「出産後で一番良い状態」女子バレー荒木絵里香、代表最年長35歳が限界を感じない理由とは
北京、ロンドン、リオデジャネイロと3度オリンピックを経験。今年、自身4度目の五輪に挑むバレーボール女子日本代表の荒木絵里香選手。「自分が、年齢も、経験も、一番上の中でのキャプテンなので」と主将の大役を引き受け、オリンピック後については「まだわからない」と語る。チームを背負い、自身の集大成として挑む東京五輪へ懸ける思いとは?
(インタビュー・構成=米虫紀子、撮影=浦正弘)
「思い出すのはアテネ五輪の時のキャプテン」
——東京五輪イヤーの日本代表が始動しました。昨年までとは違うキャプテンという立場で、今年の合宿がスタートして、今感じていることはどんなことですか?
荒木:やっぱり選手はみんな、絶対東京五輪に出たい、メンバーに入るんだ、というすごい意気込みと、熱を持って来ているのはすごく感じます。スタッフも、今年から相原(昇)さん(日本代表コーチ)が入って、全力で向き合って盛り上げてくれて、新しい風を吹かせてくれている。まだチームとしては大人数過ぎて(29人)、ちょっと難しい部分もあるんですけど、夏に向けて、いいスタートが切れていると感じています。
——2012年ロンドン五輪で銅メダルを獲得した時以来の、日本代表のキャプテンですが、その時とはやはり全然違いますか?
荒木:はい。前回はもうほんと、キャプテンマークをつけさせてもらっていただけだと思っているので。当時は竹下(佳江)さんがいて、佐野(優子)さん、大友(愛)さんというメンバーがいて、(木村)沙織がいて、という中での自分だったので、今とは訳が違う。年齢的にも、前回は自分がちょうど真ん中ぐらいで、半分がお姉さんだったから、そんな楽なことないじゃないですか。
——楽でしたか? 気を遣う部分もありそうですが。
荒木:大変って言えば大変だけど、楽(笑)。今はもう本当に自分が、年齢も、経験も、一番上の中でのキャプテンなので。なんかこう、思い出すのは(2004年)アテネ五輪の時のキャプテンだったトモさん(吉原知子)ですね。トモさんの姿を、すごく今、思い出しながらやらせてもらっています。
——吉原さんのどんな姿が思い出されますか?
荒木:なんていうんだろう……とにかく引っ張る。言葉でも、行動でも、すべて自分で見せて引っ張っていく姿というのはすごく心に残っています。あの時、私は19歳ぐらいで、初代表だったんですけど、そんな私にもすごく気を配って、いろんな言葉をかけてくれて、頑張らせてくれました。だから自分が同じような年齢と立場になった今、若い選手たちに対して、しっかりと自覚を持った言動をしていかないといけないな、というのはすごく感じています。
「日の丸を背負うことはたぶんもう、最後」
——これまで北京、ロンドン、リオデジャネイロと3大会連続で五輪に出場されました。オリンピックはどの大会も特別な重圧があると思いますが、東京五輪はまたさらにそれが大きくなるのではと……。
荒木:わかんないですね、東京のオリンピックは出たことがないから(笑)。
——ロンドン五輪のあと、結婚、出産を経て現役に復帰されてから、再び代表に戻る時も一大決心だったとうかがったことがあります。さらに、主将という役割を背負うというのは、ものすごい覚悟が必要なのではないかと想像するのですが。
荒木:そうですね、むちゃくちゃ大変なこと……。でも、キャプテンじゃなくても、キャプテンでも、東京五輪に挑戦する!ということは決めていたから。そこにプラス、すごい役割が追加されたっていうのはありますけど(苦笑)。やっぱり、自分自身のバレーボールのキャリアとしては、もう集大成になるので、今までの経験であったり、積み上げてきたものだったり、本当に全部を出し切りたいです。
——集大成というのは……そこを最後に引退する可能性もあるということですか?
