なぜJリーグのGKは外国人が多い?「日本人GKの課題」を指摘する名指導者の危機感
パク・イルギュ(横浜F・マリノス)、クォン・スンテ(鹿島アントラーズ)、チョン・ソンリョン(川崎フロンターレ)、キム・ジンヒョン(セレッソ大阪)……。昨シーズンの明治安田生命J1リーグ上位クラブのGKを思い浮かべると韓国籍の実力派GKが数多く名を連ねる。JクラブのGKコーチが口々に「外国人GKが増え」「日本のGKのレベルが危うい」と言う理由とは? ジュニアからトッププロまですべてのカテゴリーの指導経験を持つGK界のスペシャリスト澤村公康が、現場の最前線で指導してきたからこそ感じる日本人GKの課題と、良い選手となるための条件を明かす。
(インタビュー・構成=鈴木智之、写真=Getty Images)
「助っ人外国人=GK」という図式
18分の8。この数字が何を意味するかを答えられる人は、よほどのJリーグ通に違いない。これは2019年シーズンのJ1リーグにおいて、外国籍のGKを「正守護神」として起用したチームの数だ。およそ44%のクラブが、日本人ではなく外国籍のGKにゴールを任せていたのである(内訳は韓国5、ポーランド2、オーストラリア1)。
さらに、2019年シーズンのトップ5に目を向けると、2位のFC東京以外の4クラブが外国籍のGKを起用。全員が韓国の選手であり、代表経験者がずらりと並んでいる。助っ人外国人というと点取り屋の選手をイメージするが、現在のJリーグでは「助っ人外国人=GK」という図式が成り立っているのだ。
ここ数年、JクラブのGKコーチに取材をする中で「外国人GKが増え始めている」という話題が毎回のように出てきていた。同時に「このままでは、日本のGKのレベルが危うい」という話を聞いたのも、一度や二度ではない。なかでも大きな危機感を抱いているのが、ロアッソ熊本やサンフレッチェ広島でGKコーチを務めた、澤村公康氏だ。
澤村氏は熊本時代にレンタル移籍で加入したシュミット・ダニエルを大きく成長させ、昨シーズン所属した広島では、開幕前には4番手のGKだった大迫敬介の能力を見抜き、後に日本代表に選ばれるきっかけを作った人物だ。
ジュニアからプロまで、すべてのカテゴリーの指導経験を持ち、GKコーチとして25年を超えるキャリアがある澤村氏は「Jクラブが外国人GKを獲得するということは、即戦力、もしくはシーズンを通して仕事ができる日本人のGKが少なすぎるんだろうなというのが率直な感想です」と、悔しさを滲ませながら現状を分析する。
「GKというポジションに対する理解、考え方」へのアプローチ
理由の一つに挙げるのが、GK特有のメンタリティだ。澤村氏は「私は数え切れないほどのGKを指導してきましたが、試合に勝つ、負けるという結果に関係なく、メンタルが安定しているGKが少ないと感じています」と指摘する。
「日本のGKの多くが、良いプレーができるとメンタルが向上し、試合で負けたり、悪いプレーをするとメンタルが落ちます。自分に替わって出場したGKが活躍すれば、『自分はダメなのか……』と落ち込んでしまう選手をたくさん見てきました。その一方、外国人GKは気持ちの切り替えが上手で、試合でミスをしたり、たとえ負けたとしても、それはそれと割り切ってトレーニングに向かい、試合への準備ができる選手が多い印象です」
澤村氏は「育成年代を見ても、日本のGKは体のサイズがあり、運動能力も高く、技術的にもしっかりしてきています」と前置きをした上で、「でも、日本のトップカテゴリーで試合に出て活躍できる選手が少ない。大きな理由の一つが、僕はメンタルだと思います」と言葉に力を込める。
「メンタルと言っても、一括りではありません。リバウンドメンタリティもあれば、自分から進んで動く気持ち、選定していく能力、切り替える能力、向上心も含めて、“GKに必要なメンタリティ”というものが確実にあります。スポーツには心技体という言葉がありますが、技や体に関して、日本のGKコーチも質の高いトレーニングが提供できていると思います。だからこそ、もっとメンタル面にスポット当てて指導をするべき。そう考えると、GKコーチの役割はすごく大きいですよ」
