日本での“良いプレー”が通用しない衝撃。秋山裕紀がドイツで学んだ評価のズレ、欧州標準のリアル
欧州サッカーは「フィジカルが強い」――。そのイメージは、もはや一面的なものに過ぎない。今シーズンよりドイツ・ブンデスリーガ2部ダルムシュタットでプレーする秋山裕紀が直面したのは、強度だけではない「戦術理解の深さ」だった。2019年に当時J2のアルビレックス新潟に加入し、J3のアスルクラロ沼津、鹿児島ユナイテッドFCへの期限付き移籍を経て、新潟で3シーズンJ1でもプレー。Jリーグで豊富な経験値を積んで欧州に渡った秋山は、日本では“良いプレー”とされる選択が、ドイツでは評価されないことに衝撃を受けたという。その違いはどこにあるのか。現場で得た実感から、サッカーの本質に迫る。
(インタビュー・文=中野吉之伴、写真=アフロ)
秋山裕紀がブンデス2部を選んだ理由
欧州サッカーは日本のサッカーと違う。そう語られてきて久しい。ハードなぶつかり合いが当たり前のデュエル、インテンシティ高くゴールを狙うダイナミックさ、審判の笛の基準などなど、これまでに多くの選手や指導者が様々な指摘している。
そんな中、元日本代表アナリストで現在はドイツ・ブンデスリーガ2部キールでアナリストを務める佐藤孝大が、こんな言葉を残していたことがある。
「2部で驚いたことがあるんです。正直日本にいた時、2部リーグってロングボールばっかり、フィジカルばっかりというイメージがあったんですけど、実際はそうじゃない。2部リーグで対戦相手を分析したり、コーチングスタッフとも話をしてると、2部リーグにもたくさん優秀な監督たちはいる。指導者の戦術的な知識も近年で一気にアップデートされてきている印象があります。配置のところでいろんな意図的な仕掛けがされています。だから2部リーグもすごく面白いですし、非常に難しいし、とても魅力のあるリーグです」
同様の印象を、今季ブンデス2部・ダルムシュタットでプレーする秋山裕紀も口にしていた。ヨーロッパサッカーは以前から見ていたので、ある程度のイメージはできていたというが、実際にプレーしたことでの衝撃は、すごく大きかったという。
「まずシンプルにやっぱりうまいな、速いなっていう印象がありました。肌で感じたものは、日本サッカーとはまったく違うという衝撃。それは一人一人のスケールの違いもそうですし、フィジカルコンタクトやスピードは日本人よりレベルが高いなと感じました」
秋山は自ら希望でドイツ2部クラブでプレーすることを選んだ。自分のウィークポイントがこのリーグであれば補えるチャレンジができると考えたことが理由だという。自分の足りていない部分に逃げないで向き合うことによって、ウィークポイントをせめて平均値まで上げる、あるいはストロングにまでしてしまうということを考えた時に、このリーグに足を踏み入れようと心に決めた。
確かにドイツ2部は秋山が思い描いていたように肉弾戦、球際、コンタクトの厳しさは間違いなくある。ただ、予想していなかったのは戦術的な洗練度だった。
「ドイツのほうがより戦術的だなって思いましたね。戦術の部分は日本のほうが緻密なのかなって最初は思っていましたけど、ドイツに来て、フィジカルの強さに加えて、戦術の面でも日本より緻密だなと感じています。やっぱりこっちで活躍しないと、世界で戦っていく上では厳しいっていうのを実感したのが、今シーズン一番大きかった経験かなと」
ドイツと日本の「戦術的な違い」とは?
では具体的に「戦術的な違い」はどういうところで感じられたのか?
それは枠組みと構造に対する監督のチームアプローチの違いであり、その中で選手がやらなければならないタスクへの考え方の違いだという。
「相手のシステムに対してチームとしてこう攻撃をして、こう守備をしてという大まかな形は日本にもあるんですけど、選手のアイデアやプレーを尊重するスタンスが多いのかなと思います。一方でドイツは、攻撃の時はこう、守備の時はこう、というのを徹底してやらないといけない。同じことをしていても相手も対応してくるので、ハーフタイムでやり方を変える。そうした前提がある中で、自分のアイデアをどう出すかが重要になります」
そのためドイツでは試合に関するミーティングもチームとしての狙いをベースに、どこができて、どこができていなかったか、という具体的な話がされるケースが多い。
前提条件がそうなのだから、チームとしてやるべきことを徹底して実践できないと試合で使ってもらえない。再現性に対するアプローチの細やかさと準備の周到さはダルムシュタットに来て大いに驚かされているという。
「Jリーグで僕は新潟と沼津と鹿児島でしかプレーしてないですけど、ただ例えば、ゴールキックのやり方で、『ゴールキックはこうやって進めていこうね』『相手のゴールキックに対してこうはめていこうね』というのを話すことは日本でもありました。それがドイツでは明確な図解として示されて、それぞれのバリエーションにおける決まり事まで徹底して話されるんです。これは僕にとっては初めての経験だったので、すごい衝撃的でした。そういう細部の部分にもこだわるのがドイツのサッカーなんだなって感じて、改めてすごいなと思いました」
日本では評価され、ドイツでは許されないプレーとは?
