フォント統一に賛否両論。Jリーグ側の見解は? 「チューニングし、さらに良いものに」

Opinion
2020.10.14

Jリーグが9月15日に行ったオンライン会見で、「Jリーグオフィシャルネーム&ナンバー」導入を発表。2021シーズンより、選手番号および選手名の書体デザインがJリーグ全クラブ統一のフォントになる。これを受けてサッカーファン・サポーターの間では賛否両論さまざまな意見が飛び交った。特に1993年のJリーグ開幕時から一貫してフォントのデザインを変更していないジェフユナイテッド千葉、近年デザインを一新したばかりの東京ヴェルディ、清水エスパルスのファン・サポーターからは大きな反発の声が上がった。このような反発の声をある程度予想はしながらも、あえてフォント統一に踏み切ったJリーグ側の思惑とは? 千葉のサポーターでありスポンサーでもあるいぬゆな氏による問題提起に耳を傾けるとともに、本プロジェクトを主導したJリーグ側の関係者にも話を聞いた。

(文・トップ写真=宇都宮徹壱、本文写真=J.LEAGUE)

「ユニバーサルデザイン」そのものは否定しないけれど

《ユニバーサルデザインの大切さとか販売時の利便性(統一フォントならスポーツ用品店で多クラブのネーム圧着を取り扱いやすくなる)とかも当然わかるので、オリジナルフォントが生きる道をどこかに用意してもらいてえなというのが正直な気持ちでやんす。オリジナルフォント作ったばっかのクラブも多いし》(原文ママ)

ジェフユナイテッド千葉のサポーターであり、今年から『いぬゆな屋』の名前でクラブのスポンサーにもなった、いぬゆな氏の9月15日のツイートである(実はこの直前、罵詈雑言に満ちたツイートをしているのだが、ここでは割愛)。この日、Jリーグは理事会後の会見を開き、『Jリーグオフィシャルネーム&ナンバー導入について』という決定事項をリリース。いぬゆな氏の連投は、この決定に反応してのものであった。当人は「最近、こういうツイートは控えていたんですが」と苦笑しながら、こう続ける。

「ユニバーサルデザインそのものについては、異論はないんですよ。実は僕も乱視が入っているので、背番号がわかりにくい時があります。今回の変更で、自分自身が恩恵を受けるかもしれない。僕がむしろ問題だと感じたのがタイミングです。せめてシーズン開幕前に言ってくれれば、『このフォントは今年が最後』と考えながら、番号やネームを選べたと思うんですよ。そういうところが、ちょっと不親切だったなと」

今回のJリーグのリリースで、ファンやサポーターが敏感に反応したのは「2021シーズンから全クラブの選手番号・選手名の書体統一を決定」というくだり。つまり全56クラブすべての背番号とネームを、来季から同じ書体で統一するというものである。クラブカラーやエンブレムほどではないにせよ、ファンやサポーターはユニフォームの背番号やネームのフォントに、一定の愛着と誇りがある。とりわけ千葉の場合、Jリーグが開幕した1993年以来、ずっと同じフォントを使用してきただけに、反発は必至であった。

ユニバーサルデザインとは、アメリカの建築家でプロダクトデザイナーのロナルド・メイスが提唱した概念で、「障がいの有無や度合いに関わらず、できるだけ多くの人が利用できるようにデザインすること」を指す(メイス自身、車いすの利用者であった)。ユニバーサルデザインには7つの原則があるが、本件に関しては《使う上で柔軟性があること(Flexibility in Use)》《使い方が簡単で直感的にわかること(Simple and Intuitive Use)》《必要な情報がすぐにわかること(Perceptible Information)》が該当する。

統一フォントの合意がなされたのは去年の9月

発表から1カ月が経過し、この件はいったん沈静化したように感じられる。当初は憤りを感じていた人々も、ユニバーサルデザインの重要性や欧州リーグでの普及などが知られるようになると、SNS上での過激な反論は影を潜めていった。Jリーグの中継がスカパー!からDAZNに移行したときのように、このまま受け入れられていくようにも思える。そのDAZN、実は今回の決定に少なからぬ影響を与えていた。

「まずDAZNの中継で、スマートフォンやタブレットなど、テレビよりも小さい画面で視聴するファンが増えたこと。それとマッチコミッショナーの事例報告の中に、『背番号が見にくい』という指摘が過去5年で40件以上あったこと。この2つが大きな理由となりました。やはり背番号は見えやすいに越したことないですし、選手が特定しやすくなることで新しいファン獲得にもつながりますから」

そう語るのは、株式会社Jリーグ(Jリーグの事業会社)商品化事業統括部長、明石宏一郎氏である。確かに、ユニフォームの各サプライヤーがデザインの斬新性を追求するあまり、一部に視認性がよろしくない背番号が散見されているのは事実。それではいつから、こうした議論がスタートしたのだろうか。「各クラブとの話し合いが始まったのは、2017年の12月ですね」と教えてくれたのは、Jリーグ事業統括本部長の出井宏明氏である。続きを聞こう。

「その後もJリーグ内部、そして各クラブとの議論を続けました。『統一したフォントを作っていこう』という方向感が決まったのが、2019年9月の理事会。ただし、このときは『視認性が高い、良いものを作ろう』という基本合意ができただけです。その状況でアナウンスをして、イメージが独り歩きするのはよろしくない。ですので、実際にデザインが理事会で決定したタイミングで、発表させていただくことになりました」

