長友佑都の真の強さとは? 鈴廣かまぼこが明かす、老舗企業×アスリートとのパートナーシップ成功の舞台裏
創業157年を誇る老舗の鈴廣かまぼこと、サッカー日本代表の長友佑都と専属シェフの加藤超也氏が手を組み発足した「魚肉たんぱく同盟」。このプロジェクトは単なる企業のプロモーションの枠にはとどまらず、良質なたんぱく源である“かまぼこ”を長友の身体づくりに役立てる食トレの側面に加え、かまぼこの機能的な魅力やその美味しさを世の中に伝えている。今回、長友とパートナーシップを結んでいる鈴廣かまぼこ常務取締役の鈴木智博氏に、パートナー企業から見た長友やアスリートの魅力を聞いた。
(インタビュー・構成=五勝出拳一、写真提供=鈴廣かまぼこ)
数年待ち望んだ、長友佑都との巡りあわせ
――日本が誇るトップアスリートと創業157年の老舗かまぼこ屋のパートナーシップは、その意外性もあいまってインパクトある取り組みになっているのではないかと思います。どのような経緯で、長友佑都選手、加藤超也シェフとのパートナーシップに行き着いたのでしょうか。
鈴木:鈴廣かまぼこの既存のお客さまは比較的年齢層が高いこともあり「かまぼこの新たな需要創造」は、鈴廣かまぼこの長年の企業課題でした。年末年始のおせち需要と小田原エリアへの観光需要に加えて、どのような戦略がいいのか、手を替え品を替え、この数年模索してきたかたちです。
そのような状況で注目していたのが「かまぼこ=良質なたんぱく質」の訴求でした。かまぼこは1本で約7匹分の魚を使っており、アミノ酸スコアは100で消化性にも優れていることからも、納豆や豆腐、お肉と並ぶような日常のたんぱく源としてかまぼこを認知してもらえないかと考えました。実際、たんぱく質文脈の啓発活動は、約20年前から多少なりとも行ってきたのですが、畜肉(鶏肉、豚肉、牛肉など)=たんぱく質のイメージが根強いこともあり、魚肉が良質なたんぱく源であるという認知を得る難しさに直面してきました。
そんな中、5年ほど前にドキュメンタリー番組で長友選手が食トレの一環でたんぱく源として魚肉をメインに食べられている様子が放送されていて「いつかこの人と一緒に魚肉たんぱくを広める活動ができたら……」と直感的に思ったことが、ことの始まりです。それから数年後、ご縁をいただいて長友選手及び加藤シェフと巡り会うことができ、魚肉たんぱく同盟の発足につながりました。
――数年来待ち焦がれたパートナーシップだったわけですね。その後、実際に長友選手や加藤シェフとお会いして、実際にプロジェクトを立ち上げる際にはどのようなコミュニケーションがありましたか?
