バレーボール・宮浦健人が語る、日本復帰。海外で掴んだ成長。「結果は絶対出さないと」日本代表に懸ける胸中とは?
現在開催中のネーションズリーグ2024で、ここまで5勝1敗と今年も強さを発揮しているバレーボール男子日本代表。その日本でオポジットとして西田有志と双璧をなしているのが宮浦健人だ。昨季はフランスリーグで充実したシーズンを送り、さらに攻撃の幅を広げて帰ってきた。どんなシチュエーションでも準備を怠らず、コートに入れば必ず期待に応える、そのメンタリティの源とは? そしてジェイテクトSTINGS復帰、ライバル西田への思いについても聞いた。
(文=米虫紀子、写真=長田洋平/アフロスポーツ)
「ダメな時にどうやって巻き返すか」という部分での成長
――2023-24シーズンはフランスリーグのパリ・バレーでプレーし、勝利した試合では毎回のようにMVPを獲得されました。パリでのシーズンで得たものは?
宮浦:2022-23シーズンはポーランドで試合に出ることがあまり多くなかったんですが、今回パリではしっかり出ることができたので、試合中のメンタルの持ち方だったり、試合の中で相手ブロックと対峙して得られるものが多くありました。実際の試合ではいろいろな局面がある中で、ここは思い切り攻めるところだな、ここはうまくやるところだなとか、局面ごとの判断もできるようになったかなというのがあります。
オポジットという点を取らなきゃいけないポジションなので、サーブにしても、大事なところで入れにいくというよりは、やっぱり攻めることを意識しましたし、スパイクも、大事な局面ではしっかり打っていくことは心がけていました。その中でスパイクの幅は増えた印象があります。それに、試合に出続ける中で、いい時もダメな時もありましたが、ダメな時にどうやって巻き返すか、どう戻すかというところの切り替えの部分はすごく成長できたのかなと。全部の試合に出てケガなくやり通せたというところで、コンディショニングについても学べたかなと思います。
――海外2シーズン目の生活面はどうでしたか?
宮浦:海外1シーズン目のポーランドの時は、田舎の街でしたし、言葉もまだまだ拙かったし、試合に出られていなかったのでちょっとしんどい部分がありましたけど、それに比べるとパリは充実していました。快適でしたし、生活に関してしんどいとは思わなかったですね。
――食事は自炊していたんですか?
宮浦:はい。でも毎回「何を食べようかな」と考えるんじゃなく、もうシンプルに毎日同じようなご飯を食べていました。鶏の胸肉を焼いてスパイスや塩をかけたものだったり、ブロッコリーとか。あとは炊飯器でご飯を炊いて。それがラクですね。時間もかからないし、効率がいい。
ライバルからの刺激「そういう選手がトップになるんだなと」
――ポーランドでは試合にあまり出られず、しんどい時もあったということですが、昨年石川祐希選手が、「海外ではその時の環境を楽しめていないときついけど、宮浦選手に『ポーランドどうだった?』と聞いたら、『よかったですよー』という答えが返ってきた。どんな環境でも楽しめる感じなら、海外でも長く続けられるんじゃないか」と話していました。
宮浦:ポーランドは、確かにしんどいこともありましたけど、すごく行ってよかったなと思っているんです。バレーのレベルも、練習の強度もめちゃくちゃ高いですから。ファンもすごく熱くて試合の雰囲気はヤバいですし(笑)。街は静かなんですけど、みんな温かくて、街で声をかけてくれたり、ファンとの距離が近い。スープだとか、ご飯もすごくおいしかったですし。自分にとっては全部がいい経験で、トータルしたら楽しかった。チームメイトともたくさんいろんなことができましたし。
――ポーランドのPSGスタル・ニサでオポジットのポジションを争ったワシム・ベンタラ選手は、2023-24シーズンはイタリアの強豪ペルージャに移籍し、セリエA優勝を果たしましたね。
宮浦:今もたまにインスタに連絡がきますよ。僕が何か投稿したら、コメントしてくれたり。ポーランドにいる時もすごくいい関係で、一緒に遊びに行ったり、仲良くしていましたし、練習ではお互いに刺激しあってやれていたのですごく良かったと思います。彼との出会いも、自分をいろんな部分で成長させてくれました。
――彼の今の活躍は刺激になっていますか。
宮浦:めちゃくちゃ刺激になっています。身近にあれだけの選手がいたということで、どれだけやれば世界のトップになれるんだというところが、なんとなく見えた気がします。彼はめちゃくちゃ負けず嫌いなんです。ヤバいですよ(笑)。自分がよくないプレーをした時はめちゃくちゃへこむし、自分にキレるし。サーブとか、ダメだった時はめちゃくちゃ練習するし。そういう選手がトップになるんだなと。
――刺激という意味では、サッカーの名門チーム、パリ・サンジェルマンの試合を観戦されたそうですが、それもいい刺激に?
宮浦:はい。同じスポーツですけど、サッカーは規模が違うし、コート(ピッチ)に立っている選手が輝いて見えました。特にやっぱりキリアン・エンバペ選手は、その中でもより輝いて見えましたし、プレーでも違いがハッキリしていて、歓声もものすごかった。エンバペって名前がコールされただけでスタジアムがガーッ!と沸いて。「うわ! カッケー!」と鳥肌が立ちました。パリ・サンジェルマンにはアジアの、韓国の選手もいるんですけど、そうやってアジアから出て世界のトップでやっている姿もすごく輝いて見えたし、自分もそんな選手になりたいと思いました。
日本に戻ってプレーするという決断
――そういう選手たちに刺激を受けて、世界の舞台でステップアップしていきたいという思いもあったと思いますが、今シーズンは3年ぶりに日本に戻り、ジェイテクトSTINGSでプレーする決断をしました。悩んだのでは?
