ラクロス・中澤ねがいの挑戦と成長の原点。「三笘薫、遠藤航、田中碧…」サッカーW杯戦士の父から受け継いだDNA
元サッカー日本代表の中澤佑二氏を父にもつ中澤ねがいは、中学生から始めたラクロスで日本代表のキャリアを切り開いてきた。中学・高校とラクロス強豪校で技を磨き、2023年には、日本の女子選手で初めてNCAA ディビジョン1リーグに挑戦した2歳姉の中澤こころと同じアメリカのルイビル大学に入学。NCAA(全米大学体育協会)の最上位カテゴリーに位置するD1でも強豪揃いのカンファレンスで成長スピードを加速させている。プロリーグも存在するラクロスの本場で、どのような日々を送っているのか? 高校卒業後にブラジルでプロキャリアをスタートした父からのアドバイスや、「小さい頃からよく見ている」というサッカーとの共通点について語ってもらった。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=日本ラクロス協会)
中学から目指していた海外挑戦。姉と“阿吽の呼吸”でプレー
――アメリカは男女ともにラクロスの世界ランキングが1位で、カレッジスポーツとしても非常に人気の高い競技ですよね。中澤選手はその最高峰であるNCAA(※)D1のルイビル大学でチームの大黒柱としてプレーしていますが、アメリカに挑戦したのは、先にルイビル大でプレーしていたお姉さんのこころ選手の影響が大きかったのですか?
(※)National Collegiate Athletic Association=全米大学体育協会。アメリカの大学スポーツを統括する組織。
中澤:そうですね。一番は姉の影響です。もう一つは、うまい選手の動画を見ていたことがきっかけです。私も姉も、高校時代からアメリカの大学でプレーしたいと目標にしていたので、ラクロスを始めた中学生の頃から、うまくなるためにYouTubeなどでスキルの動画などを探して見ていたんです。その中でも、アメリカのケイラ・トレーナーという選手が本当にうまくて、憧れていました。今はシラキュース大学のラクロス部でコーチをされています。動画ではスキルもフィジカルも全然レベルが違ったので、「こんな選手みたいになりたい」と。環境面などは、先にアメリカでプレーしていた姉からもよく話を聞いていたので、最後はそれが決め手になりました。
――チームメートとしてプレーする中で、姉妹のコンビネーションはやりやすい部分があったのですか?
中澤:それはありました。自チームの監督が、去年は「2人で同じサイドでコミュニケーションを取ってプレーをしたほうがチームにとってもいい」と言ってくれて、同じサイドでプレーできるようにしてくれたんです。練習中から2人でずっとコミュニケーションを取りながらプレーしていましたし、普段から気づけばずっとラクロスの話をしているような感じで、それはフィールド上でも生きていると思います。
本場での学びと文武両道の原点
――本場アメリカのハイレベルな環境でプレーしている中で感じる競技力の高さや、成長を実感できているポイントはどんなところですか?
中澤:アメリカに来て最初に感じたのは、個々の選手のリーチの長さやフィジカルの強さが違うことと、普段の練習からかなり高い強度でプレーしていることです。日本では大学生から部活動としてラクロスを始める人が多いですが、アメリカはプロリーグもあって早い選手だと4歳ぐらいからラクロスを始めているので、最初は技術の差も感じました。ただ、今はスキルや技術面で勝負しています。体格差がある選手たちに対抗できるように筋力トレーニングや練習をしたので、強いプレッシャーの中でもパスキャッチを落とさない技術や、シュートを決めるスキルは伸びたんじゃないかなと思います。
――中澤選手のストロングポイントである走力や攻守のスキルで勝負しつつ、フィジカル面でも対等に戦えるように、両面で努力しているのですね。
中澤:はい。体の大きさはアメリカではどうしても小さくなってしまいますが、フィジカルは日本でプレーしていた頃よりも強くなったと思います。その上で、大きな選手を1対1で止める方法や、抜き方は常に工夫しています。
――チームのSNSでは英語の発音がとても流暢で驚きました。言葉の壁はどのように乗り越えてきたのですか?
中澤:中学高校と、通っていた学校がグローバル教育に力を入れていたので、英語にはもともと興味がありました。高校生の頃にラクロスでアメリカの大学を目指そうと決めてからは、ネイティブの先生と会話をする中で英語を学んだり、海外研修に参加できたことが生きています。
――中澤選手が卒業した日本大学高等学校は文武両道を掲げて、卓球の張本智和選手も卒業しています。ラクロスだけでなく、学業も両立できた原動力はなんだったのですか?
