![](https://real-sports.jp/wp/wp-content/uploads/2023/08/fa610de01a2811ea8b62bd346eab2e12.webp)
「メッシの卵」を見逃すな! 才能ある天才少年のスカウトに革命起こすテクノロジーとは?
アルゼンチンの小さな街で生まれ育ったリオネル・メッシは、13歳の時に世界最高峰のチームの一つ、バルセロナによって発掘され、やがて世界最高の選手へと上り詰めた。こうした奇跡のシンデレラストーリーはサッカー少年の誰もが憧れとして抱くものの、実際にはそうそう起こることではないのが現実だ。だが、テクノロジーの力によって、スカウトの世界に革命が起きるかもしれない――。
(文=川内イオ、写真=Getty Images)
ダイヤの原石を探せ!
「スカウトは全ての大陸にいる。アジアサッカーやアフリカサッカーを担当する人もいて、世界中からレポートが送られてくる。成功するちょっと前の選手を探すのが目的で、ペンディングにしている選手は700人いる」
11年前の2008年、当時、ラ・リーガ(スペイン)のセビージャで敏腕スポーツディレクターとして腕を振るっていたモンチ氏にインタビューをした際に聞いた言葉だ。
イタリア・セリエAのローマを経て、今夏、セビージャに戻ったモンチ氏は、今も欧州サッカー界屈指のSDと言われる。その理由は、無名の若手を獲得してきてチームでブレイクさせる手腕にある。その眼力によって、モンチ氏はセビージャにタイトルと多額の移籍金をもたらしてきた。2017年4月から2年ほど勤めたローマでも、3億ユーロを超える売却益をもたらしたと報じられている。
モンチ氏と同程度かはわからないが、多くのプロサッカークラブは、ダイヤの原石を探すために世界中にスカウト網を張り巡らせている。こまめに試合に足を運び、有望な選手がいれば報告するという役割を担う人たちが、無数に存在するのだ。五大陸に散らばるそのスカウトたちの仕事が、テクノロジーの力によって変わっていくかもしれない。
世界中のスカウトを民主化する
今年11月、サッカーのスカウティングアプリ「Gloria(グロリア)」を展開するアメリカのスタートアップ、グロリアが資金調達に成功して話題になった。金額は明らかにされていないが、アメリカ最大級のニュースサイト「reddit(レディット)の共同創業者であるアレクシス・オハニアン氏が設立したベンチャーキャピタル・Initialized Capitalを中心に、複数の投資家から資金を得たと報じられている。
グロリアを立ち上げたのは、アルゼンチン人女性のヴィクトワール・コゲヴィナ氏と、同じくアルゼンチン生まれのマティアス・カステロ氏。コゲヴィナ氏の母親は、アルゼンチンで女性初のサッカー選手の代理人業を営んでいたことで知られる。
自身も代理人業に就いていたコゲヴィナ氏は、27歳の時に「テクノロジーで、スカウトをグローバルに民主化する」ための手段としてスカウティングアプリの「グロリア」を構想し、それを実現するためにサンフランシスコに移って、「Silicon Soccer」を設立した。
グロリアの製品およびテクノロジーの責任者を務めるが、Facebookの元最高製品責任者で役員でもあったカステロ氏。カステロ氏の父親は元プロサッカー選手で、アルゼンチンのラシン・クラブでプレーしていた。コゲヴィナ氏がこのチームのファンだったこともあり、意気投合して共同創業者として参画することになったようだ。
提携するリーグと収入をシェアする仕組み
グロリアは、プレーヤー自身が使用するアプリ。最初に性別、年齢、身長、体重、ポジションなど基本情報を入力した後、自分のスキルをアピールするビデオや試合のハイライトなどをアップロードする。どのようなビデオをアップすればよいのか、グロリアがわかりやすい解説を用意する。
最初にグロリアが投入される市場はアルゼンチンで、11月末からベータ版の運用が始まる。同国のトップリーグであるスーペル・リーガとはすでにパートナーシップ契約を結んでおり、スーペル・リーガに所属するすべてのクラブが投稿を閲覧できる。
クラブ側は検索機能がついたウェブ上のプラットホームを使用し、希望する年齢、ポジション、経験の選手を見つけて、ビデオを見ながらタックルやフリーキックなど特定のスキルをチェックするという仕組みだ。
グロリアは10歳から35歳までの男性と女性のプレーヤーに開放されており、ビデオをアップロードしたプレーヤーは、月々の使用料を支払う。そのうちの70%がグロリアの収益となり、30%を提携するリーグとシェアするというビジネスモデルだ。選手にとっては使用料が負担になるが、すでに1万人以上の選手が登録を希望しているという。
女子選手の発掘、移籍の活発化にも
実は、グロリアに先駆けて、2018年7月に日本からも同様のアプリ「dreamstock」がリリースされている。こちらは、ユーザーが動画をアプリにアップすることでdreamstockが提携しているプロチームのオンライン選考に参加できるというもので、同社のリリースによると、リリースから半年ほどで20名のユーザーがプロチームに合流した。
代表は、ブラジル生まれの松永マルセロハルオ氏で、現時点で提携しているのはブラジルの37クラブ。今年1月の時点で登録者が7万人に達し、99%が海外ユーザーだという。オンライン選考で合格したユーザーとプロチームをつなげることで、選手のマネジメント権を取得しているというのも特徴だ。
同様のサービスの最大手として、2004年にイタリアで生まれた「Wyscout」もある。こちらは現在1000を超えるプロクラブ、1000のエージェンシー、60の代表チームが利用しているサッカー専門のオンラインデータベースで、毎週1500試合の動画がアップロードされており、会員になるとおよそ55万人のプレー動画を見ることができる。
しかも、動画にはゴール、アシスト、ショートパス、ロングパス、インターセプトなどプレーごとのタグが付けられているので、検索して、見たいプレーだけをチェックできるようになっている。
