なぜ堂安律がキャプテンだったのか。北中米大会へ向け“10番”に託された森保ジャパンの現在地
イングランド代表を敵地ウェンブリーで破った3月シリーズの直後、森保一監督は帰国せず、ヨーロッパで視察を続けた。北中米ワールドカップへ向けたチームづくりが進むなかで、存在感を増しているのが堂安律だ。森保ジャパンとともに成長し、エースナンバーを背負い、主将の役割を担うまでになった“背番号10”の変化を追った。
(文=藤江直人、写真=アフロ)
欧州視察の先にあった指揮官の狙いとは?
FIFAランキング4位の強豪イングランド代表から通算4度目の対戦で初勝利を、しかもロンドンの聖地ウェンブリー・スタジアムでもぎ取り、世界を驚かせてから迎えた最初の週末。日本代表の森保一監督はコーチングスタッフらとともに帰国せず、ヨーロッパで視察を続けていた。
4日はオランダ・アムステルダムのヨハン・クライフ・アレナで行われた、アヤックス対トゥウェンテを視察。翌5日にはドイツ・フランクフルトへと足を運び、ドイチェ・バンク・パルクで行われたアイントラハト・フランクフルト対ケルンを視察して翌6日に帰国の途に着いた。
アムステルダムを訪れた目的は明白だ。アヤックスには3月シリーズに招集され、約1年9カ月ぶりの代表戦復帰が期待されながらも右太もも裏を痛めて辞退した冨安健洋と、背中の痛みで1月下旬から欠場が続き、3月シリーズでも選外になっていた板倉滉がともに所属している。
トゥウェンテ戦では板倉がベンチ入りを果たしたが、出場機会は訪れなかった。それでも試合後に両DFと会談の場をもった森保監督は、7日に帰国した羽田空港でこう語っている。
「コンディションが上がってきている感じで、2人ともいい顔をしていた。チーム関係者からも今後の彼らの起用法や、リハビリをどうしていくのか、という点も含めていろいろな話ができました」
ならば翌日にドイツへと移動した目的は何だったのか。フランクフルトのセカンドチームのアシスタントコーチと日本代表コーチとを兼任している、元日本代表キャプテンの長谷部誠氏とミーティングの場をもったと明かした森保監督は、そのうえでこんな言葉を紡いでいる。
「数多くの試合があったなかで、不公平にならないように、という意味で視察しないで帰ってこようかなとも思いました。そこで必要なところを、という判断でその2試合に行きました」
森保ジャパンとともに歩んだ7年
代表選手で言えば、フランクフルトには堂安律が所属している。3月シリーズでも「10番」を背負った堂安は、スコットランド戦で後半途中から、イングランド戦では先発でそれぞれ出場している。視察に訪れたケルン戦でも先発出場していた堂安に関して、森保監督はこう言及した。
「(堂安)律とは会っていないですね。会わずに試合だけを見て、日本に帰ってきました」
代表活動で何度も言葉をかわしていただけに、ケルン戦後に言葉を交わさなかった意味もわかる。それでも帰国する前に、代表戦後もプレーする姿を確認しておきたかった理由も伝わってくる。
キャプテンの遠藤航だけでなく、遠藤の不在時にゲームキャプテンを務めてきた南野拓実がともにケガで選外となっていた3月シリーズ。森保監督は堂安をチームキャプテンに指名している。
堂安が日本代表で刻んできた軌跡は、森保ジャパンの歴史と完全に一致している。第1次政権が船出した2018年9月のコスタリカ代表戦。パナソニックスタジアム吹田のピッチに送り出された11人の先発陣のなかに、初招集でA代表デビューを果たした堂安の名前があった。
当時20歳の堂安は東京五輪に臨む年代別代表チームの主軸で、U-21日本代表監督と兼任する指揮官の期待を背負う形で冨安、伊藤達哉とともに飛び級で抜擢されていた。先の3月シリーズで通算の代表キャップ数が「64」に達した堂安は、その間に11ゴールを決めている。
