「筋トレをしたら身長が伸びない」は本当? 専門家が語る“育成年代の子供”に必要な保護者像とは
競技に限らず、スポーツに取り組む育成年代の子どもを持つ親の悩みは尽きない。そんな中、先月発売された書籍『子どもがバスケを始めたら読む本 7人の賢者に聞いた50の習慣』の中で語られる言葉の数々は、バスケ関係者だけにとどめておくにはもったいない数多くの学びが詰まっている。例えば「主体性を持った人間に育ってほしい」という思いはスポーツの枠を超えて子を持つ親の共通した願いであるし、子どもの身長を少しでも伸ばしてあげたいという気持ちも競技を問わないだろう。わが子をよりよいプレーヤーに育てるために親に求められる理想の保護者像とはどのようなものなのだろうか。
(文=三上太、写真=Getty Images)
よりよいプレーヤーへの成長を促す親の最新事情
1カ月ほど前から、妻に触発され、人生で何度目かの英語の勉強を始めている。手始めに英単語アプリをスマホに入れたのだが、そこに「up-to-date」の文字が……うーん、「アップデートやろ?」。正解は「最新の」である。アップデートでも間違いではないのだが、言葉を、日本語を生業にしている身としては「最新の」を出したかった気持ちもある。その数日後に取材したストレングスコーチは「アップデートは大事ですよ。最近の指導者はあまりしていない気がしますね」とこぼしていた。なるほど、最新の事情に常に触れておくことは、少なくともわれわれが生きているスポーツの世界で大切なことなんだなと、改めて思う。
スポーツの世界に生きる人というのは、実に多岐に渡る。年齢にかかわらずプレーヤーと呼ばれる人たちはもちろんのこと、「監督」「ヘッドコーチ」「コーチ」……いろんな呼び方はあるが、いわゆる指導者もそうだし、彼ら・彼女らをサポートする現場のスタッフや、「フロント」などと呼ばれる運営面でサポートする人たちもいる。兼任する人もいるだろうが、そうした人々も常に「up-to-date」、最新の事情を学びながら、よりよい道を選ぼうとしているはずだ。
前置きが長くなったが、そんなことを書こうと思ったのは、拙著『子どもがバスケを始めたら読む本 7人の賢者に聞いた50の習慣』(ベースボール・マガジン社)を上梓したからである。
書店などに行くと、プレーヤーがよりよいプレーヤーになるために、また指導者がよりよい指導者になるために、最新事情を示した書籍が多い。インターネットを探ってみても、ターゲットはたいていプレーヤーであり、指導者である。しかし、こと育成年代のプレーヤーにとって、指導者と同じくらい大きな影響力を持つのは彼ら・彼女らの親、つまりは「保護者」ではないだろうか。かく言う筆者も3人の子を持つ親である。しかし親の最新事情なんてまるで知らない。いや、数年前からよく聞く「“怒る”と“叱る”は違うんだよ」みたいな話には触れていたけれども、スポーツを始めた子に親が何をしたらよいのかまでは知らなかった。なんとなく、自分の親がそうしていたように接すればいいかな。もしくは指導者にお願いしたんだから、指導者に任せておけばいいかな。そう言いつつ、練習が終わった車の中で「あれって、こうじゃない?」みたいなレクチャーが始まるのだが……われながら親って勝手なものだと思ってしまう。
「RICE」が「POLICE」になっていることをご存知ですか?
バスケットボールのジュニア期のコーチングの専門家であり、拙著の監修者でもある株式会社ERUTLUC(エルトラック)の鈴木良和氏はよく「お父さん、お母さんはなぜお子さんにスポーツをさせるのですか?」と聞くそうだ。たいていの親は「健康に育ってほしいから」、「仲間を作ってほしいから」、「努力することを学んでほしいから」といった返事を返してくる。その裏には「よりよく成長してほしい」という思いがあるのだが、実際には子どもが試合に出られないと「なんでウチの子を使わないんだ?」と言ってしまう。鈴木氏からすれば「試合に出られないことはむしろ成長のチャンスじゃないか」。出られなかったときにどう考えて、何をするのかを子どもたち自身が考えて、行動することで彼ら・彼女らは成長していく。
また鈴木氏は「自主性と主体性の違い」に触れ、前者は「すでに決められている課題や問題に自分から取り組もうとすること」と言い、後者は「取り組むことを自分で選んで決めること」と言っている。これは親に限らず、指導者にも言えることだが、課題を含めてすべてを与えていては子どもたちの主体性は育たない。そうした主体性のなさは、彼ら・彼女らが判断を伴うスポーツをしたときに大きな阻害となりかねない。
しかし親になると、つい自分の経験則に従って、子どもたちの選んだ道が正しい、あるいは間違っていると伝えたくなる。そこにはもちろん子どもたちに「失敗させたくない」という親心もあるのだが、失敗さえも彼ら・彼女らの成長の肥やしになるのであれば、その失敗は無駄にならない。むしろ「成長のチャンス」なのである。そう聞くと「そうだな。よし、今夜からそうしてみよう」と思うのだが、「ああしなさい、いや、それはダメ」とつい口を衝くのが親である。親子でそろって成長するためにも、なんとかそれを乗り越えたい。今の筆者の課題である。
心理的な面だけではない。例えば筆者のようにスポーツをしていた保護者であれば「RICE(ライス)」という言葉を知っているだろう。ケガをしたときの応急処置のことだ。安静にして、冷やして、圧迫して、挙上する。しかし現代は違う。「保護」を意味する「Protection(プロテクション)」のPが加わって「PRICE(プライス)」だったり、「最も適した負荷をかける」を意味する「Optimal Loading」が「R」の代わりに「OL」を入れた「POLICE(ポリス)」になっている。そうした最新事情に触れないまま、かつての経験、かつての知識だけで対処していると、結局苦しむのは、親自身が成長を楽しみにしているはずの子どもたちなのである。
「筋トレをしたら身長が伸びない」は本当?
