卓球女子・早田ひな、安定した強さの理由 日本のトップに躍り出た彼女の新しい武器を見逃すな!

Opinion
2023.01.24

卓球女子のパリ五輪選考ポイントで、伊藤美誠や平野美宇をおさえて現在首位をキープしている、早田ひな。1月17日に更新された世界ランキングでも日本人トップの5位となった。昨年11月に行われた全農CUP TOP32 船橋大会では「試したい技もあった」と語るなど、パリ五輪行きを懸けた選考大会においてもチャレンジする姿勢を崩さない。好調を維持する早田が手に入れた、新しい武器とは?

(文=本島修司、写真=Getty Images)

強烈さと精度を増した、バックハンドの“連動” 

世界卓球選手権ダーバン大会(個人戦)アジア大陸予選会・女子シングルス。日本女子卓球界の期待を背負った早田ひなが、圧倒的な強さでインドのリース・リシャ・テニソンに勝利。女子ダブルス、混合ダブルスと合わせて出場3種目での世界選手権への出場を決めた。早田の実力を思えば当然の勝利ともいえるこの試合には、“結果”以上に“内容”の面でも大きな収穫が浮き彫りになった。

テニソンとの決勝。序盤の1ゲーム目は4-4からもつれあうような展開に。ここから早田はいつも通りに、リーチの長さを生かしたフォアハンドで、圧倒していく。そのまま11-7でこのセットを勝ち切る。2セット目も、早田が主導権を握る攻防。

しかし、このあたりから変化が見え始める。特に9-5からの1本が、とてもわかりやすい。バークミートの打ち合いとなったこの展開。これを、ラリーのスピードが加速していく中で、早田は軽々とこなしながら“打ち抜き切ってしまう”シーンがとても印象的だった。まるでバックミートの打ち合いを楽しんでいるかのような、余裕すら感じさせた。

3ゲーム目は、バックハンドのドライブもさえわたる。テニソンのミスも目立ったが、このあたりも、早田のバックドライブの質が明らかに良くなっていた。もともと、リーチの長い天性のフォアハンドが特徴ではあったが、ここにきてバックハンドのドライブも、さらに“しなる”ような動きと迫力が増してきた。

6-3の場面では、台から少し離されて、バックを振る形に。そこも精度の良さと、右利きの相手の台の角へしっかりと入れていくコース取りの良さでポイントを取り切っている。10-4となり、今度はバックドライブからのバックミート連打の形で打ち抜いた。ここでは華麗な「動きの連動」が目を引いた。

「体勢が崩れても入るバックハンド」で決まった勝負

打ち方に切れ間がなく、単発にならない、しなやかな動き。

4ゲーム目の最初の1本も、難しいボールだった。ここは、フォアドライブをテニソンが、うまく早田のバックへ返球。これが、ややカウンター気味に入ってきたため、“食い込まれる”ような形になったが、食い込まれながらも、バックハンドのスイングが乱れない。そのまま、何事もなかったかのようにクロスへ返球して得点に。

すでに勝負が決まりかけた3-0で迎えた4ゲーム目なだけに、この1球は見逃されがちだが、このプレーは「体勢が崩れても入るバックハンド」「打点にズレが生じても入ってしまうバックハンド」に仕上がっていることを感じさせた。

8-2からは、バックドライブをストレートに。これで相手を動かしてから、バックミートをクロスに決めた。これは卓球において王道のコンビネーションではあるが、早田ひなの動きはここでも、“華麗に連動”しており、まるでミスする気配がない凄味を感じる。

そのまま4ゲーム目を取って勝負が決まった。

全農CUP決勝、平野戦でも見せていた進化したバックハンドの片鱗

早田が手に入れた新しい武器。それは、今まで以上に磨かれた「バックハンドの連打と強さ」だ。

さかのぼること、2カ月前。2022年11月に行われた全農CUP TOP32 船橋大会。ここでも、その片鱗はすでに見られていた。

この大会の決勝戦は、早田ひな対平野美宇の対決となり、平野の劇的な復活で幕を閉じた。高速連打による「ハリケーン平野」の復調と、久々に見せた前陣両ハンドの強烈な切り返しによる、“入り出すと止められないかつて平野の姿”が見られた一方で、早田ひなもまた、バージョンアップした姿を見せていた。

絶好調だった平野を相手に、厳しくなったこの試合、2ゲーム目。2-2から、平野が速攻で攻め込んでくる中でも、バックブロックとバックミートで得点する姿があった。また、バックドライブ一発で相手のミドルを打ち抜くようなボールも見られた。これは今までの早田にはあまり見られなかったコース取りだ。

熾烈な日本代表争いを繰り広げる連戦が続き、両選手ともに疲労の色を感じさせたこの試合の中でも、早田には新たな可能性を感じさせる、光るボールがたくさんあった。その多くは、これまでにないバックハンド強打だったように感じる。

そして、全日本選手権へ。役者がそろった大会での真価

1月23日から、国内戦の大一番、全日本卓球選手権大会が行われている。特に女子は、本当に「熾烈」としかいいようがないパリ五輪代表争いの過密スケジュールの中で、多くの選手が疲労の蓄積と戦っていると思われる。年末年始にかけては、早田もそれを感じさせるシーンが何度もあった。伊藤美誠もインタビューで「卓球が嫌いになりそう」とまで口にし、涙を流したシーンもあった。

何事も、煮詰まると噴きこぼれてしまう。どれだけ偉大な選手であってもこれだけの緊張感の中で長い期間勝ち続けることは容易ではない。つかの間の休息を大事にし、2023年最初の大舞台に挑む選手たち。全日本選手権では、パリ五輪を目指す全選手がなんとか全力を出しきれる大会になることを祈りたい。

その中で、連戦の疲労と戦い、世界選手権では出場機会が減るほどのケガとも向き合いながら、早田は確実な進化を遂げてきた。

最大のライバル伊藤美誠。完全復調の平野美宇。若手成長株のコンビ、長﨑美柚と木原美悠。ベテランの石川佳純。超新星の張本美和。役者がそろった、2023年度全日本選手権。

早田にとっても、本来の力が出せれば優勝が約束されるような大会ではない。それでも、昨年から安定した強さを見せ始めた早田が、新たな武器も駆使しながら、全日本選手権でも決勝進出を果たすような勝負強さを見せれば、パリ五輪へと続く道は確実に見えてくる。

早田ひなが繰り出す、新しい武器。今まで以上に強烈なバックハンドの、速い連打に注目だ。

<了>

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