「将来監督になりたい」原口元気が明かす本音。外出禁止を「チャンス」と捉えた“14日間”
ドイツに渡って6年。今季ブンデスリーガ2部のハノーファーでプレーする原口元気が、明らかな変化を見せている。新型コロナウイルスの影響で自宅待機となった14日間。思わぬ形で生み出されたこの時間をどう過ごすかは、すべて自分の判断に委ねられることになった。チームメートもネガティブな思考に陥る中、「逆にチャンス」と捉えた原口は、この14日間をどのように活用したのだろうか?「監督になりたい」という未来をも見据えた「進化の14日間」を聞いた。
(インタビュー=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、写真=Getty Images)
<4月1日にインタビュー実施>
原口はなぜ積極的にnoteで発信を始めたのか?
――原口選手のnote(※)を全部読みました。これまでも試合後にミックスゾーンで丁寧に話をしてくれたりはしていましたが、サッカー以外のことも含めて、自分の考えをあれだけしっかりと発信する選手はなかなかいないので、とても興味深かったです。なぜnoteで発信していこうと思ったんですか?
(※編集注:文章、写真、イラスト、音楽、映像などを手軽に投稿できる、クリエイターと読者をつなぐWebサービス。原口は今年2月21日に1つ目の記事を投稿した/原口選手のnoteはこちら)
原口:noteは他のSNSと違って、すごくコアな発信ができて、読者層はあまり広くはないけれど、その分深く広められるツールなのかなと感じたことが、noteをやりたいと思ったきっかけです。これまでは、自分の考えや経験してきたことを、あまりうまく自分の言葉で伝えきれてこなかったなと感じていました。自分の言葉でなかなか言語化できなかったり、メディアのインタビューで抜き取られるポイントが違ったりとか。なかなかうまく伝わらないなと感じることが多かった中で、noteというサービスを知って、自分のコアな部分を伝えていきたい、自分自身の勉強も含めてやってみたい、と思ったんです。自分の今後のキャリアで、監督とか指導者になっていきたいと考えた時に、やっぱり伝えることは大切だったりする。あまり得意じゃない部分なんですが、だからこそ勉強していきたいという考えもあってnoteを始めました。
――TwitterやInstagramもやっている中で、noteを使って発信しようと思ったのはなぜですか?
原口:もともと筑波大学で一緒にトレーニングしてる(谷川聡)先生の助手をしている人がnoteをやっていて、トレーニングのすごくコアな部分を発信しても読んでくれる人がいると聞いて、面白いなと思いました。これまでTwitterやInstagramで自分が伝えたいと思ったことをちょっと真面目な感じで書いても、正直反応が薄いと感じる部分もあって、あんまり共感してくれている人はいないのかなと。
――他のSNSと比べて、“より深く読みたい”という人がnoteを使っているということですね。
原口:そうですね、はい。
――実際に始めてみて、自分が思い描いていたものと比べて感覚的にはどうですか?
原口:だいぶ近いですね。正直、狭いは狭いとは思うんですけれど、その分深く書けるし、共感してくれる人がいるなという感覚はあります。自分が書きたいことが簡単な内容じゃないので……、なんていうんですかね、そういったことを理解してくれる人がnoteをやってるのかなと感じてます。
――実際noteで発信している人もそういう人が多いですよね。
原口:そうですね。多いと思います。
――あと印象的だったのは、noteでの発信は所属事務所のマネージャーやミムラユウスケさん(スポーツライター/2009~16年までドイツを拠点に活動)に手伝ってもらっているということを文章の中に書いていたこと。そういうことを伝える人はあまりいないので、そこからもちゃんと自分のことを正しく伝えたいという思いが出ているなと思って。
原口:そうですね、正直、僕一人であの文章は書けないですし、さっきも言ったようにあまり得意と思っていない分野なので、誰かの助けが必要だなと思っていたし。一人でできるようになるのが理想的なんですけど、今は助けてもらってます。そのことを書く前には、“原口、すごい文章書けるな”っていう反応も多々あったんですけど、実際に書けるわけじゃないのでそこもしっかり伝えようと。
――むしろすごく好感を持ちました。逆に、これからは自分で書いてみたらいいんじゃないですかね? 最初は書いたのを直してもらったりして。そうすると、“ああこういうふうに書けばこういう反応があるのか”というのがよりわかるので。
原口:なるほど。トレーニングのこととか、自分が書きやすい分野だったらトライしてもいいかもしれないですね。
――(新型コロナウイルスの影響で)いつもより時間があるじゃないですか。そういう時に書くことにチャレンジしてみて、どんどん自分で書けるようになったら楽しいですし。それと、文章を書けるようになるには、やっぱり本とか文章をたくさん読んだほうがいいと思います。
原口:そうですね。読んだりもしますけど、今はどっちかというと英語に時間を使っていて、英語でエッセイとか書いたりしてます。
――すごい!
