スポーツ界が稼ぐヒントは「歌舞伎」にあり? キングコング西野×元Jリーガー社長・嵜本が熱論、コロナ禍で稼ぐ秘策
昨年から続く新型コロナウイルスの猛威により、スポーツ界は苦境に立たされている。プロスポーツチームは収入が大きく減少し、実業団に対してお金を出し続ける余裕もなくなっている。
そこで今回、未来を見据えたエンタメを生み出すため、クラウドファンディングを活用して2億円以上を調達してきたキングコング西野亮廣さん、そして、元Jリーガーで22歳で現役を引退し、現在は上場企業の社長として華麗なるセカンドキャリアを歩む嵜本晋輔さんの2人が、新たな“価値の創出”が求められているスポーツ界の未来の在り方を語り尽くした。
(進行=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=高須力)
手数料はゼロでスポーツ界に還元! スポーツオークション『HATTRICK』はなぜ生まれた?
スポーツとお金――。この2つは決して切り離して考えることはできない。コロナ禍においてスポーツ界全体が苦境に立たされている中、嵜本さんが2019年に新たに始めたのが、スポーツオークション事業『HATTRICK』だ。
なぜオークションなのか? オークションはスポーツ界の救世主になり得るのか? クラウドファンディングを活用して2億円以上を調達してきた西野さんの目線を交えながら、オークションの可能性を考えたい――。
――嵜本さんが昨年からスポーツオークション事業『HATTRICK』を始めた背景を教えてください。
嵜本:アスリートが実際に試合で着用した物、例えばスパイクなんかは、本来ものすごく希少価値がある物ですよね。ただ日本ではスポーツに特化したオークションがなかった。そのため希少価値がある物として扱われていないという課題がありました。ヤフオクやメルカリで売買されているわけですが、問題なのが、本物と偽物が同列に並んでしまっていること。また個人の価値観で値付けしているので、本来10万円で売っていい物も3万円で出品されてしまう。アスリートが本来持っている価値が毀損(きそん)されているという状況が、これまでの日本のスポーツ界の課題としてありました。
昨年、新型コロナウイルスの感染拡大により緊急事態宣言が発出されたことで、試合が開催できなくなったり、無観客や観客数を制限して開催することでクラブの収入が失われる事態になりました。そんな中でどうやって収入を生み出すことができるかを考えたときに、オークションならクラブに有効活用されずに眠っている資産を現金に換えることができる。そのお金で選手の雇用を守ったり、育成に使ってもらおうということでスタートしました。1年で総額1億円ぐらいの売り上げがあり、参加してもらった各クラブに還元させてもらいました。でも僕たちは手数料を頂かずにやったので、5000万円ぐらいの赤字が出てしまいました(笑)。
西野:素晴らしいですね。
嵜本:西野さんが「お金を稼ぐんじゃなくて、信用を稼げ」と言っているのを聞いてヒントにしました。“今はお金を取ったらあかん”と思って。後からマネタイズしていけばいいし、信頼を勝ち取れるのは2年、3年と続けてからだと考えています。
唯一無二の一点物には、他に代え難い希少価値がある
西野:例えば僕がガンバ大阪の選手で、スパイクをオークションに出そうかなと思ったら、どうすればいいんですか?
嵜本:クラブ経由で私たちが商品を預かって、オークションページに載せる写真をカメラマンに撮ってもらったり、商品説明文を書いたり……、なので全部丸投げしてもらう形ですね。
――だから5000万円の赤字になったんですね。
西野:なるほど。それで売れた分がクラブに入ってくるんですか。
嵜本:今は全額クラブに入れています。
西野:むっちゃいいじゃないですか!
嵜本:唯一無二の一点物で、それぞれにいろんな希少性があり、ファン、サポーターが価値付けをしていきます。僕らのメインのビジネスがブランド品のオークションなので、そのスポーツ特化版という形でやっています。
西野:誰が買ったかは選手に伝わるようになってるんですか?
