勝の)オーストラリア戦も覚えていますが、あの試合もすごかったですよね。
岩渕:あれも奇跡ですし、そのあと(準決勝)のイングランド戦でローラ・バセット選手のオウンゴールによる勝利も。あんなのあり得ないじゃないですか、普通は。
それだけに、「これは連覇するんじゃ!?」と思いました。
岩渕:思いました、自分たちも(笑)。だからこそ、今回の大会は、いろいろな意味で大事だなと思っています。
岩渕選手自身もそうだと思いますが、なでしこジャパンが女子サッカー全体の重みを背負い込んでいる部分もありますよね。ずっとそのメンバーの中にいたら、プレッシャーを感じざるを得ないですよね。岩渕:そうですね。2011年に優勝した後、なでしこリーグのお客さんが一気に増えたのですが、今は全然少なくなってしまいましたし。たくさんのお客さんに試合を観にきてもらうためにも結果は大事だと思います。
実際、世界の女子サッカーのレベルは、この8年間でとても上がっていると感じるのですが、その中で結果を出さなければいけないというのは、どのような気持ちなのでしょうか? 選ばれたメンバーにしかわからない気持ちだと思うのですが。楽しみというよりは、責任感のほうが強くなっているのですか?岩渕:そうですね。
でも、岩渕選手の場合、楽しまないと良いプレーも出てこないのでは?
岩渕:もちろん楽しみます。いろいろなことを感じているからこそ、楽しみたいという気持ちです。
岩渕選手のプレーは、ただ単に試合に勝とうというだけではない、見ている人をワクワクさせるようなプレーが多いですよね。だから、より応援する人も増えるんじゃないかと思います。
岩渕:そうですか? ありがとうございます(笑)。でも、自分自身はとにかく楽しくやっているだけなので。
今、自分自身のプレーの中でここが一番世界に通用する武器だと思うのは? 岩渕:ないです(笑)。これまでもなくて、同年代の中では通用していたというくらいです。
でも、世界の選手たちも同年代になっていますよね。
岩渕:世界はやっぱりすごいですよ。
要となるのは2試合目、対スコットランド
今大会のライバルとしては、どこが一番強いと思いますか?
岩渕:どの相手も強いですけれど、大事なのは(グループリーグ)2試合目のスコットランドだと思います。
一緒にプレーしていた選手もいるんですか?岩渕:はい。一緒にやっていた選手も何人かいたりするので、良いチームだということは知っています。それだけに、そこで勝てたらグループリーグ突破も見えて、あとはイングランド(と1位突破を懸けた最終戦)、となるけれど、もしそこ(スコットランド戦)で引き分けとかになって(2位、3位突破になって)しまったら先が見えないし。もちろん初戦も大事ですが、グループリーグで大事なのは絶対にスコットランドだなと。
3戦目まで持ち越さないで決めるくらいの感じで行かないとダメだということですね。
岩渕:はい、グループリーグで1位にならないとダメですし、スコットランド戦で決めないと。
すごい。全部出る、くらいの意気込みですね。
岩渕:そうですね(笑)。
今の“なでしこジャパン”の見えざる姿
ちなみに過去の2大会どちらも岩渕選手はチーム最年少でしたが、今大会では上から8番目です。これまでいろいろな先輩方を見てきた中で、自分自身の今の立ち位置として、ピッチ内だけでなくオフザピッチの場面でもチームに何をもたらせるかなど、考えたりしますか?
岩渕:真面目なことは言えないタイプなんですよね(苦笑)。でも、選手たちを持ち上げる役だったらできると思います。落ち込んでいる人のモチベーションを上げたり。真面目な話は(熊谷)紗希とかにお願いして、楽しくやれたらいいんじゃないかなって。
後輩に対してはどうですか? お姉さんキャラというわけではない?岩渕:お姉さんキャラではないと思います(笑)。みんながどう思っているのかはわからないですけれど。上の人たちはサッカーにおいては同等に見てくれているとは思うけれど、サッカー以外の部分では下に見ていると思います。年下の子たちはたぶん、それなりに上、って見てくれているんじゃないですか(笑)。
高倉監督は、選手たちに対してはどのようなキャラクターですか? すごく芯が強い方だなという印象がありますが。岩渕:キャラクターという視点だと、監督っぽくないですね。もちろん女子サッカー界において大先輩ですし、元代表として活躍された方ですが、選手たちと一緒の時はケラケラ笑ったりしますし。
選手たちと、距離感が近い監督なんですね。
岩渕:そうですね。
岩渕選手自身、これまでの環境の中でいろいろな葛藤があって今があります。そんな岩渕選手から見て、今の若手選手たちはどういうふうに見えますか?
岩渕:勝手なイメージですけれど、葛藤とかはなさそうな気がします。それよりも、やっぱりU-17、U-20ワールドカップで優勝してきたという自信を持っているから、どんどんチャレンジし続けられるというか、前に出る選手が多いと思います。
自主性が強い人が多いのですか?
岩渕:はい、そう思います。
女子サッカーの注目度やレベルが上がってから代表メンバーになっていますし、その前の代とは、ある意味で感覚が違うのかもしれないですね。
岩渕:感覚はだいぶ違うと思いますね。「時代だね」って片づけるのは全然好きじゃないですけれど、やっぱり、そのように感じます(笑)。
自分たちの時とは、明らかに全然違うなという感じですか?岩渕:自分の頃は同年代の選手がいなかったり、一番近くて2歳上とかでしたが、今って同年代がたくさんいるじゃないですか。だから、そこですでに競争ができていて。代表になる前にまず、競争する相手がいるという環境があるから。自分の良さをとにかく出そうとする選手や、ミスしてもチャレンジし続けられる選手が多いから、私から特にかける言葉はないかなって。
でも当時、岩渕選手も当時は周りからそう思われていたと思いますよ。U-17の時からすごく活躍して、葛藤なんてないんじゃない?と思っていた人もいると思います。
岩渕:いや、例えば(長谷川)唯とか、監督もずっと同じ高倉さんに見てもらっていたから、高倉さんも唯のことをよくわかっているし、唯もそれなりにプレーに自信があって……ってなったら、葛藤するようなタイミングがなさそうだなと思うんですよね。試合にも出続けているし。
今度ぜひ聞いてみてください。「葛藤とかあるの?」って。
岩渕:たぶん、「ないです」って言うと思います(笑)。
第二回 岩渕真奈が振り返る、10代の葛藤 「自分のプレーと注目度にギャップがあった」
<了>
PROFILE
岩渕真奈(いわぶち・まな)
1993年生まれ、東京都出身。INAC神戸レオネッサ所属。ポジションはフォワード。小学2年生の時に関前SCでサッカーを始め、クラブ初の女子選手となる。中学進学時に日テレ・メニーナ入団、14歳でトップチームの日テレ・ベレーザに2種登録され、2008年に昇格。2012年よりドイツ・女子ブンデスリーガのホッフェンハイムへ移籍し、2014年にバイエルン・ミュンヘンへ移籍、リーグ2連覇を達成。2017年に帰国しINAC神戸レオネッサへ入団。日本代表では、2008年FIFA U-17女子ワールドカップでゴールデンボールを受賞、世間からの注目を集めるようになる。2011年FIFA女子ワールドカップ優勝、2012年ロンドンオリンピック準優勝、2015年ワールドカップ準優勝に貢献し、2019年ワールドカップフランス大会メンバーに選出。
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