このような背景には、欧州サッカーの戦術分析や、データ活用法、新しいアレンジやバリエーションの整理が常に進んでいる日常があることが挙げられる。カテゴリーを問わず競争の激しいリーグにおいて、試合を有利に進めるための構造化がうまくできているチームほど、安定感を生み出すことができる。
監督からの絶対的な信頼を得るためには、状況における正しいポジショニングと優先順位の設定、セカンドボールへの反応など、チームタスクに対する実行度が高いレベルにあることは必須事項だ。それがないと監督やチームメイトからの信頼はつかめないし、試合にもうまく絡めない。チームとしての設計図をしっかり理解して、実践して、その中で選手がどうパフォーマンスするかをシビアに見られている世界なのだ。
秋山にそう振ってみたところ、すぐに「いや、本当にそうですね!」とうなづいて、同意してくれた。
「チームとしての戦術がまずベースとしてある中で、相手のシステムは変わってきますし、相手の特徴も変わってくるので、その試合ごとに戦術も変わりますし、攻撃に対するシステムも全然違います。
それを自分の中でどう理解して、監督が求めているものが何なのか、チームとして求めているものが何なのかを、いち早く理解してやり続けないと、このリーグで試合に出続けるのは難しいかなと思ってますね」
ではもっと具体的に、日本ではOKだけど、ドイツではNGとなるプレーや優先順位にはどんなものがあるのだろうか? 秋山はちょっと考えてから、説明してくれた。
「まず攻撃で言うなら、自分が受けやすいポジションに入って前向きで受けられるシーンでも、まずボランチはセンターに絶対1枚配置しなきゃいけない。ボールを失った時に、真ん中に1枚いないとフィルター役になれないという部分も含めた戦術だと思うんですけど、そういうところの徹底具合は日本とは違うなと思います。
自分がその状況でできること、やりたいことというよりも、まずチームとしての優先順位を考えたポジショニングを常に取る。そこが違う」
「自分はダメだと思ったのに評価された」その理由
個人的には気が利くプレーをしているつもりでも、チームとして見た時にマイナスになるなら、その選択はすべきではない。となると、慣れない頃はもどかしさを感じることもあったのではないだろうか?
「めちゃくちゃありました。試合が終わって、チームが勝ったとしても、自分のプレーがしっくりこないなと思ったり、日本の時よりタッチ数が3分の1ぐらい少ないこともあって、難しいなと思った試合もありました。でも、次の日に監督から『昨日のプレー良かったよ』と言われることもあって。そこの整理が最初はとても難しかったですね。
監督からしたら戦術にうまくハマってくれたという評価で、チームとして機能していたから良かったという判断だったと思うんですけど、自分としてはもっとボールを触りたいとか、もっとポジションを崩したら良い形があったんじゃないかとか、映像を振り返る中でめちゃくちゃ感じていました。
でも、試合に出続ける中で少しずつイメージを共有しながらプレーすることができるようになって、自分の良さも出せるようになってきています。監督とのコミュニケーションの中でも、『ヒロキのアイデアや判断は、チームの戦術と多少違っていても尊重するよ』と言ってもらえたりもしています。いまはちょうどいいバランスでプレーできているのかなと思っています」
現在日本では個の力やスキルの積み重ねが重視される傾向があり、「選手は数字で評価されるから、そのためのアピールが欠かせない」と言われることも多い。もちろん欧州にそうした側面がないわけではないが、メディアにおける評価と監督・コーチからの評価基準は、当たり前だがまったく異なる。
サッカーはチームスポーツであり、チームタスクを無視して我をアピールすることは賢明なことではない。“良いプレー”の基準は、環境によって変わる。秋山の言葉は、その当たり前でいて見落とされがちな事実を、強く突きつけてくれている。
<了>
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