なぜ遠藤航は欧州で「世界のトップボランチ」と評されるのか? 国際コーチ会議が示した納得の見解
遠藤航のプレミアリーグ屈指の名門リバプール移籍が実現。モハメド・サラー、フィルジル・ファン・ダイク、トレント・アレクサンダー=アーノルドら豪華メンバーの一員として、憧れの地イングランドでさっそくリーグ戦デビューを飾った遠藤航。5シーズンにわたってプレーしたドイツ・ブンデスリーガでは、シュツットガルトで3季連続キャプテンを務め、2季連続でリーグ最多デュエル数の“デュエル王”にも輝いた。日本代表の主将も務める遠藤航の、欧州の指導者たちが認めるすごさとは? 国際コーチ会議が遠藤を「世界のトップボランチ」と評価する理由を改めてひも解く。
(文=中野吉之伴、写真=AP/アフロ)
度重なるグループリーグ敗退にドイツ連盟サイドの見解は…
世界トップレベルの大会で結果を残すために必要なクオリティとは何か。
2023年7月、ドイツサッカー連盟とドイツプロコーチ連盟とで共催される国際コーチ会議では、昨冬行われたFIFAワールドカップ・カタール大会の分析のプレゼンがあった。壇上に上がったのはドイツU−21監督アントニオ・ディサルボとU-20監督ハネス・ヴォルフ。
ドイツ代表の2大会連続グループリーグ敗退に加え、U−21欧州選手権でもグループリーグで散るという結果を受けて、連盟サイドがどのような見解を述べるのかと、会場に詰め掛けた参加者は注目していた。この国際コーチ会議の参加者はドイツ公認A級およびプロコーチライセンス(S級相当)の指導者約1000人。みなそれなりの知見と経験を持った人たちだ。
「カタールワールドカップは過去大会と比べて特別な状況で開催された大会だったのは間違いない。ほとんどない準備期間、普段とは違う開催時期。それだけにオフェンスとディフェンスのバランスをどのように見出し、そしてそれぞれの国が持つ個々のクオリティをどのようにチームへ取り入れようとしたのかが差となって表れたのではないだろうか」
ディサルボが指摘するように、チームとしての意思疎通が的確にとられ、守備バランスを崩さない戦い方を重要視する国が多かったのは確かだ。それ以上のことを浸透させるための時間がほとんどないのだから、攻撃的なプレー戦術の幅と精度にはある程度目をつぶらざるをえない。
だからこそ相手に対応されたときに、それを突破・攻略・対処する個々の能力とアイデア、ゲームインテリジェンスが適切に発揮されたかどうかが、試合の行方を左右する大きなカギとなった。
遠藤航の選出に多くの指導者たちが納得の表情
ディサルボとヴォルフは壇上でパワーポイントを進め、今大会で重要な役割を見せたポジションと代表的な選手を紹介していく。ボランチが取り上げられ、4選手の写真がスクリーンに映し出される。
フランス代表のオーレリアン・チュアメニ、アルゼンチン代表のエンソ・フェルナンデス、イングランド代表のデクラン・ライス、そして日本代表の遠藤航だ。よく知る日本人選手が取り上げられたので、参席していた筆者は思わず声が出そうになった。落ち着いて周囲を見渡すと、よく知る指導者仲間だけではなく、多くの指導者たちが納得したように大きくうなづいていたのが印象的だ。
なぜこの4人がボランチにおけるトップレベルの選手として評価されているのか。
それは、彼らが果たしている役割が、チームの試合運びに極めて大きな影響を及ぼしているからだろう。
例えば、サッカーというゲームにおいてボールを奪い取り、「さあ、ここから攻撃へいくぞ!」という状況で、イメージ通りに素早く前線の選手にパスをしたり、ドリブルで持ち運んだりできるのか、あるいはそのルートを防がれてバックパスせざるをえなかったり、さらにはそこで取り返されてしまうのかというのは、ゲームの主導権を握るうえでとても大きな意味を持つ。
ゲームコントロールとはボールを持ってどうこうすることを意味するのではなく、ゲームにおいて不確実な要素が起こりにくいような準備ができているかが肝心だ。サッカーとはそもそも不確実な要素が多いスポーツだからこそ、自分たちがボールを失った後でもすぐにピンチになるようなことがなく、それどころかすぐまた自分たちでボールを取り返すことができる選手がいたら、他の選手は大きな信頼感をもっていろんなプレーにチャレンジができる。
