今季浦和レッズが上位に食い込めている理由とは? 堅守確立も決めきれない攻撃陣に中島翔哉は何をもたらすのか
今季のJ1リーグも残すところ10試合。浦和レッズは5月にAFCチャンピオンズリーグ(ACL)で3度目となる優勝を決め、加えてこれまでカップ戦で2度、天皇杯で4度ものタイトルを勝ち取ってきたが、ことリーグ戦となると1度しか優勝できていない。しかし、今季は様相が少し違う。リーグ第24節終了時点の戦績は11勝8分5敗の勝点「41」。順位は4位。今季から指揮を執る、母国ポーランドで多く優勝に導いたマチェイ・スコルジャ監督のもと、ここまで上位に食い込めている理由は一体どこにあるのか?
(文=佐藤亮太、写真=徳原隆元/アフロ)
失点数はリーグ最少。浦和の堅守実現の理由
今季の浦和の上位進出を下支えしているのは間違いなく「守備」だろう。目下、失点数はリーグ最少。24試合で失点数「19」の堅守にある。
両センターバックはJ屈指の2人。昨季から加入した元デンマーク代表のアレクサンダー・ショルツ、そして「左利きのセンターバックを」との指揮官のリクエストを受けて加入したノルウェー籍のマリウス・ホイブラーテン。2人とも空中戦、地上戦ともにめっぽう強く、攻撃の起点にもなる万能型DFだ。
この2人についてGK西川周作は「2人のセンターバックが真ん中でプレーしてくれているのが大きい。2人とも素晴らしく信頼できるパートナー」と称えるが、西川を含めた3人の守備が浦和の守備に絶大な安定感をもたらし、たとえ押し込まれてもゴール前で体を張った守備が非常に機能している。
前任のリカルド・ロドリゲス監督の戦術を踏襲するなか、今年はより組織化した守備ができており、守備といってもいわゆる最終ラインだけではない。できるだけ相手陣内でボールを奪いにいく積極的な攻撃的守備。
この守備において、もう一人大きな働きをしているのが昨季加入した岩尾憲の存在。西川は岩尾について「2人のセンターバックが相手につり出されたところのスペースを岩尾選手が埋めてくれる。ボールは来ていないが、スペースに入ってくれる」と貢献度の高さを語った。
浦和の堅守についてもう一つ挙げるなら、昨季に比べ、西川のスーパーセーブの少なさも挙げられる。スーパーセーブはGKの華。西川にとっても腕の見せどころ。ただ、一見派手なプレーだが、GKとしては必ずしも褒め言葉という側面だけではない。なぜなら、安定性の高さが求められるポジションにおいて、無理な態勢で取らなければならなかった場面だからだ。相手に崩されている、あるいは守備陣をコントロールできていない証拠でもある。できるだけ動かず、手を出したところにボールがおさまるのが理想なのだ。
「スーパーセーブはシュートを打たれてからのプレー。いまはいかにシュートを打たせないかというプレーに取り組んでいる」(西川)
相手を来させない、打たせない守備がうまくいっていることが堅守につながっている。
なぜ、いまひとつ攻撃がうまくいっていないのか?
今季スコアレスドローは6試合。確かに守れてはいる。しかし攻めきれない、決め切れないことが浮き彫りになっている。
夏の中断明け、第22節の横浜F・マリノス戦では、前述のような攻撃的守備が機能。シュート数で横浜FMを上回ったにもかかわらず(浦和12本、横浜FM5本)、スコアレスドローに終わっている。内容はポジティブだが勝たなければならない試合。その典型だった。
なぜ、勝ち切れないのか?
