
三笘薫、森保ジャパンの左サイド“機能不全”解消の鍵となるか? 初招集にして救世主たり得る理由
カタールの地を目指し、長く険しい戦いにその身を投じているサッカー日本代表は、試練のアウェー2連戦に挑む。FIFAワールドカップ・アジア最終予選は4試合を終えて2勝2敗のグループ4位。ライバル・オーストラリア戦の劇的勝利で首の皮一枚つながったが、依然として厳しい状況に置かれている。特に深刻なのがグループワーストの得点力であり、左サイドの機能不全だ。初招集の三笘薫には、その最適解の期待が懸かる。昨季は加入1年目から川崎フロンターレ優勝の原動力となり、今夏舞台を移した欧州で早くもその価値を示す男は、必ずや日本の救世主となるはずだ――。
(文=藤江直人、写真=Getty Images)
グループ4位に甘んじる日本代表。アウェー2連戦に求められる勝ち点6と大量得点
ベトナム、オマーン両代表とともに敵地で戦う今月のFIFAワールドカップ・アジア最終予選で、日本代表にはカタールへの切符を手にするための明確な目標が課される。
連勝での勝ち点6獲得はマスト。その上でグループBの最下位に沈み、総失点も6カ国中でワーストの「10」を数えるベトナムから可能な限り複数のゴールを奪う。
2勝2敗の日本は現状でサウジアラビア、オーストラリア、オマーンに次ぐ4位に甘んじる。サウジアラビアに勝ち点6ポイント、オーストラリアには3ポイント離され、勝ち点および得失点差で並んだオマーンには総得点で後塵(こうじん)を拝している。
日本の総得点はベトナムより少ない、グループワーストの「3」にあえいでいる。うち1つはオウンゴールという深刻な得点力不足が、出遅れた最大の要因となっている。
ワールドカップ出場権を無条件で手にする2位以内をめぐっては、勝ち点で並ぶ可能性もある。現状で「0」の得失点差を大きくプラスに転じさせるためにも、オマーンより2ゴール劣る総得点を増やす必要がある。
4試合でわずかに3点。深刻な得点力不足の要因は…
そもそも、日本が得点力不足に悩まされ続けているのはなぜなのか。理由の一つとして挙げられるのが、左サイドからの攻撃が陥っている機能不全状態となる。
主戦システムとしてきた[4-2-3-1]の中で、森保一監督は2列目の左サイドで先発する選手をオマーン、中国、サウジアラビア戦で全て変えている。
オマーンとの初戦で先発した原口元気(ウニオン・ベルリン)は、ハノーファーでプレーした昨シーズンに続いてトップ下を主戦場としている。所属クラブと代表とで異なるポジションでプレーする難しさに対して、こう言及したことがあった。
「簡単に言えば、代表ではフィジカル的な部分で求められているものが違う。真ん中でのプレーに慣れている分だけ、サイドでのアップダウンには体力的に異なる部分が必要になる。代表に来るときにはコンディショニングも考えないといけない」
オマーン戦で精彩を欠いた原口は、後半開始から古橋亨梧(セルティック)と交代。中4日で臨んだ中国戦では古橋が先発したが、後半開始早々に負傷退場した。
今夏ヴィッセル神戸から加入したセルティックでは3トップの真ん中で起用され、ゴールを量産していた古橋のサイド起用にはファン・サポーターから批判が集中した。
セルティックのアンジェ・ポステコグルー監督が、宿命のライバル・レンジャーズ戦でチーム事情から古橋を左サイドで先発させて敗れた直後に、「正直、キョウゴを真ん中で先発させるべきだった」と反省の弁を述べていたことも、森保監督の起用に対する批判に拍車をかけた。
古橋自身は「与えられたポジションで全力を尽くす」と繰り返す。ただ、スピードを駆使して裏のスペースへ抜け出す動きに長ける韋駄天(いだてん)ストライカーは、サイドで起用される分だけプレーの選択肢が狭められ、持ち味までもが消されてきた。
本職でない選手の配置で機能不全に陥った左サイドの攻撃
10月シリーズのサウジアラビア戦では、負傷のため9月シリーズを途中離脱していた南野拓実(リバプール)が先発に復帰した。