ファンやサポーターのハレーションを十分に予期した上で、あえて大胆な改革に踏み切った背景は理解できた。今回のJリーグによるフォント統一について、考え方そのものは私も基本的に賛成である。ただし、いぬゆな氏が指摘するとおり、タイミングの面で「ちょっと不親切だった」とも思っている。ではなぜ、このタイミングでの発表だったのか。その間にどのようなプロセスがあったのか。明石氏と出井氏の証言から探っていくことにしたい。

Jリーグが重視した目視性と入念な実証テストを阻んだもの

本件のリリースで、デンマークのタイプファウンドリー、コントラプンクト(Kontrapunkt)社のフォントが選ばれたことが発表されている。タイプファウンドリーとは、オリジナル書体を開発提案している企業のこと。コントラプンクト社のデザインは、確かに嫌味のないもので、個人的な第一印象は「可もなく不可もなく」というものである。決定の経緯についての、出井氏の証言。

「国内外のタイプファウンドリー4社から5つの提案がありました。選考にあたり、一番のポイントとなったのが視認性。これについては、幾つもの項目を設けました。次に、デザインの拡張性。プレミアリーグでは公式サイトなどでも、同じフォントを使用していますが、Jリーグとしてもそういった展開を視野に入れています。それ以外にも、デザインの提供価値(日本らしさ・新しさ・スポーツらしさ)とか機能性とか、さまざまな項目がありました」

改めてコントラプンクト社のデザインを精査してみると、目新しさや先鋭さよりもユニバーサルデザインを追求していることが一目瞭然。とりわけJリーグが重視した目視性については、よく練られているように感じられる。出井氏によれば、今回のコンペティションについて「著名な会社に下駄を履かせるのではなく、徹底してフラットに選定した」とのこと。そのための具体的な実証テストについては、明石氏が説明してくれた。

「それぞれのデザインをシャツにプリントして、ピッチ上でどう見えるかという実証テストを6月8日に町田(GIONスタジアム)で行いました。レフェリーの方にも見ていただいて、総合的に判断してもらうのが目的でした。ただし、現場でのテストはこの1回だけでしたね。本当はもっとテストを重ねたかったんですが、3月から4月にかけてはコロナの影響で、われわれも身動きが取れませんでしたから」

またしても、コロナである。Jリーグとしては当初、さまざまなテストを行うつもりでいたらしい。天候や時間帯はもちろん、逆光や夕暮れ時や照明の下での見え方についても、考え得る限りのシミュレーションを想定していた。だが、新型コロナウイルスの影響で一度きりのテストで終わってしまったため、そうしたシミュレーションはCGで再現しながら検討することに。結果として、発表のタイミングも、大きく後ろ倒しとなってしまった。

フォント統一にJリーグ側が感じた「反省点」とは?

今回の取材での一番の収穫は、当のJリーグ側が「反省すべき点があった」ことを認めていたことだろう。明石氏は「もう少し早く、デザインを決定したかったですね」。出井氏は「クラブを通じてのコミュニケーションで、もっとできたことはあったと思います」。ユニバーサルデザインの意義を認めながらも、どこか割り切れなさを感じていた私にとって、そうした反省の弁を聞くことができたのは救いであった。その上で、今も決定に納得できないファン・サポーターに向けた、両氏の言葉を伝えておこう。

「2019年にゴーサインが出て、実施できるのは最短で2021年のシーズンになります。各クラブのユニフォームサプライヤーの契約もありますし、来年のシーズン開幕までにファン・サポーターの皆さんに新しい背番号が入ったユニフォームをお届けすることを考えると、9月での発表がギリギリのタイミングでした。Jリーグオフィシャルネーム&ナンバーシートを遅滞なく生産するというわれわれの仕事はこれからが本番ですが、あらゆる視聴環境に耐え得るデザインだと自負しております」(明石氏)

「このデザインを選ぶにあたり、外部スタッフも含めてチームメンバーは本当によく頑張ったと思います。とはいえ評価するのは、われわれではなく、メディアの皆さんや視聴者の皆さん、そしてファン・サポーターの皆さんです。実際に試合でご覧いただいて『もっとこうしたほうがいい』というご意見があれば、われわれのほうでもチューニングしながら、さらに良いものにしていければと思います」(出井氏)

出井氏の「チューニングしながら、さらに良いものに」という発言について補足しておこう。背番号のユニバーサルデザイン化を、世界で最初に実現させたのはイングランドのプレミアリーグであった。これが1997年のことで、プレミアリーグ創設からわずか5年後。注目すべきは、その後も2007年、2017年と、10年ごとにアップデートされていることだ(現在は3代目ということになる)。

おそらくJリーグは、今回のフォントに何かしらの瑕疵(かし)を判断したら、10年後といわず次のシーズンから改善を試みることだろう。それこそ、DAZNとの契約締結によって「少なくとも5年は続く」としていた、J1の2ステージ制を2シーズンで撤回したように。村井満チェアマン就任以降のJリーグは、良くも悪くもスピード感と一気呵成を旨としてきた。しかし一方で、細やかな修正能力を発揮していたのも事実。今回のフォント統一についても、柔軟性をもって良い着地点を見出してくれることを切に望みたい。

最後に、いぬゆな氏のツイートにあった《オリジナルフォントが生きる道をどこかに用意してもらい》という意見に関しても確認してみた。Jリーグの公式戦以外の使用は「問題ない」とのこと。ちばぎんカップなどのプレシーズンマッチでは、問題なくオリジナルフォントが使用できることを付記しておく。

<了>

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