単純に得点数が少ない。浦和は24試合で得点数は「29」とリーグ11位の低さ。それでも上位にいるのだから、「ここまで運もあった」「よくここまできたと思う」と語る興梠慎三の言葉にも大きくうなずける。
それでもシーズン序盤は先に失点したとしても、少ないチャンスで効率的に得点を挙げ、勝点3をもぎ取ったため、一時は「逆転の浦和」とも言われた。
しかし、夏の中断明け、対戦相手が一巡し、十分対策されてしまったのか、自慢の堅守がうまくいかなくなった。直近のリーグ戦5試合の戦績は1勝2分2敗。たとえ先制されても追いつき、追い越す攻撃力、得点力、決定力がいまのチームには足りていないことがわかる。
これはいまに始まったことではなく、ここ数年の慢性的な懸案。特にアタッキングサードからの攻撃の工夫の足りなさが継続的な課題だ。その原因の一つに4-2-3-1の主に攻撃を担う「3」の部分の力不足が挙げられる。
今季のトップ下3枚の選手のゴール数を挙げると、
小泉佳穂 16試合0得点
関根貴大 24試合3得点
大久保智明 24試合1得点
安居海渡 22試合2得点
合わせて6得点とやはり少ない。なぜ、いまひとつ攻撃がうまくいっていなのか。攻撃担当のラファス・ジャナス コーチは「少しずつうまくいってはいる」としながらも「まだまだ理想には遠い」と語り、いくつかその要因を挙げた。
・昨季と比べ、大きくメンバーが替わったこと
・出し手と受け手のタイミングが噛み合っていない
・状況とプレーの選択の不一致
加えるならば、まとまった十分な練習時間が取れていないことがあるかもしれない。
個人能力任せを後押しする、安部裕葵と中島翔哉の存在
スコルジャ監督の指導において、この「3」のポジションはある程度のルールはあるものの、自由度がかなり高い。つまり個人の特長、能力をベースにしたアンサンブル的要素が大きく、その分、これという戦術らしいものが色濃く出ていない。
乱暴にいえば、個人能力任せ。
これまではコンバートや普段の練習で補ってきたが、スコルジャ監督は「6カ月ごとに新たな血を注入することが必要」だと補強の必要性を明言している。
これに応えるようにクラブは7月、スペインのFCバルセロナBから安部裕葵を、トルコのアンタルヤスポルから元日本代表・中島翔哉をともに完全移籍で獲得。2人ともゲームもつくれるドリブラータイプともってこいの人材だ。この獲得は攻撃において能力をより生かす方針はさらに押し進めた意味を持っている。
ただ、この2人の加入は即戦力というより、少し先を考えての補強といえる。
安部はケガのため、ほぼ2シーズン試合から離れていた。そのため本人は「一番良い状態で復帰できるようにしたい」と話し、スコルジャ監督は「練習に参加することが日々増えている。いいクロスやドリブル、非常に高いスキルを持っている興味深い選手。ただ、彼の能力を試合で発揮させるためには、われわれも焦ってはいけない」と性急な起用を避けている。加入後はベンチ外が続いており、戦える状態になるにはもう少し時間がかかりそうだ。
一方の中島翔哉。第22節の横浜FM戦、続く第23節のサンフレッチェ広島戦で途中出場。トップ下に位置し、コーナーキックのキッカーを務めた。出場時間は増やしてはいるが安部同様、いまはさらなるコンディションの向上と、チームメートとの連携のフィットを待つしかなさそうだ。
育て下手なクラブ・浦和の手腕が問われる
とはいえ、中島翔哉に関していえばすでにフィットの予兆は出始めている。8月22日に行われたAFCチャンピオンズリーグ プレーオフ。3-0で勝利し、本戦出場を決めた理文戦で、中島は公式戦初先発。トップ下で2点に関与した。
特に先制点となった3分のシーンは中島から右サイドを突破した大久保智明が上げたクロスに小泉佳穂が押し込む、流麗な連係から生まれた。試合後、中島本人は言葉少なだったが、大久保は中島の連係について、「ヴェルディっぽいなという感じ」と答えた。2人はともに東京ヴェルディの下部組織出身。
