
なぜオリックスは僅か1年で劇的に強くなったのか? 2年連続最下位からの下剋上、4つの理由
20日、オリックス・バファローズは25年ぶりの日本一を懸け、東京ヤクルトスワローズとの日本シリーズに挑む。この20年でAクラスはわずかに2回。2年連続最下位の屈辱から“まさか”の優勝を決め、クライマックスシリーズではまるで何年も王者に君臨しているかのような風格すら感じさせる強さを見せた。なぜオリックスはこれほど劇的に強くなったのだろうか――?
(文=西尾典文、写真=Getty Images)
オリックスがこれほど強くなった理由は……
史上初となる前年最下位チーム同士の対戦となった今年の日本シリーズ。両チームとも前年までは2年連続で最下位に沈んでおり、シーズン前にこの対戦を予想できた評論家は一人もいなかったことだろう。ではなぜこの2チームがペナントレースを勝ち抜くことができたのか。昨年までの戦い方と比較しながら探ってみたいと思う。今回はオリックス・バファローズについてだ。
リーグナンバーワンの先発防御率をもたらした2人のエースの存在
まず昨年と比べて大きく改善したのが投手力だ。チーム防御率を見てみると昨年は3.97だったのが今年は3.31まで良化しており、特に先発防御率3.33というのはパ・リーグでもナンバーワンの数字となっている。
最も大きかったのはやはりエースの山本由伸の存在だ。投球回、勝利数、防御率、勝率、奪三振といった主要な指標は全て12球団でトップの数字を残している。昨年までの2年間は好投しながらも味方の援護に恵まれずに勝ち星は思いの外伸びなかったが、今年は完投6、完封4と一人で投げ抜いて勝ち切る試合も増えたことで大きく貯金を伸ばした。5月28日以降は15連勝を記録しており、投げればまず負けることがない先発投手がいるというのは他の球団にはない大きなアドバンテージである。
山本以上にうれしい誤算だったのがプロ入り2年目の宮城大弥の急成長だ。山本の調子がまだ上がっていなかった5月までに5勝をマークすると、8月には12球団最速となる2桁勝利を記録するなど前半戦のチームをけん引。9月以降は少し調子を落としたものの、勝利数、防御率、勝率で山本に次ぐリーグ2位の成績を残した。宮城の存在がなければ、山本の負担も大きくなりここまでの成績を残せなかった可能性は高いだろう。
先発陣以上に昨年を上回る成績を残したリリーフ陣の奮闘
意外なことに先発以上に昨年を大きく上回る成績を残したのがリリーフ陣だ。救援防御率は4.07から3.26へと大幅に改善。昨年はコロナ禍で試合数が少なかった影響もあるが、セーブ数は20から38に、ホールドポイントも84から107へと増えている。
そして先発とは対象的なのが、山本や宮城のような絶対的な存在に頼っていないという点だ。勝ちパターンの役割を任せられているリリーフ投手はシーズン50試合以上登板することも珍しくないが、今年のオリックスを見てみると富山凌雅の51試合が最多で、他に50試合以上登板している投手はいない。50試合以上登板した投手が1人というのは12球団でもソフトバンクと並んで最少である。絶対的なクローザー、セットアッパーがいないことの裏返しでもあるが、セーブをマークした投手は6人、ホールドをマークした投手は15人を数えており、この数字からもいかにうまくブルペン陣を活用していたかがよく分かるだろう。そういう意味ではベンチワークの勝利だったともいえそうだ。
打線のカギを握った進境著しい野手陣は……
一方の打線は昨年も今年もチーム打率は同じ.247だったが、1試合当たりの平均得点は3.68から3.85へとアップしている。特に大きいのが90本から133本へと増加したホームラン数だが、これは主砲へと成長した杉本裕太郎の存在が極めて大きい。昨年までのプロ5年間での通算本塁打は9本だったものの、今シーズンはいきなり32本塁打を放ち、ホームラン王に輝いたのだ。ちなみにシーズンで初めて30本塁打を超えたシーズンが30歳以上というのは和田一浩(当時西武)以来史上2人目である。昨年までは安定して長打を打てるのが吉田正尚だけだったが、杉本のブレイクによって3番、4番が固定できるようになったことで相手投手に与えるプレッシャーも大きくなったことは間違いない。
杉本以外では宗佑磨と紅林弘太郎の三遊間コンビの成長も著しい。近年のオリックスにはいなかった大型の内野手であり、度々ビッグプレーでチームを救う存在となっていた。打率、ホームラン、打点などはそこまで目立つ数字ではないものの、初めて規定打席にも到達し、1年を通じて三遊間が固定できたというのは大きい。年齢を考えても来年以降さらに成績を伸ばす可能性も高く、新たなチームの顔としても期待できそうだ。
FAやトレードで大型補強したわけではない。チーム底上げの理由
投手、野手でキーパーソンとなった選手を挙げながら躍進の要因を探ってきたが、特筆すべきはほぼ全員が昨年もチームに所属していたという点ではないだろうか。今年加わった選手で大きなプラスとなったのはメジャーから復帰した平野佳寿くらいであり、FAやトレードで大型補強をしたわけではない。投手では宮城、野手では紅林、宗などの若手や2軍でくすぶっていた杉本、福田周平の抜てきが奏功した結果であり、そういう意味ではチームの底上げによってつかんだ優勝といえるだろう。