森保ジャパンの発足時からトップ下を担い、大迫勇也(ヴィッセル神戸)と並ぶ、チーム最多の16ゴールをあげた南野も「トップ下が一番やりやすい」と語ったことがある。
鎌田大地(アイントラハト・フランクフルト)がトップ下で台頭し、今年に入って左サイドに回った南野のプレーエリアは、おのずと中央寄りになる傾向が強かった。
必然的に左サイドの攻撃は、サイドバックの長友佑都(FC東京)が単発で仕掛ける場面が増える。右タッチライン際に張る伊東純也(ヘンク)に、サイドバックの酒井宏樹(浦和レッズ)が絡む右にサイド攻撃が著しく偏り、左が機能不全に陥る理由がここにある。
オーストラリア戦では[4-3-3]が採用され、先発した南野も左ウイングにポジションを上げた。前半8分のMF田中碧(フォルトゥナ・デュッセルドルフ)の先制点をアシストしたものの、プレーエリアの問題はなかなか解消されなかった。
三笘薫に懸かる期待。森保監督に初招集を決断させた一戦
求められるのは右の伊東と両翼を成す、個の力で局面を打開できる生粋のドリブラー。その意味で代表に初めて招集された三笘薫(サンジロワーズ)は、今シリーズにおいて一発回答で最適解を射止める可能性を秘めている。
誰よりも三笘自身が、川崎フロンターレで磨き上げてきたプレースタイルを、自信満々にこう語っている。東京五輪代表入りを目指していた6月上旬のことだった。
「周りのサポートがなくてもドリブルで突破できるのが特長なので、そこをうまく出せればチームの力になれると思っています」
力を与える対象がU-24代表からA代表に変わった。長く待望論があった三笘へ、森保監督は4日のメンバー発表会見で「彼の攻撃力は日本の武器になる」と期待を込めた。
「ヨーロッパで戦う中でしっかり力をつけているのが確認できた。所属チームではウイングバックとして攻撃でも守備でもハードワークしながら、インテンシティーの高いプレーをこなしている。厳しいアジア最終予選でも力を発揮すると思っている」
森保監督に三笘の招集を決断させたのは、10月16日、ヨーロッパ中へ衝撃を与えたセランとのリーグ戦だった。2点のビハインドを背負い、退場者も出した苦境で、後半開始直後から投入された三笘はハットトリックを達成。チームを逆転勝利に導いた。
ルーキーだった昨シーズンからJ1を席巻した、巧みなファーストタッチで自らの間合いをつくり、大きなストライドを駆使して一気に加速し、背筋を伸ばした姿勢で視野を広く保ちながら繰り出される変幻自在なドリブルはベルギーでも異彩を放った。その上でゴールという確固たる結果を、1試合で3つも積み上げた。
希代のドリブラーが口にした三笘への期待。「個人の能力が問われる」
映像を介してプレーをチェックした森保監督は直後にこんな印象を語っていた。
「ゴールが取れるだけでなく、ゴールにつながるプレーができる。ゴールという結果を出すことでスタメンに定着でき、そこでまたステップアップに、自分の道を自分で切り開くことにもつながっていく。その意味で非常にいいプレーをしたと思う」
森保監督の期待通りに、途中出場が続いていた三笘は先発に定着。不慣れな[3-5-2]システムの左ウイングバックとしてアップダウンを繰り返し、不得手とされてきた守備への意識や強度も高まった中で、機は熟したと指揮官も判断したのだろう。
元代表の松井大輔も、三笘の身体に搭載された個の力に注目していた。日本サッカー協会(JFA)が公式サイト上で展開している企画「経験者が語るアジア最終予選」で、ベトナム戦へこんな展望を寄せている。
「チャンスで決め切ること、早い時間に先制することが重要です。そのためには独力でマークをはがせる選手が必要で、個人的には三笘薫選手が日本代表に選ばれると面白いと思っています。チーム全体で相手陣内に押し込んでからは、個人の能力が問われるので」