そのなかにはFIFAワールドカップ・カタール大会のドイツ、スペイン両代表戦で、ともに1点ビハインドの状況から決めた同点ゴールも含まれる。しかし、代表デビューからしばらくは「自分が、自分がと思いがちだった」と振り返る堂安は、いまではまったく違うと照れくさそうに笑う。
「自分のパフォーマンスがどうであれ、とにかくワールドカップで勝ちたい、という思いが強い。たとえ泥臭い守備でもチームの勝利に貢献したい、という思いをすべての選手がもっている。僕自身で言えば、追い求めるゴールやアシストじゃなくても、無得点でもいいから日本をワールドカップのベスト8以上に行かせたい。以前の自分らしくない、まったく新しい一面が出てきて久しい。そう思わせるチーム作りをしてきた森保監督やコーチングスタッフは本当にすごい」
カタールでの敗戦後に芽生えた覚悟
心境に変化が生じている、と堂安が気づいたのは、自身の名前を知らしめたカタール大会だった。グループEを首位で突破しながら、クロアチア代表とのラウンド16で1-1から突入したPK戦の末に苦杯をなめ、4度目の挑戦でまたしてもベスト8の壁にはね返された直後だった。
「ゴールを奪えた点で、僕自身、カタールには比較的いい思い出がある。その意味でクロアチアに負けたときに、以前の僕ならば『もっと点を取りたい』と思いがちな状況でそうならなかった」
たとえようのない悔しさを成長への糧に変えた堂安は、吉田麻也や長友佑都らのベテラン選手に引っ張られる日本代表の若手選手から、チームの勝敗に対する責任を背負う中心選手になる目標を新たに掲げた。実際、クロアチアに敗れた直後の堂安はこんな言葉を紡いでいた。
「次は僕たち東京五輪世代が背負っていかなきゃいけない。僕自身、エースになりたいとずっと言ってきましたけど、リーダーにもなる覚悟をもっていかなければいけないと思っています」
カタール大会翌年の2023年3月に船出した第2次森保ジャパン。その2度目の活動だった同年6月シリーズで、堂安は空き番になっていた「10番」を託され、いま現在に至っている。
「代表の『10番』は特別な番号だと認識しています。同時に自分は運がいいというか、居心地がよくなってきたときに常に新しいプレッシャーがある人生を歩んでいるんですよね。もちろん、そういったプレッシャーに打ち勝つメンタリティーや強気な姿勢が、自分にはあると思っています」
気持ちを震わせてエースの証である代表の「10番」を背負った堂安は、直後に想像もしていなかったサプライズを経験している。舞台はガンバ大阪時代に慣れ親しみ、A代表でデビューを果たしているパナソニックスタジアム吹田にペルー代表を迎えた同年6月20日の国際親善試合だった。
キャプテンの遠藤航が81分にお役御免でベンチへ下がる直前。左腕に巻いていたキャプテンマークを外して堂安の左腕に巻いた。森保監督の指示だったと、後になって堂安は聞かされた。
「試合後に森保監督とも少し話もしました。監督の粋な計らいなのかどうかはわからないですけど、このスタジアムで巻いたキャプテンマークには重さを感じたし、感慨深いものがありました」
リーダーとしての自覚も芽生えさせつつある堂安に、指揮官もこう語りながら目を細めた。
「今シリーズから背負う『10番』を介して、自分にプレッシャーをかけている面もあると思うが、それこそが律のよさ。これまで通りギラギラ感と突き抜ける向上心をもってプレーしてほしい」
攻守で示す10番の価値「本当のサイドバックのように」
エースとリーダーの二刀流へ挑む堂安の変化は、2024年の6月シリーズから導入され、昨年末に筆者が取材した段階でワールドカップ北中米大会でも「継続させる」と明言。先の3月シリーズでもキックオフ時に採用している<3-4-2-1>システムのもとでさらに顕著になった。
森保監督は左右のウイングバックに、サイドバックの選手ではなくアタッカーを配置した。選手たちが口をそろえて「モダンな3バック」と歓迎した攻撃的なシステムのなかで、右ウイングバックを主戦場とした堂安は攻撃力だけでなく、追い求めてきた泥臭い守備でも貢献し続けた。
