![](https://real-sports.jp/wp/wp-content/uploads/2023/07/cf60da7078bb11eaa0464bdc5154980d.webp)
「日本は本気で変わりたいのか?」 アイスホッケー界を背負い続けた37歳・福藤豊の悲痛な叫び
北京への道のりは、早くも閉ざされてしまった。2月にスロベニアで開催された2022年北京五輪の男子アイスホッケー3次予選で敗退し、日本代表24年ぶり出場の夢はかなわなかった。
日本のアイスホッケー界が、本気で変わろうとしているとは、正直思えない――。
日本人で初めてにして唯一、世界最高峰の舞台NHLでプレーした経歴を持つ男は、静かに、だが強く、自らの率直な想いを口にした。18歳で日本代表に初選出されてから約20年。日の丸の責任を背負い続けてきた37歳は、未来をも背負う覚悟がある。福藤豊の悲痛な叫びは、届いているか?
(インタビュー・構成=沢田聡子、撮影=高須力)
一度は勝ったことのある国に完敗。歯がゆく悔しい思い
――2022年北京五輪3次予選(※)で男子日本代表は残念ながら敗退、最終予選に進むことができませんでした。3次予選での日本は第2戦まではいい勝ち方をしてきたように思いますが(日本9-0クロアチア、日本4-0リトアニア)、最終戦で負けてしまいました(日本2―6スロベニア)。その原因はなんでしょうか?
(※2月6~9日にスロベニア・イェセニツェで開催。クロアチア<世界ランキング29位>、スロベニア<同18位>、リトアニア<同24位>、日本<同23位>が参加。総当たりで各国3試合を行い、1位だけが最終予選に進む)
福藤:最終戦で対戦したスロベニアは、同じグループの中では一番ランクの高い国だったので、一気にプレースピードも上がって、そこで差が出てしまったかな。でも、よく守ってスコアリングチャンスもあったので、振り返ってみると勝てるチャンスはあったと思う。ただ60分間スロベニアに圧倒されていて、厳しい戦いであったことは間違いないですね。日本代表が負けを真摯に受け止めて、勝つために何をするべきか考えなくてはいけないと思います。
――日本は2014年ソチ五輪予選では最終予選に出られず、2018年平昌五輪予選の時は最終予選で敗退。今回、北京五輪予選では再び最終予選に進出できなかったわけですが、その間ずっと代表の正GKを務めていた福藤さんから見て、日本代表の問題はどういうところにあると思いますか?
福藤:代表の問題というより、リーグ全体の問題でもあると思うんですよね。代表にあまり協力的ではない部分もあると思うし、“チームあっての代表”といった風潮があるのは否定できない。もう少し代表メインであってもいいのかな、とは正直思います。「代表組が抜けるのは困る」というのではなく、代表で戦う時間をもっと長くしていかなくてはいけない。現状では代表に行ったからといって、高いレベルの試合ができるというメリットしかない。チームやリーグ全体での代表強化への協力が、もう少し必要なのかなと思いますね。
やっぱり僕自身、韓国に勝っていた時期、追いつかれた時期、そして追い抜かれた時期を全部知っている。それは他の国でも同じで、スロベニアには一度韓国開催の世界選手権(2014年)で勝っている。そういう国に今回圧倒的な差を見せられたことに関しては、歯がゆいというか、すごく悔しいです。
――女子代表はソチ・平昌と続けて五輪に出場し、ジュニア世代もユース五輪で優勝しています。女子はクラブチームでプレーしているため強化しやすいのに対し、男子は学校や実業団でプレーしているので、代表練習の予定が組みにくいという問題がありますよね。
福藤:女子は、月1回ぐらい代表で練習をしているんですよね。男子代表はそこの問題をクリアできない限り、代表で練習できる時間も今まで通り限られてきてしまうので、もう少しルールがあってもいいのかなと思います。代表としての時間をより多く過ごすことで、チーム力は必ず上がると思うので。
――選手である福藤さんには言えることに限りがあるとは思いますが、どういったことが必要でしょうか?
福藤:ジュニア世代の強化はもちろん必要ですが、いい選手をもっと高いレベルでプレーさせる環境は絶対に必要だと思います。いい大学生や高校生がいたらアジアリーグに出場させる環境、“飛び級制度”というのも大事。あとは、指導者ですね。まずは、いい指導者がしっかりとした評価を得られる環境も必要です。
――ゴーリー(アイスホッケーでのGKの名称)は特殊なポジションですが、その強化については?
