18歳・松島輝空が世界1位を追い詰めた夜。中国との“殴り合い”が示した日本卓球の進化
弱冠18歳の日本人が、世界王者と“殴り合った”。松島輝空が挑んだITTFワールドカップ・男子シングルス決勝。相手は世界ランク1位の王楚欽。そして卓球王国・中国の大声援。その中で松島は、一歩も引かなかった。完全アウェイで世界王者と対峙しても崩れなかった理由はどこにあるのか。この試合を分解すると、日本卓球の現在地と進化の方向性が見えてくる。
(文=本島修司、写真=新華社/アフロ)
最強中国に“殴り合い”を挑んだ松島輝空
ITTFワールドカップ2026、男子シングルス。準優勝まで上り詰めた日本の松島輝空が見せた、勝負強さ溢れる姿で世界中のファンを魅了した。
今大会は特に男子において、最強の卓球王国・中国が絶好調。本気モードで挑んできたと感じる。しかし、その中で最も存在感を放ったのが日本の松島だった。準決勝では台湾の林昀儒と激突し、これを見事に撃破。決勝戦も明らかに完調に近い世界ランキング1位の王楚欽を3-4のフルゲームまで追い詰めた。
激しい攻撃卓球が持ち味の中国選手。しかし、松島はそれ以上に“攻撃的”だった。できるボールはすべてフルスイングという試合運びを展開。王もそれに応じた。そのラリーの様相はまるで「格闘家同士の殴り合い」のようにも見えた。
この日、マカオには大勢の中国ファンが駆けつけていた。完全アウェイの雰囲気。その中で、先に“殴り合い卓球”を仕掛け、最後の最後まで互角にやり切った松島輝空。何が彼をここまで強靭な選手にしているのか。
“二人の格闘家”による激しい打ち合い
男子シングルス決勝戦。松島vs王楚欽は、大方の予想通り壮絶なゲームが展開された。いや、今回は想像を超えたと言っても過言ではない激しさだ。
第1ゲーム。お互いが両ハンドの強打を徐々に加速していく展開。5-5とする1本では、王が打つ瞬間までコースを読ませないフォームで、松島にほんの少しできた「ガラ空きのスペース」を見極めてフォアクロスにドライブを打っている。それはまるで、ジャブを打ちながらアッパーを一発狙っているボクサーのようにも見える。それでも一進一退の攻防は11-9で松島が勝利。
第2ゲーム、第3ゲームは、あえて仕掛けたかのような回り込んでのチキータ、レシーブからいきなり一発抜きのフォアドライブなど、攻撃にアイデアも詰め込んできた王が16-18、8-11とエンジンがかかって連取。
第4ゲーム、第5ゲームも、激しい打ち合いの中、目立ったのは王の中盤からのバックドライブだ。松島に立ち位置を下げられて、バックを攻め込まれてもいるのだが、そこからバックハンドで少しでもドライブをかけてボールを“伸ばし”ながら応戦。これで体勢を立て直し、元の自分の戦うべき位置、前陣まで戻って、また互角の打ち合いに持ち込む。さすが世界ランク1位という鉄壁の卓球だ。
しかしこの局面で、松島も凄みを見せる。この揺さぶりをかけて伸ばしてきたバックドライブにもまったく動じず、フルスイング強打を連発。フォア強打もフルスイング。バックのブロックでさえもフルスイングで、もはやすべてがカウンターという雰囲気。第4、5ゲームは13-11、11-8で松島が取り、ゲームカウントを3-2と勝ち越して後半へ。
迎えた第6ゲーム、そして第7ゲーム。王が松島の戦いに完全に応じた。強打には強打を返し、フルスイングにはフルスイングを返す。当然のように松島もそれをお返しする。大事なポイントで雄叫びを上げる松島の姿、「何もかもフルスイング」という破壊力を全面に押し出した決勝戦の様相はいよいよ「格闘家同士の殴り合い」を想起させる。
言葉はいらない。“二人の格闘家”による激しい打ち合いは、4-11、8-11で王が制し、ゲームカウント3-4。優勝が決まった瞬間、王は床に倒れ込んだ。
アウェイで崩れない松島の進化1「森薗政崇という精神的支柱」
