浦和レッズ、ルヴァンカップへの21年間にわたる熱情。「黄金期の再来」感じさせる運命の国立決勝へ
JリーグYBCルヴァンカップは11月4日に決勝戦が行われる。準決勝で名古屋グランパスを退けたアビスパ福岡が初の決勝進出を果たし、2度の優勝経験を持つ浦和レッズに挑む。一方の浦和レッズも、この大会に懸ける思いは非常に強い。2003年の大会初優勝時からチームを追うライターの佐藤亮太氏は、20年ぶりの聖地・国立競技場での戴冠を目指すルヴァンカップ決勝進出と“黄金期の再来”を重ね合わせる。
(文=佐藤亮太、写真=森田直樹/アフロスポーツ)
浦和レッズがナビスコカップに抱いてきた強い熱情
Jリーグヤマザキナビスコカップ、そして2016シーズン途中から大会名称が変わっていまに続くJリーグYBCルヴァンカップ。この大会と浦和レッズとは……手にしたいのに、なかなか手にできない、なにか片思いにも似た強い熱情のようなものを感じる。
その皮切りが2002年。元日本代表監督のハンス・オフトを迎え、チーム改革に本格的に挑んだこの年、浦和は初タイトルに手をかけた。
11月4日、国立競技場。対戦相手は鹿島アントラーズ。結果は59分、小笠原満男に決められ、1-0で敗れた。前年J1王者の強敵にあと一歩まで迫った。しかしその紙一重の厚さを感じる試合だった。
一方、込み上げる悔しさを来年へのリベンジに転化させた。
迎えた2003年、再び決勝・国立の舞台へ。「あの悔しさを忘れるな!」を合言葉に攻撃陣が爆発。ケガから復帰の山瀬功治が。スピードスター田中達也が。そして怪物エメルソンが。時折強まる雨もなんのその勝ちも勝ったり4-0の完封勝利。胸がすく完勝劇。
だが、ピッチ外は試合後も騒がしかった。初タイトルを獲得したこの日にオフト監督が今季限りでの辞任を発表。表彰式後は、場内一周の際、優勝に喜んだ一部サポーターがピッチになだれこむなか、エメルソンとゼリッチが優勝メダルを紛失。メディアを通じて、エメルソンが「メダルを返して!」と訴えたところ、声が届いたのか、後日クラブ事務所に匿名でメダルと謝罪文が届いたという顛末となった。 この勢いをそのままに、浦和OBのギド・ブッフバルト監督体制の翌2004年にも聖地・国立でのファイナル進出。相手は1998年・1999年、浦和で指揮を執った原博実監督率いるFC東京。試合は39分、FC東京DFジャーンが退場。攻勢に出た浦和だが、FC東京の堅守に阻まれ、延長戦を経てPK戦に。しかし、2-4で連覇とはならず、悔しさと後味の悪さだけが残った。
申し訳なさから涙を流すも「カップ戦はのびのびできた」
2006年のJリーグ初優勝&天皇杯連覇、2007年のACL(AFCチャンピオンズリーグ)制覇の黄金期を経て、時代は移り、2011年。
この年、浦和OBであるゼリコ・ペトロヴィッチ監督が就任。オランダ仕込みの超攻撃サッカーを標ぼうし、性急すぎるほどの若手起用を敢行したことが結果、仇となり、リーグでは低迷。残留争いに巻き込まれた。
第29節・大宮アルディージャとのダービーマッチで0-1で敗戦し指揮官は契約解除。ナビスコカップは決勝進出を決めたにもかかわらず、指揮することなく日本を去った。代わって監督に就任したのが浦和レッズユースで指揮を執った堀孝史。相手は三たび、鹿島。試合は0-0で迎えた延長前半105分。大迫勇也に決められ、0-1の敗戦となった。
この試合後のセレモニーで表彰台を見上げながら、山田直輝は涙を流していた。その理由……それはサッカー人生初めての退場処分。しかも後半立ち上がり5分での退場。12年前の忘れたくても忘れられない、涙にくれた薄暮の国立を彼はこう振り返る。 「悔しいというより申し訳ない気持ちが強くありました。決勝という舞台の特別な雰囲気が自分の冷静さを欠いてしまったといまでも思っています」と語るとともに、残留争いの只中で切羽詰まったリーグ戦に比べ、「カップ戦はのびのびできた」とも話した。
2016年、大会名がルヴァンカップへ。ミシャサッカーは爛熟期
2013年。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が率いて2年目。就任して初めてのタイトルがかかった試合。相手はネルシーニョ監督率いる柏レイソル。決勝直前、メディアを通じて、柏はケガ人続出の満身創痍の状態と伝えられ、下馬評は戦力十分の浦和だった。しかし蓋を開けてみれば、前半アディショナルタイム、右クロスから工藤壮人に頭で決められ、0-1で敗れた。
そして2016年。大会名がルヴァンカップとなり初めての決勝戦。このとき、ミシャサッカーは爛熟期。在任時もっとも強かったシーズン。相手はガンバ大阪。試合0-1で迎えた76分、途中交代で入ったばかりの李忠成が同点弾を決め、振り出しに。前後半、そして延長戦でも決着つかず、PK戦に。5-4で浦和が辛くも制し、2003年以来、2度目の優勝を決めた。
