平良達郎、堀口恭司は世界を獲れるか。岡見勇信が語る、日本人初“UFC王座”へのリアル

Opinion
2026.03.12

今年1月、東京・志村坂上にオープンしたジム「TEAM THUNDER」。主宰するのは、UFCで日本人最多勝利を挙げた男、岡見勇信だ。そこには単なるジム開業を超えた思想がある。UFCのベルト奪取に絶対的な価値を見出してきた男が、いま語る日本MMA再興の現実と可能性。平良達郎、堀口恭司、朝倉海、そして新世代──。岡見が見据える“その先”とは何か。

(インタビュー・文・本文写真撮影=布施鋼治、トップ写真=Imagn/ロイター/アフロ)

岡見勇信が築いた「戦う空間」

今年1月、岡見勇信は東京・志村坂上に「TEAM THUNDER(チームサンダー) 」をオープンした。

昨年春から「ある程度の広さ」「完全正方形」「天井が高い」「中途半端な柱がない」という条件で物件を捜したが、理想とする物件はなかなか見つからない。仕方なく、都内で手頃な大きさのジムでも出そうかと思い始めたところ、不動産サイトで偶然この物件を発見したという。

「形は正方形で、総面積は44坪。天井は5m以上の高さがある。最初は嘘だろうと思いました」

坪単価も都内ということを考えたら破格だった。内見したあと、岡見は即決した。

「一番のこだわりは四面とも壁というところ。これはたぶんほかのジムにはない大きな特色だと思います」

ウィテカー来日で見えた“世界基準”

2月10日には元UFC世界ミドル級王者のロバート・ウィテカー(オーストラリア)を招き、国内のプロMMA(総合格闘技)ファイターを対象にセミナーを開いた。ジムを訪れると、80人もの選手が集まっていた。「一人でも多くのプロに体験してほしい」という願いから出席者はプロのみ。想像以上の申し込みがあったので、アマチュアや柔術家の申し込みは断わらざるをえなかったという。

出席者は鈴木千裕、手塚裕之、ストラッサー起一、藤田大和、宇野薫ら国内でも名の通ったMMAファイターが多数受講していた。想像以上の反響に岡見は目を細めた。

「ウィテカーはUFCのチャンピオン。カッコいいし、その存在だけでみんなを惹きつけることがよくわかりました」

岡見はステップを真似するほど、大のウィテカー好きを公言する。

「だけど、なかなかうまくいかない。でも、そんなウィテカーが身につけた基本のステップなど今日学んだことをジムに戻ってから他の選手にも伝えてほしい。そうすることで日本のMMAの底力は確実に上がりますからね」

とりわけ岡見がジムの特色としてうたう壁をケージに見立ててのテイクダウン・ディフェンスには参加者から大きなどよめきが起こるほどリアクションがあった。

「僕らも感覚ではわかっていることを具体的に動きで示してくれたわけですからね。誰をも納得させることができたのは、やっぱり彼がUFCのチャンピオンだからだと思います」

平良達郎はUFC王者になれるか?

自ら追い求めたUFCのチャンピオンベルトに絶対的な価値を見出す岡見にとって、最近の流れは朗報だろう。

とりわけUFCの軽量級戦線には複数の日本人ファイターが絡んでいるからだ。中でも4月11日(日本時間12日)アメリカで開催される「UFC 327」で王者ジョシュア・ヴァン(ミャンマー)に挑戦する平良達郎には、日本人選手として初の王座奪取の期待がかかる。もちろん岡見も「もう素晴らしいとしかいえない」と期待を寄せる。

平良の場合、ここ数戦はフィジカルの充実ぶりがすさまじい。岡見の言葉を借りるならば、「対戦相手に重圧をかけられるだけの体の厚みを有している」のだ。その点を指摘すると、岡見はヒザを叩いた。

「もともとフライ級では背が高いほうだし、筋肉質で闘う体をしていますね。格闘技に必要な筋肉がすべてついている。だからあの愛らしい顔と比べるとギャップがすごくありますよね。『あの顔でこの体かよ』みたいな(微笑)」

先のブランドン・モレノ戦(2025年12月6日開催の「UFC 323」)でも平良はフィジカルで圧倒し2R TKO勝ちを収めた。その姿は奇しくもUFC時代の岡見と重なり合う。

「自分とかぶるとしたら、四つ組み(両者が立ち技の状態で組み合っている姿勢)ですよね。あの四つ組みからのテイクダウンであったり、入り込むまでの形は自分も好きというか、よくやっていた形だったのでよくわかる。試合前はモレノの勝利を予想した人も多かったと思うけど、僕も4-6でちょっと厳しいんじゃないと思っていました。結局、あの四つ組みでモレノを粉砕したといっていい。モレノのあの倒され方をみると、かなりのフィジカル差があったんでしょうね」

