ダルビッシュ有が考える、日本野球界の問題「時代遅れの人たちを一掃してからじゃないと、絶対に変わらない」
こうした日本野球界の現状を、ダルビッシュはどう見ているのだろうか。その本音を明かしてくれた。
(インタビュー・構成=岩本義弘[『REAL SPORTS』編集長]、撮影=小中村政一)
「自分たちぐらいの年代が、監督・コーチになっていかないと変わらない」
今、日本の野球人口が減っているのが大きな問題になっています。少子化による人口減少の比率以上に少年野球の人口が減っていて、このまま減少が進むと、それこそ甲子園も現在の座組みでは成り立たなくなるんじゃないかといわれています。加えて、日本の野球界では、育成年代のピッチャーへの「投げさせすぎ問題」や、指導者による暴力・パワハラ問題など、多くのネガティブな要素を抱えています。こういった問題について、どういう考えを持っていますか?
ダルビッシュ:野球人口が減っていく原因として、まずプロ野球が見ていて以前より面白くない、ということもあると思いますし、当然、高校野球での不祥事問題もあると思います。指導者や先輩が(教え子や後輩を)殴る、というようなことも、未だになくなっていない。自分も、中学から高校に上がる時、そういうのが嫌で、一番そういうのがなさそうな高校を選びましたから。
今の中学生とか小学生ぐらいのマインドだったら、なおさらですよね。今の子って、絶対にそういうの嫌だと思うんですよ。サッカーや他の団体競技はそういったパワハラ的なものは今はあまりなさそうなのに、野球に関しては今でもそういう不祥事がどんどん出てきてしまう。だから、野球をやる子どもが増えないんじゃないかと思いますね。
そもそも、高校野球は、不祥事を起こすとすぐに甲子園出場を辞退する、という慣例自体にも問題があったんじゃないかと。出場辞退になったら大問題だから、不祥事を起こしても、隠蔽する人たちが出てくる。ただ、今はSNS含めて、何かあったら隠そうしても明るみに出る時代になってきてしまった。そういう意味では、日本の野球は今、すごく苦しいですよね。ダルビッシュ:そう思います。今の(育成年代の)監督やコーチなんて、本当に時代遅れの人たちばっかりですから。やっぱり人って、成功体験で生きてるじゃないですか。
今の監督やコーチの年代って、とにかく走り込んで根性を鍛えて、先輩からのしごきにも耐えて、だらこそ今の自分がある、と思っている人たちだから、そういうこと(指導者や先輩からの暴力)をある程度肯定している部分があると思うんですよ。だからこそ、未だにそういうことが引き起こされるんだろうし。
だから、自分たちぐらいの年代の人たちが、監督やコーチになる時が来るまでは、根本的にはそういう体質というのは変わってこないんじゃないかと思ってます。
実際、元チームメートで、現在、中学や高校の監督・コーチをやっている人はいないんですか?ダルビッシュ:チームメートとして一緒にやっていた人はたぶんいないですけど、同年代や自分より年下の選手が、監督やコーチをやっているという話は、けっこう聞いてますね。
じゃあ、以前よりかは、良い状況になってきているんですね。以前にインタビューさせてもらった時にも言っていましたが、やっぱり、そういう本当に野球の知識を持っている世代、ちゃんと野球を理解している世代が、監督・コーチになっていかないとダメだと。
ダルビッシュ:そうです。プロ野球もそうで、今、プレーしている年代の人たちが、監督・コーチになっていかないと変わっていかないと思います。もちろん、今のプロ野球の監督・コーチでも、ちゃんと最新の情報を取り入れている人もたくさんいますけど、そうじゃない人もやっぱり一定数はいて。言い方は悪いけど、そういう時代遅れの人たちを一掃してからじゃないと、日本のプロ野球は絶対に変わらない。
だって、そういう人たちは、テレビで「俺らの時代はもっとすごかった」とか言うわけでしょ。この前も、テレビの番組で、高校時代の江川(卓)さん(元巨人、作新学院)は「実際は170km出てた」とかいう証言が出てたと聞きました。正直、「マジかよ」って思いましたよ(苦笑)。そういうことを平気で番組で放送してる。
それをみんな、本気で思って言っちゃってるんですよ。自分たちの中では、本当にそうだと思っちゃっているから、僕はすごく危険だと思います。
野球やスポーツに限らず、「俺たちの時代はこうだった」って言いだしたら、本当にやっかいなことになりますからね。ダルビッシュ:そうなんです。だから、自分がもう決めているのは、絶対に自分はそういうことをやらないようにしようと。例えば、日本のプロ野球時代の自分の成績は、2011年が数字としては一番良かったんですね。
