「レッズとブライトンが試合したらどっちが勝つ?とよく想像する」清家貴子が海外挑戦で驚いた最前線の環境と心の支え
今夏、浦和からイングランド1部・WSL(女子スーパーリーグ)ブライトンに加入し、好スタートを切った清家貴子。近年、WSLは観客数、中継の視聴者数ともに記録を更新し、各クラブも女子選手たちにトップレベルの環境を整備するようになっている。その環境やリーグの盛り上がりについて、現地ブライトンで清家に話を聞いた。筑波大学出身の三笘薫との“再会”エピソードや、海外挑戦のスタートを支えた古巣への熱い思いも語ってくれた。
(インタビュー・構成・撮影=松原渓[REAL SPORTS編集部])
練習環境はトップクラス。クラブの食事会で三笘薫とも再会
――WSL(女子スーパーリーグ)は、近年さらなる盛り上がりを見せていますが、観客の雰囲気はどうですか?
清家:ブライトンのホームのブロードフィールド・スタジアム(6134人収容)は毎試合2000〜3000人くらいが入っていて、(古巣の浦和)レッズとそんなに変わらないくらいですけど、応援の雰囲気は日本とはかなり違います。レッズはチャントや、勝つ雰囲気を作ってくれる応援が素晴らしく、ブライトンはサポーター集団は多くないけど個々がみんな熱くて、自然とスタジアムが一つになっていく感じです。レッズは特別でしたが、別の面白さや一体感があるので、ブライトンの応援も好きですね。
――男子チームの三笘薫選手は筑波大学の後輩ですが、練習場で顔を合わせることもあるんですか?清家:練習場は端と端なので、意外と遠くて顔を合わせることはあまりないんですよ。食事の時には厨房を挟んで逆側でご飯を食べている感じなんですけどね(笑)。最近、チームの食事会があった時に三笘君と同じテーブルになったので、その時は2人で長時間しゃべってましたね。まだプレミアリーグの試合は見に行けていないので、見に行きたいと思っています。
――WSLはどのチームも女子の練習環境がよくなっていると聞きますが、ブライトンはWSLでは女子で最初の専用スタジアム計画を提出するなど、特に力を入れているそうですね。環境はどうですか?
清家:かなりいいですよ。施設の中にグラウンドが18面ぐらいとアップ用の広大な芝生のスペースがあって、練習場は男子と同じ敷地内です。クラブハウスはメインの棟と女子の棟が別にあって、男子チームとは分かれているんですけど、食事会場や使用するスパなどは同じ場所で、本当に素晴らしい環境だなと思います。
――スパも充実しているんですか?
清家:男子チームも女子チームも使えるお風呂や水風呂の他にサウナが3つぐらいあって、女子ロッカーの横には女子専用のお風呂と水風呂もあります。気分によって広いほうを使ったり、オフやリカバリーの時には使い分けたりもしています。
――まるで高級ホテルですね。日本の男子チームでもそこまで豪華な施設はあまりないですもんね。
清家:環境は、こっちにきて本当にびっくりしましたね。お金のかけ方がすごいなと思いますし、男子チームと同じように施設を使えるという面では、ブライトンはリーグの中でもトップクラスなんじゃないかなと思います。
――クラブのSNSも、女子チームの話題は積極的に取り上げていますよね?
清家:そうですね。男子と女子のアカウントと、日本語版のアカウントもあって、女子の話題も男子のアカウントで発信してくれているので、そこも集客などの面で大きいと思います。
今季の視聴者数は3倍に「みんな応援しているチームがある」
――今季はWSLはYouTubeで配信していますが、視聴者数が以前の3倍以上になっているそうです。どうしてそんなに盛り上がっているんでしょう?
清家:こっちの人たちは、みんなフットボールが大好きで、試合をよく見るんですよ。チームメートとの会話の中でも、最初は必ず「どこのチームをサポート(応援)してるの?」と聞かれました。それぞれ、リバプールとかマンチェスター・シティとかチェルシーとか、応援してるチームがあるんですよ。同じように、女子チームを応援するファンの人が増えていることは大きいと思います。
――自分が所属しているチームとは別に、必ず“推し”のチームがあるんですね。
清家:そうです。みんな、それぞれ地元や、好きな選手がいるチームを持っているんです。フットボールが文化になっている証だなと思いました。例えば、チェルシー推しの人に「自分はリバプールが好きだよ」と言っても、否定したりはせず、「いいねー!」みたいな感じで話が盛り上がるんですよ。
――浦和サポーターの応援で育った清家選手にとっては共感できる部分もありそうですね。文化も含めて、イングランドのサッカーを吸収している感じですね。
清家:最初はイングランドに「サッカーをしにきた」という感覚で、そういうことを期待していたわけではないんですが、今は毎日が新鮮ですね。文化的にも親しみを感じますし、いろんな選手とサッカーについて会話するのが楽しいです。
美しいビーチやカフェも「一発で好きになりました」
――ブライトンはイギリスで有数のリゾート地と言われますが、美しい海岸線や色彩豊かな街並など、本当に雰囲気がいい街ですよね。実際に住んでみて、どうですか?
