ダルビッシュ有が明かす教育論「息子がメジャーリーガーになるための教育をしている」
ダルビッシュ有は幼少期から、大人が自分たちの価値観だけで話をすることに対して「どこに根拠があるんだろう?」と疑問を抱き続けてきた。その後の人生において、自ら仮説と検証をくり返し、メジャーリーグを代表する投手としての成功を手にした。依然として世界中で新型コロナウイルスが猛威を振るう中、息子さんと自宅でキャッチボールをする時間が増えたというダルビッシュは、どのような信念のもとで子育てを実践しているのだろう? そこから見えてきたのは、どの世界に身を置いても成功をつかむための“真理”だった。
(インタビュー=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=浦正弘)
ダルビッシュ有のストレスの95%を占めるものとは?
――コロナ禍でほとんど外出をされていない、そもそも外出自体が好きではないということですが、なぜ外出が好きではないのですか?
ダルビッシュ:外に行くとストレスがたまるんですよ。人々の視線であったりとか、自分が聞きたくない音楽であったりとか、自分が欲しくないノイズや景色が常に体に飛び込んでくるわけじゃないですか。それが嫌なんです。自分の家って、全部自分がわかっていて、匂いも同じようなもので、温度とかもわかるじゃないですか。だから常にそういう自分がわかっている環境にいることが、僕にとっての一番のリラックスなんです。だから外に出るのはそういう意味で好きじゃないのかもしれないです。
――なるほど。では逆に、今の人生でのストレスは?
ダルビッシュ:ストレスなんていっぱいありますよ。ゲームです。『フォートナイト』であったりだとか、『プロスピ(プロ野球スピリッツA)』もそうですけど。難しいんですよ、プレステ(プレイステーション)のフォートナイト。ああいうのでうまくいかない時は、本当にむかつきます。自分自身に対して。それが唯一にして最大のストレスです。
――いっぱいというか、それしかないじゃないですか(笑)。
ダルビッシュ:そのストレスが今の自分のストレスの95%くらいを占めているんです(笑)。フォートナイトを自分一人でやっているとずっと怒ってるんですけど、せっかくこんな毎日ずっと怒るんだから、毎回その怒りにいろんなアプローチをすれば、怒りに対して人より強くなれるんじゃないかと最近思い始めています。
――奥さまやお子さんたちも普段から外出の少ない生活に慣れているから、ご家族にとってもコロナ禍の生活はそこまでストレスではない?
ダルビッシュ:いや、でも13歳の息子はやっぱり、けっこう多感な時期だから、「フットボールの試合に行きたいな」とか「バスケットボールの試合に他の子たちは行っているから、僕も行きたいな」とか。「自分にじゃなくて妻に1回聞いて」と返すことはけっこうあります。行かせないようにはしていますが。
――そういった中で息子さんとの時間が増えましたか?
ダルビッシュ:だから、いつも以上にキャッチボールをするようにはしていて、自分がキャッチャーをやったり、ただ普通にキャッチボールをしたり。そういう意味ではコミュニケーションは取っています。
大人が投げるのは難しい球を投げる“13歳”
――投球分析用3Dトラッキングシステムの「ラプソード」を買われたというTwitterでの投稿が話題になりました。息子さんの「カーブのスピン効率が見たくて」と話されていてすごく面白いなと思ったんですけど、縦回転でとんでもなく落ちるボールを投げていましたよね。
ダルビッシュ:そうですね。大人が投げるにはすごく難しいような球を投げていたので。子どもならではというか、そういう感じなんじゃないかなと思います。
――子どもならでは、ですか?
ダルビッシュ:柔らかいし、体の動くスピードとかパワーがないので、根本的に遠心力が弱くなる。そうするとやっぱり縦回転のカーブが投げやすくなるんですよ。体のスピードやパワーがあると遠心力が働いてジャイロ回転が入ったりするので(大人が投げるのは難しい)。
――Twitterの投稿を見て、「とんでもない才能の持ち主なのかな」と。
ダルビッシュ:すごくいいものは持っています。かなりいいものを持っていますけれど、今のところは普通の13歳のちょっといいピッチャーって感じです。
――もし息子さんが「プロ野球選手になる」と言ったら、自分のやりたいようやらせるという感じですか?
ダルビッシュ:もうずっと「メジャーリーガーになりたい」と言っているので、だから自分もそうなるための教育はしているつもりです。
メジャーリーガーになるための教育
――メジャーリーガーになるための教育をしているんですね。
ダルビッシュ:そうですね。ただ、技術的なアドバイスとかではなくて、「どういうふうに日頃から生活するか」とか、「考えて野球をするということはどういうことなのか」「考えて生活するってどういうことなのか」を、そこに関してはすごく口うるさく言います。
――すごく興味深いです。野球に取り組む姿勢みたいなものですね。
ダルビッシュ:そこです。完全にそこのみです。
――具体的にどういうふうにアドバイスするんですか?