原口:違う言語で文章を書くのも面白いなと思ったりもしていて、より日本語もわかっていないと英語も上達しないなと。
ピンチもチャンスに変換する切り替え力
――noteを読んで印象的だったのが、自宅待機(※)という状況になったこともポジティブに考えていて、その切り替えがとても早かったし、すごく考えがまとまっていたなと思って。さっきの英語の話もそうだし、自宅用にトレッドミル(トレーニングマシン)を買ったり。当たり前のことを当たり前にすぐできるというのは、本当にいいことだと思いました。
(※編集注:ハノーファーのチームメートに新型コロナウイルス検査の陽性が出たことで、チームの選手・スタッフ全員が3月12日から14日間の自宅待機となった)
原口:そうですね、もちろんサッカーができないストレスはありますけど、それは誰のせいでもないので、けっこうすんなり整理はできたなと。
――その切り替えの早さはいつごろから身についてきたんですか?
原口:浦和(レッズ)時代はめちゃくちゃ引きずりましたね。うまくいかない試合なんかは2~3日ぐらい引きずったりとか平気でしていたり……。いつごろからですかね。
――特にすごく意識したわけじゃなくて、自然と切り替える能力が身についていた感じなんですか?
原口:いや、でも多分、こっち(ドイツ)に来てからですかね。家庭も持ちましたし、オンとオフがよりはっきりして。こっちの人たちはすごくオンとオフがはっきりしているので、そこらへんも学びながらですかね。家に帰ると必然的にオフになるというか、しっかり切り離せられるようになってきたのかなと。
――確かに家族ができるといろいろなことを考えるようになりますよね。
原口:共同生活なわけで、いろいろなことを考えながら生活をする部分があるので、それもあって今では頭の整理だったり、切り替える部分だったりの精度がどんどん上がってきている感覚はあります。
――でも今の新型コロナウイルスの状況は、先行きが見えないですよね。
原口:それはもちろん考えますよね。毎日情報は追ってますし、いつサッカーができるようになるのかというのはやっぱり気になるので。感染がどれぐらい拡大しているのかとか、日々追ったりしています。
――英語と日本語のニュースをどちらもチェックしてるんですか?
原口:そうですね、情報を取るのはTwitterが一番早いので、基本的にはTwitterで英語と日本語で検索かけて、いろいろと情報を得てます。リーグの状況も聞いたりしてるし、何だろうな、逆に……これがいいことなのか、悪いことなのかわからないけど、もしかしたらチャンスだな、と思っていて。なぜかというと、必ずリーグ全体のプレークオリティーというか、コンディションは落ちるので。こういう状況でも自分自身でコンディションを上げられる選手って、そんなにはいないと思うんですよね。
――それは感じますね。
原口:なので、この期間の準備力の差で、もしリーグ戦が何試合か再開できるってなった時に、今までよりもいいパフォーマンスを出せるんじゃないかと思ったりもしていて。
――そういう貪欲さ、すごくいいと思いますし、ワクワクしますね。与えられている時間はみんな一緒ですからね。
原口:そうですね。だから、もしかしたら本当に大きなチャンスになるかもと思っていますし、それだけの準備ができるんじゃないかなと。今までやってきたこともあるので、チャンスだと思っています。
――そういうふうに考えてやれる人間がやっぱり、成功するんだろうなと思います。
原口:チームメートと話していても、いつ再開するかもわからないとか、このままシーズンが終わってしまうかもしれないとか、やっぱりちょっとネガティブだったりもするので。もし再開できた時には、ものすごくチャンスだなと考えるようにしてます。
自宅待機の14日間も“楽しかった”
――もともと個人のトレーニングはかなりやるほうだったんですか?
原口:正直、そこに関しては自信を持ってやってます。自宅待機の14日間は仮陰性の状態だったので(※)、免疫が下がってしまうぐらいトレーニングしてはいけないと言われていて、めちゃくちゃ追い込むことはできなかったんですけど、その中でどれだけ維持できるかだと。コンディションが落ちないような努力はできたと思っていますし、今までやってきたことやトレーニングの知識だったり、サポートしてくれる、アドバイスしてくれる人が周りにいることが、こういう時に本当に助かるなというのは思いましたね。
(※編集注:新型コロナウイルスの検査結果では陰性が出たものの、検査から14日間で症状が出なかった場合にその検査結果が確定することから)
――トレーニングメニューは筑波大学の先生と話しながら?
原口:そうです。ただ、“選手が自立していく”ということが、僕と先生との間での基本的なスタンスとなっているので、もう7年ぐらい一緒にやってきていますから、自立していかないといけない時期に差しかかってきていると思っています。そういう意味で、この14日間というのはある程度自分自身でメニューを考えてやって、けっこう楽しみながらやれました。もちろんわからないことがあったら先生に質問していたんですが、自分で考えるという作業は、けっこう面白かったですね、僕自身の中で。
――それを楽しめるっていうのは、才能ですね。
原口:かなり濃かったですね、14日間。長いなと感じる部分も、もちろんありましたけれど。
――1日でだいたい何時間ぐらいトレーニングするんですか?
原口:1時間ちょっとですね。
――やりすぎちゃいけないですからね。英語も一日1~2時間はやっているんですか?