荒木:うーん、まだそこはわからないです。もしかしたらそうなるかもしれないし、次の、どこだっけ? パリか。パリを目指すかもしれないし、ハハハ。いや、パリは目指さない。日の丸を背負うことはたぶんもう、最後。間違いなく。
——来シーズンのVリーグは……。
荒木:まだわからないですね。
「今はチーム練習の中で100を出し切る」
——今シーズンのVリーグ最終戦のあとに、「このリーグはここ数年の中で一番いいコンディションで戦い抜けた」とおっしゃっていて驚いたんですが、ここ数年というのは、出産後に現役復帰されてから、ということですか?
荒木:そうです。復帰してから、欠場しなかったのは今シーズンが初めてでした。それまでは毎年絶対にどこかでコンディションを落として、プレーできなかった時期があったんですけど、今シーズンはそれがなくて、コンディション的にはすごくいい状態でシーズンを通してプレーできました。
——毎年フルでVリーグと代表の活動をしながら、年齢も重ねていく中で、今シーズンそれができたのは、何か変えたことや、新しく取り組んだことがあったのですか?
荒木:ちょっと前からヨガやピラティスを。本当に軽くですけど、教えてもらって、練習の前後に取り入れています。日常の中でも、呼吸や姿勢というところを意識するようになって、それがすごくいい効果につながっているのかなというのは感じます。
——それはチームでやっていることなんですか?
荒木:代表の合宿でも、トレーナーさんが時々取り入れてくれてやっていたんですけど、昨年の春頃から、個人的にも取り入れ始めました。トヨタ車体クインシーズのスタッフに、たまたま前職がピラティスインストラクターだった人がいて、その人に何回かレッスンしてもらいました。腰痛があることが自分の悩みだったので、それに対してよさそうなものを教えてもらって、それがうまくいっているのかなと感じます。練習前のウォーミングアップの中でちょっとやったり、ダウンの中でやったり。あと、寝る前にちょっと呼吸を意識する。そういうことがすごく体的にいいですね。
——では、35歳の今も身体的な限界は全然感じていない?
荒木:うん(笑)。だからと言って若い時みたいに永遠に自主練なんてできないので、今は本当に量より質にこだわっています。今はチーム練習の中で100を出し切る。例えば同じブロックジャンプでも、常に100で、全力で跳ぶ。練習もトレーニングも、質をどれだけ高めて、負荷をかけてやるかということを心掛けています。
——最後に改めて、東京五輪への思いを聞かせてください。
荒木:本当に、メダルを取る、この夏自分のチームで最後に笑って終わる、という目標のために、1日1日大事にやっていきたい。自分自身にとっては集大成だと思うので、すべてを出し切れるようにやっていきたいです。
<了>
【前編】「6歳の娘に寂しい思いをさせている」 それでも女子バレー荒木絵里香が東京五輪に挑戦する理由
4年連続得点王も「五輪に選ばれるかわからない」 田中美南、リスク覚悟の譲れぬ決断とは?
