永里優季「日本だけでなく世界を見ないと」 女子プロ化の成功に必要な要件とは?

Opinion
2020.02.27

東京オリンピックの翌年、2021年に日本女子サッカーのプロリーグが新設されることが日本サッカー協会より発表された。さまざまな意見が問われる中、かつて2011年のFIFA女子ワールドカップで初優勝を果たし、日本中になでしこ旋風を巻き起こした“なでしこジャパン”のストライカーとして名を馳せた、永里優季。現在はアメリカのシカゴ・レッドスターズでプレーし、これまでも海外リーグでの豊富な国際経験を生かして日本女子サッカー界に貢献してきた彼女は、今の日本女子サッカーをどう見つめているのか――?

(インタビュー=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=大木雄介)

「勝てる」という根拠のない自信があるか、ないか

話は遡りますが、昨年行われた(2019 FIFA)女子ワールドカップでの日本代表の戦い方について、どんな印象を持ちましたか?

永里:予想通りでしたね。

具体的に言うと?

永里:もともと(今の日本代表は)準備をして挑むようなサッカーではないというのは、過去の試合を見てもそれがサッカーに表れていたように感じましたし、当然ワールドカップも同じようなスタイルで挑むだろうなという予測はできました。

“準備をしない”というのは?

永里:「相手をしっかり分析しない」ということです。

なるほど。とにかく自分たちのサッカーをやろう、という感じで、相手によって戦い方を変えない、ということですね。

永里:それがもろに表れたのが、引き分けに終わった、初戦のアルゼンチン戦だと思います(0対0)。「ふつうにやれば勝てるだろう」とは、きっと思っていたはずです。でも、ワールドカップが初めての選手や、チーム内で怪我人も多く、いつもどおりではない状況下で、チームとしてもどこかチグハグしていて、慌ててプレーしている選手が多かったように見えました。

それに、相手が良いプレーをしていたのもあって、あのような結果に。確かに、あの初戦でまず崩れてしまった気がしますね。

永里:やっぱり、初戦が一番大事だと思います。

そうですね。

永里:国際大会は特に、スタートから勢いをつけていかないと最後まで乗り切れないので。それに、勝ち癖がないと自信がついてこない。「勝てる」という、根拠のない自信があるかないかって、すごく重要です。

確かに。初戦から勝っていたら、「これ、いけるんじゃない?」という勢いを感じますよね。2019年のラグビーワールドカップでの日本代表も、まさにそうでした。初戦は苦しみましたが、その後のアイルランド戦での勝利から「トップレベルのチームが相手でもいけるんだ!」という希望に満ち溢れましたよね。

永里:そうですね。それから、完全に体格差が感じられてしまいました。相手チームは、自分たちが積み上げてきたものに対して自信を持って挑んできたのは伺えましたし、何か勝利の先にある目的を感じました。

国際大会で負けた試合では、体格の差で負けてしまったような印象を受けてしまいます。本来は、そのような差を感じさせるような戦いにしてはいけない、ということですよね。

永里:相手の土俵に乗ってしまっている、ということになりますからね。ただ、もちろんその「体格差」というのは国際舞台で戦う以上は最低限改善しなければならない部分なんですけど、物理的に体格が小さくても、自分たちを大きく見せることはできると思います。それが「自信」や「勝利の先にある目的」とも関係してくるかなと。

外国人選手が来るようなリーグにしないと、プロ化しても意味がない

東京オリンピックの翌年、2021年には、女子プロサッカーリーグの設立について宣言されましたが、このことについてお話を伺いたいと思います。

永里:2018年に(日テレ・東京ヴェルディ)ベレーザの試合を見に行った時、羽生(英之)さん(東京ヴェルディ株式会社 代表取締役社長)がいて、その時にプロ化の話を聞きました。「その時まで現役で頑張っていてくれよ」みたいな感じのことを言われて。実際、プロ化はどうなんでしょうね。

あのようにJFA(日本サッカー協会)が具体的に公式発表をして、チーム数や予算規模まで明言したので、思い切ったなと思いました。

永里:かなり思い切りましたよね。

実際に発表された時、どう感じましたか?