「彼らはいつでもボールを奪い切れる局面を狙っている」
ヴォルフはこう話す。
「チュアメニ、エンソ、ライス、そして遠藤という選手は、前を向いてボールを運ぼうとしている選手がどこにいるかを瞬時に見つけ出し、その選手が自由に攻撃のスイッチを入れるのを妨げるだけではなく、そこでボールを奪い返すスキルが極めて高い。
ボール奪取というところに注目すると、彼らは常に足を止めずに、アタックすることを躊躇しない。多くの選手はそこでかわされたり、外されたりするリスクを考えて、距離を取ったり、ミスを犯さないような選択肢を決断するが、彼らはいつでもボールを奪い切れる局面を狙っている。不用意に飛び込んだりはしないが、スピードを落とすことなく、ボールを動かした先を予見して体をぶつけて、一気に奪い取りに行くので、相手選手はかわし切ることも難しい」
ヴォルフはライスのプレーを例に、映像を見せてくれた。ボールを保持しているチームのDFが視線の先にいるフリーになっているはずの選手へ安心してパスを送ろうとする。だが、それこそが罠だ。あえて自分がアタックしようとしている選手との距離を取り、パスが出た瞬間に瞬足ダッシュで距離を詰め切ってしまう。
背中を向けてボールを受けると視野の確保が難しいというのは、少しサッカー経験のある人なら聞いたことがある話だと思うが、これを試合の中でやり続けるのは簡単ではない。トップレベルのプロ選手でもどこかで背中を向けたままパスを要求し、そこでボールをコントロールしようという局面が必ず出てきてしまう。自分の背中裏で何が起こっているのかを完全に把握するのは、誰であっても難しいし、突然死角から狡猾に襲われたらさすがに対処できない。
遠藤もそうだ。相手を油断させ背後からすすっと忍び寄るタイミングの取り方が本当にうまい。
チームメートを躍動させ、チームを支える存在
「自分が真ん中にどっしり立って、自分の前のスペースに顔を出してきた選手に対してプレッシャーをかけにいくところは意識していたし、それがハマったシーンが何回かあった。無理だったら割り切ってしっかりブロックを引いて守るみたいなところはやれていたと思います」
これは昨季ハンブルガーSVとの1部残留をかけた入れ替え戦の時の遠藤の談話だ。運動量が豊富でどこにでも顔を出すイメージもあるが、いつ、どこで、誰に、どのようにアタックするかを冷静に見極め、行ける時には一気に襲いかかる。ブンデスリーガで1対1での勝率が高いのはやはりこのあたりに理由がある。
そして遠藤はボール奪取後のプレー判断にも長けている。ボールを取って終わりではない。スペースがあればそのままスピードとアグレッシブさを落とすことなく、相手に阻止されることなく、ゴール方向へと一気に運んでいく。ディサルボが話を続ける。
「さっきと逆の話になりますね。前に出てこようとするところを抑えきれずに別のベクトルへボールを運べる選手がいると、守備組織を整理し直すのが難しい。なぜ優れたボランチをチームの心臓部と表現するのか。ボールを奪い取った後、ダイレクトへゴール方向にスピーディに、かつダイナミックに運べる選手というのは、チームのクオリティを2倍にも3倍にも高めてくれるからです」
トップレベルの選手が持つクオリティとして、ディサルボとヴォルフは「どれだけのプレッシャーがかかる状況でも解決策を見つけ出せるインテリジェンスとスキル」「自身のクオリティを最大限チームのために発揮する意志とタスク」「攻守において決定的な場面で決定的なプレーを実践」の3点を挙げていた。攻撃的な選手や攻撃的なアクションにばかり注目が集まりがちだが、こうした要素は守備における局面やフィフティフィフティの状況でも当てはまることばかりだ。
遠藤がシュツットガルトで3季連続キャプテンを務めたのには確かな理由がある。そして今回リバープールのユルゲン・クロップ監督が遠藤獲得に乗り出したのにも明確な意図がある。チームメートを躍動させ、チームを支える存在として、リバープールでも日本代表でも、今後の活躍に期待が集まる。
<了>
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