
「青森山田に勝ちたい」昌平CB西澤、15歳で故郷と訣別、晴れ舞台で託された約束…
1月5日、等々力陸上競技場で開催された第98回高校サッカー選手権大会、準々決勝。この日1試合目のカードは青森山田高校と昌平高校が対峙した。
15歳で地元・青森を離れる決断を下した昌平CB西澤寧晟。偶然にも交差した“決断者”の不思議な因縁とは?
(文=土屋雅史、写真=Getty Images)
青森山田を倒すと誓って選んだ進路
「青森山田中(学)とは何回かやったことはあるんですけど、やっぱり勝てなくて。その山田に勝ちたいという気持ちがあって、それで昌平を選びました」。1試合目のカードは青森山田高校と昌平高校が対峙する一戦。後者のセンターバックを任された西澤寧晟は、特別な想いを抱いてこのゲームに臨んでいた。
青森県弘前市で生まれた西澤は、小学校2年生の時にリベロ津軽SCでサッカーを始める。そのチームで8年間を過ごし、高校の進路を考える段階になって、いくつかの選択肢の中に埼玉の強豪校が浮上する。
「自分のチームが毎年昌平に遠征に行っていて、その時に練習試合をさせてもらったこともありましたし、中3の夏に1回練習に参加したんですけど、『相手を見てサッカーをする』というベースの部分に共感して、サッカーが一番うまくなれる気がしたんです」。山田とは違うスタイルのチームで、山田に勝ってみたい。青森出身だからこその発想かもしれない。15歳の西澤は住み慣れた故郷をあとにし、埼玉の地で勝負する決断を下す。
とはいえ、実力者が居並ぶ環境の中では、Aチーム入りですら簡単なことではない。昨年の全国総体2回戦で昌平は、そこまでシーズン無敗だった青森山田に衝撃的な逆転勝ちを収めたが、西澤は違う遠征先で映像を見つめることしかできず、「純粋にチームが勝ったことに喜びを感じていましたけど、やっぱり自分が出ていないことに悔しさを感じていました」と率直に当時を振り返る。
中心選手として昌平を支える存在に成長した理由
とりわけかつてを知る2人の活躍に心が波立つ。「やっぱりヒデがプロになったりしている中で、『自分は何してるんだ』って思いましたし、優大も結果を残したりしている時に、自分が何もできていないことに悔しい想いもあって、『もっとやらなきゃな』と思ったことは何度もあります」。
青森県トレセンで共にプレーしたこともある同い年の武田英寿と、小学生時代のチームメイトでもある1つ年下の藤原優大。かたや高校選手権での日本一にレギュラーとして貢献し、浦和レッズへの入団が内定した武田と、同じく1年生ながら日本一をピッチで経験した上に、年代別の日本代表にも選出されている藤原。認めたくないものの、広がりつつある立ち位置の差に西澤が焦りを覚えていたことは想像に難くない。
苦しむ中で自身の特長も見失いかけていた。「自分は身長も高くないので、昌平だから『うまさに走ろうかな』と思った時もあるんですけど、今からうまさを追求したところで絶対に並の選手にしかなれないなというのがあって……」。
そんな時、あるアドバイスが心に刺さった。「内山(秀輝)先生が『センターバックをやるんだったら、まずは対人が強くなきゃ。攻撃ができても、守備ができないセンターバックは使えないでしょ』と言ってくれて」。ようやく覚悟が決まる。ひたすら対人練習を繰り返し、守備力の向上に着手。すると、自然と攻撃面でのスキルアップもついてくる。
最高学年となり、新チームがスタートしてからは定位置を確保。「対人の部分にはすごく自信を持てるようになりました」と言い切るように、全国屈指のテクニック集団の中で、自分の役割をしっかりとこなし続ける。最大の目標だった冬の日本一につながる高校選手権の県予選でも、チームは6試合で1失点という堅守を誇り、見事に埼玉を制覇。2番を背負うセンターバックは間違いなく中心選手として、昌平を支える存在にまで成長していた。
センターバックを本職とする先輩と後輩
2020年1月5日。等々力陸上競技場。西澤は特別な想いを抱いてこのゲームに臨んでいた。高校選手権準々決勝。相手は青森山田。武田も藤原もスタメンに名を連ねている。1つ下の “後輩”である藤原がある事実を明かす。「ずっと連絡は取ってなかったですけど、昨日久しぶりに連絡を取ったんですよ。そんなの小学校以来です」。同じセンターバックが本職。西澤にとっては“先輩”として負けるわけにはいかない。大きな覚悟を持って、緑の芝生へ走り出す。
前半にこんなシーンがあった。青森山田のセットプレー。エリア内で競り合った藤原は、どこかを痛めたのか、なかなか立ち上がれずにいると、そっと近寄った西澤が“後輩”の背中を伸ばす。「なんか自分もよくわからないんですけど、アイツのみぞおちに入っちゃったらしくて、痛がっていたのに誰も来なかったので、『ああ、じゃあ伸ばそう』と思って(笑)」。
“先輩”のさりげない気遣いが藤原の心にしみる。「小学校の頃からずっと一緒にサッカーをしてきたので、あそこで伸ばしてくれたのはすごくうれしかったですね」。別々の道を選んでから6年。2人の想いが等々力のピッチで交錯する。
ゲームは前半で青森山田が3点をリードする展開。後半に入って立て直した昌平は2点を返したものの、終盤の猛攻も一歩及ばず、そのままタイムアップの笛を聞く。「『終わったな』っていうのが一番に思い浮かんで、応援してくれる仲間とか、みんなに申し訳ない気持ちはすごく強かったです」。西澤は現実を受け止め切れない。
ピッチへ崩れ落ちる西澤に藤原が声を掛ける。「まさかここで一緒のピッチに立てるなんて想像もしていなかったし、お互い頑張ってきた結果として、今日一緒にやれたのはすごくうれしかったので、ここからはアイツの分まで戦おうと思います。“先輩”ですけど」。ようやく西澤が顔を上げる。「試合が終わったあとは『絶対日本一になってくれ』とその想いを託しました」。彼らをよく知る人たちにとっても最高の晴れ舞台は、西澤の涙と共に幕を閉じた。
「自分の努力次第で上に行けると証明できた」
「寮生活も最初は大変でしたけど、仲間もいて、良い影響がすごくあったので、そういう面では本当に成長できたかなと思います。洗濯も毎日コツコツやれば別に大変ではなくて。ためると面倒くさいですけど(笑)」。話しているうちに、少しずつ笑顔ものぞかせる。あるいは負けた相手が友人や後輩もいる青森県代表だったことは、高校サッカーの締めくくりという面でも恵まれていたのかもしれない。
改めて3年間を振り返って、西澤はこう言葉を紡ぎ出してくれた。「苦しい時もあったんですけど、自分の努力次第で上に行けるということを自分で証明できたかなと思いますし、その中で人としてもサッカー面でも本当に成長することができたので、今までの人生の中で一番濃い3年間でした」。
15歳で青森を飛び出した決断が、正しかったのかどうかはきっとまだわからない。これからの人生で西澤がこの3年間をどう捉え、どう生かしていくかが、自らの決断を自らで証明するための唯一の方法である。だが、遠い未来から振り返った時、この高校時代が “今”の自分を奮い立たせてくれるような、大事な時間になることを願いたい。
<了>
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