鈴木:最初に加藤シェフが来社してくださり、鈴廣の商品が「長友選手のパフォーマンス向上につながるかどうか」や「食事の中にどのように取り入れるとよいのか」を、時間をかけて吟味してくださいました。具体的な取り組みが始まる前に、鈴廣かまぼこの有用性を加藤シェフが理解してくださったことで、その後の取り組みが深みのあるものに発展していきました。
アスリートは試合や練習が終わった後30分間以内に、素早く良質な栄養を摂る必要があるのですが、加藤シェフはその30分間=ゴールデンタイムに効率よく、美味しいたんぱく質補給の選択肢を長友選手に提供できないことを課題に感じていたそうです。
かまぼこが長友選手をはじめとしたアスリートの課題解決につながることを実感いただいたおかげで、手軽においしく食べられるフィッシュプロテインバーの開発まで発展していきました。タレントやインフルエンサーの方を起用させていただく機会は過去にもありましたが、表層的なプロモーションに終止しない価値あるパートナーシップを築くことができ、とてもうれしく思っています。
長友選手は実際にお会いして、メディアを通じて拝見していたイメージ通りの熱量とユーモアがありつつも、ご自身の中に確固たる軸をお持ちの方でした。視野も広く客観的に物事を見られている印象で、さすがサイドバックだなと思いました(笑)。最近はピッチ上でも、フィジカルだけに頼るのではなく判断や戦術理解も武器にされている印象がありますが、ビジネス的な判断もすごく明快で素早いので、ビジネスマンとしても学ばせていただいている部分があります。
マネジメントチームの強さも良好なパートナーシップに欠かせない
――パートナーシップが決まる前に加藤シェフが真に長友選手のパフォーマンス向上につながるかどうかを吟味して、GOサインを出した点が非常にユニークですよね。そのような意味では、長友選手と加藤シェフに加え、長友選手のマネジメントチームであるCuoreの皆さんが培ってきたプロセスの強さを感じます。
鈴木:「アスリートの価値から創造したプロダクトで健康課題の解決へ挑戦する」というCuoreのビジョンは、まさに長友選手の意識と直結しており、チーム長友はそのビジョンからブレない。加藤シェフもマネジメントチームの皆さんも、鈴廣かまぼことのパートナーシップを通じて社会を健やかにできるのかどうかを真剣に考えてくださったことは、非常にうれしかったです。メディアを通じて知られている長友選手のパブリックイメージと、ご本人のキャラクターや会社のビジョンが全くぶれていない部分はチーム長友の強みですよね。
企業側からすると、確かなプロセスを積み重ねられてきたアスリートは説得力がありますし、自社のメッセージを伝えていく際にも起用をしたくなる存在です。また長友選手を活用した販促活動においては、チーム長友の皆さんのご尽力もあって初年度から良い結果が出ています。長友選手の肖像を活用した販促ツールを作成し、それを小売店の皆様に提供することで、年間で200店舗ほどの新規の棚取りに成功するなど鈴廣かまぼこの売り場を広く取っていただけるケースが増えています。
――長友選手はピッチ上で高いパフォーマンスを発揮し続けながら、鈴廣かまぼことのパートナーシップをはじめ、自社事業や広告案件などさまざまな活動に取り組んでいますが、それでもキャラクターがブレない背景にはチーム長友の存在があるわけですね。
ともに迎えたW杯、社内外の反響は
――FIFAワールドカップ カタール大会までの2年強、まさに長友選手とともに歩まれた鈴廣かまぼこですが、魚肉たんぱく同盟のプロジェクトオーナーとしてはどのような心境ですか?
鈴木:私ももともとサッカー少年だったのでW杯は特別な大会です。2002年の日韓大会の時にボールパーソンをやった経験があるのですが、その時の光景は今も強烈に自分の脳裏に焼き付いています。この2年強の期間においては、鈴廣かまぼこの商品を通じて長友選手の身体づくりの一部をサポートさせていただきましたが、私を含めて弊社のスタッフ全員が長友選手のパフォーマンスを楽しみにしていました。このプロジェクトを通じて、一緒に戦わせていただいている感覚でした。鈴廣かまぼこ157年の社史に残る出来事ですね。
今大会の代表メンバーに長友選手が選ばれた際には「長友さん、代表メンバー入りおめでとう!」と、なぜか私のところにたくさんのお祝いメッセージが届きました(笑)。周囲の方にも、それくらい長友選手との取り組みをポジティブに認識いただけているのだなとうれしくなりました。メディアの取材もいくつかきて、僭越ながらお祝いコメントもお出しさせていただきました。
――選手をスポンサードすることによって、会社の売上や認知にどう影響を及ぼしたのかは当然重要視されるポイントですが、社内に与える影響も大きそうですね。
鈴木:社内も非常にポジティブな雰囲気で、長友選手やサッカー日本代表の話題があふれ、インナーコミュニケーションにも貢献いただいている実感があります。
お魚たんぱくで世界を健やかに
――昨年に発足した魚肉たんぱく同盟をはじめ、近年はスポーツ領域と連携した動きも目立つ鈴廣かまぼこですが、それ以前もスポーツやアスリートとは密接な関係だったのでしょうか?