福藤:僕もたまにジュニアの小学生を教えに行くんですけど、まったくスケートを滑れない子がキーパーをやらされていたりもするので、ゴーリーコーチとして教えることができないんですよ。最初の2~3年はプレーをしっかりやらせて、スケートが滑れるようになってからキーパーをやらせるという当たり前のことも浸透していないし、すごく見ていて苦しいです。そういった細かいことに気づける指導者は、絶対に必要だと思います。
![](http://xs959710.xsrv.jp/wp/wp-content/uploads/2023/07/6e6d0fe0738411eaaffb23771d04445b-300x200.webp)
強豪国が強いのには、それだけの理由がある。日本はどうする?
――日本のアイスホッケーの現状は決していいとはいえないところがありますが、アイスホッケー界は本気で変化しようとしているように見えますか?
福藤:変わろうとしているとは、正直思えない。現状維持って、低迷と同じじゃないですか。昨シーズンのオフにアメリカのゴーリースクールに行く機会があって、そこにいろいろな国の指導者が来ていたんですけど、スウェーデンのゴーリー部門トップのコーチも来ていたんですね。その人と食事する機会があったのですが、強豪国でも何かしらの課題を抱えている。その人は自分の国のアイスホッケー界が進化していくために、アイスホッケー後進国の日本人である僕にも意見を聞くぐらいオープンなマインドでしっかりと向き合っていたんですね。それを見て、やっぱり舵を取る人がしっかりとしたビジョンを持って正しい方向に進めない限りは、良くなっていくことは絶対ないんだなと思いました。スウェーデンという強豪国がトップであり続けるためには何をしなくてはいけないのか、というのがすごく見えた気がしますね。日本ではやる気とエネルギーがある人がトップに入っていけない状況にある、ということはすごく感じます。
――福藤さんがそこに入っていきたい思いはありますか?
福藤:もちろん、そういう思いもありますね。そこを変えていかない限りは、多分まったく変わらないと思う。海外でプロになる選手がどんどん増えてくるとは思いますが、選手頼りでは長続きしない。国自体のホッケーのレベルを上げなくてはいけないし、指導者も育てなくてはいけない。
――福藤さんのNHLでの活躍は、当時日本のアイスホッケー界では唯一の明るい話題でした。これからも日本のホッケーを背負う存在となろうとしているわけですが、重荷に感じることはないですか?
福藤:でも、ここまで来ましたからね。やっぱり、それはもう責任なのかな。今この年齢で、代表の正ゴーリーとしてプレーしている責任もあるし、僕自身は本当に100%ホッケーに打ち込まないと若い選手に失礼なので。僕はいいポテンシャルを持った選手のポジションを奪いながらずっとここにいるので、「ここまで来たからには、そういったところまで踏み込んでいかなくてはいけないのかな」という責任感もある。でもそれは嫌々やるんじゃなくて、望んでいる部分でもあります。だからこそ、もう少し視野を広げたい。今回オフにアメリカに行った時にもいろいろな国の人の意見を聞けたので、そういった機会をもっと増やしていかなくてはいけないのかなと思う。日本には、国際舞台で連絡がとれる人の存在も必要なのかなと思います。
<了>
[アスリート収入ランキング]トップは驚愕の137億円! 日本人唯一のランクインは?
[世界のチーム観客数ランキング]日本は6チームがランクイン!
「他でもない“自分の人生”だから」 クライミング女王・野中生萌の「ネガティブも受け入れる」自分らしさ
ダルビッシュ有が考える、日本野球界の問題「時代遅れの人たちを一掃してからじゃないと、絶対に変わらない」
「大人が子どものことを決めすぎる」セルジオ越後と西大伍が論じる日本スポーツの問題
「6歳の娘に寂しい思いをさせている」 それでも女子バレー荒木絵里香が東京五輪に挑戦する理由
PROFILE
福藤豊(ふくふじ・ゆたか)
1982年9月17日生まれ、北海道出身。H.C.栃木日光アイスバックス所属。ポジションはゴーリー。小学3年生でアイスホッケーを始め、東北高校に進学、3年時に高校生初の日本代表入りを果たす。2001年コクド(後にSEIBUプリンス ラビッツに移管)に加入。2004年6月にNHLのロサンゼルス・キングスから日本人史上2人目となるドラフト指名、2005年8月に2年契約を結び、日本人初のNHL契約選手となる。傘下のマンチェスター・モナークス、レディング・ロイヤルズでプレーを続け、2006年12月にNHL初昇格。2007年1月13日、セントルイス・ブルース戦の第3ピリオドから初出場を果たした。その後、ベーカーズフィールド・コンドルス、SEIBUプリンスラビッツ(後に廃部)、デスティル・トラッパーズ(オランダ)でプレーし、2010-11シーズンに日光アイスバックスに加入。2014-15シーズンはエスビャウ・エナジー(デンマーク)でプレーし、2015-16シーズンに再び日光アイスバックスに復帰した。37歳となった今も日本代表の正ゴーリーとして活躍する、日本アイスホッケー界の生けるレジェンド。
この記事をシェア
KEYWORD
#INTERVIEWRANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
指導者の言いなりサッカーに未来はあるのか?「ミスしたから交代」なんて言語道断。育成年代において重要な子供との向き合い方
2024.07.26Training -
松本光平が移籍先にソロモン諸島を選んだ理由「獲物は魚にタコ。野生の鶏とか豚を捕まえて食べていました」
2024.07.22Career -
サッカーを楽しむための公立中という選択肢。部活動はJ下部、街クラブに入れなかった子が行く場所なのか?
