広島・栗林良吏が振り返る、新人最多セーブ記録の裏側に「準備不足」を痛感した教訓
スポーツ界・アスリートのリアルな声を届けるラジオ番組「REAL SPORTS」。元プロ野球選手の五十嵐亮太とスポーツキャスターの秋山真凜がパーソナリティーを務め、ゲストのリアルな声を深堀りしていく。今回はWebメディア「REAL SPORTS」の岩本義弘編集長が今一番気になるアスリートやスポーツ関係者にインタビューする「岩本がキニナル」のゲストに、広島東洋カープの栗林良吏が登場。開幕から22試合連続無失点というプロ野球新人記録を樹立し、東京五輪では侍ジャパンの抑えとして金メダル獲得に貢献。ルーキーイヤーにして球界を代表する投手となった栗林の今シーズンに振り返る。
(構成=篠幸彦、写真=Getty Images)
開幕戦をゼロで抑えられたことがターニングポイントだった
岩本:栗林選手は今シーズンの開幕から22試合連続無失点、新人の日本記録を樹立。さらにプロ野球記録2位タイの20試合連続セーブ、新人最多タイの37セーブを記録。最終的に防御率0.86という驚異的な数字を残されました。
五十嵐:真上から投げるフォームで放たれるストレートが素晴らしくて、フォークボールがどれくらい精度が上がってくるかなと、開幕から見ていました。それもどんどん仕上がってきて、これはなかなか打たれないだろうと思っていたら本当にそのままいきましたよね。
岩本:ご自身で改めて振り返ると、今年はどんなシーズンでした?
栗林:初めてのシーズンだったので、いろんな不安を抱えながら開幕を迎えました。開幕前にオープン戦最後の試合で監督から「今年はクローザーでやってもらう」と言ってもらえたんですけど、(デビュー戦の)開幕第2戦をゼロで抑えられたことは自分の中では大きなターニングポイントでした。それが自信となって22試合連続無失点につながって、1年間しっかりと戦えたと思っています。
岩本:開幕直前にクローザーでいくと言われた時の心境はどうでした?
栗林:「1年目の僕でいいのかな」という思いが最初に出てきましたね。「もっと他のピッチャーがいるのに、自分なんかがそんな大事なところをやっていいのかな」という気持ちでした。
岩本:五十嵐さん、同じピッチャーとしては栗林さんの思いはどうですか?
五十嵐:僕が新人でいきなりクローザーと言われたら、心の整理がつかないと思いますね。22試合連続無失点は気がついたら達成していたのか、一試合一試合何か進化を感じながら達成したのか、どのような感じでした?
栗林:9回をゼロで抑えるのがベストではあるんですけど、今年は緊急事態宣言の時短要請で延長戦がなく、9回で打ち切りでした。それもあってとにかく勝てればいいと思っていました。
五十嵐:確かに例年とはちょっと置かれる状況が違いましたよね。
栗林:だから無失点というところはあまり気にしていなかったです。自分の仕事のことで頭がいっぱいいっぱいで、結果的に22試合までいっていたという感覚でしたね。
社会人野球の経験は決して遠回りではなかった
五十嵐:今シーズンはなかなか勝てない中で、絶対に落とせないという登板が多かったと思います。そのプレッシャーはどう受け止めていました?
栗林:僕は社会人卒なので、社会人野球のトーナメントで一度負けたら終わりという経験が生きていました。プロ野球はリーグ戦ですけど、トーナメントのように1試合1試合に懸けてやったおかげで前半戦は特に良い結果を出せたと思います。
岩本:栗林選手は大学時にドラフト2位以内に入らなければプロにはいかず、社会人野球にいくと決められていましたよね。なぜそういう選択をしたのか教えてください。
栗林:大学3年生の時に侍ジャパン大学日本代表に入れてもらって、プロ野球選手になりたいという思いが強くなりました。また、大学2年の時に元プロ野球選手の山内壮馬さんがピッチングコーチできてくれて、そういうところでプロへの気持ちが高まっていたんですが、心の中では「プロで活躍できるのか」という不安がありました。
岩本:プロへの気持ちはあったけれど、迷いがあったんですね。
栗林:その不安を持ったままプロにいっては活躍できないと思いました。自分の中で区切りをつけて、2位以上はプロ、3位以下だったらトヨタさんでお世話になると決めました。
五十嵐:トヨタ自動車もドラフト待ちをしてくれたということですよね。
栗林:そうですね。そこは「自分で決めていい」と言ってくださいました。
岩本:トヨタ自動車での2年間は、どんな2年でしたか?
栗林:働くことの大変さを学べた2年間でした。もちろん、選手としても成長できましたけど、それ以上に人間的なところの成長、社会の厳しさを学べたことが一番大きいと思います。
岩本:ルーキーイヤーで東京五輪という大舞台で全5試合の抑えを務めて、しかも決勝では胴上げ投手になりました。これ以上ないほどスターダムにのし上がっていったシーズンでもあったと思います。ご自身ではどう思っていますか?
