なでしこジャパン2戦2敗の「前進」。南米王者との連敗で見えた“変革の現在地”
昨夏のパリ五輪で準優勝を飾ったブラジル女子代表は、2027年の女子ワールドカップ開催国として優勝候補に挙げられる強豪だ。その南米王者のホームに、なでしこジャパンが乗り込んだ。結果は2戦2敗。しかし、その結果とは裏腹に、ニルス・ニールセン監督が掲げるチームコンセプトの浸透と、選手層の底上げという確かな成果があった。ワールドカップ予選まで残り10カ月。変革を進めるチームの現在地と、そこから得た学びとは?
(文=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=アフロ)
南米王者との2連戦。チーム作りの進捗と現在地
なでしこジャパンは、現地時間5月30日と6月2日に、ブラジル女子代表と国際親善試合を2試合行った。
“サッカー王国”ブラジルの女子代表は、低迷期を経て、昨夏のパリ五輪で準優勝。2027年女子ワールドカップの自国開催が決まった今、国内の注目度も高まっている。アーサー・エリアス監督のもと、パリ五輪前から進めてきた世代交代が実を結びつつある。欧州や北米の強豪クラブで活躍する選手が増え、育成や戦術面の整備も進み、ワールドカップでは優勝候補の一角と見なされている。
一方、ニールセン監督体制となって6試合目を迎えた日本も、確実にチームづくりを前進させている。2月のシービリーブスカップではコロンビア、オーストラリア、アメリカを下して初優勝。4月のコロンビア戦では課題も残したが、国内組を含めて選手層を広げ、コンセプトの共有を進めてきた。
今回の2連戦では、「ゲームモデルとコンセプトの再確認」「自分たちのスタイルを100%出し切ること」がテーマに掲げられた。さらに、ワールドカップ開催国の雰囲気を体感することも重要な目的の一つ。ニールセン監督は「現時点で2年後に最も近い23人」として選考したメンバーを招集し、主将には28歳の長谷川唯、副将には26歳の南萌華を指名。熊谷紗希と田中美南をサポート役に加え、チームの中枢を固めた。今回は長谷川が体調不良で不参加となり、試合では南と田中がキャプテンを務めた。
「全員キャプテンとしてプレーできる準備ができていますし、今回のように誰かが不在の場合は、4人の中の誰かがキャプテンをすることになります。彼女たちは選手としても素晴らしく、このチームを強くできる存在だと思います」(ニールセン監督)
ブラジルに2連敗も、想定外の強度がもたらした学び
第1戦は1-3での敗戦。ブラジルはマンツーマンの激しい守備で日本のビルドアップを封じ、自陣ではユニフォームを引っ張る、激しく削りに来るなど、ファウル覚悟のプレーも多く見られた。
「プレッシャーの強度が想定していた以上でした。パスでスピードアップしたかったのですが、長いパスになってしまった。選手は恐れを感じていたかもしれません」(ニールセン監督)
舞台はサンパウロ州のネオ・キミカ・アレーナ。3万3000人の観衆がサンバのリズムとともにスタンドを揺らし、日本のボール保持にはブーイングが飛ぶなど、ワールドカップ本番さながらのアウェー感も体感することとなった。その中で、日本は55分までに3失点し、清家貴子のゴールが決まったのは89分だった。
中2日で攻守に修正を図った第2戦で、ニールセン監督は先発6人を変更。前半から主導権を握った日本は、後半開始直後に清家が2戦連続ゴールで先制に成功した。しかし、セットプレーとカウンターから失点し、1-2で逆転負けを喫した。
センターバックでフル出場した石川璃音は、守備での教訓をこう語る。
「ゴールに行かれる前にファウルで止めることや、遅らせて味方を待つ冷静な判断が必要でした」
一方、途中出場の宮澤ひなたは、攻撃面の課題を感じていた。
「マンツーマンで前から圧力をかけてくる相手への対応に、もっとできることがあったと思います」
