WEリーグ得点王・吉田莉胡はなぜ覚醒したのか。移籍1年目で越えた“沈黙”と決定力不足

Career
2026.06.18

INAC神戸レオネッサ加入1年目で、吉田莉胡はキャリアハイを大きく更新する16得点を挙げ、WEリーグ得点王とベストイレブンに輝いた。昨シーズンはシュート数を重ねながら5得点にとどまり、自ら決定力不足を課題に挙げていた。新天地ではフィニッシャーとしての役割に集中し、クロスへの入り方やシュートの質を磨いたことで、ワンタッチやヘディングなど得点の形を広げていった。年末から年始にかけては公式戦8試合ノーゴールという苦しい時期も経験した。移籍によって変わった意識と技術、ゴールが止まった時間に向き合った葛藤、再び得点を重ねるまでの過程を聞いた。

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=西村尚己/アフロスポーツ)

移籍1年目で得点王。INACで変わった役割

――加入1年目で16得点を挙げ、得点王とベストイレブンに輝きました。移籍した当初、この結果を想像していましたか。

吉田:まさか1年目からこれだけ結果を残せるとは、全く思っていませんでした。得点王とベストイレブンをいただけたことはすごくうれしかったです。リーグ優勝もできて、チームのみんなと一緒にアウォーズの場に立てたことも大きかったです。

――ちふれASエルフェン埼玉から加入して、この1年で最も成長したと感じる部分はどこですか。

吉田:一番は得点力です。監督からもフィニッシャーとしての仕事を求められ、ゴールへの意識が変わりました。それぞれのポジションに素晴らしい選手がそろっているので、自分は点を取ることによりフォーカスしてプレーすることができていました。

――INACの9番は、川澄奈穂美選手や田中美南選手が背負ってきた番号で、昨シーズン得点王のカルロタ・スアレス選手から引き継ぎました。プレッシャーもありましたか。

吉田:加入した時から、INACの9番として恥ずかしくないプレーを見せようと決めていました。一時期、得点が止まった時期には「得点王のタイトルは取れないかもしれない」と不安になり、歴代の9番として恥ずかしいかもしれないと、自分で自分にプレッシャーをかけていました。その流れを止めずに済んで良かったと、すごくほっとしています。

5得点から16得点へ。変化したシュートの質と得意な形

――昨季は5得点でしたが、今季は16得点と、キャリアハイを大きく更新しました。得点を重ねる上で、最も変わったのはどの部分でしょうか。

吉田:最後のシュートの質だと思います。今季はワンタッチシュートのゴールが多かったのですが、「あとは決めるだけ」というパスを出してくれる選手がそろっていて、みんながいいボールを届けてくれたことが得点につながったと思います。INACでは練習中に攻撃陣と守備陣に分かれる時間があり、攻撃陣はシュート練習をする時間が増えました。決め方のパターンやレパートリーが増えたことが、得点数につながったと思います。

――右足、左足、ヘディングと、さまざまな形でゴールを決めました。特に意識して取り組んだことはありますか。

吉田:通常のシュート練習にも取り組みましたが、クロスへの入り方は、シーズン途中から意識して変え始めました。

――空中戦で競り勝つ場面が多く、ヘディングでも複数得点を記録しました。もともと自信はあったのですか?

吉田:得意ではないです。エルフェンでもヘディングで決めることはほとんどありませんでしたし、競り合いもあまり好きではありませんでした。ただ、自分は身長が高いほう(165cm)なので、タイミングを合わせれば勝てるのかなと思います。今季に関しては、ヘディングでも取れたことが自信になりました。

――今季、新たに自信を持てるようになった得意な形は他にありますか?

吉田:以前は斜めに抜け出し、左側45度くらいの位置からファーへ流し込む形が得意でした。ただ、今季はワンタッチのゴールが増えたので、いい位置へ入って一発で決めることも、自分の良さとして自信を持てるようになりました。

ゴールを生んだ位置取りと「要求する力」

――シーズン中、「得点が取れそうな位置に入ることを大切にしている」と話していました。味方がボールを持った時、何を見て動いていますか。

吉田:久保田真生選手や愛川陽菜選手、水野蕗奈選手のように、サイドで個人突破できる選手がいるので、そこで勝負して突破してくれれば、中を見なくてもいいボールを入れてくれます。あとは自分がどのタイミングで入るかが大事なので、練習でもクロスからのパターンを多くやっていますし、動きがかみ合わなかった時には、「この場面ではこっちに出してほしい」と、その都度伝えていました。

――加入当初から、周囲の選手に要求することへの遠慮はなかったのですか?

吉田:いや、最初は全然言えず、雰囲気でやっていた感じでした(笑)。ただ、INACには試合に出ている若い選手も多く、自分は年齢的に中堅くらいなので、年下の選手には比較的伝えやすかったです。(成宮)唯さんや(三宅)史織さんなど年上の選手には、最初はあまり言えていませんでした。

――今シーズンは成宮選手とのホットラインから多くの決定機やゴールを生み出しましたが、どのように連係を深めていったのですか?

