全国大会経験ゼロ、代理人なしで世界6大陸へ。“非サッカーエリート”の越境キャリアを支えた交渉術
全国大会への出場経験もなく、エージェントにも頼らずに、自らの力で世界を渡り歩き、プロサッカー選手としてプレーを続けてきた田島翔。J2クラブからキャリアをスタートし、欧州、南米、北中米、オセアニア、アフリカへと活躍の場を広げ、6大陸すべてでプロ契約を果たした日本人初のサッカー選手となった。その原動力となっているのは、経験から培った交渉術と柔軟な発想力だ。今回は南米・アフリカでの経験を軸に、越境の旅から得た“自分を売り込む術”について詳しく語ってもらった。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=田島翔)
独力で身につけた交渉術
――エージェントを通さずに自分でクラブと交渉を重ねてきたのはなぜですか?
田島:エージェントに任せて、ただ進捗を待つのが性に合わないんです。「今どうなっていますか?」と確認するのも億劫なので。それなら自分で動いた方が早いし、何かあっても次に生かせますから。もちろん失敗もありましたけど、自分で交渉した方が相手とのつながりも生まれやすいです。ブラジルのポルトゲーザの会長も「心のつながりを大事にしている」と言ってくれて、実際にビジネス以外の面でも良くしてくれました。エージェントを介さないからこそ、そういう関係性が築ける部分もあると思います。
――さまざまな国のクラブと交渉をする中で、言葉の壁をどう乗り越えていますか?
田島:基本は英語で、翻訳機を使いながらやり取りしています。マダガスカルはフランス語とマダガスカル語が公用語なので、英語でメールを作成して、英語がネイティブに話せる人に最終チェックをしてもらってから送信しています。相手も翻訳を使って返してきますし、今は翻訳の精度も高いので助かっています。ただ、契約書はミスや誤解がないように、念入りに確認しながらやり取りしています。
――新しい環境や国に挑戦する際に、どんなことを基準に選んでいるのですか?
田島:まず、自分が興味を持てる国を選んでいます。例えばアメリカでは、ラスベガスやマイアミのようにサッカーが日常に根づいていて、自分自身がそこでの生活にワクワクできるかどうかを大事にしてきました。
――クラブとの契約が切れる前なのか、切れた後なのか、時期によって売り込み方も変わると思いますが、田島さんはいつ動くことが多いですか?
田島:在籍中に次のシーズンの契約を見据えて動くことが多いです。海外のチームは「シーズン中の加入は難しい」というところが多いので、オフシーズン前に売り込みをして、次のシーズンからという形で話を進めています。基本的に夏がオフで、秋にシーズンが始まる国が多いですね。

“売り込み”の心構え「返事がないのは想定内」
――お金の交渉をする際に大切にされていることはありますか?
田島:僕自身は金額よりも、相手にメリットを与えられるかを重視しています。ブラジルでは「日本の選手を受け入れることで、チームにこういうメリットがあります」と具体的に伝えました。マダガスカルは世界でも最貧国の一つなので、「こちらが何を提供できるか」を考えて、日本と選手が行き来する際のルートづくりに貢献できればと思い、そういう話を中心にしました。
――生活面では、その国の生活水準に合わせるイメージでしょうか。
田島:そうですね。お金は後からついてくるものだと思っています。過去には、現地で日本人向けのサッカー教室を開催して収入を得たこともありますし、思いがけないところで縁が生まれることも多いです。
――メールを送る際、伝え方で意識しているポイントはありますか?
田島:経歴だけでなく、具体的に「ブラジルに選手を送り出した」「地元企業と協力してプロジェクトを立ち上げた」というように、相手がイメージしやすいように書くようにしています。経歴とは別に企画書も作って売り込みます。例えば、ポルトゲーザの会長に送った企画書がこれです。

――これは見やすいですね。反応が厳しいこともありましたか?
田島:もちろんあります。でも、それは想定内です。そもそも返事がこないことも多いので、いくつかのチームに送って「返ってこなくて当たり前」くらいの気持ちで、めげずに連絡します。
――練習参加やセレクションでは、どんな心構えが必要ですか?
田島:僕はFCルージュでは練習に参加せず、経歴と映像で判断してもらいました。でも実績が少ない選手だと、「まずはトライアルに来て」と必ず言われます。実際、いろいろなチームで日本人選手がトライアルを受けて、「全然ボールが回ってこなくて終わった」という話もよくあります。誰もがアピールすることに必死なので、限られた時間でどれだけ自分を出せるかが大切だと思います。
映像と企画力が武器に。“気をつけるべきこと”は?