堀口恭司と朝倉海。復帰組のリアルと、階級転向の落とし穴

現在UFCフライ級には堀口恭司もいる。昨年11月22日の「UFN(UFC FIGHT NIGHT) 」で10年ぶりに復帰し白星スタート。続く今年2月7日にはアミル・アルバジ(イラク)を相手に勝利を収め、平良を猛追している。奇しくもUFCにUターン参戦を果たしたという部分では岡見のキャリアとも重なり合う。

「でも、僕のUFC復帰のパターンとは全然違う(岡見はUFC日本大会でマウリシオ・ショーグンの代役として約4年ぶりに復帰)。まあ堀口君の場合、UFC以外にやり残したことはないという状態で、またUFCに戻ってきた。RIZINでもベラトールでもチャンピオンになって掲げてきた目標は成し遂げてきた。そうなると、自分が勝つことでみんなをびっくりさせるとか、みんなを感動させるというのは、もうUFC以外になかったと思うので、僕のときとはモチベーションが全然違うのかなと思いますね」

そしてUFCのデビュー戦でタイトル挑戦という破格の扱いを受けながら、いまだ結果が出ていない(2戦2敗)朝倉海もいる。3戦目を前にすでにバンタム級転向を宣言しているが、岡見もキャリアの晩年には階級をミドル級からウェルター級に落とすなど試行錯誤していた。階級転向の先輩として朝倉に声をかけるとしたら?

「僕の場合、ヨエル・ロメロというキューバのミドル級の選手が出てきた。彼を見たとき自分が勝つイメージが湧かなかったので、階級を落としました。他の選手もそうだけど、階級を落とす理由は自分軸でないことが多い。他の環境によって自分の軸を変えることのほうが多い。このやり方でハマる人もいるけど、ハマらない人のほうが多い。結論をいえば、自分軸で考えたうえで転向したほうが強くなれると思います。下げて強くなれると思ったら下げたほうがいい。上げて強くなれると思ったら上げたらいい」

「こういう奴が本当のトップをとる」中村京一郎という異端

さらにもう一人、UFCとの契約を勝ち取ったばかりで、岡見と関係の深い選手がいる。

昨年UFCが主催する「Road to UFC」シーズン4のフェザー級トーナメントに参戦。今年2月1日に行われた決勝ではセバスチャン・サレイを相手に3R逆転TKO勝ちを収めた中村京一郎だ。

「正直、決勝も負ける展開の中で、フィニッシュするという――。まあもうメンタルも含めすべてが神がかっていましたね」

中村との出会いはLDHがグループ会社「LDH martial arts」を設立。その流れで格闘家育成プロジェクト「EXFIGHT」がスタートしたときまで遡る。当時岡見は同社の取締役を務めており、中村は同社が主催するEXFIGHTでキャリアを積んでいたのだ。

もっとも、その流れの中で行われた「格闘ドリーマーズ」に中村が参戦したときにはすぐやめると思ったという。なぜ?

「根性はあるんだけど、中村のような喧嘩屋みたいなタイプはちょっと負けたら『もういいっす』みたいな感じの人が多い。アマチュアのときの試合を見たら、殴り合いばかりしている。すぐに僕は『アマチュアでそんな試合をしていてもしょうがない。そういう面白い試合はプロに昇格してからやったほうがいいぞ』とアドバイスした記憶がある」

これまで育成してきた選手の中で、中村は最も気持ちの部分は強いと感じている。

「そこの部分は衝撃を受けました。中村は試合の3分前でも普通に周りと雑談しているんですよ。『ちょっと集中しろ』と注意したことがあるくらい。そういう奴は過去にもたくさん見てきたけど、そういう奴に限っていざ試合になるとパフォーマンスが悪い。中村も、そのパターンかなと思っていたら、とんでもないKOで勝つ。もう完全に僕の理解を超えた選手ですよ。『こういう奴が本当のトップをとるのかな』と思いました」

「あと3年待ってください」日本人MMA再興宣言

第2の岡見や中村を育成するために、岡見は日々後進の育成に情熱を注ぐ。クラスの時間延長は日常茶飯事だ。

「平良君がUFCのチャンピオンになって新たなスターになったら、また日本のMMAは爆発するんじゃないですかね。ウチのジムから? 少なくともあと3年待ってください。びっくりするほど10代や20代の若い子が選手志望で入ってきているので」

失われた20年を求めて。日本でも海外でも通用するMMAが再興される日は近い。

【連載前編】岡見勇信がUFC初戦で目にした意外な光景。難関ミドル級で王座に挑んだ日本人が語る“世界基準”

<了>

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