嵜本:今は基本的には伝えていないですね。ガンバとの取り組みからスタートしたんですけど、ガンバには公開しています。将来的にはガンバが持っているチケットやグッズの購入履歴などの顧客データと、『HATTRICK』の顧客データをひも付けることで、お客さまの購買行動パターンを見ていこうという話をしているところです。
お金を払って働きたい人だらけ? オークションは“何を出すか大喜利”
嵜本:落札したお客さまに、選手が自ら出品アイテムを持っていくサプライズなんかもやりたいなと思っています。あとは、遠藤保仁選手のフリーキックの壁になれる権利とか、非現実的な体験もオークションの商品にはなり得るなと思っています。コロナ禍でまだ実現はできていないんですけど。
――「フリーキックの壁」はサッカーキングで「an」とのコラボ企画でやったことがありますが、ものすごくバズりました。
西野:むちゃくちゃいいですね! オークションは説明も簡単じゃないですか。“何を出すか大喜利”というか、“それも出していいんだ”ってなったらどんどんどんどん。それこそフリーキックの壁ってこれまでお金になってなかったものが、お金になるわけですよね。僕がサッカーのファンだったら、(試合や練習が終わった後の)片付けとかむっちゃやりたいですけどね。ボール拾って、かごに入れて。友達と一緒に「行こうぜ!」って。
“お金をもらう”っていうのは、ずっと労働の対価だったじゃないですか。でもキャンプとかバーベキューっていうのは、働くことに“お金を払ってる”じゃないですか。肉を焼くとか、テントを立てるとか、お金を払って働いてるじゃないですか。むしろキャンプ場側がテントを用意してたら満足度が下がるし、みたいな。多分取りこぼしはむちゃくちゃあるはずで、お金を払って働きたい(人)だらけな気がします。
――Jリーグを目指しているチーム(南葛SC/関東リーグ2部)のGMをやっていて、今はコロナ禍でスタッフ以外は練習を見られないんですけど、例えば1日5人限定でボランティアで手伝う権利を売ったら、買ってくれる人はいそうですね。
一番お金を落としている人に優越感と特別扱いを
西野:オークションっていいっすね。例えば、僕が好きな選手がいて、その選手がスパイクを出したとして、10万円で買えたとしても、その選手のことをむちゃくちゃ好きだったら、10万円で落札できるって分かってても、多分20万円ぐらい出すんですよ。で、その分はもう使ってください、って。
キャバクラとかホストクラブのシャンパンとかはまさに、これが原価ではないことはみんな分かってるじゃないですか。ただだからといって、直接お金を渡すのはちょっとあれだからということで、あれ(シャンパン)をかましてるじゃないですか。
スパイクを10万円で買えるところ、20万円で買うのは、これは完全に支援なので。物が欲しい人もいれば、本当に“支援”の人もいるでしょうね。そうすると、ホント下心が出て嫌ですけど、“僕が支援したんだよ”っていうのを伝えてほしいかもしれない。“支援”で買う場合は。
――確かに明確になった方がいいかもしれません。
西野:支援の場合は、加速するだろうなって。SHOWROOMなんて分かりやすいじゃないですか。一番課金した人が画面のトップに来る。“俺が太客ですよ”みたいな感じがビジュアルで分かるじゃないですか。あれって伝統的に昔からあって、それこそ歌舞伎だったら「成田屋!」とか言う人がいるじゃないですか。あれは言う人が決まっていて、歌舞伎座に20回も30回も40回も通った人がある時、声掛けグループから「ちょっとお客さま……」って声を掛けられて、「今度から『成田屋!』って言うのをやっていただいていいですか」って。「大向こう」っていうんですけど、素人が勝手にできるわけではなくて任命される。そこに結構優越感があるというか、特別扱いされる。
――“一番通ってる人”というのが周りにも分かる、と。
西野:そうです、そうです。一番お金を落としている人に、ちゃんとメリットがあるというか。それがやっぱり幸せだなと。“市川團十郎を支えているのは俺だぞ”っていう。
コロナ禍で“人を呼ぶ”ビジネスは崩壊。必要になるのは…?
