「強くて、憎たらしい鹿島へ」名良橋晃が語る新監督とレジェンド、背番号の系譜――9年ぶり戴冠の真実
9年ぶりにJ1王者のタイトルを取り戻した鹿島アントラーズ。だが、その戴冠は決して“スマートな復活”ではなかった。伝統と革新がせめぎ合い、理想と現実の狭間でもがきながら、それでも最後に勝ち切った――。黄金時代の右サイドを支えた名良橋晃は、その道程を「鹿島らしい優勝だった」と振り返る。鬼木達新監督の挑戦、中田浩二の舵取り、ジーコが大切にしたアカデミーの結実、そして背番号に宿る覚悟。9年ぶりの戴冠が示したのは、“復活”ではなく、鹿島が再び強くなるための「始まり」だった。
(インタビュー・文=鈴木智之、写真=スポーツ報知/アフロ)
大転換期の鹿島が手にした、9年ぶり戴冠の意味
「9年ぶりにタイトルを獲れたことは、本当に大きいですよ」
名良橋晃は、安堵と誇りが混ざり合ったような表情で、2025年シーズンの激闘を回想し始めた。
黄金時代の右サイドを支えた男にとって、鹿島アントラーズが頂点から遠ざかっていた時間はあまりに長すぎた。
とはいえ今回手にしたタイトルは、単なる優勝以上の意味がある。それは伝統と革新がぶつかり合い、迷いながらも、最後には「ファミリー」の力で手繰り寄せた戴冠だった。
今シーズンの鹿島は、大きな転換期にあった。
川崎フロンターレの指揮官として、攻撃的なスタイルでタイトルを総なめにした、OBの鬼木達が監督に就任。大きな期待を受けてスタートしたが、開幕戦で湘南ベルマーレに敗戦。一時は立て直したかに見えたが、4月に入って3連敗を喫するなど、産みの苦しみを味わうことになる。
「鬼木さんは伝統的なアントラーズの色に、フロンターレの色を加える。つまり攻守で圧倒するスタイルを理想としていました。でも実際は理想とは少し離れて、最後は泥臭く勝ち切る戦い方で獲ったタイトルだと思います」
名良橋はそう分析する。理想通りに、スマートに勝てたわけではない。苦しい試合は数え切れない。それでも勝ち切れたのは、鹿島の骨身に刻まれた「したたかさ」や「勝負強さ」が、土壇場で顔を出したからだ。
「何でかというと僕もわからないんですけど、それぞれの選手が勝つために何をするかを考えて、それを実行できる選手が揃っている。みんなが同じ方向を向けたのが、勝ち切ることができた要因なのかなと思っています」
その「方向」に道筋をつけたのが鬼木監督ならば、ルートを整え、安定をもたらしたのが、フットボールダイレクターとして強化の舵を取った中田浩二だ。
「中田浩二さんの巧みなマネジメント、そこは見逃してはいけないですよね。現役時代同様バランサーで、いろいろなところに気を配っています。クレバーな人ですが、まさかこんなに早く結果をもたらすとは! と、いい意味で驚きました。主力にケガ人が出た中で的確な補強をしましたし、選手との距離も近いので話しやすい。彼がいた意味は本当に大きかったです」
アカデミーとレジェンド。常勝軍団のつくり方
今季、ジーコが深く現場に関わるようになったことも、中田の働きかけがあったからだという。優勝セレモニーの最後、鬼木監督に呼ばれてシャーレを掲げたのはジーコだった。
「あれこそが鹿島アントラーズ。ファミリーですね。そこはぐっときました」
トップチーム躍進の土台を支える上で、アカデミーの存在を欠かすことはできない。名良橋によると「アカデミーを強くすることは、ジーコさんがずっと大切にしてきたこと」だという。
今季はアカデミー出身の徳田誉がブレイクし、吉田湊海を筆頭にタレントが揃うユースが「日本クラブユースサッカー選手権(U-18)」「Jユースカップ」「高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2025 ファイナル」の3冠達成。アカデミーのスカウトには、もう一人のレジェンド・本山雅志がいる。
「本山さんがスカウトとして戻ってきたことも、現場に安心感を与えていたと思います。彼もまた鹿島の黄金期を知り、何がこのクラブを特別にしているかを肌で知る人間ですから」
さらに、こう続ける。
