
的確な補強に戸惑うドラ党…今年こそ強竜復活? 中日ドラゴンズ躍進に期待したいこれだけの理由
昨年セ・リーグ最下位の中日ドラゴンズが、WBC開幕を控えた侍ジャパンを相手にした壮行試合で1勝1敗の堂々たる戦いを見せた。高橋宏斗のWBCでの活躍も記憶に新しい。今年はストーブリーグでも主役級の補強を敢行。今季こそはもしかすると……と“強竜復活”に期待をしたいところだ。いよいよ明日から始まるプロ野球開幕を前に、今季のドラゴンズに期待できる点を挙げていこう。
(文=栗田シメイ、写真=Getty Images)
電撃トレードに大型契約。しばらく記憶にない積極的な補強動向
今オフ、セ・リーグのストーブリーグの主役は間違いなく中日ドラゴンズだった。良し悪しはさておき、長年ドラゴンズの補強動向に注視しているが、ここまで動きがあったオフはしばらく記憶にない。
まず東北楽天イーグルスの投手・涌井秀章と日本人最多打点の阿部寿樹の電撃トレードを成立させる。その後、横浜DeNAベイスターズの投手・砂田毅樹と京田陽太の大型トレードも発表され、二遊間で主軸を担った野手2人を放出するという大鉈を振るった。
外国人は、長年ファンにとって待望だった長距離砲、MLB通算41本塁打のアリスティデス・アキーノを1億7000万円(推定)で大型契約。さらにバックアップとしてソイロ・アルモンテ、オルランド・カリステの両外国人とも契約を結び、現役ドラフトではDeNAからは大砲候補の細川成也を獲得。捕手も千葉ロッテマリーンズから加藤匠馬をレードで呼び戻した。
ドラ党からすると、かゆいところに手が届く迅速かつ、的確な補強に戸惑いにも近い驚きを覚えた方も多いのではないか。かくいう筆者もその一人だが、昨季最下位に沈み、立浪政権にとって2年目となる今季に、球団も期する思いがあるということは十分に伝わってくる。
昨シーズンの戦いぶりからも、セ・リーグは戦力が拮抗しているという見方も強く、少しのキッカケ次第で順位の入れ替わりがあってもいいだろう。それでも今季のドラゴンズがすんなりと上位争いに加わるかというと、不安と期待が混じり合うというのが正直なところだ。ファンにとっては毎年、開幕前のこの時期が最も夢を見られる期間になっているのは何とも皮肉だが、そんな慣習は今季で終わることを願っている。
今季を占う上で、改めてポジティブな面とネガテイブな点を改めて考察していきたい。
盤石の先発陣。高橋宏斗と小笠原慎之介の左右のダブルエース
主軸の阿部を放出してまでそろえたかったスターター。
立浪和義監督が守り勝つ野球を志すことは明らかだが、その中でも先発陣の顔ぶれは豪華だ。大野雄大、柳裕也、小笠原慎之介、高橋宏斗の4人は、リーグでも阪神と並び屈指の顔ぶれがそろう。ここにオープン戦でバンテリンドームとの相性の良さを見せた涌井に、松葉貴大、福谷浩司、鈴木博志(セットアッパーの亡命により中継ぎ再転換の報道あり)に若手左腕の上田洸太朗らが控える。シーズンを通してある程度計算が立つ投手がそろうのは明確な強みだろう。
中でも、昨季6勝7敗ながら圧倒的な投球内容を見せた高橋宏斗は一気にエースへと上り詰め、球界を代表とする投手となっても全く驚きではない。昨季の開幕前、あるドラゴンズOBと談笑している際に「高橋はモノが違う。現時点で投げているボールはウチの投手陣でも一番ですよ」と太鼓判を押していたことが記憶に残っている。昨季の圧巻の投球内容、WBCでの大活躍を見ると、まさに金言だったな、と改めて感じさせられた。
フォーシームはアベレージで150キロ台半ばを記録し、スプリットはすでに魔球の域にある。WBCの決勝でも、マイク・トラウトらメジャーリーグのスーパースターたちに臆せず、正面から打ち取っていたハートの強さも特徴的だ。昨季も打線の援護次第では2桁勝利にも十分届いた内容だっただけに、今季は大幅な貯金をつくる活躍を期待してしまう。懸念は昨季より登板期間が短くなることで、ローテを年間守り抜けるかということだが、もともと馬力があるタイプなので大きな心配は不要だろう。何よりドラゴンズに久しくいなかった、力でねじ伏せる本格派の右腕だけに、3年目の今季にどんな成績を残すか楽しみでならない。
また、昨季自身初の2桁勝利を達成した小笠原も1つ上のレベルに達した感がある。WBC日本代表との壮行試合でも圧巻の投球内容で、侍JAPANにまともにバッティングさせていなかったように、カーブとチェンジアップに加え、フォーシームの強さが年々増していることが活躍の要因だろう。特に小笠原はビジターでも成績を残していることに加え、DeNAや阪神タイガース、東京ヤクルトスワローズといった上位球団に対して好投するのもチームの計算上大きい。今季はよりフォーシームのキレと制球が増しているようにも映り、高橋とともに左右のダブルエースとして他球団の脅威となることは確実だ。
待望の4番。30本塁打を期待できる長距離砲の加入
ドラゴンズの4番は、長らくダヤン・ビシエドの指定席でもあった。その聖域にメスを入れようとしたのが、他ならぬ立浪監督。シーズン中からビジエドの打順の適正は4番ではない、という旨の発言をし、今季は1塁手を競わせるためアルモンテも呼び戻した。