一世を風靡(ふうび)したドリブラーの言葉は説得力を伴う。代表メンバー発表前に行われた松井へのインタビュー内容が具現化した今、三笘を中心とする期待の輪が広がっていく。
先発メンバーによっては川崎で育まれたコンビネーションがそのまま生かされる
中盤登録とフォワード登録の選手を[MF/FW]とひとくくりにした上で、三笘を含めた14人を招集した森保監督は、さらに堂安律(PSVアイントホーフェン)も追加した。
現状ではフィールドプレーヤーが5人もベンチ外となる。それでも従来の[4-2-3-1]だけでなく、崖っぷちで踏みとどまったオーストラリア戦で採用した[4-3-3]にも対応できる陣容をそろえた指揮官は、システムについてはこう語るにとどめている。
「オーストラリア戦で内容的にチーム状態が上がってきていて、結果も伴ったという部分で流れは大事にしていきたい。最終的には現地ベトナムに集合した後のトレーニングで選手たちのコンディションを見極めながら、戦い方の形を選択していきたい」
オーストラリア戦からの流れを継続して、逆三角形型の中盤のインサイドハーフに、守田英正(サンタ・クララ)と田中を起用。その上で左ウイングに三笘が抜てきされれば、昨シーズンまでの川崎で[4-3-3]システムの下で育まれたコンビネーションがそのまま生かされる。
中盤だけではない。三笘自身は「周りのサポートがなくても――」と語ったが、後方の左サイドバックのサポートを得れば輝きはさらに増す。その意味では同じく初招集で、東京五輪も共に戦った川崎の同期で盟友・旗手怜央の起用も考えられる。
右足を痛めて直近のリーグ戦を欠場した酒井が務める右サイドバックに山根視来、さらに東京五輪を経て昨シーズンからほとんどオフがないキャプテン吉田麻也(サンプドリア)が務めるセンターバックに谷口彰悟と、川崎コンビを据える布陣も可能になる。
その場合、フィールドプレーヤーの6人を川崎の現所属または出身選手が占める。ベトナム戦までに招集メンバー全員がそろってのトレーニングを2度しか行えない状況を考えれば有効な手段であり、慣れ親しんだ感覚の中で三笘や旗手もプレーできる。
「ここで満足していられない」。窮地に立つ日本代表の救世主となれるか
東京五輪ではノックアウトステージ以降の3試合、計330分間でわずか1得点と沈黙し、メダル無しの4位に終わった。一矢を報いたのは、開幕直前に右太ももを痛めた影響でベンチ外を2度味わい、ピッチに立った3試合も全て途中出場の三笘だった。3位決定戦・U-24メキシコ代表戦において鮮やかな切り返しで相手をかわし、左足でゴールネットを揺らした。
オーバーエイジとして参戦したキャプテンの吉田が悔しさと無念さを押し殺しながら残した言葉は、三笘も共有したはずだ。
「これで終わりじゃない。サッカー人生はまだまだ続く。9月からはワールドカップのアジア最終予選が始まる。そこに一人でも多く食い込むためにそれぞれのチームに帰って、ポジションを奪って、また会えることを楽しみにしています」
三笘自身も川崎時代、無双状態に映るパフォーマンスを発揮しながらこんな言葉を残していた。
「自分と同じ世代だけでなく下の世代でも、すでにA代表でプレーする選手がいるし、世界で活躍する選手もいる。世界を見渡せば自分も若くないので、ここで満足していられない、もっともっと活躍しないといけないと思っています」
東京五輪の閉幕直後にプレミアリーグのブライトンへの完全移籍が発表され、労働許可証を取得できない関係でサンジロワーズへと期限付き移籍した。ベルギーの地で世界へ通じる第一歩を踏み出し、日の丸を背負って戦うステージをA代表へと変えた三笘は、コロナ禍でベトナム政府が厳格な入国制限を敷く関係で田中らと共に一度帰国。谷口や山根、旗手らの川崎勢らとともに8日深夜に敵地へ到着し、デビューすれば大役を託されるベトナム戦へ向けて臨戦態勢に入った。
<了>
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