――田島さんが経験した失敗談も含めて、これから海外に挑戦しようとする選手へのアドバイスはありますか?
田島:大事だと思うのは、「監督と話が通っているか」を確認することだと思います。2014年にニュージーランドのオークランド・シティFCに加入した時、チームのオーナーと直接交渉して入団が決まったのですが、監督には何の連絡もいっていなかったんです。いざグラウンドに行ったら、「君のことは聞いていない」「知らない」と言われて(苦笑)。干されるような状況で、ほとんど試合に出してもらえませんでした。それ以来、必ず「監督が自分の存在を知っているか」「映像を見てもらっているか」「来季もその監督がチームを指揮するのか」は確認するようにしています。
――海外のチームに自分を売り込む上で、他に意識しておくべきことはありますか?
田島:まず必要なのは映像です。語学や交渉に自信がなくても、映像で自分の強みや、加入した時にチームにどう貢献できるかを具体的に伝えることが大切です。限られた外国人枠を一つ使うわけですから、サッカーの実力に加えて、人間性や企画力など、トータルでの魅力を提示できると強いと思います。
例えばアメリカに初挑戦した時は、現地の観光会社と協力してユニフォームを制作したりもしました。周囲を巻き込む形も含めて、いろいろなアイデアを持つことが大事だと思うんですよ。
――日々の練習や試合に集中するだけでなく、アンテナを広く張り巡らせているんですね。
田島:はい。どんな経験が後で生きるかわかりません。2004年にFC琉球に加入した時は、チーム自体がゼロからのスタートで、選手は皆アルバイトをしながらサッカーをしていました。ラモス瑠偉さんを中心にチームが創設されて、「どうやって地域に認知してもらうか」「どうやってクラブを盛り上げていくか」を選手自身が考えて行動していました。もし最初から整ったJリーグの環境にいたら経験できなかったことばかりで、今に生きているなと思います。
サッカーと麻雀、2つの軸で切り拓く未来
――選手だけでなく、国際交流ダイレクターや麻雀プロとしての顔もお持ちですが、今後のキャリアはどのように描いていますか?
田島:まずはFCルージュで日本人として初のタイトルを取ること。そして、アフリカの有望な選手をブラジルや日本へ紹介するなど、ダイレクターとしての役割も積極的に果たしていきたいです。麻雀についても、日本にいる時は所属しているRMUでしっかり取り組んでいくつもりです。RMUの代表である多井隆晴さんと対局させていただくことが一つの目標でもあります。
――以前のインタビュー(『サッカー×麻雀が生み出す可能性。“異例の二刀流”田島翔が挑むMリーグの高い壁、担うべき架け橋の役割』参照)では、麻雀カフェの経営や、麻雀とサッカー教室のコラボ構想についても話されていましたね。
田島:はい。まだ実際の運営までは至っていないですが、川淵三郎さんから「子ども向けの麻雀教室をやってみなさい」と勧められたのをきっかけに、子どもやお年寄り向けの麻雀教室を開いて、普及活動を続けています。ただ、海外にいると麻雀のリーグ戦にはなかなか参加できないので、うまくバランスを取りながら続けていきたいですね。
――全国大会の出場歴もない中でプロになり、夢を叶えた田島さんから、同じような境遇の子どもたちへ伝えたいことはありますか?
田島:とにかく夢を持って、その夢に向かって進んでほしいです。僕自身、情熱だけでこの年齢までサッカーを続けてこられました。もちろん人との出会いにも恵まれましたが、全国大会に出たことがないからこそ、“世間知らず”だったのもプラスに働いたと思います。
最近はサッカー教室で出会う子どもたちの中にも若くして燃え尽きたような子がいたり、「大人になりすぎているな」と感じることがあります。でも僕のようなキャリアもあると知ってもらうことで、常識にとらわれずに、もっと自由にチャレンジしてほしいです。
【連載前編】日本人初サッカー6大陸制覇へ。なぜ田島翔は“最後の大陸”にマダガスカルを選んだのか?