ほかにも、サッカー版LinkedInと評され、80万人以上の選手が登録している「Tonsser」などがあり、グロリアは後発のサービスになるが、競合サービスは女子選手の登録が少ないため、コゲヴィナ氏は女子選手の登録と移籍の活性化にも注力するとしている。
アルゼンチンと日本で女子サッカーリーグのプロ化が決定しており、女子サッカーが盛んな欧米も含めて、今後、女性プレーヤーの移籍が活発化することを見越して、アルゼンチンでサービスをスタートするのだ。
サッカー界では、テクノロジーを使ったスカウトが浸透し始めている。もしかすると、これまで世界のスカウトの目が届きにくかった極東の島国・日本から、メッシ2世と称されるような才能が発掘されたり、澤穂希2世と呼ばれるような女子選手が若いうちに海を渡るというケースも増えてくるだろう。この記事に挙げたようなスカウティングサービスは、少年少女に夢を与えるテクノロジーでもあるのだ。
<了>
久保建英は“起業しても成功”する? 幼少期から知る男が語る「バルサも認めた武器」とは
レアル・マドリードが“育成”でバルセロナを逆転 関係者が語る「世界一」の哲学とは
「天才はつくれない」日本で誤解されるアルゼンチンサッカー育成哲学のリアル
アルゼンチンで「リアルサカつく」? 世界基準の日本人FWを育成する「FC無双」の挑戦とは
「プレーモデルに選手を当てはめるのは間違い」レバンテが語るスペインの育成事情
この記事をシェア
KEYWORD
#COLUMNRANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
指導者の言いなりサッカーに未来はあるのか?「ミスしたから交代」なんて言語道断。育成年代において重要な子供との向き合い方
2024.07.26Training -
松本光平が移籍先にソロモン諸島を選んだ理由「獲物は魚にタコ。野生の鶏とか豚を捕まえて食べていました」
2024.07.22Career -
サッカーを楽しむための公立中という選択肢。部活動はJ下部、街クラブに入れなかった子が行く場所なのか?
2024.07.16Education -
新関脇として大関昇進を目指す、大の里の素顔。初土俵から7場所「最速優勝」果たした愚直な青年の軌跡
2024.07.12Career -
リヴァプール元主将が語る30年ぶりのリーグ制覇。「僕がトロフィーを空高く掲げ、チームが勝利の雄叫びを上げた」
2024.07.12Career -
ドイツ国内における伊藤洋輝の評価とは? 盟主バイエルンでの活躍を疑問視する声が少ない理由
2024.07.11Career -
クロップ率いるリヴァプールがCL決勝で見せた輝き。ジョーダン・ヘンダーソンが語る「あと一歩の男」との訣別
2024.07.10Career -
なぜ森保ジャパンの「攻撃的3バック」は「モダン」なのか? W杯アジア最終予選で問われる6年目の進化と結果
2024.07.10Opinion -
「サッカー続けたいけどチーム選びで悩んでいる子はいませんか?」中体連に参加するクラブチーム・ソルシエロFCの価値ある挑戦
2024.07.09Opinion -
高校年代のラグビー競技人口が20年で半減。「主チーム」と「副チーム」で活動できる新たな制度は起爆剤となれるのか?
2024.07.08Opinion -
ジョーダン・ヘンダーソンが振り返る、リヴァプールがマドリードに敗れた経験の差。「勝つときも負けるときも全員一緒だ」
2024.07.08Opinion -
岩渕真奈と町田瑠唯。女子サッカーと女子バスケのメダリストが語る、競技発展とパリ五輪への思い
2024.07.05Opinion
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
築地市場跡地の再開発、専門家はどう見た? 総事業費9000億円。「マルチスタジアム」で問われるスポーツの価値
2024.05.08Technology -
沖縄、金沢、広島…魅力的なスタジアム・アリーナが続々完成。新展開に専門家も目を見張る「民間活力導入」とは?
2024.04.26Technology -
DAZN元年にサポーターを激怒させたクルクル問題。開幕節の配信事故を乗り越え、JリーグとDAZNが築いた信頼関係
2024.03.15Technology -
「エディオンピースウィング広島」専門家はどう見た? 期待される平和都市の新たな“エンジン”としての役割
2024.02.14Technology -
意外に超アナログな現状。スポーツ×IT技術の理想的な活用方法とは? パデルとIT企業の素敵な関係
2023.10.20Technology -
スポーツ庁の想定するスタジアム像を超える? いわきFCが挑戦する、人づくりから始まるスタジアム構想
2023.08.07Technology -
スマホでピッチングが向上する時代が到来。スポーツ×IT×科学でスター選手は生まれるのか?
2023.06.09Technology -
「一人一人に合ったトレーニングをテーラーメード型で処方」アスリートをサポートするIT×スポーツ最前線
2023.06.06Technology -
スポーツ科学とITの知見が結集した民間初の施設。「ネクストベース・アスリートラボ」の取り組みとは?
2023.06.01Technology -
「エスコンフィールドHOKKAIDO」「きたぎんボールパーク」2つの“共創”新球場が高める社会価値。専門家が語る可能性と課題
2023.04.21Technology -
東京都心におけるサッカー専用スタジアムの可能性。専門家が“街なかスタ”に不可欠と語る「3つの間」とは
2023.03.27Technology -
札幌ドームに明るい未来は描けるか? 専門家が提案する、新旧球場が担う“企業・市民共創”新拠点の役割
2023.01.27Technology