永里:本当に実現できるのか? まず、選手の意識が追い付くのか?というのは、一番最初に浮かびましたね。選手たちは本当にプロ化を望んでいるのか、と。

望んでいる人と望んでいない人、両方いるでしょうね。実際にプロ化がうまくいけば、ある程度のステイタスが確保されるという部分はあると思います。でも、J3とほぼ同じぐらいの予算規模のようですね。

永里:やはり、外国人選手が来るようなリーグにしないと、プロ化しても意味がないのではないかなと思ってしまいます。

その予算規模でも、外国から選手を呼べるようなやり方ができれば、今海外で活躍しているトップクラスの日本人選手を呼びこともできますよね。

永里:実際に始まってみないとわからないところは多いと思いますが、だからこそマーケットを国内だけではなく、世界でやっていかないと。

プロ化するなら、世界と繋がった形でないと意味がないということですね。本当に質の高い選手が来れば、日本代表の強化にも繋がるはずです。ただ、国内にいる我々でも半信半疑ならば、国外にいる永里選手から見たら、より半信半疑になりますよね。

永里:でももう、来年ですよね。東京オリンピックの結果次第で、また変わるような気がします。

そう考えると、今年の東京オリンピックはすごく重要ですね。

永里:結果を出さないと。

あとはやっぱり、2023年の女子ワールドカップの招致も絡んでくると思います。それも含めてJFAとしては、プロ化を言い出さなきゃいけないという部分もあったのでは。
ところで、「プロ化」となったら、当然選手たちはみんなその給料でサッカーをやる形になります。20万円でも、15万円でも、給料をもらってプレーすれば「プロ」と言えるのかもしれませんが、実際に今、世界の女子プロサッカー界はもっと先をいっていますよね。ヨーロッパのUEFA女子チャンピオンズリーグ上位チームでは、資金も潤沢になっているようです。

永里:リーグとしては、イングランドが今一番ですね。特にチェルシー、アーセナル、マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッド。

イタリアでは、ユベントスも。

永里:ユベントスは、今すごいですね。

あとは、中国も150億円ぐらいかけるようです。

永里:そんなに! だから、中国は外国人選手が多いですよね。

アメリカは、今回のワールドカップでの優勝を受けて、リーグにとってどんな影響がありましたか?

永里:スポンサーもけっこうついて、放映権料も上がったので、ベースの給料がアップするんですよ。サラリーキャップ制なので、一番下の人で20%ぐらいアップして、一番上の人は8%ぐらいしかアップしないんですけど。

わかりやすい効果として、スポンサーが増えたんですね。

永里:あと、チームも3チーム増えるんですよ、2021年から。

そうなんですか。日本女子サッカーがプロ化して成功できるかどうかは懐疑的ではありますけど、そのようにして世界と繋がりを持っていかないと、海外に良い選手を取られるばかりになってしまいますね。

永里:最近、日本人選手を獲得する海外チーム、あまりないですよね。

そう考えると、今年の東京オリンピックはすごく重要ですね。最後に、今のなでしこジャパンについてどう感じていますか?

永里:ビジョンやコンセプトという部分で、チームとしての共通の(勝利の先にある)目的意識、個人としてもですけど、「代表選手としてプレーすることを通して何を伝えたいのか」という部分を明確にすれば、もう一度世界一になるチャンスは十分にあると思います。日本代表の選手たちが持っている技術的な能力は高いですから。

ありがとうございました。

<了>

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[PROFILE]
永里優季(ながさと・ゆうき)
1987年生まれ、神奈川出身。シカゴ・レッドスターズ所属。ポジションはフォワード。2001年に日テレ・ベレーザに入団。2010年にドイツへ渡り、ブンデスリーガ1部トゥルビネ・ポツダムへ移籍。2013年イングランド1部チェルシー、2015年1月にドイツ1部ヴォルフスブルク、8月にフランクフルトへ。2017年よりアメリカのシカゴ・レッドスターズへ加入。女子日本代表“なでしこジャパン”として、2011年FIFA女子ワールドカップでは優勝、2012年ロンドンオリンピックでは銀メダル獲得に大きく貢献。

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