決勝戦で最後に負けはしたが、今大会の松島は準優勝の選手とは思えない「この選手が一番だった」と誰もが思ってしまうパフォーマンスを見せた。
確かに松島は、兼ねてよりいつも物怖じしないタイプの選手ではあった。しかし今大会は、中国の大応援がある完全アウェイの雰囲気の中でもまったく関係なく、いかんなく実力を出せていた。何が彼をここまで強くしたのか。
その一つに、ベンチコーチの存在が考えられる。
準決勝では、過去に松島自身が「6戦全敗」の、世界ランク7位の林昀儒と激突しながらもフルゲームの末に勝ち切った。
この試合も壮絶な打ち合いとなったが、印象的だったのは森薗政崇がベンチコーチにいたことだ。
森薗と言えば、選手としては松島と同じくサウスポーで攻撃的な卓球の印象が強い。まるで獣が襲い掛かるような迫力の試合を展開しダブルスの名手として世界で活躍している。
しかし、この森薗が「ベンチコーチ」をやる時は表情が少し違う。イケイケで攻める選手に対し、笑顔で冷静さを取り戻させるような姿をこれまでも見せてきた。
自身が攻撃的な卓球をしたからこそ、攻撃的な選手の気持ちがよくわかるのだろう。その意味では松島とはかなり相性のコンビと言えそうだ。
この試合でもフルゲームにもつれながら、4-3で勝利した瞬間、松島は誰より先に森薗とアイコンタクトを取り、真っ先に勝利の喜びを分かち合っていた。松島がいかに森薗コーチを信頼しきっているかがわかる。今の松島にとって「森薗のベンチ」は明らかな精神的支柱の一つなのだろう。
アウェイで崩れない松島の進化2「全日本での死闘で得たもの」
もう一つ、今の松島の「堂々たる勝負強さ」にはターニングポイントがあったはずだ。松島だけではない。時を同じくして張本美和もアウェイで強さが増した。
年始に行われた、2026年の全日本選手権。準決勝で張本智和との歴史に残る死闘を制してから松島は変わった。今まで以上に“殴り合い卓球”を正々堂々と演じるようになっている。今大会はまさにその象徴と言えるだろう。
同じようにして、お互いを認め合う最大のライバル早田ひなに全日本選手権の女子シングルス決勝戦で勝ち切った張本美和もアウェイでの戦いに強くなっていると感じられる。やはり中国の大応援があった、中国開催のWTTチャンピオンズ重慶の女子シングルスで圧巻の初優勝を飾っている。
卓球はメンタルスポーツと言われる。接戦になればメンタルの強さがものを言う。自分自身との戦いかもしれない。
加えて、アウェイでの戦いとなれば予測不能なプレッシャーや重圧との戦いとなる。もちろんこれはどの競技の選手でも経験することではあるが、卓球において話が「vs中国」となれば、このアウェイ感は中途半端なものではない。中国という国において「卓球」は、国民の熱量が違うからだ。
それでも松島は強さを見せた。そこには、ゲームを自らの支配下に置く「精神的な拠り所」があったはず。これは、張本美和とともに「最大のライバルに全日本選手権で勝ち切った」という自信からきているように思えてならない。
精神的な拠り所の作り方は、人によってさまざまだ。だが、それを手にした時にはアウェイでも周囲の状況に関係なく勝てる。それを証明したのが、今大会の松島輝空の勝負強さの源だったのではないか。
松島のまだ「粗削り」な部分は誰もが感じる課題かもしれない。しかしそれを補って余りある大仕事をしそうな「荒々しさ」は、経験から身につけた個性であり、何より魅力的だ。
日本が誇る一人の18歳の青年が観衆を沸かせた、ワールドカップマカオ。
次のステージでも、より一層の強さを見せそうな日本人選手たち。中でも格闘家のような凄味を見せつつある松島の姿に、世界の注目が集まり始めている。
<了>
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