岩政大樹、渡邉大剛が語る「引退後のリアル」 アジアへの挑戦で学んだ“本質”とは?

Career
2019.11.06

鹿島アントラーズで一時代を築いた岩政大樹と、京都サンガF.C.と大宮アルディージャでそれぞれ100試合以上に先発出場している渡邉大剛。

彼ら二人にはJリーグで築いた確固たる実績、海外移籍での挫折、引退後の下部リーグでの現役復帰など、興味深い共通点がある。

そこで身につけた彼らの人生観、そして「元Jリーガーの引退後のリアル」について話を聞いた。

(インタビュー・構成・写真=宇都宮徹壱)

「鹿島に行っていたら怒られまくっていたでしょうね(笑)」

「サッカー選手は時間がたくさんあるに、なぜ将来に向けて勉強しないのだろう?」──。そんなことを考えた人はいるだろうか。選手のセカンドキャリアに関する言説には、必ずといってよいほど「時間の有効活用」の話題がついて回る。とはいえ現役サッカー選手の多くが、試合やトレーニング以外の時間を無為に過ごしているとは思えない。

今回ご登場いただく岩政大樹氏は、昨年に東京ユナイテッドFC(関東1部)で現役引退し、解説者や指導者として活躍中。一方の渡邉大剛氏も、いったん引退を宣言し、今年から品川CC横浜(神奈川県1部)でプレーしながらエージェントの仕事をスタートさせた。最近では、アスリートのキャリアサポートを手掛けるリスタンダード株式会社のブランディングアンバサダーに就任。

今回の対談は「ぜひ岩政さんの話が聞きたい」という渡邉氏の希望が実現したものである。チームメイトだったことはないものの、アジアのリーグでプレーしたことやアマチュアクラブでの経験など、意外と共通点も少なくない。そんなお二人に「セカンドキャリアから見た現役時代」について語り合っていただいた。

お二人は現役時代、何度か対戦していますけど、実は鹿島アントラーズでチームメイトになる可能性もあったそうですね。

岩政:内田篤人がシャルケに行ったタイミングだから、2010年の終わりかな? その時に(渡邉)大剛が来季の(選手獲得の)リストに入っていることを知っていたので、試合後に声をかけたんだよね? 結果的に西大伍が来ることになったんですけど。

渡邉:岩政さんから「来年、来いよ」って言われたのは覚えています。ちょうど京都サンガF.C.の最後のシーズンで、J2降格が決まって僕は大宮アルディージャに移籍するんですけど、岩政さんにそう言われた時は正直うれしかったですね(笑)。

大剛さんのポジションは中盤ですけど、鹿島で右サイドバックを任されていたら、どうなっていたでしょうね?

渡邉:たぶん、鹿島に行っていたら怒られまくっていたでしょうね、岩政さんに(笑)。ただ僕も負けん気が強いので、試合中に言い合いになっていた可能性もあります。

なるほど(笑)。岩政さんは現役時代から読書家だったことで知られていますが、その時の蓄積が今のお仕事に生かされているとお考えでしょうか?

岩政:どうでしょうね。僕の場合は大卒でプロに入ったんですが、同期が社会人になってキャリアを積んでいく中で、自分はサッカーしかやっていないという危機感みたいなものはあったんです。とはいえ「セカンドキャリアに向けて」と言われても、それがいつ来るもので、その時に自分がどう考えているのかわからないじゃないですか。
何かをしなければいけないんだけれど、何をしていいのかわからない。そうした相反する迷いの中、手っ取り早く知識を得たり感性を磨いたりするんだったら、読書が一番だろうって考えたんですね。実はプロになるまでは、そんなにたくさん本は読んでなかったんですけど、移動でけっこう時間があったので読書が習慣になりました。

渡邉:僕も現役時代、本にハマった時期もあるんですけど、疲れて眠っていることのほうが多かったですかね(苦笑)。京都で一緒だった角田(誠)さんとか、大宮にいた北野(貴之)さんとかも読書家で、よく「本は読んだほうがいいよ」って言われました。岩政さんは、どんな本を読んでいました?

岩政:ジャンルは問わないですね。小説とか歴史の本とか、宇宙の成り立ちみたいな本を読むこともあります。あとはビジネスものとかリーダーシップとか、自己啓発みたいなものにハマったこともありますけど、一つのジャンルにこだわらないようにしていますね。

渡邉:僕の場合はスポーツ選手の自叙伝とか、あと自己啓発ものも読んでいた時期もありました。ただし、あまり影響を受けすぎるのもどうかなって思って、それで読まなくなりましたね。移動中に休むことも仕事のうちだと思っていましたし。

「現役選手は時間がたくさんある」という話は、それこそ何度も耳にしてきたかと思います。それぞれの現役時代を振り返ってみて、いかがでしょうか?