――コロナ禍でJリーグクラブがクラウドファンディングをやっていましたが、やっぱり濃いファン・サポーターが各クラブに何千、何万といるので、結構すごい金額が集まっていました。
嵜本:数千万円は余裕でいっていましたね。
――億いったクラブもありましたね。だからクラウドファンディングはだいぶ日本に定着してきたように感じますが、オークションはまだまだ定着していないように感じます。
嵜本:そうですね。『HATTRICK』では、クラウドファンディングのように、売り上げ金額の使途を明確にしているんですよ。いうなれば、クラウドファンディングの“応援購入”のような形でオークションをやっています。
西野:むっちゃ大事ですね。やっぱり受け止めなきゃいけないなと僕らも本当に意識しているんですが、今コロナ禍で、なんとなくみんな貧しくなったみたいなのはあるじゃないですか。前からちょっとずつ雲行きは怪しかったんですが、コロナ禍が決定打になったなと思っていて、みんな結構お金がないっていう状態で。ただ多くの人はお金がない状態ですけど、お金を持ってる人は持ってるっていう、この差がむっちゃ開いたなって思うんですね。
――それが見える化されましたよね。
西野:そうすると、前までだったら、何万人に2000円とか3000円ずつ(払って)もらうみたいな、とにかく“人を呼べ”みたいなモデルでしたが、2000円、3000円払える人がもう何万人もいない、3000人ぐらいしかいないってなったら、富裕層がお金を出せる器みたいな、VIPをちゃんと受け止めるお皿みたいなものをつくっておかないと、もう回んないです。それはスポーツに限らず、全てそうで。それでいうと、オークションいいですよね。大きいお金がバッと出せる、出したい人はいるんで。
選手が自分で自分の練習着のスポンサーを探す。メリットは?
嵜本:課題を挙げるとすれば、現在『HATTRICK』ではクラブと取引をしてるんですよ。クラブに出品していただいているので、クラブにお金を還元できるんですけど、それが選手には還元されていないんですよ。本来やりたいのは、選手の価値を上げていくことや、選手を持続可能な状況に持っていくことなんですけど。ただクラブもいうなれば緊急事態で、財政状況は厳しい。なかなか選手にまで回らないのが実情です。
西野:もったいないですね。だって、むしろ選手に回るってした方が、選手はむっちゃ宣伝するじゃないですか。
嵜本:まさにおっしゃる通りで、まさにそこなんですよね。今後どう変えていくことができるかというのが課題だと考えています。南葛SCでは、選手の個人スポンサーをやっているんですよね。
――練習着のスポンサーは選手に開放していて、収入は全部、クラブじゃなくて選手が取っていいよ、としています。例えば胸につけるのは50万円とか、背中は20万円とか、選手が自由にやっていて、競合もOKにして。
西野:おもしろ!
――選手たちも最初は何をしたらいいか全然理解できていなかったんですよ。でも誰かがやり始めたらみんなまねし始めて、一番多い選手は総額で300万円ぐらいつけています。すごくいい実験だったなと。
西野:格闘技とかそうですもんね。パンツにいっぱいスポンサーがついてて、同じ画面に競合も絶対映ってるはずだけど、OKですもんね。
――試合のユニフォームスポンサー(パートナー)なんかはクラブの財源として売らないといけないんですけど、練習着はクラブで売ったとしてもたいして高くは売れないので、だったら選手が自分を応援してくれる人をとってきた方がいいかな、と。でも選手は「お金が無いみたいで嫌だ」と言うんですよ。じゃあ「タダで入れていいです」と100人に声を掛けてみたら、半分ぐらいの人は「お金を出す」って言ってくるから、まずは100人に声を掛けなさい、と。選手にとっては営業の勉強にもなるはずなので。
西野:そこ大事ですよね。吉本(興業)……辞めたんですけど、よくその話をしてたんですよね。吉本は結構グッズを売っているんですが、グッズの売り上げがほぼ芸人に入んないから、芸人がそのグッズの宣伝をしない。じゃあ誰が宣伝をしてるかっていうと吉本の社員が宣伝してるんですけど、吉本の社員はフォロワーがいないので(宣伝にならない)。だったら、このグッズの売り上げの3割でもいいから芸人に入れてあげたら、芸人は自分のグッズの宣伝をTwitterとかでするわけですから。そうした方がクラブも選手も絶対得ですよね。