清家:初めてメディカルチェックに来た時から本当にいい街だなって感じましたし、一発で好きになりましたね。ビーチがあって明るい雰囲気で、人も優しくて清々しい街です。
――オフは満喫できそうですね。
清家:家から歩いて10分〜15分くらいのところにビーチがあって、そこの近くのカフェがすごくいい感じなんですよ。そこに行ったり、街中を散策したりしています。街においしい日本食のお店があるので、オフにはそこによく通っています。
――やっぱり日本食が恋しくなるんですね。練習日の食事は基本的にはクラブハウスで食べているんですか?
清家:そうです。食堂が充実しているので、朝昼はクラブハウスで食べています。夕食はテイクアウトもできるので、サラダとフルーツだけ持って帰ることもあります。家ではご飯を炊いて味噌汁を作っていますが、自炊は一日一食で済んでいるので、すごく楽ですね。
――海外では食事の面で苦労する選手も少なくないと聞きますが、清家選手はあまり苦労していなさそうですね。
清家:そうですね。日本から持ってきたお米はよく食べていますけど、「これを食べないとダメ」みたいなこだわりがあるわけではないので、パスタも食べますし、パンも食べます。ヨーロッパの人は朝はオートミールをよく食べるので、それを一緒に食べることもあります。
レッズとブライトンが試合をしたら…
――今季は8チームに12人の日本人選手がいて、なでしこジャパンのチームメート対決も多いですよね。これだけ日本人選手が活躍できている現状についてはどう見ていますか?
清家:たしかに、毎週日本人対決が続くので不思議な感覚です(笑)。強くて速い外国人選手が多い中で、どのチームでも日本人選手がいいアクセントになっていて、みんなそれぞれの特徴をうまく活かせているなと思います。やっぱりアジリティや技術、準備や予測の質などは日本の良さだと思うし、代表でやっていてもその部分は強みだと感じます。逆に、パワーやスピード、ボールに対する執着は、こっち(イングランド)は本当に強いです。最初の練習で、脚に大きなアザができましたから(笑)。ドリブルで完全に抜ききっても、後ろから当たり前のようにシャツを引っ張ってくるので、最初からそこまでするんだ!って、それも驚きました。みんな練習からよくアザを作っていますね。
――日常からケガも含めて気が抜けないですね。強度やレベルは、WEリーグよりも高いという印象ですか?
清家:サッカーの種類や質が違うので、「日本よりもイングランドのほうがレベルが高い」とは言えないと思います。だから、去年のレッズと今年のブライトンが試合したら、どっちが勝つんだろう?とよく想像するんです。自分は両方のチームで出ているイメージなんですけどね。
――それはぜひ現実でも見てみたい対戦カードですね(笑)。海外挑戦でゼロからのスタートを切る上で最初は精神的なプレッシャーもあったと思いますが、どんなことが心の支えになっていますか?
清家:自分の場合は、チャレンジしてもしうまくいかなかったとしても、レッズに戻れる場所があると信じているので、自分で勝手に思っていることなんですけど、それが心の支えになっています。だからこそ、失敗を恐れずに思いっきりやれているのかなと。
プレー面では、自分の場合は個で突破してゴールを狙っていけることを強みとしているので、積極的に仕掛けてみたら、そこが思っていたより通用するという感覚で、「戦える」と分かったのは大きいです。ヨーロッパのトップリーグで戦えれば代表でプレーする時の自信にもつながりますし、強い相手や速い相手に対しても構えなくなると思いますから。
【連載前編】WSL史上初のデビュー戦ハットトリック。清家貴子がブライトンで目指す即戦力「ゴールを取り続けたい」
<了>
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[PROFILE]
清家貴子(せいけ・きこ)
1996年8月8日生まれ、東京都出身。三菱重工浦和レッズレディースのジュニアユース、ユースを経て、2015年にトップチームに昇格。スピードと決定力を生かしてサイドハーフ、サイドバック、ウィングバックなどでプレーの幅を広げ、2023-24シーズンのWEリーグで得点王、ベストイレブン、MVPの個人3冠を受賞した。今夏のパリ五輪では4試合に出場。大会後にWSL(女子スーパーリーグ)のブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンWFCに移籍。デビュー戦となった9月21日の開幕戦・エバートン戦でハットトリックを記録する好スタートを切り、9月のWSL月間MVPを受賞。2023年AFC年間優秀選手賞を受賞した。
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