同じく、アタッカーの松窪真心は、「ゴールまで行けるシーンを多く作れたことはポジティブに捉えたいですが、決めきれないとこういう強い相手には勝てない」と決定力不足を悔やんだ。
敗戦の中に見えた手応え。コンセプトの浸透が進む
攻守の強度や、チームとしての完成度もブラジルが一枚上手だったが、現体制で3年目を迎えるブラジルに対し、まだ4カ月目のなでしことでは、成熟度の差が出るのはある意味当然である。試合後のニールセン監督の表情は、意外なほど明るかった。
「今日(2戦目)のパフォーマンスには非常に満足しています。1戦目より準備ができ、自分たちから仕掛けて戦うことができました。セカンドボールへの反応や守備陣のパフォーマンスも良く、この内容を続ければブラジルにも勝てると感じました」
国際親善試合はあくまで強化の場であり、ニールセン監督はメンバーを入れ替えつつベストを探る過程での敗戦はポジティブな材料と割り切っている。同じく、昨夏にアメリカ代表の指揮官に就任したエマ・ヘイズ監督も、パリ五輪では優勝したが、その後は進化の過程で敗戦という痛みも受け入れる姿勢を見せている。
今回の2連戦で特筆すべきは、主力中心で臨んだ1戦目より、控え選手が多くピッチに立った2戦目の方が、日本のスタイルがより機能した点だ。これはコンセプトやゲームモデルがチームに浸透している証ともいえる。
個人に目を向けると、攻撃陣では21歳コンビの藤野あおばと浜野まいかが持ち前のドリブルでブラジル守備陣を切り崩し、清家はスピードと決定力で切り札としての存在感を見せた。中盤では、籾木結花、松窪、三浦成美のトライアングルが高い連携力を発揮。特にアメリカで3年目を迎えた三浦のプレーは印象的だった。
「フィジカルの強い選手たちと普段から戦う中で、守備で奪える場面が増えました。そこが今の自分の明確な強みです。チャンスをつかもうという気持ちで臨んでいます」(三浦)
守備陣では19歳の古賀塔子の安定感、石川の対人能力の高さも光った。国内では1対1でほとんど敵なしの石川も、世界のトップクラス相手と対峙する貴重な経験はさらなる成長の糧となったはずだ。
「自分の武器である1対1では勝つことを考えていました。相手にボールが入った時に、寄せる時と離す時を分けて対応できたのも良かったと思います」(石川)
「変化を楽しむ」チームへ。なでしこが示す新たなマインドセット
次戦は6月27日、アウェーで世界ランキング2位のスペインと対戦する。前回2023年の女子ワールドカップ優勝国であり欧州王者でもあるが、日本の選手たちに恐れる様子はなく、むしろ強豪に挑めることを楽しみにしているように映る。
その背景には、ニールセン監督体制で導入されたメンタルトレーニングの影響もあるだろう。2月のシービリーブスカップでは、瞑想によってイメージを視覚化するようなセッションも行われたという。そして、今回はまた違った取り組みが行われたようだ。清家はこう語る。
「今回の活動では、聞きなじみのない“モメンタム”という言葉が出てきて、チームに勢いをもたらすプレーとは何かを整理しました。今まで体験してきたことでも、言葉や文字で共有することによって、勢いがほしい時にどういうプレーをしたらいいのかが明確になりました。毎回の合宿で何かしら取り組んでいますし、新鮮に感じています」
敗戦を糧に、なでしこジャパンは3週間後のスペイン戦に臨む。ニールセン監督の“変革の青写真”は、着実に具現化され始めている。
「スペインはポゼッションのチームで、縦に速いブラジルとは違います。ただ、(今年7月の)UEFA欧州女子選手権の優勝候補でもあるので、戦うことで学ぶ機会を得られると思います。恐れずに取り組んでいることを発揮すれば戦えると思いますし、リラックスしてプレーできればいいプレーができると思います」
小さな成功体験を自信に変え、敗戦から得た学びも糧に進化を続けるなでしこジャパン。その挑戦は、確実に強豪国と渡り合う力へと変わりつつある。
<了>
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