張本智和が託し、松島輝空が決めた中国撃破。日本男子卓球、60年ぶり金で変えた景色

Opinion
2026.09.28

アジア競技大会。卓球・男子団体戦で、日本が60年ぶりの金メダルを獲得した。決勝戦では長く世界の頂点に君臨してきた中国と真正面から激突。真っ向勝負の末に3―2で勝利した。

いつか勝つだろう、勝ちそうだ、と長く言われ続けてきた中で、なかなかその壁を崩しきれずにいた世界最強の卓球王国との一戦。その中でダブルエースと言える存在の張本智和と松島輝空が圧倒的な存在感で攻め抜いた。

なぜ、2人はひるまずに攻めることができたのか――。その核心に迫る。

(文=本島修司、写真=スポーツ報知/アフロ)

王楚欽を3-0。張本智和に何が起きていたのか

アジア競技大会、卓球・男子団体の決勝戦。張本智和は常に良い表情をしていた。いくらリードされても攻めれば勝てる。そんな確信さえ感じさせる表情だった。

実際に、第2試合では温瑞博を3-1で圧倒して勝利。第4試合では中国のエース王楚欽に3-0で完封勝利だ。王楚欽は世界ランキング1位。中国が誇る現役最強のエース。それをストレートで粉砕した。

張本智和といえば、前陣での強烈な攻撃が代名詞ではある。しかし、その一方で、若い頃は守りに入ってしまい「勝ちそびれる」ような試合も多く見られた。

例えば、2019年の全日本選手権。前年も優勝しており「高校生王者」として挑んだこの年は準決勝で大島祐哉に敗れている。大島も日本を代表する選手である一方で、張本には期待の大きさから「こんなにあっさりと国内で負けるのか」という声も上がった。

事実、この試合の後に張本智和は「あと一つ勝てば決勝というところで、相手より少し守りに入ってしまった」「毎日相手が向かってきた」「苦しい全日本だった」と語っている。そこには、捨て身のように向かってくる相手を攻撃で倒しきれない少年だった張本智和の姿があった。

大人になってからも、その傾向はあった。2023年、WTTシンガポールスマッシュでは、3回戦でナイジェリアのアルナに負けたことを自らが「守りに入ってしまったので」とコメントしたこともあった。そう、張本智和には常に「いつもの攻撃をできないで負ける試合」がついて回った。

「攻めるしかない」とわかっていた張本智和

しかし、今大会の団体戦ではその「攻めずに負ける姿の張本」はどこにもなかった。何度打たれても多彩なアイデアで攻め抜いた。

王との第4試合。2-0で迎えた第3ゲーム。10-9とリードして「あと一本決めれば圧勝だ」と誰もが思った場面。

こういった場面で、日本はこれまで「中国の底力」を見せつけられてきた。それが、今回はどうか。サウスポーの王楚欽がバック側のサイドを切ってきたサーブを、チキータに入る体勢から長いボール用の打ち方に瞬時に切り替えて、バックドライブでクロスに「サイドを切って打ち抜いてやる」という強烈なバックドライブ。これがノータッチで抜けた。“今大会イチ”と言える最高の一撃だった。

この緊迫さの頂点のような場面で、あまりにも攻撃的なこのレシーブが出ること。そしてそれを決めた後の張本智和の表情。そのすべてから「自信」が滲み出ていた。ここで「ただつなぎのユルいボールを入れても勝てない」と、もう張本はわかっていた。

張本智和自身が「攻めなければ勝ちはない」ことを、これまでの膨大な経験値から培い、その攻めの姿勢をぶつけたこと。これが中国から2勝をあげる活躍につながった。

そんな“張本智和劇場”は、日本が生んだ攻撃卓球の申し子、松島へ「歴史を動かすバトン」をつないだ。勝利直後の「アァー!」という絶叫は、これまでの「チョレイ」とは少し様相が異なり、松島に闘志を贈る“エール”のようにも感じられた。

負けたら終わりの第5試合。19歳ダブルエースの意地

迎えた第5試合。この試合を勝ったほうが勝利となる一戦。

松島輝空VS温瑞博。この2人は19歳で同級生。日本と中国。そして無我夢中なほどに豪打を連発する松島と、常に冷静に攻めてくる温。覇権を争う両国で、まったく違うスタイルながら、自国を背負って5番手で戦うことになったのは何か運命的なものを感じる。

この日の決勝戦では、第1試合で王楚欽に2-3で競り負けている松島輝空。張本に並ぶ日本代表のダブルエースとして2敗はできないという背負うものもあったはずだ。結果的に3-1で松島輝空が勝利することになるこの試合。内容は、すべてが「攻撃VS攻撃」だった。