宮浦:そうですね。2024-25シーズンは(Vリーグが)SVリーグに変わって、システムも変わり(外国人枠が1から2に増えるため)みんなが知っているような世界のビッグスターが入ってきます。(日本人選手の)移籍も活発になって、本当にそれぞれが、自分の求めているチームに行くようになりましたし、リーグのレベルは間違いなく上がると思います。
だから自分としても、日本でやる選択がステップダウンかと言えば、そうは思わないので。ただ自分の頭の中には成長し続けたい、まだまだトップでやり続けたい、トップを目指し続けたいというのがあって、そのために、いろいろなオファーの中から、毎年最適解を選択できたらいいのかなと思っています。
――今シーズンは、例えばイタリアやポーランドのチームからのオファーもあったのですか?
宮浦:まああったといえばあったんですけど、いろいろな条件だったり交渉の中で、という感じですね。
――SVリーグがスタートする年に宮浦選手が戻ってくれば日本はますます盛り上がりますね。
宮浦:やっぱり日本のリーグが上がっていくことは、自分としても重要なことですし、いい外国人選手が来るというのはありますが、でも日本人がそのトップのレベルに追いついていかないと、やっぱり日本のバレーが世界のトップには近づいていかないと思うので、そこは自分も頑張らなきゃいけないと思っています。
日本代表で「試合に出られない」環境との向き合い方
――日本代表では、宮浦選手は好調であっても先発ではなく二枚替えや途中出場で起用されることが多いですが、いつもアップゾーンで入念な準備を欠かさず、コートに入れば必ず結果を出します。学生時代に大エースだった選手が、そういう立場で腐ることなく結果を出し続けることは当たり前のことではないと思うのですが。
宮浦:昨年も自分は試合に出られないことが多かったんですけど、そこはただただ自分に力がないだけなんで。でも二枚替えやブロックというところで出る可能性はあるので、そこで結果は絶対出さないといけない。そのためにはやっぱり最大限の準備をしないといけない。それをしなくて結果を出せなかったらなんにもならないんで(笑)。結果を出すために、というところは常に意識していますし、チームに求められているところは100%出していきたいので。
――日本代表やポーランドで、試合に出られなくてへこんだりしたことは?
宮浦:あまりないですね。へこんで何もやらないということじゃなくて、もちろん悔しい思いはあるので、そのエネルギーをどう変えるかですね。試合に出て何もできなかったとか、うまくいかなかったことに対してへこむことはありますけど、そこで、なんでできなかったのかを考えて、成長したり、もっとできるようになりたいという思いはより増します。
――負の感情に支配されることなく、全部前向きに変わるんですね。
宮浦:そうですね。マイナス思考になっても何も生まれないし、自分のためにならないので、「じゃあどうしていくか」というところだけ考えています。
――いつ頃からそんなふうにできるようになったんですか?
宮浦:いつだろう……やっぱり学生時代、特に鎮西高校の時に、鎮西ってエースのバレーなので、自分自身がすごく責任というのを感じるようになって、そこで常に矢印を自分に向けられるようになったというか。自分のプレーがダメで負けた時に、「もっともっと成長しないといけない」と。そのサイクルを繰り返したことで、今のメンタリティになったのかなと思います。
「西田選手、ガーン!って行ったんで(笑)」
――日本代表でオポジットのポジションを争う西田有志選手は宮浦選手にとってどんな存在ですか?
宮浦:自分自身は西田選手を追いかけてきた立場なので、本当に今も、頑張って追いかけているところです。やっぱりリスペクトできる部分がたくさんあるので、すごく刺激になりますし、もっともっと吸収していきたいと思っています。
――追いかけてきた感じですか。
宮浦:そうですね。西田選手、ガーン!って行ったんで(笑)
――西田選手は以前、高校卒業後に大学進学ではなくVリーグに進む道を選んだ理由の一つに、ユース時代に宮浦選手とのポジション争いに敗れたことを挙げていましたが。
宮浦:ユースの時は自分が試合に出ましたけど、自分が実力的に優っているとかはまったく思ったことがなくて。その時から西田選手はプレーが本当にすごかったので。持っているものが違うというか、キレもパワーも規格外で、ものすごかった。そこからガン!って西田選手行ったんで、さらに力の差は感じましたね。なので、ずっと追いかけてきました。
――いよいよパリ五輪に向けた戦いがネーションズリーグから始まっていきます。
宮浦:自分がポーランドやフランスのリーグでやってきた肌感覚として、今の日本代表は(パリ五輪で)メダルを獲れる位置にはいると思います。ただ、そういったチームがたくさんあるというところは変わりないので、ネーションズリーグや日々の練習で、自分たちの強みである精度という部分をもっと強化して、チームとしてもより結束しなければいけない。強い相手に勝って自信をつけることも必要になってくるし、本当にネーションズリーグは大事な大会になるので頑張りたいと思います。
<了>
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[PROFILE]
宮浦健人(みやうら・けんと)
1999年2月22日生まれ、熊本県出身。バレーボールSVリーグのジェイテクトSTINGS所属。ポジションはオポジット。鎮西高校を経て、早稲田大学に進学。大学時代は全日本インカレ4連覇に貢献。2021年、ジェイテクトSTINGSに入団。同年に日本代表にも初選出。2022-23シーズンはポーランドのPSGスタル・ニサ、2023-24シーズンはフランスのパリ・バレーでプレー。2024年6月、2024-25シーズンよりジェイテクトSTINGSに復帰することを発表。
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