欧州1年目で29試合スタメン出場。秋山裕紀が選択した“自分の良さを出さない”存在証明
海外初挑戦で、ここまで“外れない”選手も珍しい。アルビレックス新潟からドイツ2部・ダルムシュタットに移籍した秋山裕紀は、第31節終了時点で29試合に出場し、すべてでスタメン起用。激しいコンタクトと戦術理解が求められるブンデスリーガ2部で、開幕から中盤の軸として定着している。なぜ彼は、異国の地でここまでスムーズに順応できたのか。その理由は、“自分の良さを出すこと”よりも“チームにハマること”を優先する、徹底した思考と習慣にあった。
(インタビュー・文・撮影=中野吉之伴)
なぜ秋山裕紀は海外初挑戦で即順応できたのか?
アルビレックス新潟からドイツ・ブンデスリーガ2部のダルムシュタットに移籍した秋山裕紀は、ブンデス2部特有の激しいスタイルにも即座に適応し、第31節終了時で29試合に出場。そのすべてでスタメン起用されている。
球際の激しさ、コンタクトの厳しさに加え、深い戦術理解も求められるブンデス2部で、開幕からダブルボランチの一角を任され、スポーツディレクターのパウル・フェルニィからは「プレッシャー耐性が高く、試合のテンポを左右できる選手」と称賛の言葉を送られている。
海外初挑戦ながら、秋山はなぜここまでスムーズに順応できたのだろう?
「僕はサッカーをいろんな角度で見ているので、自分なりのアイデアは持っているんですけど、チームとしての狙いが自分の考えと違った時は、そこを捨ててでもまずチームの戦術にどう自分がハマっていくかを常に考えながらやっていました」
新天地のピッチに立てば、自分の良さを前面に押し出し、強引にでも存在感を示そうとする選手も少なくない。だが秋山は、まずそこでのサッカーを理解し、それを体現することに全力を尽くした。
「日本の時は、より自由にポジションを取って、ボールを引き出して、自分の良さを全面的に出していこうというやり方でしたけど、こっちに来てタッチ数が少なかったり、自分の特長が出せなかったとしても、チームの戦術を最優先に考えるということを、今シーズン一番取り組んできました。
それがチームにハマったかなと個人的には思いますし、正直運もあると思っているので、すべてが自分の力でスタメンを取れているとは思ってないです。常にチーム内で競争がある中で、総合的に評価してもらえたのかなと感じています」
これまでと違うサッカーと向き合った時に、「じゃあこういうふうにしよう」と思えたのはなぜなのだろう? それはもともと持っていた性格なのか、それとも新潟時代やJ3時代に身につけたものなのか?
「小さい頃からそういうタイプだったんじゃないかなと思いますね。自分は1対1で仕掛けていくとか、フィジカルでバンバン潰していくタイプではなくて、ボールを握りながら自分の良さを出していくタイプだとわかっていたので、チームメイトとどう連携していくかが特徴を出す上では大事だと思っていました。
サッカーを見て学ぶこともそうですし、いろんな戦術や戦い方を試合を通してこれまでも学んできました。『こういう戦い方があるんだ』『こういうシステムがあるんだ』『こういう守備の仕方があるんだ』といったことを自分の中で積み重ねてきたので、今やっているチームの攻守における大まかな形も理解できていますし、そこはすごく腑に落ちている部分です」
「継続力は才能を超える」サッカーノートが生んだ思考力
秋山は高校時代からサッカーノートをつけている。その習慣はJリーグ時代も、そしていまドイツへ渡ってからも変わらない。継続して自身の課題や大事なポイントを書き出し、どうすればもっと成長できるのか、どうすればもっといいプレーができるのかを考え、向き合い続けている。
「最初はチームのスタイルや攻撃・守備の形など、監督が何を求めているのかまったくわからない状態だったので、ミーティングの内容をとにかくノートに書いてインプットすることを繰り返していました。
新潟時代から続けている、トレーニングの内容や監督やチームが求めていること、自分の良かったところ、悪かったところ、課題などを書いています。それを次の日に克服するというサイクルを続けていますね。
出た課題をすぐ次の試合で克服するのは難しいですけど、それを継続していく中で、自分のウィークがストロングになっていくように、そしてストロングをさらに伸ばしていくようにという意識でやってます。いつでも振り返れるように、メモを書き続けています」