また、これも昔から言われてきて、今もごくたまに聞く言葉として「筋トレをしたら身長が伸びない」がある。しかし近年の研究で、どうやらそれは正しくないということがわかってきている。もちろん遺伝によって身長に個体差が出るのは、残念ながら(?)今も昔も変わらないようが、少なくとも筋トレが身長の伸びない直接的な要因にはならないという研究もある。適切なトレーニングをして、その後、ストレッチなどで縮んだ筋肉を元の状態の戻してあげることで、子どもたちが持つ身長の可能性は制限されないというのである。親としてはつい聞きたくなる「どうすれば身長は伸びますか?」の答えは難しいが、少なくとも「こういうことをすると身長が伸びにくくなりますよ」という答えは以前よりも出てきている。
そこには「睡眠」と「食事」も大きくかかわってくる。人間は体温が高いところから低いところに下がっていく中で深い眠りについていく。その観点からいえば、就寝の90分前にはお風呂に浸かって、体を温め、少しひんやりとした布団に入ることで体温を下げると、深い眠りにつきやすい。暑い夏などはクーラーを使って、体温を1度くらい下げると、途中で起きずにぐっすり眠れる。成長ホルモンが出る時間も長くなり、疲労も回復できる。食も、遺伝的な個人差はあるにせよ、体重過多の子どもは早熟傾向にある。そうした子どもはたいてい炭水化物、つまりはご飯やパンばかりを食べていることが多い。それらを食べることがけっして悪いわけではない。ただ炭水化物を必要以上に摂りすぎると、成長ホルモンが出にくくなる。結果、身長も伸びにくくなるのかもしれない。成長過程にある子どもたちに「食べるな」とは言えない。むしろしっかり食べるべきだが、その際に気をつけたいのは「バランスよく食べる」ということである。
「おにぎりのほうがお得だよ」という“お得感”
女性の体の仕組みがよくわかっていない親もいる。筆者の子どもも2人が娘なのだが、たいていの男親は月経についての知識がほぼない。むろん筆者を含め彼らはそうした教育をほぼ受けていないし、むしろ男性がそれに触れることはタブーであるようにいわれてきた。しかし娘の親になった以上、そんなことはいっていられない。万が一にでも娘が世界を代表するトップアスリートになったとしても、現役プレーヤーとして過ごす時間と、引退後の時間を考えれば、たいていは後者のほうが長い。そのときに一人の女性として、いかによりよく生きるかのカギは、育成年代を含めた現役時代にある。
「女性アスリートの3主徴」をご存知だろうか。「利用可能エネルギーの不足」と「月経異常・無月経」、「骨密度の低下(骨粗しょう症)」の3つである。食事の量や内容に関わる「利用可能エネルギーの不足」が「月経異常・無月経」につながり、「骨密度の低下(骨粗しょう症)」から疲労骨折に発展していく可能性があるというものだ。そうしたことに親が無関心でいると、やはり苦しむのは子どもたちなのである。
そうすると「何を食べさせればいいんだ? わが家は夫婦共働きで、帰宅も残念ながら遅くなる。つい、パパッと作れるものになる」という保護者もいるだろう。だから「部活動の帰りに何か食べておいてよ」とお金を渡す家庭もあるかもしれない。そんなときに「お菓子を買って食べるのはもったいない。プレーヤーだったら、おにぎりを1つ買って食べたほうが得するんだよ」と一言添えられたらいい。栄養素がどうのこうのと言っても、子どもたちは「は?」と思うだけ。だからといって端から「お菓子はダメ」と言うより、「おにぎりのほうがお得だよ」と“お得感”を出すことで、子どもたちも受け入れるかもしれない。ちょっとした最新の知識を知るだけでも、一般的に「よくない」と言われがちなコンビニやファストフードもうまく利用することができるのだ。
上段から「親だったらこうしなさい。こうするべきだ」と言えるほど、筆者も素晴らしい親ではない。むしろ知らないことのほうが多い、ごく一般的な親だと思う。しかし、だからこそ、学ばなければいけないと思っている。これもよく言われることだが、最初の子どもが生まれた瞬間に、親も親としてのスタートを切る。同じ“0歳”なのである。子どもたちが成長していくように、親も常に「up-to-date」、最新事情をアップデートしながら成長していきたい。
<了>
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