ダルビッシュ:「じゃあ今からキャッチボールしよう」と約束をして、漠然といきなりキャッチボールを始めるかっていったらそれではいけない。じゃあ今日は「自分が何をしたいのか」とか、そういうことをある程度頭に入れておかないといけない。だからちゃんとノートにもそういうのを書いておきなさいと。やる前の準備についてですね。
あとは、終わった後も自分でちゃんと復習をするようにと言っています。「今日の自分がどうだったか」「ブルペンで何が良くなかったと思うか」とか、そういうのを全部書く。じゃあ次は「これを改善するために、何をしないといけないか」とか。そういうふうな考え方のプロセスというか、そこの教育をするようにしています。
――将来、野球だけじゃなく、すべてにおいて重要なことのように感じます。
ダルビッシュ:そうです。だから「野球選手になったとしてもならなかったとしても、自分をその分野で良くしていくために絶対必要なやり方だから、このやり方はちゃんと覚えておくように」とずっと言っています。
――まさにPDCAサイクルのように、仮説を立てて、実行して、検証して、改善して、そのくり返しをしているということですよね。
ダルビッシュ:まさにそういうことです。
――何歳ぐらいからそういったアプローチを始めたんですか?
ダルビッシュ:7、8歳ぐらいからずっとそういうことを言っていたと思います。その頃はまだノートをとるまでは言っていないですけど。例えばテレビというもの自体を見ている時に、「ただテレビっていうだけの認識をして終わるな」という話はずっとしていました。そこから先のこと、「このテレビはどこ製なんだろう?」とか、「どういうふうにしてこのテレビは作られるんだろう?」とか、常にどんどん、どんどん考えていく。「派生して考えていく癖をつけるべきだ」というのは、小さい頃からずっと伝えています。
どの世界に身を置いても成功をつかむための真理
――ダルビッシュ選手自身は、子どもの頃からそういう感覚があったんですか?
ダルビッシュ:今みたいに深く、わかりやすく考えていたわけではないですけど、もともと物事に対して疑問に感じるタイプではありました。「あの人はこう言っているけど、みんなもそれが当たり前だと思っているけど、これって違うんじゃないか」と思うようなことはしょっちゅうありました。
――以前お話を聞いた時も、高校の時に「その投げ方よくないよ」と言ってきた人がいて、「この人は野球界で成功を収めたわけではないから、俺はこのまま自分のやり方を貫こう」というお話がありました。
ダルビッシュ:それ以前にも、小学校のときに近くのチームに入団テストを受けに行った際に、「ピッチャーをやりたい」と言ったんです。でも(投げ方が)シュート回転しているから、「肘に良くない」みたいなことを言われたんですよ。そのときも、その人たちは当たり前かのように言っていて、でも僕は一切野球経験がなかったけど、「この話、いったいどこに根拠があるんだろう」って思っていたのを覚えています。そういうちょっと変わった子ではあったのかなと思います。
――そういう考え方になったのは、ご両親の影響でしょうか?
ダルビッシュ:どうなんですかね。でも父親とは考え方が正反対だし、母親のほうに似ているのかもしれないです。
――お母さんはそういう捉え方の思考の持ち主なんですか?
ダルビッシュ:いや、でも違うかな。2人とも違うかもしれないですね。僕だけちょっと変わっているかもしれないです。プロセスがちょっと違う。母親からは「あんたは小さな頃からとにかく変わっていた」と今でも言われるので。
――常識にとらわれない子どもだったわけですね。
ダルビッシュ:誰かから怒られる時とか、誰でもそうなんですけど、自分たちの常識で怒ってくるじゃないですか。なんの根拠もない常識、自分たちの価値観だけでワーッと言われるのが小学校の頃からすでに疑問に思っていて、フラストレーションになっていたのは覚えています。
――そういう経験があって、いろいろなことを自分自身で試行錯誤しながら決めて、正しい道を確認しながらここまでやってこられた。
ダルビッシュ:そうですね。
――それを今まさに息子さんに伝えているわけですね。まさに人が成功をつかむための真理だと感じます。その教育論は本当に素晴らしいですね。全ての家庭で参考になると思います。
脳を鍛える意味では多様なスポーツに取り組むべき
――13歳の息子さんがメジャーリーガーを目指している中で、バスケットボールなど違う競技もやっているのですか?
ダルビッシュ:バスケットボールは去年チームに入っていましたし、サッカーのチームに入っていた時期もあります。いろいろやっていますし、いろいろやるようにしています。
――いろいろなスポーツをやったほうがいいという教育方針なのですね。
ダルビッシュ:そうですね。いろいろな感覚であったりとか、コンタクトスポーツならではの人との距離感やぶつかり方であったりとか。脳を鍛えるという意味ではいろんなことをやったほうがいいので、そういう意味でやっています。
――“脳”という意味では、ダルビッシュ選手は自分でも脳科学の勉強を始めているんですよね?
ダルビッシュ:結局やっぱり、すべては脳からなので。脳がないと動かないっていうのは間違いなくそうですし。そこはいくら勉強しても答えにたどり着かないっていうのはわかっているんですけど、何かこう、自分ならではの考察ができるじゃないですか。それがすごくいいなと思って今は脳科学の勉強をしています。
<了>
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PROFILE
ダルビッシュ有(ダルビッシュ・ゆう)
1986年生まれ、大阪府出身。MLBサンディエゴ・パドレス所属。東北高校で甲子園に4度出場し、卒業後の2005年に北海道日本ハムファイターズに加入。2006年日本シリーズ優勝、07、09年リーグ優勝に貢献。MVP(07、09年)、沢村賞(07年)、最優秀投手(09年)、ゴールデングラブ賞(07、08年)などの個人タイトル受賞。2012年よりMLBに挑戦、13年にシーズン最多奪三振、20年に日本人初となる最多勝を獲得。テキサス・レンジャーズ、ロサンゼルス・ドジャース、シカゴ・カブスを経て、2020年12月29日にサンディエゴ・パドレスへ移籍。
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