その背景にはファーム施設の充実や、スケールの大きい選手を重視するようになったドラフト戦略も大きく影響している。レギュラーとなった選手以外にもまだまだ底を見せていない若手は多く、今後が非常に楽しみなチーム構成となっている。来年以降も継続して優勝争いを演じることも十分に期待できるだろう。
<了>
なぜヤクルトは僅か1年で劇的に強くなったのか? 打率はリーグ3位も、刮目すべき“2つの数字”
ダルビッシュ有が明かす「キャッチャーに求める2箇条」とは?「一番組みたい日本人捕手は…」
ミスター短期決戦・内川聖一が語る、日本シリーズ“高度な心理戦”。今明かす、2017年最終戦の裏側
日本シリーズで暴れるラッキーボーイ候補は誰だ!? 年間300試合取材の記者選出6傑
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
「ヨハン・クライフ賞」候補! なでしこジャパン最年少DF古賀塔子“世界基準”への進化
2025.05.19Career -
ステップアップ移籍が取り沙汰される板倉滉の価値とは? ボルシアMG、日本代表で主力を担い攻守で輝くリーダーの背景
2025.05.17Career -
J1のピッチに響いた兄弟のハイタッチ。東京V・福田湧矢×湘南・翔生、初の直接対決に刻んだ想いと絆
2025.05.16Career -
レスリング鏡優翔が“カワイイ”に込めた想い。我が道を歩む努力と覚悟「私は普通にナルシスト」
2025.05.16Career -
なぜリバプールは“クロップ後”でも優勝できたのか? スロット体制で手にした「誰も予想しなかった」最上の結末
2025.05.14Opinion -
「ケガが何かを教えてくれた」鏡優翔が振り返る、更衣室で涙した3カ月後に手にした栄冠への軌跡
2025.05.14Career -
「家族であり、世界一のライバル」ノルディックコンバインド双子の新星・葛西ツインズの原点
2025.05.08Career -
Fビレッジで実現するスポーツ・地域・スタートアップの「共創エコシステム」。HFX始動、北海道ボールパークの挑戦
2025.05.07Business -
双子で初の表彰台へ。葛西優奈&春香が語る飛躍のシーズン「最後までわからない」ノルディックコンバインドの魅力
2025.05.07Career -
ラグビー日本人選手は海を渡るべきか? “海外組”になって得られる最大のメリットとは
2025.05.07Opinion -
なぜ北九州市は「アーバンスポーツの聖地化」を目指すのか? スケートボードとの共存で切り拓く地域再生プロジェクト
2025.04.30Opinion -
なぜコンパニ、シャビ・アロンソは監督として成功できたのか? 「元名選手だから」だけではない名将への道を歩む条件
2025.04.25Opinion
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
なぜリバプールは“クロップ後”でも優勝できたのか? スロット体制で手にした「誰も予想しなかった」最上の結末
2025.05.14Opinion -
ラグビー日本人選手は海を渡るべきか? “海外組”になって得られる最大のメリットとは
2025.05.07Opinion -
なぜ北九州市は「アーバンスポーツの聖地化」を目指すのか? スケートボードとの共存で切り拓く地域再生プロジェクト
2025.04.30Opinion -
なぜコンパニ、シャビ・アロンソは監督として成功できたのか? 「元名選手だから」だけではない名将への道を歩む条件
2025.04.25Opinion -
新生イングランド代表・トゥヘル新監督の船出は? 紙飛行機が舞うピッチで垣間見せたW杯優勝への航海図
2025.04.18Opinion -
キャプテン遠藤航が公言した「ワールドカップ優勝」は実現可能か、夢物語か? 歴史への挑戦支える“言葉の力”
2025.04.18Opinion -
なぜ日本のダート馬はこれほどまで強くなったのか? ドバイ決戦に挑む日本馬、世界戦連勝への勝算
2025.04.04Opinion -
アジア女子サッカーの覇者を懸けた戦い。浦和レッズレディースの激闘に見る女子ACLの課題と可能性
2025.03.26Opinion -
なぜJ1湘南は高卒選手が活躍できるのか? 開幕4戦無敗。「入った時みんなひょろひょろ」だった若手躍動の理由
2025.03.07Opinion -
張本智和が世界を獲るための「最大の課題」。中国勢のミート打ちも乗り越える“新たな武器”が攻略のカギ
2025.03.04Opinion -
「あしざるFC」が日本のフットサル界に与えた気づき。絶対王者・名古屋との対戦で示した意地と意義
2025.03.03Opinion -
新生なでしこ「ニルス・ジャパン」が飾った最高の船出。世界王者に挑んだ“強者のサッカー”と4つの勝因
2025.03.03Opinion