2024.07.16Education -
新関脇として大関昇進を目指す、大の里の素顔。初土俵から7場所「最速優勝」果たした愚直な青年の軌跡
2024.07.12Career -
リヴァプール元主将が語る30年ぶりのリーグ制覇。「僕がトロフィーを空高く掲げ、チームが勝利の雄叫びを上げた」
2024.07.12Career -
ドイツ国内における伊藤洋輝の評価とは? 盟主バイエルンでの活躍を疑問視する声が少ない理由
2024.07.11Career -
クロップ率いるリヴァプールがCL決勝で見せた輝き。ジョーダン・ヘンダーソンが語る「あと一歩の男」との訣別
2024.07.10Career -
なぜ森保ジャパンの「攻撃的3バック」は「モダン」なのか? W杯アジア最終予選で問われる6年目の進化と結果
2024.07.10Opinion -
「サッカー続けたいけどチーム選びで悩んでいる子はいませんか?」中体連に参加するクラブチーム・ソルシエロFCの価値ある挑戦
2024.07.09Opinion -
高校年代のラグビー競技人口が20年で半減。「主チーム」と「副チーム」で活動できる新たな制度は起爆剤となれるのか?
2024.07.08Opinion -
ジョーダン・ヘンダーソンが振り返る、リヴァプールがマドリードに敗れた経験の差。「勝つときも負けるときも全員一緒だ」
2024.07.08Opinion -
岩渕真奈と町田瑠唯。女子サッカーと女子バスケのメダリストが語る、競技発展とパリ五輪への思い
2024.07.05Opinion
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
なぜ森保ジャパンの「攻撃的3バック」は「モダン」なのか? W杯アジア最終予選で問われる6年目の進化と結果
2024.07.10Opinion -
「サッカー続けたいけどチーム選びで悩んでいる子はいませんか?」中体連に参加するクラブチーム・ソルシエロFCの価値ある挑戦
2024.07.09Opinion -
高校年代のラグビー競技人口が20年で半減。「主チーム」と「副チーム」で活動できる新たな制度は起爆剤となれるのか?
2024.07.08Opinion -
ジョーダン・ヘンダーソンが振り返る、リヴァプールがマドリードに敗れた経験の差。「勝つときも負けるときも全員一緒だ」
2024.07.08Opinion -
岩渕真奈と町田瑠唯。女子サッカーと女子バスケのメダリストが語る、競技発展とパリ五輪への思い
2024.07.05Opinion -
張本美和が秘める可能性。負ける姿が想像できない、パリ五輪女子卓球の“決定打”
2024.07.04Opinion -
Jクラブや街クラブは9月までにジュニア選手の獲得を決める? 専門家がアドバイスするジュニアユースのチーム選び
2024.06.25Opinion -
ポステコグルーにとって、日本がこの上なく難しい環境だった理由とは?「一部の選手がアンジェに不安を抱いていた」
2024.06.21Opinion -
パリ五輪を見据えた平野美宇・張本美和ペアが抱える課題とは? 大藤・横井ペアに敗戦も悲観は不要
2024.06.18Opinion -
名将ハリルホジッチも苦悩したラマダンの罠。アルジェリア代表が直面した「サッカーか宗教か?」問題
2024.06.14Opinion -
なでしこジャパン、メンバー最終選考サバイバルの行方。「一番いい色のメダルを目指す」パリ五輪へ向けた現在地
2024.06.06Opinion -
オコチャ、カヌ、ババヤロ…“スーパーイーグルス”は天高く舞っていた。国民が血を流す裏側での悲痛な戦い
2024.05.31Opinion