なぜドロンパは最後列で踊っていたのか? 節目迎えるJリーグマスコット総選挙が示唆する、進むべき未来
2月12日、FUJI FILM SUPER CUPが行われた。前年度のJ1リーグ王者と天皇杯王者が戦うこの記念試合を機に、Jリーグを彩るマスコットが集うイベントとして定着した「Jリーグマスコット総選挙」は今年で10回目の開催となった。FC東京マスコット・ドロンパの総選挙辞退や、最下位まで順位づけする方式への疑問の声なども聞かれる中、10年目の節目を迎えたこのイベントはもはやオワコンなのだろうか?
(文・撮影=宇都宮徹壱)
なぜドロンパはひとり、最後列で踊っていたのか?
彼はひとり、踊っていた。周囲に大勢の仲間たちがいる中、誰かに見せるというわけでもなく踊っていた。相変わらずキレキレのダンスだったが、どこか寂しげで投げやりな様子。「彼」とはFC東京のマスコット、東京ドロンパである。
2月12日、日産スタジアムで開催されたFUJI FILM SUPER CUP(以下、スーパーカップ)の試合前。Jリーグキングを含む54体のマスコットが勢揃いする中で「もふ撮!with Jマスコッツ」なる催しものが開催されていた。この日の会場に訪れた全マスコットと一緒に記念撮影ができるというもの。ちなみにチケットは1万5000円で、20組限定である。
もふ撮では、この年に開催されたJリーグマスコット総選挙の序列が反映されている。前列に陣取るのは、マリノス君(1位)やヴィヴィくん(2位)やグランパスくん(3位)といった上位陣。一方でドロンパは、54位(最下位)の福嶋火之助や53位の蹴っとばし小僧と同じ最後列である。2016年には2位になり、常に10位台をキープしていた人気マスコットが最後列。それは、何とも奇異に感じられる光景だった。
ドロンパがこのような扱いを受けたのは、今年の総選挙の参加を辞退したからだろう(他に理由が見つからない)。Jリーグから総選挙の告知がリリースされた1月17日、FC東京の公式サイトは《開幕前に全クラブで盛り上げるマスコット総選挙という企画を尊重しつつも、「マスコットはそれぞれが尊く、それぞれがみんなのNo.1」と考え、今回の決定となりました。》として、ドロンパの辞退を表明している。
このFC東京の決意表明は、当該サポーターのみならず、他クラブのサポーターにも「総選挙って、辞退できるんだ!」という強烈なメッセージを与えた。2013年からスタートしたマスコット総選挙も、今年で第10回。新シーズン到来を告げる風物詩として定着する一方で、すでに曲がり角にきているようにも感じられる。そんな中で起こったのが、今回のドロンパ辞退であった。
アイドルの世界でも見られた「総選挙疲れ」
ドロンパ辞退の理由となった「それぞれがみんなのNo.1」。背景にあるのは、最近の「推し文化」の変化であろう。自分のサポートクラブのマスコットは、もちろん順位は上のほうがいい。しかし、ここにきて順位以上に「自分たちが推すことで盛り上がりたい」というファンのほうが多いと聞く。これはマスコットのみならず、アイドルの世界でも同様だという。
マスコット総選挙が参考としたのが、2009年からスタートしたAKB48選抜総選挙。ファン投票によってトップから最下位までのランキングを可視化し、見事1位になったメンバーにはセンターボジションが与えられる。こうしたフォーマットは、そのままJクラブのマスコットに移植された。ところがAKBの総選挙は、2018年の第10回を最後に行われていない。
アイドル文化に詳しい岡田康宏氏によれば、もともとAKBの総選挙は「ファンの方からの『こんないい子がいるんだよ』と知ってもらう機会を増やしたいとの声を受けて始まった」という。最初は、ステージや握手会などでの好感度が順位に反映されていた。ところが回を重ねるごとに、SNSによるセルフプロデュース能力が高いメンバーが支持を集めるようになり、次第に総選挙のシステムは意義を失っていく。ただし、総選挙がオワコン化した理由は「それだけではない」と岡田氏は指摘する。
「忘れてはならないのが『総選挙疲れ』です。メンバーやファンの負担が大きすぎて、みんなが消耗していったというのも、間違いなくあったでしょうね。それ以外の複合的な理由も含めて『そろそろ潮時』となったんだと思います」
この「総選挙疲れ」というものは、実はマスコット総選挙でも、ここ数年で指摘されてきたことだ。推しのマスコットに毎日投票することに、ファンは次第に気疲れを覚えるようになる。クラブスタッフもまた、投票を呼びかける動画の撮影や編集に忙殺される(しかも開幕直前の繁忙期に)。そして下位に沈んだマスコットは、SNS上にてファンに謝罪する。誰にとっても、およそ幸せな状況とはいえまい。
Jリーグアウォーズに「ベストマスコット賞」を!
AKBの総選挙は10回で事実上終了となった。今年で10回目となったマスコット総選挙も、同じ運命をたどることとなるのだろうか? あるいは総選挙そのものは続くとして、今後もドロンパのように参加を辞退するマスコットが出てくるのだろうか?
もちろん、毎年のマスコット総選挙を楽しみにしている層が、一定数存在することは理解している。開幕前の風物詩として定着していること、スーパーカップの出場クラブ以外のファンへの訴求という点でも、マスコットたちが果たした役割は計り知れない。その事実は認めつつも、今後も無条件で総選挙を続けることについては、私は疑義しか感じない。
そもそもマスコットとは、それぞれのクラブとサポーターにとって「オンリーワン」の存在。それをコンペティティブに競わせるのは、マスコット本来の存在意義から逸脱しているのではないか。加えてファンやクラブ、さらにはマスコット自身が疲弊するのであれば、これは本末転倒といわざるを得ない。では、どうすればよいのか。
新シーズン開幕を告げるスーパーカップに、全クラブのマスコットが集合することについては、今後も続けてほしいと思う。ファンに向けてのグリーティングや集合写真、そして今年から始まった大運動会にも、大きな可能性が感じられた。「茶番」といわれればそれまでだが、マスコットとは本来、そういう緩くてふわふわした存在なのだ(総選挙自体、スタート当初は茶番と牧歌の雰囲気に包まれていた)。
これは以前から主張していることだが、そろそろJリーグアウォーズに「ベストマスコット賞」を加えてもよいのではないか。ホームタウン活動やシャレン!での貢献度、メディアやSNSでの露出、そしてグッズ販売やスポンサー獲得による売上など、評価軸はいくらでも考えられる。一時的な人気投票で優劣を争うよりも、ベストマスコット賞を目指すことにエネルギーを費やすほうが、はるかに有意義ではないか
Jリーグアウォーズの晴れがましい舞台に、あなたの大好きなマスコットがタキシード姿で登場し、受賞の喜びをフリップ芸で表現する──。そんな光景を見てみたいと思うのは、決して私だけではあるまい。
<了>
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