試合後の会見で「ファイナルの戦いで、これまでわれわれは勝負弱いと言われてきました」とミハイロ・ペトロヴィッチ監督。その伏線は前年の2015シーズン。ファーストステージ無敗優勝したもののJリーグチャンピオンシップ準決勝にて1―3、さらに天皇杯決勝で1-2といずれもガンバに敗れていた。 ミシャにとってもこのタイトルは面目躍如となった。
「負ける要素をできるだけ排除するチーム同士の対戦」
あれから7年。その間、浦和はACLで2度優勝したものの、国内主要タイトルは2018年、2021年の天皇杯優勝の2つ。ルヴァンカップはリカルド・ロドリゲス監督在任時の2021年、2022年は一歩及ばず、ベスト4止まり。今年こその思いがかない、7度目の決勝進出となった。
とはいえ、振り返れば、よく勝ち上がったといえる。
グループステージは1勝5分。勝点8で清水エスパルス、川崎フロンターレと並ぶなか、得失点差と直接対決で川崎に勝ったことで、辛くも首位通過。準々決勝のガンバ大阪戦では2試合通算4-0で勝ち抜くと、準決勝・横浜F・マリノス戦は180分、一進一退の攻防が続く好ゲームに。2試合合わせて3得点すべてPKという異例のゲームを浦和が2-1で制し、11月4日、10年ぶりの国立決戦に挑むこととなった。
この一戦に弾みをつけたかった、10月28日。リーグ優勝にわずかな望みを残した浦和はこの日、アウェイで鹿島と対戦。両チームともに堅守がさえ、スコアレスドロー。浦和には痛恨の引き分けとなった。試合後、ブーイング覚悟でゴール裏に挨拶した浦和イレブン。しかし、かかった声は叱咤だった。
今季、主力として決勝を迎える安居海渡はこう振り返る。
「引き分けで終わったが、ゴール裏からは『切り替えていこう!』という声が上がり、すでにサポーターは気持ちを切り替えていると感じました。自分たちとしてはもう今日の鹿島戦は終わってしまったので切り替えて、ルヴァンカップは絶対に取りにいきたいので、しっかり準備をしたい」
西川周作は「(決勝は)非常に楽しみな一戦。次のルヴァンカップのことを考えるとみなワクワクしてくると思います。福岡が難しい相手なのは間違いない。タイトルに向けて思う存分、楽しみたい。久しぶりの国立になるので、多くのファン・サポーターが詰めかけてくれ、スタジアムを真っ赤にしてくれると思うのでホントに楽しみです」と心待ちにしている。
加入後、初の国内主要タイトルがかかる岩尾憲は「ACLでもそうでしたが、僕にとって年齢を含めて、願っても毎回訪れるようなシチュエーションではないので、この一瞬一瞬をどのように振舞うか、どう結果を出せるかに、この1年コミットしています。リーグは物理的に不可能になったわけではないので次に向けて準備しますし、ルヴァンカップ決勝に向け、良い準備をしたいです」と意気込みを語った。
決勝の相手・アビスパ福岡について分析する小泉佳穂は「負ける要素をできるだけ排除するチーム同士の対戦。なので、ビッグチャンスが生まれづらい展開になると思います。決勝は90分で終わらないので、最後まで負けなければ勝てる試合。その点では僕らは強みを出しやすい。我慢比べだったり、スキを作らない、集中を切らさないなど90分、持ち続けることが大事になってきます」と展開を予想。
アレクサンダー・ショルツは「僕らは今チームとして、しっかり機能しています。ただし決勝はなにが起こるかわかりません。誰かしらが光ることが必要になってくると思います」とゲームを決める主役の到来を期待した。
黄金期の再来か、それとも落胆の声か……
浦和は今回を含め、ナビスコカップ・ルヴァンカップで7度の決勝進出を果たし、2度優勝しているが、監督就任1年目の決勝進出が多いように感じる。
2002年のハンス・オフト監督。2004年のギド・ブッフバルト監督。2011年のゼリコ・ペトロヴィッチ監督(契約解除後、決勝の指揮は堀孝史監督)。そして今回の2023年のマチェイ・スコルジャ監督。
こうして改めて振り返ると、決勝進出のタイミングとして、浦和はなにかを変えたい、あるいは変えようとする力や思いが勢いとなっている印象がある。2003年のナビスコカップ優勝は、その後のリーグ、天皇杯、ACL優勝への出発点になった。監督就任1年目ではないものの、2013年、就任2年目のミハイロ・ペトロヴィッチ監督体制での決勝進出はその後のチームの飛躍につながった。
また7度の決勝進出は少なからず、ACLでの粘り強い戦いにも良い影響を与えている一方、カップ戦決勝では勝ち切れなさもぬぐえない。つまり、優勝の甘美より準優勝の悔しさがクラブ・チーム・サポーターのDNAに残っている。だからこそ、次こそはとの思い、タイトルへの気持ちは強く、熱くなる。
今回のファイナル進出はその後の浦和レッズになにを示すのか。黄金期の再来――常勝への高らかな大号令か、それとも落胆の声か……11月4日、国立競技場で決まる。
<了>
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