<了>
【過去連載1】なぜ非サッカーエリートが、欧州でプロ契約を手にできたのか? 異色の経歴が示す“開拓精神”を紐解く
【過去連載2】海外挑戦を後押しし得る存在。4大陸制覇した“異色のフットボーラー”田島翔が語る「行けばなんとかなる」思考
【過去連載3】サッカー×麻雀が生み出す可能性。“異例の二刀流”田島翔が挑むMリーグの高い壁、担うべき架け橋の役割
【過去連載4】憧れの存在は、三浦知良と多井隆晴。“サッカーと麻雀”の二刀流・田島翔が川淵三郎と描く未来
[PROFILE]
田島翔(たじま・しょう)
1983年4月7日生まれ、北海道出身。プロサッカー選手。ロアッソ熊本やFC琉球などを経て、スペイン、クロアチア、サンマリノ共和国、韓国、シンガポール、ニュージーランド、アメリカ、ブラジルのクラブを渡り歩き、マダガスカルで6大陸目のプロ契約を実現。アジア・欧州・オセアニア・北中米・南米・アフリカの6大陸でプレー経験を持つ。2022年7月にプロ競技麻雀団体RMUのプロ試験を受け合格し、「頭脳のスポーツ」である麻雀の魅力も伝えている。
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
女性アスリートの「見えにくい情報」をどう扱うべきか。 月経をめぐる理解と支援の現在地
2026.05.18Technology -
FCジュロン是永大輔チェアマンが語る経営と冒険「シンガポールで100年続くクラブをつくる」
2026.05.18Business -
「正しいことほど広まらない」育成年代のトレーニング事情。専門家が“当たり前”を問い直す、親が知らない落とし穴
2026.05.18Training -
Jクラブのトレーニング施設は“貧弱”なのか? 専門家が語る日本サッカー「フィジカル論」の本質
2026.05.18Opinion -
日本のクラブから“地域のクラブ”へ。アルビレックス新潟シンガポール→FCジュロン改称に込めた覚悟
2026.05.15Business -
ケガ予防はデータでどこまで可能になるのか? ONE TAP SPORTSが可視化した「休ませる判断」の根拠
2026.05.15Technology -
本田圭佑はなぜFCジュロンを選んだのか。是永大輔チェアマンが語る“クラブの土台をつくる補強”
2026.05.14Opinion -
データはスポーツ現場の判断をどう変えたのか。71競技・1700以上のチームに広がる“共通言語”
2026.05.14Technology -
「バックスイングがない」18歳・面手凛は現代卓球を変えるか。新世代に起きている新たな現象
2026.05.12Career -
「カテゴリ問題」は差別論のみが本質ではない。リーグワンが抱える“競争力低下”と“構造の歪み”
2026.05.12Opinion -
なぜ日本人FWは欧州で苦戦するのか? 町野修斗、塩貝健人、原大智らが直面する“海外の評価軸”
2026.05.11Career -
佐野海舟が仕掛けるボール奪取の罠。「リーグ最高クラスの6番」がドイツで賞賛される理由
2026.05.08Career
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
FCジュロン是永大輔チェアマンが語る経営と冒険「シンガポールで100年続くクラブをつくる」
2026.05.18Business -
日本のクラブから“地域のクラブ”へ。アルビレックス新潟シンガポール→FCジュロン改称に込めた覚悟
2026.05.15Business -
「井上尚弥vs中谷潤人」が変えたスポーツ興行の常識。東京ドーム5万5千人、PPV史上最大級が示した“新時代”
2026.05.07Business -
“大谷のLA”に続くのは“村上のシカゴ”か? ホワイトソックスが仕掛ける日本ファン戦略
2026.04.30Business -
「大谷翔平を知らない世界」という可能性。元巨人・柴田章吾が市場広げる“アジア甲子園”
2026.04.21Business -
福島を支えるスノーボード文化の現在地。星野リゾート ネコマ マウンテンに学ぶ普及のリアル
2026.04.15Business -
五輪後、ゲレンデに何が起きたのか。「スノーボードの聖地」が挑む人気の広がりと文化の醸成
2026.04.15Business -
東北を一つにする力とは何か。震災、楽天イーグルス日本一、そしてIT。6県を結ぶNTTデータ東北の挑戦
2026.03.27Business -
試合前に40キロの宇宙服。「自己中だった私が支える側に」元SVリーガー古市彩音、スタッフ1年目の挑戦
2026.03.10Business -
なぜ老舗マスクメーカーはMLB選手に愛される“ベルト”を生み出せた? 選手の声から生まれた新機軸ギアの物語
2026.03.02Business -
WEリーグ5年目、チェア交代で何が変わった? 理事・山本英明が語る“大変革”の舞台裏
2026.02.13Business -
新潟レディースが広げた“女子サッカーの裾野”。年100回の地域活動、川澄奈穂美が呼び込んだ「応援の機運」
2026.02.12Business