ウイングバックには左に三笘薫と中村敬斗、右には堂安と伊東純也が主軸として起用されてきた。そのなかで森保監督は、特に堂安の名前をあげながらこんな言葉を残している。
「攻撃的なウイングバックと呼ばれていますけど、実は彼らの守備能力もものすごく上がっているんですよ。全員がそうですけど、特に律は本当のサイドバックのようにプレーしている。日本の子どもたちのなかにもうまい選手は大勢いると思いますけど、うまくて代表の『10番』を背負う律のような選手があれだけ献身的に、何度もアップダウンを繰り返して泥臭く守備をしてくれる姿は、小手先のうまさだけでは世界を渡り歩いていけないんだと教えてくれていると思う」
日本代表史上で初めてワールドカップをまたいで指揮を執る森保監督は、第2次政権で名波浩、前田遼一両コーチを入閣させた。前者に攻撃、後者にセットプレー全般を任せ、引き続きコーチ陣に名を連ねる齊藤俊秀コーチが守備をそれぞれ担当する完全分業制を敷いている。
自らはチームマネジメントにより比重を置いてきた過程で、周囲への気配りを欠かさない誠実な人柄がさらに前面に押し出されるようになった。たとえば代表活動後には、時間もバラバラに所属クラブへ戻っていく選手たちを、宿泊先のホテルロビーで森保監督が見送る姿が恒例となっている。
長友佑都に象徴されるように、代表に招集されながら試合で起用しないどころかベンチ入りメンバーからも外し続けてきた選手たちに対して、森保監督は試合前夜にそれぞれの部屋を訪ね、自らの言葉で決定事項を伝えてきた。指揮官の配慮に感謝しながらも、長友はこんな言葉を残している。
「試合前日の夜まで、選手の選考に関してはかなり悩んでいると思います。そのなかで僕が常に監督に言ってきたのは『次は絶対に選んでもらえるようにしてみせます』と。それだけです」
託されたキャプテンの意味
こうした時間を共有してきたなかで、堂安が森保ジャパンに抱く思いはさらに変化を遂げてきた。
「東京五輪のときから森保さんに育ててもらっていますし、信頼も感じている。その後に年下の選手たちも数多く代表入りしてきたなかで、やらなくちゃいけない、という責任感を感じている選手は僕だけじゃない。この監督のために勝ちたい、という思いは間違いなく僕を含めたすべての選手がもっている。(遠藤)航くんや(南野)拓実くん、(板倉)滉くんたちも同じだと思う」
堂安がこんな言葉を残したのは、森保監督が通算100試合目を迎えた昨年11月のボリビア代表戦後だった。国立競技場(現・MUFGスタジアム)で3-0の快勝を収めた一戦以来の活動となった3月シリーズは、くしくも板倉も、南野も、久保建英も、さらに遠藤もケガで選外だった。
そのなかで堂安がチームキャプテンを務めた。谷口彰悟や伊東純也も候補にあがったなかで、第1次政権からの森保ジャパンの歩みをあらためて振り返れば決してサプライズではなく、心身両面でもっとも成長を遂げてきた堂安だからこそ任せられる、まさに必然に導かれた指名だった。
ワールドカップ北中米大会に臨む26人のメンバーが発表される5月中旬を前に、ともに1-0で勝利した3月シリーズをもって代表活動はすべて終えた。残された期間へ森保監督はこう語る。
「それぞれの所属クラブで、個の力をどれだけあげていけるか。ただ、私が思っている以上に常に高みを目指している選手たちばかりなので、あえて言わなくても心配はしていません」
信頼の二文字を寄せられる選手たちの中心にいる堂安は、指揮官が「だいたい決まっている」と明言するワールドカップ代表のなかにもちろん名を連ねているだろう。そして、強敵オランダ代表とのグループF初戦を終えた2日後の現地時間6月16日に28回目の誕生日を迎える。
<了>
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