Jリーグ・秋春制導入でどう変わる? 先行事例のWEリーグ、現場からの声

Opinion
2023.06.27

2月開幕の春秋制から、欧州の主要リーグと同じ8月開幕の秋春制へ――。Jリーグの秋春制導入の機運が高まっているが、その高いハードルの一つが、寒冷地や雪国にとっての不利益だ。Jリーグに先立って2021年の開幕時から秋春制を導入しているWEリーグでは、仙台、新潟、長野など寒冷地のチームが、1月から3月の寒冷期には温暖な地域での合宿やグラウンドの変更、室内での練習など、様々な工夫を重ねて2シーズン目を終えた。今年、例年に比べて特に積雪が多かった長野は、厳しい冬をどのように乗り切ったのか。J3のAC長野パルセイロと、WEリーグのAC長野パルセイロ・レディースの事業部長(広報担当部長)を務める森脇豊一郎氏に、現場の声を聞いた。

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=©️ 2008 PARCEIRO)

契約年度や決算年度の違いに慣れる必要がある

――森脇さんは長野パルセイロで男女トップチームのフロント業務に携わっておられますが、WEリーグで秋春制のシーズンを2年間経験されて、どのように感じていますか?

森脇:まず、実感としてシーズンのくくり、時間間隔にどうしても頭と身体が慣れていないですね。その理由を考えてみますと、まず日本の学校年度、行政年度が4月1日から翌年3月31日までということに、私たちが慣れて育っているからだと思います。

我々AC長野パルセイロには、Jリーグに所属している「パルセイロ」と、WEリーグに所属している「パルセイロ・レディース」があります。1つの経営母体で、2つのプロチームを運営しているので、現状はJリーグの「2月開幕~12月閉幕」に頭と身体が慣れていること、1年という単位が、1月1日~12月31日まで、という時間感覚に慣れているからだと思います。

また、支えてくださっているスポンサー企業様に目を向けると、1月1日~12月31日までが決算年度の企業、4月1日~翌年3月31日が決算年度という企業様が多いのではないでしょうか。JリーグはJクラブの活動シーズンに合わせた決算年度にしているクラブが多いと思います。私が前のクラブ(サンフレッチェ広島)に在籍していた時に、Jリーグの活動シーズンに合わせて会社の決算年度を2月1日~翌年1月31日に変更したことがありました。現状Jクラブの選手契約は、2月1日~翌年1月31日までを年度(1年間)と捉えていますので、Jクラブ(会社)としては、決算年度をそれに合わせるのが最も合理的だからです。しかし、WEリーグの年度の考え方は7月1日~翌年の6月30日までです。それが選手契約期間の根底にありますので、頭と身体が慣れていない、というのが正直な感覚です。

ですので、秋春制への移行によって実は最も悩ましいのは財務・経理の部門だと思います。2022-23シーズンのWEリーグカップとWEリーグ前半戦は、2022年に開催され、年が明けて2023年にリーグ後半戦が開催されました。現状、AC長野パルセイロの決算年度は、1月1日~12月31日ですので、広告料・会費・入場料、様々な収入を、今年度計上するのか、翌年度計上するのか、科目・内容によって内部で仕分ける作業が発生します。様々な観点から合理的に考えると、秋春制がプロサッカー界の主軸になるのであれば、クラブ(会社)の決算年度を変更した方が良いのだと思われますが、簡単に結論が出る案件ではないと思っています。

――WEリーグはプロ・アマ混合で選手ごとの契約期間の違いもありますし、男女でシーズンが違う大変さもあるのですね。

森脇:はい。現在は、JリーグとWEリーグの活動シーズンがずれていることにより、事業サイド、いわゆるフロントスタッフはリフレッシュするための長期休暇がとりづらい状況です。WEリーグが休みの期間でもJリーグ公式戦が入ってきますし、Jリーグが休みの期間でもWEリーグ公式戦が入ってくるからです。1年間を通じて、絶え間なく公式戦がある。そういう大変さはありますが、地方都市の長野が男子・女子とも国内プロサッカーリーグに参戦できていることが誇らしいことですし、やりがいを感じています。

国内リーグと代表強化は両輪

――WEリーグは年間20試合と、Jリーグや海外のプロリーグに比べて試合数が少なく、コンディションや興行面でも難しさが指摘されていましたが、その点についてはいかがですか?

森脇:WEリーグは11チームでスタートし、2023-24シーズンから12チームとなります。初年度を終えた時点で「試合数が少なくて、これが選手強化、代表チームの強化につながるのだろうか」という議論が出ました。そこでWEリーグ2年目のシーズンから、カップ戦が創設されました。工夫された1つだと思います。

――代表活動とのスケジュールとの兼ね合いで、シーズン中に1カ月ほど公式戦のブランクができるチームもありました。リーグのスケジュールについては、どのような印象ですか?