例えば台上での攻防すら、相手に「打たせない」ためのストップ以外では、チキータもしくはフリックなど攻め込む技術しか許されないような「徹底的な攻撃のやり返し」が続いた。

勝ち急いではいけない。しかし守りに入ってしまえば一気に攻め込まれてどんどん点数を取られる。「守りに入らず、攻め続けなければ勝てない」という精神面の戦いでもあった。

待ちに待った真骨頂。スタイルを貫いた松島輝空

第1ゲーム。松島がロングサーブを温のバックに食い込ませて開始。序盤から声も出ている。フォア側に出されたサーブにも、回り込んでチキータ。レシーブから攻撃的だ。

中盤は豪打VS豪打。ここでは温が徹底したブロックを見せるが、それをも撃ち抜く松島。11-7で松島が勝利。

第2ゲーム。打ち合いがさらに激しさを増す。温の動きも冴えわたる。一時は6点差をつけられながら松島も盛り返すが、サーブミスが出て8-11で温が勝利。ただ、このミスしたサーブも決して「守りに入ったもの」ではなく、温の懐に食い込ませようと攻めていって力んだような形。攻撃的な姿勢はまったく途絶えていない。

第3ゲーム。ここも豪打VS豪打がもう当たり前であるかのような激しさだ。松島は少しロングサーブの配分を増やして揺さぶりをかける。

台上ではチキータが多く、先に仕掛ける展開も目につく。チキータが「もはやチキータではないほどのスピード」で唸りを上げるようにして相手の台に突き刺さる。そしてこれがそのまま得点にもなる。11-6で圧倒。

第4ゲーム。5-2の場面では、この試合の中では珍しく温から甘く浮いたボールがきた。当然のようにフルスイングで仕留める松島。ボクシングのカウンターのような一撃。6-2。

左右に大きく動く展開では、人間の限界に挑むような大きな動きで打ち合う一本もあったがその場面すらも打ち勝つ松島。7-2。絶叫が響く。もう遮るものは何もない。

しかし。今まで中国というのはこういった窮地から「本当の底力」を見せつけてきた。今回も、この絶体絶命の場面でやはり温は冷静だった。そして粘りがある。両ハンドの切り返しにミスが出なくなる。あっさりと9-7まで盛り返す。

さきほどまでの松島完全勝利の雰囲気はもうない。この攻防で松島が一本、ツッツキレシーブを入れたこともその雰囲気に拍車をかけた。ツッツキも立派なつなぎ技術の一つ。ただ、この世界最高峰の戦いでは「弱気になって入れるだけになっている」とも受け取られる。

日本はタイムアウト。まるで、もう一度「攻めるんだ」と確認し合うかのように。そして松島輝空は自信を取り戻していく。11-8。ついに打倒中国に手が届いた。

経験値とスタイル。2人のエースが変えた、日本男子卓球の景色

最後の最後に出た、安全に“入れにいった”「ツッツキレシーブ」。もしもあれが続いたら……。その時は、一瞬の隙を突く中国の反撃が待っていたことだろう。そうさせないため、もう一度、松島輝空は自らのスタイル「殴り合うように攻め続ける姿勢」に切り替えた。その瞬間、60年ぶりアジア制覇が現実のものとなった。

メンバーとオーダーも完璧だった。3番手で起用された戸上隼輔も、国内では張本智和に何度も勝ってきたライバルでもある。このレベルの選手を3番手で起用できる強み。それが今の日本男子にはある。

そして、張本智和と松島輝空という近年の日本になかった中国のトップと双璧の実力を持つダブルエースがどんな状況からも勝負を決めにいける。

第1試合で松島輝空が、王楚欽を2-0まで追い詰めながら逆転負けを喫した際には張本智和から「勝つから待っとけ」という言葉が飛んだと明かしている。

以前の張本智和からは想像できないほど頼もしい言葉だ。まさに「経験値を手にしたエース」。そして、松島輝空は「まだ恐いものを知らない若きもう一人のエース」。張本智和と年齢が離れているというのも、ちょうどいいバランスなのかもしれない。

今、中国男子は少し勢いを失っているのではないかと言われている。しかし、もちろん、中国がこの一敗で世界の頂点から遠ざかったわけではない。フランスやスウェーデンなど欧州勢の台頭も著しい。

日本男子の歓喜の輪。その光景は絶景だった。経験値がある張本智和。そのスタイルが世界戦でついに噛み合った松島輝空。

今から幕を開けるであろう世界一に“君臨”するための戦いも、彼らはきっと乗り越えるはずだ。

<了>

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