鈴木:2000年にベルマーレ平塚から湘南ベルマーレへ体制変更があった際、ホームタウンの小田原市を代表して弊社社長が湘南ベルマーレの役員になり、そのことがきっかけでスポーツとの距離がグッと縮まりました。ベルマーレのスポンサー歴も今年で22年になりました。それ以外だと、箱根駅伝の小田原中継所の運営に長年協力しています。一方で、企業活動の中枢にスポーツ軸を据える取り組みは「魚肉たんぱく同盟」が初めてのことです。
――会社の文化としては、スポーツとも近しい関係だったわけですね。長友選手、加藤シェフと鈴廣かまぼこが共同開発されたフィッシュプロテインバーは、どのような狙いやプロセスのもとで実現したのでしょうか。
鈴木:かまぼこは高たんぱく・低脂質で消化性も良く、運動前後の補食やダイエット需要にも応えうる商品だという自信はありました。一方、魚肉たんぱく同盟のプロジェクトを進めていく中で「かまぼこが身体づくりやコンディショニングに良いことは分かったが、何を食べればいいのか」というお問い合わせをいただくことが増えました。そこで、スポーツシーンやフィットネス市場にも参入できるようなシンボル商品があったほうがお客様も直観的に理解しやすいだろうと考え、商品開発に踏み切った次第です。
初年度は市場調査もかねてクラウドファンディングを行い、結果的には目標金額834%と成功を収めることができたことに加え、ユーザーの皆さまからの評判も非常に良かったので、本格的な商品化を進める経営判断をしました。フィッシュプロテインバーはナチュラルローソンさんでも取り扱っていただいているのですが、コンビニに鈴廣かまぼこの商品を置いていただくのは一つの夢だったので、それを実現することができてとてもうれしかったです。
――クラウドファンディングの成功や、フィッシュプロテインバーの好調な滑り出しにはどのような要因があると思われますか?
鈴木:「プロテインバー」という商品はすでに市場に多く存在していますが、その中でも鈴廣のフィッシュプロテインバーはストーリーと、美味しさ・機能性の部分で群を抜いていると自負しています。おいしさと機能性に関しては、弊社が誇る商品力と職人の技術の賜物であり、ストーリーの部分は加藤シェフが長友選手をサポートする中で感じていた「運動後すぐに良質なたんぱく質を補給することが難しい」という課題を解決したい、という想いに端を発しています。
フィッシュプロテインバーは3つの味で商品展開しているのですが、加藤シェフが考案してくださった異国料理をかまぼこに再構築するチャレンジングなレシピで、加藤シェフの求める水準をクリアするためにも鈴廣かまぼこの職人が開発に開発を重ねて完成した自信作です。その上でフィッシュプロテインバーを発表させていただいたことが成功の一つの要因かとは思っています。それと同時に、この魅力的な商品をもっと広く皆さんに知っていただくためにも、われわれとしてはより努力していかないといけないと感じている次第です。
――魚肉たんぱく同盟の今後の展望はいかがでしょうか。
鈴木:まずは、魚肉たんぱくのブームをより加速させていきたいと思っています。日本かまぼこ協会や水産庁とも連携し、魚肉たんぱくの有用性を伝えるエビデンス作りや情報発信の活動は今後よりいっそう強化していく見込みです。日本の魚食文化や、ひいては日本人のたんぱく質不足の課題を解決するためにも、魚肉たんぱく同盟の活動を軸に、スポーツ領域の皆さまとも連携しながら引き続き尽力していきたいと思います。
<了>
なぜ長友佑都は、“ポスト長友”を寄せ付けないのか? 筋肉や体をつくる材料にまで拘る準備力
“長友専属シェフ”誕生秘話。もう一人の恩人と深夜のラブレター、そして生まれた新たな職業
6000万人視聴のコスタリカ戦で失した日本代表の気迫と執念。乾坤一擲のスペイン戦へ、森保監督・吉田・長友の覚悟と決意
ドイツ・スペインに大番狂わせも、日本代表が満足しない理由。次に志向すべきは「自分たちのサッカー」か、それとも…?