吉田:「こういうパターンでは、ここにいることを見てほしい」とよく話しました。唯さんは話を聞いた上で、「自分も今はそう思っていた」「今のプレーは少し違った」と細かく伝えてくれるので、それによって自分の動きが違ったことにも気づけます。INACは練習からコミュニケーションが多いチームですし、その内容も細かくてレベルが高く、「そこまで求めるんだ」と感じることもありました。年上の選手たちが自分のプレーで示してくれるからこそ、下の選手がついていかなければいけない雰囲気があって、若い選手の成長も早いのだと思います。

「サッカーが楽しくない」初めて味わった長い沈黙

――年末から年始にかけて、公式戦8試合ノーゴールが続きました。プレー面では、どんな課題を感じていましたか。

吉田:相手のマークが厳しくなって、いい形で前向きにボールを受けることができなくなりました。動き出しても思うようにボールを引き出せなかったり、自分で収めきれなかったりする場面もありました。そこは足りない部分だと感じたので、ボールを失わず、味方の攻撃につなげる力はもっと高めたいです。ただ、その時期は、やり続けるしかないと思っていました。

――練習への向き合い方も変わりましたか。

吉田:アドバイスを聞きながら、練習量を増やしました。自主練習で一本一本が少し雑になっていたことが、試合にも出ているのかなと思ったので、一本も無駄にしないで、誰よりも量をこなすことを意識しました。しのさん(大野忍コーチ)がつきっきりで声をかけてくれて、練習に付き合ってくれることも多く、その頃はみっちーさん(宮本監督)から「そろそろやめて」と止められるまで続けていましたね。

――精神的にも、かなり苦しい時期だったのでしょうか。

吉田:チームも勝てない時期と重なり、初めて「サッカーをしていても楽しくない」と感じました。普段は寝たら切り替えられるタイプで、周りからも切り替えが早いと言われます。それでも、あの時は神戸に来て初めて家族に電話したくらい、追い込まれていました。

――その時、どんな言葉をかけられたのですか?

吉田:みっちーさんは「そのうち取れるから大丈夫だよ」と言い続けてくれました。しのさんと髙瀬(愛実)さんからは、「フォワードは取れる時はバンバン取れるけど、取れない時は本当に取れない。焦らずにやり続けていれば、取れる時が来るから大丈夫」と言ってもらいました。いろいろな経験をしてきた二人の言葉には説得力があって、心がスッと楽になりました。

沈黙を破った千葉戦。来シーズンは20得点へ

――後半戦のジェフユナイテッド市原・千葉戦を皮切りに、4試合連続で6得点を挙げました。その試合は、どんな思いで臨んでいたのですか?

吉田:「今日は決められそう」という感覚はあったわけではないですが、「今日は絶対に決めなければいけない」という気持ちはありました。その前の(リーグカップの)サンフレッチェ広島レジーナ戦で自分がPKを外して負けていたこともあり、ジェフ戦に懸ける思いは強かったです。その試合で1点取れてからは、自分の中で吹っ切れた感じがありました。

――試合前や試合の入りでは、自分の状態をどのように感じ取っていますか。

吉田:その日の調子について、自分なりの感覚はあります。ただ、それが全然当たらないんです(笑)。「今日は不調でやばいかもしれない」と思っていた日にハットトリックをしたこともあります。それ以来、自分の感覚だけでその日のプレーを勝手に予想したり判断したりしないようになりました。

――得点王となり、来シーズンは今シーズン以上に警戒されそうですが、具体的な得点数の目標はありますか?

吉田:今シーズンの得点数を基準に見られるようになると思うので、プレッシャーを力に変えて、今シーズンの結果を超えたいです。明確な数字はまだ決めていませんが、2年連続で得点王を狙うくらいの得点を取りたいです。今季は16得点でしたが、チャンスの数を振り返れば、あと4点は取れたと思います。マークも厳しくなると思いますし、そんなにうまくはいかないと思いますが、20得点は目標にしたいです。

<了>

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[PROFILE]
吉田莉胡(よしだ・りこ)
2002年6月18日生まれ、埼玉県出身。INAC神戸レオネッサ所属。ポジションはFW、MF。川越福原サッカークラブ、川越女子ジュニアサッカークラブを経て、ちふれASエルフェン埼玉マリで育ち、2020年にトップチームへ昇格。豊富な運動量と前線からの守備、ゴール前への鋭い入りを武器に主力として活躍し、キャプテンも務めた。年代別代表では2022年のFIFA U-20女子ワールドカップで準優勝を経験。2025年夏にINAC神戸へ移籍。加入1年目の2025-26シーズンはリーグ戦でキャリアハイを大きく更新する16得点を挙げ、クラブのWEリーグ優勝に貢献。得点王とベストイレブンを受賞した。なでしこジャパンには2025年の東アジアE-1選手権で初招集され、韓国戦で初先発。同年11月のカナダ女子代表戦にも招集され、代表定着を目指す。

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