その2011年の数字と、去年の菅野(智之/巨人)君の数字を比べて検証した記事をネットで見たことがあって。
でも、それは全く意味がない。なぜなら、2011年と2018年は、もう(野球の)レベルが全く違うんです。だから、(数字を比べるまでもなく)絶対に菅野君のほうが上だということを徹底的に認めていかないとダメだと思うんですよ。
今のバッターのほうが2011年よりはるかにいいわけだし、2011年は(規定の反発係数に達していなかった)統一球やし、今のほうがピッチャーを分析するデータのレベルも上がってる。
だから、(上の年代の人たちが)現代の選手を過去の自分と比べて、過去の自分を上に置いていたら、プロ野球界は、絶対に前に進んでいかない。
データと自分の感覚は「意外とズレてたりする」
確かに2011年と現在では、データ面でいうと、本当に大きな進化を遂げていますよね。スカウティングも、データの質と量のレベルが格段に上がったことで、その精度が高まっているという印象があります。
ダルビッシュ:今の日本のプロ野球のデータについては、自分が今、日本にいないので正直、わからないですけど、アメリカ、というか(シカゴ・)カブスでは、データに関しては本当にすごいので、日本のプロ野球でも(データ面で)進化していないわけはないと思うので、(ピッチャーは)より大変だと思いますね。
やっぱり、MLBにおけるデータの活用はすごいんですか?
ダルビッシュ:いや、すごいですよ。カブスでいうと、例えば自分のデータベースがあって、自分の顔写真があるから、そこを押すと、過去に(MLBで)自分が投げたすべてのゲームのすべての数字が出てきて。
(MLBでプレーし始めた)2012年からのデータが全部ある。2012年に、僕が真っ直ぐを何%投げたのか、その被打率はどのぐらいというのも全部出る。さらにすごいのは、コースごとの被打率まで全部出ます。どの球種をどのコースに投げたら、どれくらい打たれてるのかが全部出るんです。
実際、データの数字と自分の感覚のズレは、あったりするものですか?ダルビッシュ:そうですね、意外とズレてたりしますね。2016年に、トミー・ジョン(の手術)から帰って来て、「スライダーが手術前のレベルに戻ってない」みたいなことを当時けっこう言われてたんですよ。
でも、データで見たら、実は手術前よりも数字がいいんですよ。ただ、当時はデータもちゃんと見てなくて、そういう事実をわかっていなかったから、「スライダーを何とかしなきゃ」とか思っちゃってて、実際にいろいろと変えたりもしていて。今思えば、あんなことしなくて良かったかなと思ったり(苦笑)。
変化球の話をすると、昨日の試合(5月9日、シカゴ・カブス対マイアミ・マーリンズ)では、決め球としてカッターを多投していましたが、ボールによって変化量や球速が違うように見えました。あれは何種類かのカッターがあって、それを明確に投げ分けているんですか?ダルビッシュ:いや、今投げてるのは1種類ですね。ただ、投げ分けることはできます。でも、今は基本的に、変化の大きめの、ちょっと落ちが大きいカッターを投げています。
昨日のゲームでは、そのカッターが本当に効果的でした。見ているほうからすると、「もう、ピンチになったら全部あれ投げればいいのに」と。素人意見で申し訳ないですが。ダルビッシュ:いや、意外とファウルになっちゃうんですよ、あればっかり投げてると。
確かに、回が進んでからは、けっこうファウルで粘られてましたね。ダルビッシュ:ただ、結局、真っ直ぐをちゃんとストライクゾーンに投げられていたら、ああいうことは起きないんですよ。バッターが、「カッターが来る」ってわかってるからファウルにはできるけど。
良い真っ直ぐが織り交ぜられれば、よりカッターが効果的に決まる、ということですよね。確かに、真っ直ぐでうまくストライクが取れてる時は、より効果的でした。4回とかそうでしたね。ダルビッシュ:(昨日のゲームでも)確かに、何度か良い真っ直ぐがありましたけど、その数が少なすぎる。やっぱり、ストライクを取れるパーセンテージがある程度の数字にならないと、バッターはスイングしようとしてくれないんです。だから、やっぱり、そこが今の課題ですね。
野村克也氏は「他の人と全く違うところを見てる」
先日、元号が平成から令和に変わるタイミングで、「平成のベストナイン」という企画があり、野村克也さんがダルビッシュ選手を平成のナンバーワンピッチャーに選びました。Twitterでもそのことに触れて喜びを表現していましたが、やっぱり、あれは相当うれしかったですか?ダルビッシュ:それはやっぱり、うれしいですよね。ただ、野村さんはここ数年は現場で選手たちを見ていないので、監督を辞められた時点である意味、時間が止まっているということは、もちろんあると思います。