GKのメンタリティについて、興味深いエピソードがある。澤村氏はベガルタ仙台から熊本にレンタル移籍してきたシュミット・ダニエルに対して、「試合でできなかったことではなく、できたことに目を向けよう」とアドバイスをしたと言う。
「ダン(シュミット・ダニエル)がロアッソに来た最初の頃は、『あのプレーがダメだった』『ここをこうすればよかった』というネガティブな反省が多い選手でした。そこで私は『自分もプロのGKコーチを長くやってきたから、どのプレーがダメだったのかは見ればわかる。そうじゃなくて、どんなプレーをやろうとしたのか、トライしてできたプレーはなんだったのかを聞きたいんだ』と言ったことがありました」
シュミット・ダニエルは、もともと身体能力は高いものがあった。そこで、メンタルを含めた「GKというポジションに対する理解、考え方」にアプローチをし、ピッチ内外で対話を続けていった。
その後の活躍は、周知のとおりだろう。日本代表に選出され、現在はベルギーのシント=トロイデンでプレーしている。ちなみに澤村氏は、シュミット・ダニエルが仙台の控えGKとして、熊本にレンタル移籍してきた当初から「ダンは将来、日本代表になりますよ」と“予言”していた。
大迫敬介がいるチームが勝つ。それはなぜか?
数多のGKを指導し、日本代表を輩出した澤村氏。良いGKの条件とは何かと尋ねると、「前向きなメンタリティを持っていることと、明るいことですね」と即答した。
「紅白戦やミニゲームをやるとわかるのですが、『その選手がいるチームが毎回勝つ』ということがあるんです。(大迫)敬介がそのタイプでした。ちょっとしたゲームなどでも、彼がいるチームが勝つ。なんでだろうと考えたときに、私が感じたのが、彼が持つメンタリティです。前向きでポジティブ。とにかく明るかった。GK自身の責任感あるプレーに加えて、味方の気持ちを前向きにする声。それをもとに生まれる、チームメイトとの信頼感。GKにはそれが大切なんです。それと、彼には意欲がありましたよね。試合に出て活躍するという意欲が」
GKはフィールドプレーヤーと違い、ポジションは1つしかない。1人の正守護神がシーズンを通して試合に出続け、2番手以降の選手はほとんど試合に出られないこともある。その状況をどう捉えるのか。年齢や置かれた立場に甘んじている選手が多いのではないか、澤村氏はそう指摘する。
「J1だから、強豪校に所属しているから、試合に出られなくてもしょうがないという考えはやめたほうがいいと思います。2番手のGKであれば、常に1番手を目指してトレーニングに励むか、カテゴリーを落として、1番手としてプレーできるチームに移る。そうして試合に出て、勝つという経験を積むしかありません。J1、J2を合わせても、10代や20代前半でスタメン出場しているGKは数えるほどしかいません。このままだと、『試合に出て、勝つ』という意欲やメンタリティを持った外国人GKに、その場を奪われることが増えるのではないかと危惧しています」
現場の最前線で指導してきたからこそ、言葉の端々には歯がゆさが滲む。常々「GKは受け身ではなく、前向きなポジション。そういう考えのもとにチームメイトとコミュニケーションをとり、良いゴールキーピングができる」と話す澤村氏。シーズンオフには、クラブの垣根を越えて現役Jリーガーを集め、GK講習会を実施してきた。今後も日本サッカーのため、GKのレベルアップのために活動を続ける。
<了>
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PROFILE
澤村公康(さわむら・きみやす)
1971年生まれ、東京都大田区出身。三菱養和サッカークラブ、仙台大学などでプレー。熊本県立大津高校、浦和レッズアカデミー、JFAナショナルトレセンコーチ、川崎フロンターレアカデミー、浜松開誠館中高等学校、ロアッソ熊本などジュニア年代からトップカテゴリーまでのGKコーチを歴任。2003年と2013年には日本高校選抜のGKコーチを務め、2013年にはドイツ・デュッセルドルフ国際ユース大会での初優勝に貢献。2019年はサンフレッチェ広島でトップチームGKコーチを務め、シーズン終了後に退任した。
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