夏の甲子園「延期・中止」を早く決めよ! 球児の心に最も残酷な「決まらない」現状 高校野球改造論

Opinion
2020.04.24

新型コロナウイルス感染拡大、それに伴う緊急事態宣言による影響は高校野球にも深刻な影響を与えている。春季地区大会が全国9地区、47都道府県で中止となり、全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)の開催にも黄色信号がともった。しかし、日本高等学校野球連盟(日本高野連)からは「5月中に何らかの方向性を出す」という情報が伝わってきただけだ。

作家・スポーツライターの小林信也氏は、夏の甲子園の延期、中止も含めた方針を速やかに打ち出すことが、高校球児が「野球をやる本当の目的」を考えることにつながると語る。

(文=小林信也、写真=武山智史)

センバツ中止以降、高野連から目立った発信はない

新型コロナウイルスの感染がさらに広がる状況下、「夏も中止になる可能性」がいよいよ現実味を帯びている。

高校球児たちの当面最大の不安は、「夏の甲子園はできるのか?」だろう。

一方、『春のセンバツ』(第92回選抜高等学校野球大会)が中止になって以降、日本高野連から目立った発信は聞こえてこない。

ホームページを見ても、3月11日にセンバツ中止をトップページに掲載したあと、1カ月以上経っても新たなトップニュースの更新はなく、4月14日に春季地区大会の中止を事務的に伝える記事があるだけだ。

高校球界がいまやるべきこと、一緒に考えるべきことはたくさんあると思うが、日本高野連はセンバツ中止を決めた途端、活動を止めたかのようだ。

日本高野連の主な役割は春と夏の甲子園を運営することで、教育的な使命感など持ち合わせないのかと感じてしまう。もっとも、「高校野球とは何か」「これから自分たち高校球児はどう野球と向き合えばいいか」、そのような、一人ひとりの心の奥深いところに関わる核心にまで口を出されるよりはいいのかもしれない。その意味で日本高野連は分をわきまえて、球児の心には立ち入らないスタンスなのか。

春季地区大会は、沖縄県で開幕したものの、それ以外の都道府県では次々に中止が決まった。沖縄大会も準々決勝を終え、ベスト4が出そろった時点で中止になった。

7月24日に開幕予定だった東京オリンピックの延期も決まった。

海外では例年6月に行われるテニス・ウィンブルドン選手権、7月の恒例行事であるゴルフの全英オープンなど伝統の大会の中止も相次いでいる。スポーツではないが、昨年は2日間で108万人もの観覧者を集めたわが故郷・新潟県長岡市の花火大会(8月)も中止が決まった。このように、すでに7月、8月の予定もキャンセルされている。

早い地区では6月に始まる『夏の甲子園』地方大会が予定どおり開催できるのか? 可否を決めるカウントダウンが始まる時期が近づいている。

だが、いまのところ、「夏の大会をどうするか?」「夏の大会が中止か延期になった場合、どう対応するか」といった現実的な問いかけはまだほとんど見られない。

一日も早く、「夏の甲子園」への方針、対応を発表すべき

それを案じていたら4月15日になって、『日本高野連は14日、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急非常事態宣言を受けて、4月開催予定の会議、会合日程の変更を発表した。22日に予定していた第102回全国高校野球選手権大会第2回運営委員会を5月20日に延期する。また、同日予定していた第3回理事会は書面による持ち回り審議に変更する。』との報道が流れた。

開催について検討するどころか、会議そのものを延期し、可否についてはすぐに決めないのだという。デイリースポーツによると、
『第102回全国高校野球選手権大会は8月10日開幕予定。例年6月20日前後にスタートする地方大会の開催可否について、日本高野連は5月中に何らかの方向性を出す』とのことだ。

5月下旬まで、不安定な状態で高校球児が過ごすことになる。新型コロナウイルスのせいだから、仕方がないのか?

4月上旬の段階では、甲子園の常連校が現在も練習を中断せず寮生活を継続している、その理由を監督が語るインタビュー記事が目を引いた。その監督は「この方が安全だ」「正解はないから」といった言葉を口にしていた。

これらの言葉に、高校野球指導者の傲慢さ、価値観のずれと判断力のまひ、さらには世界観の狭さが表れていると感じたのは私の偏見だろうか。

監督の思いの土台には、「夏の大会はあっという間に近づいてくる。いま休んでいる場合ではない」という、何より甲子園出場を念頭に置く考えがあることがうかがえる。もし、普段から練習と寮生活の規律にはめ込んでいる部員たちを解放したら、どんな気ままな行動を取るかわからない、「その方が危ない」という意識が少しでもあるならば、もっと悲しい。