だから、今の選手たちはなかなか対象には入ってこなかったんじゃないかと。とはいえ、監督としてずっといろいろな選手を見てきて、すごいピッチャーもたくさん見てきた人ですから、その中で一番に選んでもらったということは、とても光栄なことだと感じてます。
ピッチャーは他のポジションと比べても、一番の激戦区ですからね。自身のTwitterでも挙げていましたけれど、上原浩治、松坂大輔、斉藤和巳、杉内俊哉、和田毅、田中将大、菅野智之と、本当にすごいピッチャーがたくさんいます。その中でのナンバーワンですから、確かにすごく光栄なことですよね。ダルビッシュ:野村さんが面白いなと思うのが、他の人と全く違うところを見てるんです。他の人は全く気にしていないけれど、自分が大事にしているようなことを見ていたりするんですよ。
例えば、日本のプロ野球時代のことですが、デッドボールを当てるとピッチャーは絶対にバッターに謝りますよね。バッターはデッドボールが当たると、だいたい、当たった瞬間に下を向いてファーストに行って、ピッチャーもマウンドで帽子を取って(謝って)終わるんですけれど、自分の場合は、一塁のところまで行って、当ててしまった人と目が合うまで待って、目が合ってから「すみません」と謝るということを絶対にやっていたんです。
そうじゃないと心情的に自分で納得できなくて。あとは、ロージンバッグを絶対に叩きつけないとか、いろいろとあるんですけれど、そういうところを野村さんは見てるんです。野村さんが、自分のそういうところについて新聞にコメントしているのを読んで、「そんなとこ、よう見てんな」と。キャッチャーでさえ、そんなことわかってないぞと(笑)。
そういう細かいところでいうと、昨日の試合を見ていて気になったのが、牽制についてなんですが、ダルビッシュ選手は牽制は基本的に全く刺す気がないんですか? ダルビッシュ:牽制ですか? うん、刺す気ないですね。
たまに牽制するのは、リズムを変えたい時とか、バッターとの間合いが嫌な時とかですか?
ダルビッシュ:いや、自分からは牽制はしないです。(牽制は)キャッチャーのサインが出るから仕方なくやってるってだけで、本当は一切牽制はしたくないですね。
だから、あんなにやりたくなさそうに牽制するんですね。ダルビッシュ:むしろ、牽制のサインで首振ったりしてますからね。(北海道日本ハム)ファイターズ時代にも、キャッチャーの鶴岡(慎也)さんが出してくる牽制のサインに首を振ってました。
そうしたら、鶴岡さんは「いや、頼む頼む」みたいなゼスチャーしてきて、「俺じゃなく、監督やから」って言ってダッグアウトの方向を指さして。
それでも僕が首を振るので、鶴岡さんはタイムを取ってマウンドに来て、「頼むから、牽制投げてくれよ」と。「外すだけでもいいから」、みたいな感じでしたね(笑)。でもまあ、そんなやり取りをするぐらい、牽制はしたくはないですね。
逆に、なぜそこまで牽制を嫌がるんですか?
ダルビッシュ:アウトになる可能性が、ほぼゼロじゃないですか。なぜ、アウトになる可能性がないのに、投げないといけないのかと。むしろ、暴投したらランナーを進めることになるし。もちろん、牽制することで盗塁をしづらくする、というのもあるんでしょうけど、そんなのたいして変わらないですよ。
見ていて、「盗塁されてもいいや」くらいな気持ちを感じました。ダルビッシュ:まあ、実際、昨日はけっこう盗塁されましたしね(苦笑)。でも、盗塁を意識しすぎてバッターに集中できないくらいだったら、もうセカンドに行ってくれたほうが僕としては楽です。バッターに集中するほうが大事ですから。
<了>
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PROFILE
ダルビッシュ有(ダルビッシュ・ゆう)
1986年生まれ、大阪府出身。MLBシカゴ・カブス所属。東北高校で甲子園に4度出場し、卒業後の2005年に北海道日本ハムファイターズに加入。2006年日本シリーズ優勝、07、09年リーグ優勝に貢献。MVP(07、09年)、沢村賞(07年)、最優秀投手(09年)、ゴールデングラブ賞(07、08年)などの個人タイトル受賞。2012年よりMLBに挑戦、13年にシーズン最多奪三振を記録。テキサス・レンジャーズ、ロサンゼルス・ドジャースを経て、現在シカゴ・カブスに所属している。
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