原口:いや、長い時は休憩を入れながらですが5~6時間やってます。
――すごいですね、一日に5~6時間も英語をやれるのは。
原口:いや、ここぞとばかりにやっただけで、普段はそんなにやれないですよ、もちろん。練習がある時は、やって1~2時間ぐらいなんですけど、今回は本当に一歩も外に出られない状態だったので。
――すごい、受験生以上にやってますね。
原口:ここぞとばかりにやりましたね。こんなに勉強したのは本当に中学生ぶりとか、そういう感じです。
――もともと勉強好きなんですか?
原口:好きではないけれども、真ん中レベルではあったと思います。中学から浦和(のアカデミー)に通っていたので、帰宅するのが遅くて勉強する機会がなかった中でも、一応成績は真ん中ぐらいをキープしていたので。
――この期間で英語力がアップしたと実感できるぐらいにはなってますか?
原口:そうですね、いい先生にも巡り合えて、5カ月ぐらい前から割といいペースでやってきて。チームではもちろんドイツ語がメインなので、あまり使う機会がないと言えばないんですけど。でも全然まだまだですけどね、英語に関しては。本当にやればやるだけ奥が深いというか、簡単じゃないなと思うので。
――ちょっと今、英語の勉強を何度も途中で断念している自分が恥ずかしくなりました(苦笑)。
原口:わかりますよ、自分もそうですからね、本当に何度も何度も。もちろん日本にいた時から、ドイツに行く前からやっていましたけども、いざドイツに行ってみたら全然だめでしたし。一応その後もドイツ語を勉強して、かといってめちゃくちゃうまくなったかと言うとそうでもない。今回ちゃんとやろうということで、この5カ月は割と続いてますが、簡単じゃないですね。特に日本にいたらそう思います。
――それ以外の時間も基本的には家で過ごしているんですよね?
原口:そうですね、基本的には外出禁止なので。ドイツはかなり厳しいので、犬の散歩ぐらいですね。それ以外は家にいます。
「将来は監督になりたい」 そのために頑張れる
――さっき少し話に出ましたが、セカンドキャリアについてはどんなイメージをしていますか?
原口:僕は現場にいたいんですよね。グラウンドに立っていたいし、やっぱりボールが近くにあるところで仕事がしたいので……。そう。なので、必然的に指導者になりたいとは思っていて、できればこっち(ヨーロッパ)でライセンスを取りたい。そのために今、英語をやっているし、そうですね……うん、できればこっちで指導者をやってみたいというのもあるし、日本での指導にも興味あります。
――だから英語を一日5~6時間も頑張れるんですね。
原口:そうですね、僕の奥さんも一緒に英語の勉強を頑張っていて、常に2人で向かい合いながら勉強してます。
――それは意識高すぎる夫婦ですね……。チームメートとも英語で話しますか?
原口:話します。加入したばかりだと全くドイツ語が話せない選手もいるので、そういう選手をつかまえて英語を教えてもらったりしています。
――やっぱり、実践の場が毎日あるのは大きいですよね。
原口:そうですね。
――今、日本のサッカーファンに一番伝えたいことは?
原口:やっぱり新型コロナウイルスについて、日本はヨーロッパの(感染拡大の)ようにならないでほしいというのは伝えたいことですね。
――言い方は悪いですが、世界の中で日本だけ、ちょっとのんきな感じがしますよね。今はさすがに変わってきましたが。
原口:そうですね。ここでぶわっと広がると、ヨーロッパのようになってしまう可能性もあるので。サッカー界のみんなもすごく発信していると思いますし、代表選手がみんな「ステイホーム」を呼び掛けたりというのはやっているんですけど、だからこそ、このインタビューでも伝えたいなというのはありますね。
ちょっと思いやりを持てば、(行動は)変わるんじゃないかなと思うし、理解をしてほしいですね、一人ひとりが。僕らも正直、専門家じゃないのでわからない部分は多いですが、やっぱりここは我慢時かなと、いろいろなニュース見ていて思うので。僕らもまた皆さんに素晴らしいプレーを見せられるように努力しているので、今は一人ひとりが我慢して、サッカーができる日常を一緒に取り戻すことができたらなと思っています。
<了>
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PROFILE
原口元気(はらぐち・げんき)
1991年5月9日、埼玉県出身。ブンデスリーガ(ドイツ)2部、ハノーファー所属。日本代表。中学から浦和レッズのアカデミーでプレーし、17歳でプロ契約。2009年、名古屋グランパス戦でクラブ日本人史上最年少ゴールを記録(17歳11カ月3日)。2014シーズンはクラブの象徴的な背番号「9」を背負う。同年5月、ヘルタ・ベルリン(同1部)へ完全移籍。フォルトゥナ・デュッセルドルフ(同2部/当時)への期限付き移籍を経て、2018年6月、ハノーファーへ完全移籍。日本代表では、2011年10月ベトナム戦で初出場、2015年6月イラク戦で初ゴール。2018FIFAワールドカップ・アジア最終予選で、最終予選としては日本代表史上初となる4戦連続ゴールを記録。本大会ではレギュラーとしてチームのベスト16進出に貢献。ベルギー戦で先制ゴールをあげ、これがノックアウトステージにおける日本史上初のゴールとなった。note:https://note.com/genkiharaguchi
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