自身と向き合い、課題を探し出し、それを解決して、成長を実感し、また新しい課題を探し出す。話を聞いているとひょっとしたら秋山は、自分の中でまだできていないことを見つけて、そこに取り組むことが苦にならなかったり、そもそもそうした取り組みそのものが好きなのだろうかと思ったので、ストレートにそう尋ねてみた。
「まあ、好きか嫌いかで言えば普通ですけど(笑)。やるべき課題は明確ですし、それを克服すれば一つ上のレベルにいける。毎年積み上げてきたものを今このドイツでも発揮できているという点では、継続力は日本時代からの積み上げですし、逃げずに向き合わないといけないと思っています」
「まずは英語で9割」異国で信頼をつかむコミュニケーション術
1年目から昇格争いに絡んでシーズンを駆け抜けてきていることについて秋山は、「自分の力というよりは、スタッフやチームメイトの努力が大きいですし、自分はその中の一つのピースだと思っています」と語り、何よりも自分を温かく迎え入れてくれたチームへの感謝を口にする。
「このクラブに来たことは正解だったと思っています。初めての海外挑戦のチャンスを与えてくれたクラブに感謝していますし、このクラブのためにすべてを尽くしたいです」
移籍先の環境が自分に合うかどうかは入ってみなければわからないところも少なからずあるなか、最初から監督やコーチ陣、チームメイトやスタッフがオープンに接してくれ、秋山もまた積極的に自分からチームへ歩み寄っていい関係性を築き上げてきた。まだ長文で話せるだけの英語力があるわけではないが、単語をつなぎながらどんどんコミュニケーションをとっている。
「みんなと仲はいいほうかな。一緒にご飯を食べに行ったりもしますし、この前は右サイドバックのセルジオ・ロペスの誕生日で、何人かで集まってお祝いもしました。英語は少しずつ理解できるようになってきています。まだまだ完璧ではないですが、勉強は続けているので、これからもやり続けないといけない。チームメイトからも『英語が話せれば問題ないよ』と言われているので、まずは英語をリスニングもスピーキングも9割ぐらいできるようにしてから、ドイツ語も勉強していこうと思っています」
その言葉の端々から充実している様子がうかがえる。
「ここが自分の居場所」1年目でつかんだ確かな手応え
では、渡欧前にイメージしていた海外生活と実際に来てからとで、どんな違いがあったのだろう。「家族が来るまではプライベートで日本に帰りたいな、と思うことも正直あった」と気持ちを吐露した秋山。もちろん楽なことばかりではない。それでもドイツサッカーにはそれをも飲み込むほどの魅力があった。
「チームのサッカーに対する情熱も、サッカーのレベルも、ファンの熱量もすべてがイメージしていたものよりも上回っていて、すごく満足していますし、楽しいです。ここが自分の家だと思えるくらいの楽しさがあります。まだ一人で生活していたころは、クラブにいる時間がすごく楽しくて、誰よりも早く来て準備したり、選手とコミュニケーションを取ったりしていましたね。
クラブハウスの環境もすごく整っていて、いつでもトレーニングができるし、ケアもできるし、ご飯も食べられるし、いろんな選手と過ごせるので、ここが自分の居場所みたいな感覚でした。家族が来てからはもちろん家での時間も幸せです」
海外挑戦1年目が終わろうとしている。将来像を聞くと、秋山はこう語った。
「攻撃においては、ボールを失わない選手になりたいです。『ヒロキに預ければ落ち着くよね』と思われるような選手になりたい。守備でも、よりアグレッシブにいかなきゃいけないですし、コンタクトの部分でも大きい選手相手でも負けないフィジカルや球際の強さはもっと身につけていかないといけないと思っています」
自分の弱さを書き出し、課題から目を背けず、昨日より少しでも前へ進む。その地道な積み重ねこそが、異国の地で確かな居場所をつかむ理由になっている。シャビやイニエスタに憧れ、日本代表を夢で終わらせないために、日々戦い続けていく。この誠実な反復の先にこそ、次のステージは開けていくのだろう。
「濃い1年間を過ごせています」
その言葉が、すべてを物語っている。
【連載前編】日本での“良いプレー”が通用しない衝撃。秋山裕紀がドイツで学んだ評価のズレ、欧州標準のリアル
<了>
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