だが、アキーノの加入により5番を任されるであろうことが、ビシエドの成績にも好循環を及ぼすだろう。アキーノはMLBでも有数のパワーを誇るという評価を受けていたが、その一方で三振数も多かった。長いリーチのため、インコースに弱点を持っていることをすでに露呈しつつあるが、26日のロッテ戦では腕を畳んで豪快にスタンドに放り込むなど適応の兆しを見せつつある。オープン戦では打率.170、三振21ながら4本塁打、.682のOPSを残した。
確実性という点では、他の外国人助っ人よりも劣るだろうが、そもそもファンが求めていたのは長距離砲だ。30本塁打を期待できる打者がいることで、相手投手にかける圧は雲泥の差がでる。特に昨季6勝18敗と絶望的に負け越したDeNA投手陣は、ドラゴンズが相手だとどんどんストライク先行で投げ込んできた。4番に長打力があるアキーノが座ることで、打線全体でのバランスも変わる。
強き時代のドラゴンズは4番にタイロン・ウッズやトニ・ブランコというパワーヒッターが座っていた。NPBでも上位に入るライトからの超強肩も魅力がある。おそらく今季も大幅な得点力増は見込めないが、アキーノの加入で、一発の長打に自慢の投手力で勝ちを拾う試合は、昨季よりも増えてくると希望も込みで考えている。
中継ぎ陣の運用は? 期待したい2人の若手
ドラゴンズの強みは、終盤に出てくるリリーフ陣の質でもある。
昨シーズンも清水達也にジャリエル・ロドリゲス、ライデル・マルティネスの最強助っ人で形成する勝利の方程式は盤石だった。今季もこの流れは変わらないが、長年ブルペンを支えたメンバーのケガや高齢化が顕在化しつつあることはマイナス材料だろう。
※編注・ジャリエル・ロドリゲスは衝撃的な亡命報道が飛び交っており、これにより勝利の方程式は変更を余儀なくされる可能性が高く、リリーフ陣の再編成の必要性がシーズン直前に出てきた
福敬登に藤嶋健人らの主軸に、岡田俊哉やブレイクの兆しがあった福島章太もケガで離脱。岩嵜翔も未だ復帰のメドは立たず、祖父江大輔や谷元圭介は勤続疲労からか実戦では被打が目立つ。先発から転向した勝野昌慶や復調した田島慎二にメドが立ったのは大きいが、頭数は先発陣と比べるとどうも心もとない。ここ数年、野手中心のドラフトに終始し、若手投手の台頭が少ないことも台所事情を一層苦しくしている。
そんな中で期待をしたい選手として、育成契約の竹内龍臣、福島の2人を挙げたい。2人とも単純に投げているボールに力があり、キッカケ一つで大きく化ける要素を秘めている。ドラゴンズにはパワータイプのリリーフの数が少ないため、彼らが戦力になると運用はずっと楽になる。勢いをつける若手の台頭に期待したいが、はたしてどうなるだろうか。
ポッカリと空いた二遊間。ポジティブに捉えると…
二遊間。チームの根幹をなすこのポジションは、京田、阿部の放出により文字通りゼロからの競争となった。だが、これも立浪監督が考える強いチームづくりには欠かせない工程なのだろう。
ドラフトでは二遊間を守れる選手を4人も指名する徹底ぶり。抜群の守備力を誇るドラ6の田中幹也は評価を高めていたが、残念ながら開幕前にケガで離脱してしまった。田中と競っていたドラ2の村松開人もケガを再発。正直、編成上ではかなり苦しい。
そんな中で、ドラ7の福永裕基がセカンド開幕スタメンをつかみそうだ。福永はしっかりとバットを振れる打者であり、チャンスでの強さがここまで目立っている。タイプ的には阿部と似ている部分もあり、長打が期待できる点がいい。セカンドの守備も水準程度にあるのも、首脳陣にとってはいい誤算だっただろう。ショートは昨季後半に出場機会をつかんだ龍空が起用されそうだが、バッティングには課題が残る。ここに溝脇隼人や田中、村松の故障組がどれだけ絡めるかだが、今年のドラフト組は実戦でも可能性を感じさせていただけに、返す返す故障が悔やまれる。シーズンを戦える計算を立てるのは難しいが、若返りを図る中で、不安と同時にワクワク感も感じさせる編成である、とポジティブに捉えたい。
ドラ1と2年目の飛躍を期す…投手と打者のブレイク候補は?
最後に投打で一人ずつ期待のブレイク候補を挙げて結びとしたい。
投手はドラ1ルーキーの仲地礼亜だ。
素材型という前評判だったが、投げるボールのすべてが高水準で、おそらく想定よりも早い段階で出てくる。コントロールで大きく崩れそうもない点、加えてウイニングショットのスライダーはプロでも十分に通用しそうだ。フォーシームの球威が想像以上であり、分厚い先発陣に割って入ってくる素質は十分に持ち合わせている。
打者は2年目の飛躍を期す、ブライト健太に期待を寄せたくなる。
プロ入り後はケガに苦しんだが、今季はキャンプから長打を連発。打撃フォームにも手を入れ、中村紀洋、和田一浩の両打撃コーチの指導が合うのか、メキメキと力をつけている。
身体能力を生かした走塁やセンターの守備は1軍レベルでも武器になるため、あとはいかにフォームを固め、バッティングの再現性と確実性を高めていくか。大島洋平の2000本安打達成が視野に入っていることもあり、ファイブツールがそろうブライトが外野争いに食い込んでくれば、来季以降の布陣も楽しみになってくる。
<了>
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