森脇:JリーグにしてもWEリーグにしても、日本代表チームの強化・活躍につなげたいという思いや、日本サッカー界の発展につなげなければならない、という思いはもちろん根底にあります。しかし、国内リーグ戦の試合日程が確定した後に、代表チーム活動が生じたからと、既に決定していたリーグの公式戦日程が変更になることを経験し、議論が生じました。私たちクラブ経営の実務を担っている立場としては、国内プロリーグがクオリティ高く運営され、レベルが上がってこそ代表チームの強化につながると考えています。代表チームの強化ありきで、すでに決定された国内リーグの公式戦日程が変更されることにはクラブとして反対の意見を述べさせていただきました。

降雪期は練習場の確保に課題

――長野は2月から3月のウインターブレイクを経て、リーグ後半戦は雪かきからのスタートで苦労していた印象ですが、練習場の確保などで苦労されたことを教えてください。

森脇:冬季は練習場の確保が困難を極めています。今年の2月・3月の長野は例年に比べて降雪が多く、毎日、あるいは2日に1回、練習前にグラウンドの雪かきからスタートしていました。長野オリンピックスタジアム(野球場)の人工芝の外野が、メインの練習会場です。したがってサッカーのフルピッチが取れず、ラインが引けないので、11対11のフルピッチでトレーニングができずに公式戦を迎えたこともありました。雪かきどころではないほどの降雪の場合は、野球場の屋内ブルペンで30人の選手がサーキットトレーニングをするなど、工夫せざるを得ない現状でした。

――温暖な地域で長期間トレーニングキャンプを組んでいるチームもありました。ただ、相応のお金がかかりますよね。

森脇:そうですね。長野は登録選手のうち、半分の選手がアマチュア契約選手です。アマチュア選手は毎日午前中、地元企業で働かせていただきながらサッカーをしている状況ですし、温暖な地域で長期間トレーニングキャンプを実施できる経済状況ではないのが実情です。

寒い時期のナイトゲームは“リスク”

――降雪期の練習場を確保することや、合宿を実施するために分配金の増額も検討してほしいポイントですね。2、3月の中断期間後のWEリーグ後半戦は、2年連続で観客数が落ち込みました。ウインターブレイク前後での変化をどのように感じましたか?

森脇:Jリーグ創設期、10チームでリーグがスタートした時は、1stステージと2ndステージがありましたね。そこから全国にチームが増えて、試合数が増えて、J2・J3ができて、ブレイクなく1シーズンをこなすスタイルに慣れたと思います。2015シーズンには1stステージ、2ndステージ、プラスチャンピオンシップという形式がありましたが、その時はブレイク期間が2週間くらいの短期間だったと記憶しています。集客・事業面を考えたときに、ブレイク期間が長いと「リーグ再開」を周知するのに相当なパワーをかける必要があるのと、メディアでいかに露出・報道していただくかが鍵になると思いますし、それが集客にも影響すると思います。

――サッカーをしている女の子たちが試合を見に行くために、ナイトゲームを増やす必要性があるとも言われていますが、寒い時期はナイトゲームができず、観客にとってもハードルが高いですよね。

森脇:今年1月15日の皇后杯で三菱重工浦和レッズレディースとINAC神戸レオネッサの試合が栃木で18時キックオフで開催されたことに驚きました。公式記録では気温7.4℃でした。なぜ降雪時期の1月中旬の公式戦がナイトゲーム開催になったのか理由を知りませんが、プレーする選手たちは困惑したのではないかと想像します。実際に12月の長野Uスタジアムは、ピッチの芝が凍る場合もありますし、選手の怪我につながる心配があります。温かい日中やデーゲームでないと試合のクオリティが上がらないと思いますし、気温が10℃を下回る気候の中、寒いスタジアムで2時間サッカーを観るという行為は、本当にクラブが大好きな熱心なサポーター以外の方には厳しいと思います。

前クラブの時に、熱心な長年のサポーターの方に言われた言葉を今でも覚えています。広島ビッグアーチ(現エディオンスタジアム広島)は大きな陸上競技場で、小高い山に造られていますので、実は降雪が多い地域です。

ある年の2月下旬のJリーグのホームゲームで、スタンドにつららができるぐらいの極寒の中での試合開催を経験しました。また、スタジアムにほぼ屋根がないので、雨天時にはほとんどのサポーターの皆様が、冷たい雨に打たれます。そこで、「森脇さん。サポーターはね。観戦じゃないんよ。応援じゃないんよ。修行なんよ」と、言われたことがあります。極寒の中で応援し、ホームチームが不甲斐ない内容結果で敗戦した場合、あの時のサポーターさんがおっしゃった「修行」という言葉がどうしても蘇ってきてしまいます。

ですから、秋春制の議論では、寒い時期に試合を開催する場合は、お客様が快適に観戦/応援できるスタジアムの環境整備と、選手の練習場の確保が、重要なポイントだと思います。

<了> 

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[PROFILE]
森脇豊一郎(もりわき・とよいちろう)
1973年生まれ、山口県出身。大阪体育大学大学院を修了後、日系社会青年ボランティアに参加し、2年間、ブラジル・サンパウロ州の日本語学校で体育教師を務める。帰国後、2002年からサンフレッチェ広島で17年間フロントスタッフを務める。森保一監督の下で3度のJ1優勝も経験。現在はAC長野パルセイロの事業部長として、スポーツを手段に地域活性化に貢献することを目指している。

 

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