中澤:私は結構負けず嫌いで、ラクロスでもそうですけど、勉強面でもできないことがあると、悔しくて結構引きずるんです。その部分は、姉よりも負けず嫌いだと思います(笑)。

心に刻んだ父の言葉「やるか、やらないか」
――中澤佑二さんは高校卒業後にブラジルに渡り、クラブチームでプロのキャリアをスタートさせていますが、アメリカ留学に際してもらったアドバイスや、印象に残っている言葉はありますか?
中澤:何かを決断する時にいつも父から言われるのは、「できるか、できないか」じゃなくて、「やるか、やらないか」だということで、何事も自分次第だと思っています。
――力強いメッセージですね。ほかに、迷った時に立ち返る考え方や、逆境を乗り越える時に大切にしていることはありますか?
中澤:試合に負ける時は、私のポジションである中盤のディフェンスを破られて点を取られることが多いので、悔しさが残ります。同じミスや悔しさを味わいたくないので、悩んだ時は自分のプレーを動画で振り返って反省したり、他の人のプレーを見て「もっとこうプレーしなければ」とか「負けていられないな」と自分を鼓舞しています。対戦相手やチームメートがいいプレーをしていたら積極的に盗んで、自分もできるようにチャレンジしています。
サッカーとの共通点「見ていて楽しいのは…」
――お父様からは、サッカー的な視点からアドバイスをもらうことはあるのですか?
中澤:自主トレーニングの時には一緒にトレーニングをして、ディフェンスのフットワークを教えてもらったりもしていました。ラクロスをプレーしている人は中学や高校でバスケットボールを経験した選手が多いんですが、ラクロスのディフェンスはサッカーのフットワークに共通する部分も多いと思っています。
――どういう部分がサッカーと共通していると感じますか?
中澤:バスケの選手はラクロスでも前からプレッシャーにいって、間合いを詰めながらディフェンスをすることが多いのですが、私自身は、相手の利き手を封じながら一歩引いて相手の動きを見て、「ここだな」と思ったところで奪いに行く守備のスタイルが自分に合っています。相手を見ながら駆け引きする感じなので、その時のフットワークはサッカーの守備と似ている部分があると思います。
――相手の動きを見てから判断して、プレーを変更できる対応力が必要なんですね。
中澤:そうですね。瞬発力と予測力も必要なので、動きと連動させることを大切にしています。
――ラクロス以外の競技で刺激を受けたアスリートはいますか?
中澤:小さい頃から父の影響でサッカーをよく見ているので、サッカー日本代表の選手の動画をよく見ていて、三笘薫選手のプレーは見ていて楽しいですね。ボールが渡ったら「絶対に何かしてくれるな」と期待させてくれるので、私もそういうプレーヤーになりたいと思っています。中盤の選手では、遠藤航選手や田中碧選手のプレーをよく見ています。
――自分のプレーにも落とし込めそうなインスピレーションが湧くのですね。どんなプレーに注目して見ているのですか?
中澤:競技の特性が違うのでそのまま真似することはできないのですが、相手の攻撃を止めて、ボールを奪って前にさばく安定感や技術はラクロスでも生かせます。周りを確認しながらプレーするところも共通しています。サッカーと同じで、ラクロスでもボールだけ見てしまうと視野が狭くなるので、周りを見るために首を振って視野を広げるところは、注目して見ています。
【連載前編】アジア王者・ラクロス女子日本代表のダイナモ、中澤ねがいが語る「地上最速の格闘球技」の可能性
【連載後編】「小さい頃から見てきた」父・中澤佑二の背中に学んだリーダーシップ。娘・ねがいが描くラクロス女子日本代表の未来図
<了>
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[PROFILE]
中澤ねがい(なかざわ・ねがい)
2003年11月12日生まれ、神奈川県出身。ラクロス女子日本代表。ポジションはミッドフィールダー(MF)。165cm/57kg。2歳年上の姉・こころの影響で中学1年生の時にラクロスをはじめ、日本大学高等学校を卒業後、姉と同じアメリカのルイビル大学に進学。NCAA最高峰のD1でプレーし、チームの大黒柱として活躍中。2019年U19世界選手権(10人制/5位)に15歳で出場(当時最年少)。2022年のワールドゲームズ(6人制/5位)や2024年U20世界選手権(10人制/3位)などに出場。今年1月のアジア・パシフィック選手権(10人制)に出場し、5試合で決勝を含む7得点を決め、優勝に貢献した。2026年に日本で開催される世界選手権、28年のロサンゼルス五輪を目指す。元サッカー日本代表の父・中澤佑二は国内の大学でラクロスの指導者として活動中。
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