「中田浩二さんを筆頭にフロントから現場、アカデミーにいたるまで、どんなところにも鹿島の黄金時代を知っている人がいる。全員が、何をすれば常勝軍団になれるのかがわかっていますし、それぞれの持ち場で役割を全うしている。それが鹿島が強さを取り戻した、要因の一つなのかなと思います」
MVP早川友基を支えた存在。背中で引っ張った“40番”
ピッチに目を向ければ、JリーグMVPに輝いたGK早川友基の活躍があった。3シーズン連続フルタイム出場の「鉄人」を育て上げたのは、鹿島一筋23年の選手キャリアを持つ、GKコーチの曽ヶ端準だ。
「教え子があれだけ活躍しているのに、ソガさんは全然表に出てこないんです。存在感バツグンなのに、オーラを消しているんです(笑)。指導者も選手も一緒に伸びていく環境を、鬼木さんや中田浩二さんが作った。だからこそ、タイトルにつながったんじゃないかと思います」
もう一人、今季の優勝を語る際に、欠かすことができないのが鈴木優磨の存在だ。名良橋は手放しで称賛する。
「40番が背中で引っ張ってくれましたよね。小笠原満男さんがつけたことで、特別な番号になった40番を背負う、その責任感を持ってプレーしてくれています。いろいろ言われることの多い選手ですけど、ピッチ外では礼儀を大事にする人格者。僕は日々接していて、そう感じています」
背番号の系譜と、待ち望む「憎たらしく強い鹿島」
インタビューの終盤、話題は背番号の系譜へと及んだ。鹿島において、背番号は単なる数字ではない。それは先達の汗と涙、そして栄光を肩代わりする「覚悟」の証だ。
鹿島のサイドバックといえば右が2番。左は相馬直樹がつけた7番を引き継ぎ、現在は小川諒也。センターバックの3番、5番は秋田豊、岩政大樹、昌子源の系譜を継いだ、キム・テヒョンと関川郁万。過去に5をつけた植田直通は55番だ。
本田泰人がつけたボランチの6番は中田浩二、永木亮太を経て、今は三竿健斗の背中にある。
そして話は、名良橋の代名詞でもある「2番」へ。1994年にブラジル代表がFIFAワールドカップで優勝した時の主力であり、「世界最高の右サイドバック」と称された、ジョルジーニョが定着させたNo.2。
固定背番号制になった1997年移行、引き継いだのは、名良橋、内田篤人、そして安西幸輝のわずか3人しかいない。
「印象的だったのは内田篤人さん。安西選手に2番を譲る時、わざわざ僕に『つけさせてもいいですか?』って連絡をくれたんです。惚れましたね、内面もかっこいいなって。僕なんかに聞かなくてもいいのに」
名良橋は年下のレジェンドを「内田篤人さん」「中田浩二さん」など、さん付けで呼ぶ。理由を訊くと「年齢は僕のほうが上なんですけど、みんなすごい人たちだから。さん付けしたいぐらいのオーラがあるんですよ」と、茶目っ気たっぷりに笑う。
最後に、来季の鹿島に期待することに話が及ぶと、こう答えた。
「ありきたりですけど、まずは連覇。そして強い、憎たらしい鹿島アントラーズを作っていってほしい。僕はこういうキャラクターなんで、中に入ると生きるものも生きなくなっちゃう。外から、後輩にいじられながら見守るのが一番ですよ」
その眼差しには、レジェンドの一員として築き上げたファミリーとしての絆が、黄金時代到来を予感させる歓びに満ちていた。
待ち望む「憎たらしく、強い鹿島」の復活。2025年の戴冠は、その序章に過ぎない。
<了>
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[PROFILE]
名良橋晃(ならはし・あきら)
1971年11月26日生まれ、千葉県出身。解説者、サッカー指導者。元サッカー日本代表。現役時代のポジションはディフェンダー。千葉英和高校を卒業後、1990年に日本サッカーリーグ1部のフジタ(ベルマーレ平塚〜現湘南ベルマーレ)に加入。1997年に鹿島アントラーズへ移籍。アントラーズ黄金期を支えた。2007年に湘南ベルマーレに復帰したのち、2008年2月に現役引退を発表。日本代表としては国際Aマッチ38試合に出場。1998年フランスワールドカップでは全3試合で先発出場。引退後は解説者として活躍するほか、指導者としても活動している。
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