岩政:試合に出場してからの2〜3日って、めちゃめちゃ疲れているじゃないですか。特に若い時って、午前練が終わって昼飯を食べたら、すぐ眠くなるんですよね(苦笑)。練習、食事、休息というサイクルを続けてきて、ある程度の年齢になったら「昼寝はいらないな」ということで、その分は自主トレとか身体のケアに充てるようになりました。

渡邉:プロサッカー選手って、パフォーマンスの向上やチームの勝利を考えて1日をデザインするじゃないですか。トレーニングそのものは2時間しかないかもしれないけど、練習の2時間前から準備をしていますし、終わってからも身体のケアとかあります。移動も含めて8時間くらいは拘束されるわけで、隙間の時間ってあんまりないんですよね。

岩政:普通に街中を歩いている時でも、身体のバランスを考えたり間接視野を意識したりしていました。椅子から立つ時も「どこの筋肉から動かそうか」とか考えているんですよ。そういう感覚って、本当に終わりがない(苦笑)。もちろんセカンドキャリアのことを考えるのも大事ですけど、そういう感覚を20代の時に経験するというのも大事なことだなって、最近は思うようになりましたね。

サッカーから学んだのは、問題解決能力とコミュニケーション能力

岩政さんは2014年にタイのBECテロサーサナ(現ポリス・テロFC)で、大剛さんは2016年に韓国の釜山アイパークでプレーしています。それぞれ1年と半年という短い期間でしたが、この時の経験はどのように今に生かされているのでしょうか?

岩政:僕の場合、鹿島でのキャリアを終える時が「引退に向かうスタート」だと思っていました。それならまったく違う環境で、外国人選手としてプレーをしてみようと。タイに行ってみて強く感じたのは、やっぱり日本での常識がまったく通用しないということ。自分が当たり前と思っていたことが、実は世界の当たり前ではなくて、単に自分が「当たり前」と決めつけていたんだと。サッカー選手としても、一人の人間としても、それは痛感しましたね。「じゃあ、これからどう生きるのか」ということを、真剣に考える契機になりました。

渡邉:僕も韓国でそれは感じましたね。日常のマナーとか時間の感覚とか、日本とまったく違うので戸惑うことが多かったです。それはサッカーについても同じで、日本だと戦術や組織を考えながらプレーしますけど、韓国だと1対1の勝負がより重視されるんですよ。僕はフィジカルが強いほうではないし、スピードも若い時に比べて落ちていたので、そういった面ではけっこう苦労しましたね。
僕が韓国に行ったのは、大宮をアウトになって「見返してやりたい」という気持ちがまずありました。結局、チームのスタイルに合わなくて、Bチームで理不尽な練習メニューを黙々とやっていました。でも、そうした僕の姿勢をチームメイトも見てくれていて、帰国する時には名残惜しんでくれましたね。向こうで結果は出せなかったけれど、自分のやってきたことは間違っていなかったし、行ってよかったとも思っています。

岩政:どれだけ文化が違っていても、そういう真剣に取り組む姿勢というものは、どんな国でも評価されるんですよね。本質的なものは変わらない。それも日本を出なければ、わからなかったと思います。あと僕の場合、向こうでブログを書くようになったことも、今につながっていますね。実は鹿島時代、ほとんどネットを見なかったんですよ。でも、向こうに行くと時間もあったので、鹿島での10年間を振り返りながら毎日発信するようになったんです。それが文章を書くという習慣にもつながっていきましたね。現役時代の読書とかSNSでの発信とか、引退後に生かされる面は間違いなくあると思うんですよ。でも一方で、サッカーと真剣に向き合ってきた経験もまた、セカンドキャリアに良い影響を与えるんじゃないかと考えています。いかがでしょうか。

岩政:僕がサッカーから学んだのは、問題解決能力とコミュニケーション能力です。サッカーの場合、試合がどんどん流れていきますから、その中で問題点を見つけて改善案をチームメイトに周知していく必要がある。ただ伝えればいいという話でもなくて、タイミングや表現力も求められるんですよ。解説や執筆の仕事をしていると「岩政さんは言語化するのが上手ですね」って言われるんですけど、それはあとから勉強したものではなく、サッカーをしている中で培われていったものなんですよね。

渡邉:本当にそう思いますよ。試合中に失点して、黙り込んだり誰かのせいにしたりするのって、よくある話じゃないですか。そこで建設的なコミュニケーションをして、問題解決していく能力って、サッカーではとても大事ですよね。負けてもすぐに次の試合があるし、1年を通してシーズンがあるわけで、問題解決とコミュニケーションの積み重ねが結果になって現れる。それは他の仕事でも同じだと思うんですよ。

岩政:最近、若い選手がSNSの発信に積極的じゃないですか。試合が終わってすぐにTwitterで「悔しい結果でした。次は頑張ります」とかね(苦笑)。でも僕に言わせれば「その発信力、チーム内で生かしていますか?」って話なんですよ。外に向けての発信力がある人なんて、社会に出たらいっぱいいますよ。そうじゃなくて、チーム内での発信力を上げることをやっていかないと、サッカー選手をやっている意味がないと僕は思います。

<了>

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PROFILE
岩政大樹(いわまさ・だいき)
1982年1月30日生まれ、山口県出身。東京学芸大学卒業後、2004年に鹿島アントラーズに入団、3度のリーグ優勝に貢献した。テロ・サーサナFC(現ポリス・テロFC/タイ)、ファジアーノ岡山、東京ユナイテッドFCを経て、2018シーズン終了後に現役を引退した。2010 FIFAワールドカップ日本代表。現在はサッカー解説者、指導者として多方面で活躍している。

PROFILE
渡邉大剛(わたなべ・だいごう)
1984年12月3日生まれ、長崎県出身。国見高校卒業後、2003年に京都サンガF.C.に入団、2度のJ1昇格に貢献した。大宮アルディージャ、釜山アイパーク(韓国)、カマタマーレ讃岐を経て一度は引退を表明するも、今年7月に神奈川県1部の品川CC横浜で現役復帰。リスタンダード株式会社ブランディングアンバサダーを務める。

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