大久保は「ギリギリまで判断を変えられる余裕があり、差し込んできそうだなというときはループが出たり、ユースで一緒だった渡辺皓太(現横浜FM)とやっているような感覚だった。懐かしい感じというか、自分も忘れていたなという感覚を練習で思い起こさせた。練習中も来そうだなというタイミングでボールが来たり、言わなくてもわかる感じがあった」と好感触。
同門の2人だけがわかる世界観は今後も中島の助けとなるだろう。
以前の浦和は豊富な資金力を生かし他チームの主力級を即戦力として獲得する傾向にあった。しかし、現在の強化部(フットボール本部)となり、獲得の基準はより現実的かつ厳しいものになった。獲得の際、自分たちが目指すサッカーに合う選手なのか、その選手は金額的に適正なのかなど独自のデータを駆使し、選手補強に努めている。
安部と中島。この2人の加入は、近い将来大きな戦力になるという、いわば来季以降を見越した補強ではあろう。2人の能力は申し分なく、異論はない。ただ、どちらかといえば浦和は育て下手なクラブ。彼らが再び輝きを取り戻し、代表復帰できるほどの環境づくりが果たしてできるのか、クラブとしての手腕が問われる。
小泉佳穂に復調の兆し。長年チームを支えた柏木陽介からの重い言葉
本職のトップ下不在のなか、小泉が第24節・名古屋グランパス戦で3カ月ぶりにリーグ戦で先発出場。前半のみの出場となったが、小泉らしいプレーを見せた。試合後、指揮官は「ここ数週間、小泉は良いプレーを見せてくれた。だからプレーをさせることでトップ下で変化をもたらせたかった。いい仕事をしてくれた」と復帰を喜んだ。
小泉はACL決勝前からチーム内での自身の存在意義について思い悩むようになった。ACL優勝後は調子を崩し、しばらく練習から離れた時期があり、第13節・ガンバ大阪戦以降、スタメンの座を失っていた。そんな思い悩む小泉に喝を入れた選手がいる。J3・FC岐阜の柏木陽介だ。彼にどうしても小泉のことを聞きたくなって、筆者は岐阜の練習場に足を運んだ。浦和で同じ8番をつけた選手として、ともにチームを支えることを期待される選手として、いまの小泉を柏木はどう見ているのか。
「思い描く姿に到達できない自分にがっかりしていると(記事で)読んだけど、苦しんでいるのは事実でしょう。でもね、それはみんな一緒。いちいち落ち込んでいたら、もう……。(小泉は)技術はある分、それなりにできるけど、継続する難しさをいま思い知らされているのだと思う。でもそれでいい。そうやって突破していくだけだから。そこは一人一人乗り越えていかなければならないものですから」
長年、チームを支えた柏木からの重い言葉。
このことを小泉に直接伝えると「ありがとうございます」と言い、反芻するように語り始めた。
「最近、腹がくくれてきて……プレッシャーに感じたり、もちろん試合に出ていない時期に、逆に冷静に試合を、そして自分を見られた。そのなかで例えば、このプレッシャーは感じるべきで、こういうことは考えなくていいという整理がつけられるようになった気がしている。あとはなるようになるというか……振り返ったとき、苦しい時期、難しいなりにベストを尽くしたといえると思う」
名古屋戦での復帰。もがき苦しんだ小泉の心の旅は一つの終着駅に着いたようだ。
その名古屋戦では1-0とリーグ4試合ぶりの勝利。後半、危ないシーンはあったが堅守は戻ってきた。あとは攻撃陣のゴール量産に期待するのみ。小泉か中島のさらなる復調があれば、横浜FM、ヴィッセル神戸、名古屋に肉薄できるはずだ。
今季の浦和はいい意味で勢いがない。時に後退しながらも着実に半歩、一歩と進んでいる。だからこそ信じられる。
残りリーグ10試合、スコルジャ体制1年目の集大成を迎えようとしている。
<了>
鈴木彩艶が挑み続ける西川周作の背中。「いつかは必ず越えたい」16歳差の守護神が育んだライバル関係と絆
浦和レッズをアジアの頂点に導いた、スコルジャ監督の手腕。短期間でチームを変貌させた“規律”とは?
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