プレーだけじゃない。クラブの収入に対する貢献度の見える化が重要に
嵜本:僕が考えている今後のスポーツ界のテーマは、“貢献度の見える化”だと思うんですよ。実際サッカークラブは鉛筆なめなめで移籍金とか年俸も決まっていて、どの選手のグッズがどれだけ売れたかとか、どの選手を見に来るためにどれだけのチケットが売れたかとか、クラブの収入に対する貢献度が見える化されていない。今はプレーの貢献度でしか評価されていないんですが、その両面で評価されるようになれば、選手ももっと何をすべきか考えるようになるのかなと。これは全ての業界において同じことがいえると思います。
そのヒントになったのが、「スタッフスタート」というアプリで、今アパレル業界がこぞってそのサービスを導入しています。アパレル業界で働くスタッフはすごくセンスがよくて、いうならばインフルエンサー的な立ち位置の人もいるにもかかわらず、固定給でしかもらえないんですよね。このアプリを導入すれば、スタッフが隙間時間で自分のところのブランドでコーディネートした姿をSNSに投稿して、それを見たユーザーが購入したらスタッフに還元されるという、まさに貢献度の見える化がされるわけです。コロナ禍で店舗での売り上げが低迷している中、月に何千万円も売り上げているスタッフもいるんですよ。
まさに西野さんが言うように、インフルエンサーというか、影響力がある人の発信をうまく活用して売り上げをあげるというのは、スポーツ界でもうまくやっていければいいですよね。
西野:でも『HATTRICK』は一歩前進した感じがありますね。あともう一つ、選手のところにちゃんと還元されるっていう、もう一発壁を抜ければ。
嵜本:なので今いろいろ考えています。アスリートのDtoCみたいなものを。
西野:むちゃくちゃ要る。
嵜本:岩本さんも言っていたように、営業することによって、商売感覚が養われるじゃないですか。“自分の影響力がお金に換わる”ということを、プラットフォームを通じて勉強できる。そういう訓練が必要で、それがセカンドキャリア問題の解決にもつながっていくんじゃないかなというのが、今の僕の考えですね。
西野:それむちゃくちゃ大事ですね。
“アスリートとスポーツの可能性を最大化する”というビジョンを掲げるデュアルキャリア株式会社が運営する「HTTRICK(ハットトリック)」と、アスリートの“リアル”を伝えることを使命としたメディア「REAL SPORTS(リアルスポーツ)」との連動企画として、【REAL SPORTS × HATTRICK チャリティーオークション】を開催。
REAL SPORTS × HATTRICK チャリティーオークション公式ページは【こちら】
<了>
PROFILE
西野亮廣(にしの・あきひろ)
1980年7月3日生まれ、兵庫県出身。お笑いコンビ・キングコングとして華々しくデビュー、人気を博した後、絵本を描き始める。クラウドファンディングで資金調達し、分業制で制作した絵本『えんとつ町のプペル」は約70万部の大ヒットを記録。主催のオンラインサロンは国内最大の約7万人(2021年4月時点)の会員を抱え、自身の体験を著したビジネス書は全て10万部を超えるベストセラー。製作総指揮を務めた映画『えんとつ町のプペル』は処女作にして、動員170万人、興行収入24億円を突破、第44回日本アカデミー賞 優秀アニメーション作品賞という異例の快挙を果たす。
PROFILE
嵜本晋輔(さきもと・しんすけ)
1982年4月14日生まれ、大阪府出身。バリュエンスホールディングス株式会社 代表取締役社長。デュアルキャリア株式会社 代表取締役社長。2001年にJリーグ・ガンバ大阪に加入、22歳で現役引退を。2007年に実兄2人と共にブランド品に特化したリユース事業「MKSコーポレーション」を立ち上げ、同年にブランド買取専門店「なんぼや」をオープン。2011年株式会社SOU(現バリュエンスホールディングス株式会社)を設立。2018年に東証マザーズ上場。2019年9月にはFAN AND株式会社(現デュアルキャリア株式会社)を設立。現在はサポートや寄付等を目的としたスポーツオークション「HATTRICK」をはじめ、アスリートのデュアルキャリアを支える取り組みを進めている。
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