「金メダルだけが目的ではない」井上康生が日本代表に説く『いだてん』嘉納治五郎の教え
「親が頑張らないと子どもがかわいそう」の呪縛 子供の重荷にも繋がる“一流”子育て話を考える
「妻がアスリートを支える」のは“当然”か? 夫婦の在り方と「内助の功」を考える
PROFILE
荒木絵里香(あらき・えりか)
1984年8月3日生まれ、岡山県出身。トヨタ車体クインシーズ所属。ポジションはミドルブロッカー。2003年に東レ・アローズに入団。2008年にイタリアのベルガモへ1シーズンの期限付き移籍を経験。2013年10月、出産予定を機に東レを退社。2014年1月に女児を出産後、同6月、上尾メディックスにて現役復帰。2016年よりトヨタ車体クインシーズでプレーする。日本代表としても長年活躍し、オリンピック3大会(2008、2012、2016)に出場。2012年のロンドン五輪では主将を務め、28年ぶりとなる銅メダル獲得に貢献。
この記事をシェア
KEYWORD
#INTERVIEWRANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
「自信が無くなるくらいの経験を求めて」常に向上心を持ち続ける、町田浩樹の原動力とは
2024.09.10Career -
「このまま1、2年で引退するのかな」日本代表・町田浩樹が振り返る、プロになるまでの歩みと挫折
2024.09.09Career -
「ラグビーかサッカー、どっちが簡単か」「好きなものを、好きな時に」田村優が育成年代の子供達に伝えた、一流になるための条件
2024.09.06Career -
名門ビジャレアル、歴史の勉強から始まった「指導改革」。育成型クラブがぶち壊した“古くからの指導”
2024.09.06Training -
浦和サポが呆気に取られてブーイングを忘れた伝説の企画「メーカブー誕生祭」。担当者が「間違っていた」と語った意外過ぎる理由
2024.09.04Business -
張本智和・早田ひなペアを波乱の初戦敗退に追い込んだ“異質ラバー”。ロス五輪に向けて、その種類と対策法とは?
2024.09.02Opinion -
「部活をやめても野球をやりたい選手がこんなにいる」甲子園を“目指さない”選手の受け皿GXAスカイホークスの挑戦
2024.08.29Opinion -
バレーボール界に一石投じたエド・クラインの指導美学。「自由か、コントロールされた状態かの二択ではなく、常にその間」
2024.08.27Training -
エド・クラインHCがヴォレアス北海道に植え付けた最短昇格への道。SVリーグは「世界でもトップ3のリーグになる」
2024.08.26Training -
なぜ“フラッグフットボール”が子供の習い事として人気なのか? マネジメントを学び、人として成長する競技の魅力
2024.08.26Opinion -
五輪のメダルは誰のため? 堀米雄斗が送り込んだ“新しい風”と、『ともに』が示す新しい価値
2024.08.23Opinion -
スポーツ界の課題と向き合い、世界一を目指すヴォレアス北海道。「試合会場でジャンクフードを食べるのは不健全」
2024.08.23Business
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
「自信が無くなるくらいの経験を求めて」常に向上心を持ち続ける、町田浩樹の原動力とは
2024.09.10Career -
「このまま1、2年で引退するのかな」日本代表・町田浩樹が振り返る、プロになるまでの歩みと挫折
2024.09.09Career -
「ラグビーかサッカー、どっちが簡単か」「好きなものを、好きな時に」田村優が育成年代の子供達に伝えた、一流になるための条件
2024.09.06Career -
「いつも『死ぬんじゃないか』と思うくらい落としていた」限界迎えていたレスリング・樋口黎の体、手にした糸口
2024.08.07Career -
室屋成がドイツで勝ち取った地位。欧州の地で“若くはない外国籍選手”が生き抜く術とは?
2024.08.06Career -
早田ひなが満身創痍で手にした「世界最高の銅メダル」。大舞台で見せた一点突破の戦術選択
2024.08.05Career -
レスリング・文田健一郎が痛感した、五輪で金を獲る人生と銀の人生。「変わらなかった人生」に誓う雪辱
2024.08.05Career -
92年ぶりメダル獲得の“初老ジャパン”が巻き起こした愛称論争。平均年齢41.5歳の4人と愛馬が紡いだ物語
2024.08.02Career -
競泳から転向後、3度オリンピックに出場。貴田裕美が語るスポーツの魅力「引退後もこんなに楽しい世界がある」
2024.08.01Career -
松本光平が移籍先にソロモン諸島を選んだ理由「獲物は魚にタコ。野生の鶏とか豚を捕まえて食べていました」
2024.07.22Career -
新関脇として大関昇進を目指す、大の里の素顔。初土俵から7場所「最速優勝」果たした愚直な青年の軌跡
2024.07.12Career -
リヴァプール元主将が語る30年ぶりのリーグ制覇。「僕がトロフィーを空高く掲げ、チームが勝利の雄叫びを上げた」
2024.07.12Career