栗林:コロナで東京五輪の開催が1年延期したことで、本当であれば昨年選ばれた選手が立つはずだった舞台に、自分が立つという責任感、プレッシャーをすごく感じながら投げていました。そういう意味では金メダルで終えられて本当によかったと思いますね。
岩本:五十嵐さんはあの大舞台での堂々とした投げっぷりを見てどう感じました?
五十嵐:選手としては選ばれたからには投げるしかないんですけど、その気持ちの切り替えは素晴らしいですよね。プロ野球と使用するボールの違いがあったと思いますが、そこに戸惑いや難しさはありました?
栗林:僕はそういう違いに敏感なタイプではないので、それほど違和感はなかったんです。ただ、コーチからフォークの落ちやカットボールやスライダーの横の変化球が大きく曲がると最初に教えてもらえたのはよかったですね。
岩本:シーズンを振り返って、改めて社会人野球を経てプロ野球という選択をされたことを今はどのように感じていますか?
栗林:今の立ち位置があるのは、あのトヨタでの2年間があったからだと思っています。とくに東京五輪のメンバーに選んでもらえたことは社会人経験のおかげなので、決して遠回りではなかったですね。
「追いついてくれるかも」ではなく、「絶対に追いついてくれる」
五十嵐:コロナ禍でなかなか食事に行くことはできなかったと思いますが、野球以外のところではどのように過ごしていたんですか?
栗林:僕は結婚しているので、ホームゲームでは食事は妻がつくってくれて、社会人の頃と変わらない生活を送っていました。そこはすごくよかったと思います。ビジターになるとホテルでの生活になるので、お風呂に長く入ったり、You Tubeを見たり、一人の時間が長かったですね。
五十嵐:野球選手は先輩たちと食事に行ってお酒を飲んだりというのも楽しいんですけど、(コロナ禍だと)そういう生活になりますよね。
岩本:1年目でこれだけの注目を集める選手になったという手応えは、ご自身ではどのように感じていますか?
栗林:チームの中に大瀬良大地選手や九里亜蓮選手、森下暢仁選手など、素晴らしいピッチャーがたくさんいるので、自分はまだまだだと思っています。そういった意味では追いつけ追い越せの良い環境でやらせていただいていますね。
岩本:抑えという役割を1シーズン通して担い、やりがいは感じましたか?
栗林:先発や中継ぎと違って、最後に試合を締めるポジションなので、すごくやりがいを感じました。ただ、9回打ち切りの今シーズンは、打たれてしまったらそのままサヨナラ負けや引き分けで終わってしまうという中で、自分一人ではマウンドに上がれなかったですね。みんなの思いを背負うことでマウンドに上がることができて、そういう意味でもすごく大事なポジションだったと思います。
岩本:以前に「『追いついてくれるかも』ではなく、『絶対に追いついてくれる』と思って準備することが大切」だと話していました。その言葉の意味を教えてください。
栗林:初めて失点したオリックス戦で、9回に3点差を追いついて登板が回ってきたんですね。それまでは9回にチャンスをつくっても追いつくことがなかったので、その日も自分の中では「今日も追いつかないだろうな」という気持ちで準備をしてしまっていました。
岩本:気持ちの準備が不十分で登板が回ってきて、初の失点をしてしまったんですね。
栗林:逆転してくれると仲間を信じて、いつ回ってきてもいいように自分の準備をしなければいけなかったんですよね。それがあってどんな試合でも「追いついて自分に回ってくる」と思って準備することが大切だと思うようになりました。
五十嵐:いつ回ってきてもいいようにというのは、精神的にすごく負担がかかると思います。でもそれを1年間やり通せる精神力とフィジカルの強さは素晴らしいですね。
岩本:最後に来シーズンに向けて、そして今後のキャリアについて聞かせてください。
栗林:来シーズンは「2年目のジンクス」ということを必ず言われると思っています。最終的にそう言われない成績を残すためには、開幕スタートダッシュが大事になります。そのためにオフシーズンとキャンプでの準備をしっかりしていきたいです。(今後のキャリアについて)長い目で見たら、トヨタ自動車で働くことの大変さを学ばせていただいたので、それを生かして1年でも長くプロ野球選手でいられるように、先輩方にアドバイスをいただきながら頑張りたいと思います。
<了>
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InterFM897ラジオ番組「REAL SPORTS」(毎週土曜 AM9:00~10:00)
パーソナリティー:五十嵐亮太、秋山真凜
2019年にスタートしたWebメディア「REAL SPORTS」がInterFMとタッグを組み、ラジオ番組をスタート。
Webメディアと同様にスポーツ界やアスリートのリアルを発信することをコンセプトとし、ラジオならではのより生身の温度を感じられる“声”によってさらなるリアルをリスナーへ届ける。
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