その後、政府から緊急事態宣言が発出され、ようやく尻に火が付いた格好で、高校野球の練習も中断される方向になった。いまになって、寮から自宅に帰す、練習を中止する、といったニュースが目立ってきた。これまではずっと練習を続けていたチームが少なくなかったのだ。これに関して、日本高野連はなんら指導も投げかけもしなかった。

日本高野連は一日も早く、「夏の甲子園」の延期を検討し、なんらかの対応と発表をすべきだと私は切望する。

休んだら不利になる? 緊急事態宣言下でも優先される勝利至上主義

もし実施の可能性を否定しなければ、全国のとくに強豪チームの多くは安心して休むことが難しいだろう。6月、7月に地方大会が始まると思えば、甲子園絶対主義に冒されている現在の高校野球指導者、球児、保護者たちは「野球より、いまは新型コロナウイル対策だ」という発想に芯から転換することが難しいのではないか。こっそりとでも練習を続けたチームが有利になる。どこかがやっているなら、自分たちだけ休んだら不利になる。いみじくも、昨夏も問題になったサイン盗みで語られた指導者たちの本音に通じる、そのような意識を一掃しないと、高校球児は精神的な混乱と葛藤で人間性を失いかねない。

だから、というのも悲しいが、日本高野連がいまできることは、「夏の大会は延期する」と一日も早く決定し、明言することだ。延期の先に何がありえるのか? 新型コロナウイルスの収束が見られなければ、最悪の場合、今年の高校3年生は、春も夏も、大会を経験せずに高校野球を終えることになるかもしれない。

そのことを覚悟することも必要な状況に直面している。
現状では、秋にできる可能性さえ誰も保証できない。

重要なことは二つあると私は感じている。

一つは、夏の大会を延期する場合、どんな可能性がありえるのかを、大人だけでなく、高校球児たち自身がアイディアを出し合い、さまざまな大会の実施プランを話し合うことだ。

地方大会を来年春に行うことも一つの方法だろう。3年生はその分、いつもより長い高校野球生活になる。受験勉強などはいまのうちにやっておく。高校を卒業する直前まで部活動を続けるのは、むしろ本来の姿といってもいいはずだ。

もう一つは、高校球児の大半が目標に掲げる「甲子園出場」が中止によって失われた場合、高校球児の目標はほかになかったのか? 本来の高校野球の目的は何かを、これも球児たち自身が真剣に自問自答し、見つけ出すことが大事だと思う。一人で見つけきれないならば、さまざまな先輩たちの助言や生きざまを手がかりにすればいい。そういう情報提供も重要ではないかと考える。

そしてもっと大切なのは、チーム全体で野球ができないこの時期に、高校球児たちが何を考え、どんな行動ができるかだ。

「もし夏の甲子園が中止になったら」と仮定するのは、高校3年生にとっては厳しいかもしれない。だが、現実に可能性はふくらんでいる。中止と発表されて泣き崩れるのでなく、いまから「自分はなぜ高校で野球をやっているのか」「目的は甲子園出場だけなのか?」、しっかりと甲子園以外の目的と意義を自覚することが重要だ。

「自分は甲子園のために野球をやっているんじゃない」

はっきりとそう言える高校球児が一人でも多くなることこそ、日本の高校野球が変わる大きな手がかりではないかと思う。

いまがその絶好の機会だ。監督たちは、「夏に備えて、自主練は欠かすなよ」と脅すのでなく、「野球の意義、野球との付き合い方をしっかり見つめなおそう」と助言する方がずっと教育的だろう。

今年の試練が、日本の高校野球を変革するきっかけになる可能性はある。私はそのような胎動を心から期待している。

第10回 泣き崩れる球児を美化する愚。センバツ中止で顕在化した高校野球「最大の間違い」

第9回 金属バットが球児の成長を止める。低反発バット導入ではなく今こそ木製バットに回帰を!

第8回 「指導者・イチロー」に期待する、いびつな日本野球界の構造をぶち壊す根本的改革

第7回 なぜ萩生田文科相「甲子園での夏の大会は無理」発言は受け入れられなかったのか?

第6回 なぜ、日本では佐々木朗希登板回避をめぐる議論が起きるのか?

第5回 いつまで高校球児に美談を求めるのか? 甲子園“秋”開催を推奨するこれだけの理由

第4回 高校野球は“休めない日本人”の象徴? 非科学的な「休むことへの強迫観念」

第3回 鈴木長官も提言! 日本の高校球児に「甲子園」以外の選択肢を

第2回 「甲子園」はもうやめよう。高校野球のブラック化を食い止める方法

第1回 高校野球は誰のもの?“大人の都合”が遠ざける本質的改革

<了>

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