日本代表が撥ね返され続けた「ベスト8の壁」。4度目の正直に求められる答えの行く先は…?
PROFILE
鈴木智博(すずき・ともひろ)
「鈴廣かまぼこ」の長男として育つ。大学卒業後、商社へ入社。世界中に魚を買い付けに行き、水産のダイナミズムを学ぶ。2015年にかまぼこの伝統を継ぐために鈴廣へ入社。現在はマーケティング部を担当し、かまぼこ市場をどう作っていくか奮闘中。また、日本の伝統の味を受け継ぎ伝えていくユニット「Handred」の一員としても活動している。
筆者PROFILE
五勝出拳一(ごかつで・けんいち)
広義のスポーツ領域でクリエイティブとプロモーション事業を展開する株式会社SEIKADAIの代表。複数のスポーツチームや競技団体および、スポーツ近接領域の企業の情報発信・ブランディングを支援している。『アスリートと社会を紡ぐ』をミッションとしたNPO法人izm 代表理事も務める。2019年末に『アスリートのためのソーシャルメディア活用術』を出版。
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
JリーグMVP・武藤嘉紀が語った「逃げ出したくなる経験」とは? 苦悩した26歳での挫折と、32歳の今に繋がる矜持
2024.12.13Career -
昌平、神村学園、帝京長岡…波乱続出。高校サッカー有数の強豪校は、なぜ選手権に辿り着けなかったのか?
2024.12.13Opinion -
なぜNTTデータ関西がスポーツビジネスに参入するのか? 社会課題解決に向けて新規事業「GOATUS」立ち上げに込めた想い
2024.12.10Business -
青山敏弘がサンフレッチェ広島の未来に紡ぎ託したもの。逆転優勝かけ運命の最終戦へ「最終章を書き直せるぐらいのドラマを」
2024.12.06Career -
三笘薫も「質が素晴らしい」と語る“スター候補”が躍動。なぜブライトンには優秀な若手選手が集まるのか?
2024.12.05Opinion -
ラグビー欧州組が日本代表にもたらすものとは? 齋藤直人が示す「主導権を握る」ロールモデル
2024.12.04Opinion -
卓球・カットマンは絶滅危惧種なのか? 佐藤瞳・橋本帆乃香ペアが世界の頂点へ。中国勢を連破した旋風と可能性
2024.12.03Opinion -
非エリート街道から世界トップ100へ。18年のプロテニス選手生活に終止符、伊藤竜馬が刻んだ開拓者魂
2024.12.02Career -
なぜ“史上最強”積水化学は負けたのか。新谷仁美が話すクイーンズ駅伝の敗因と、支える側の意思
2024.11.29Opinion -
FC今治、J2昇格の背景にある「理想と現実の相克」。服部監督が語る、岡田メソッドの進化が生んだ安定と覚醒
2024.11.29Opinion -
スポーツ組織のトップに求められるリーダー像とは? 常勝チームの共通点と「限られた予算で勝つ」セオリー
2024.11.29Business -
漫画人気はマイナー競技の発展には直結しない?「4年に一度の大会頼みは限界」国内スポーツ改革の現在地
2024.11.28Opinion
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
なぜNTTデータ関西がスポーツビジネスに参入するのか? 社会課題解決に向けて新規事業「GOATUS」立ち上げに込めた想い
2024.12.10Business -
スポーツ組織のトップに求められるリーダー像とは? 常勝チームの共通点と「限られた予算で勝つ」セオリー
2024.11.29Business -
なぜイングランド女子サッカーは観客が増えているのか? スタジアム、ファン、グルメ…フットボール熱の舞台裏
2024.11.05Business -
アスリートを襲う破産の危機。横領問題で再燃した資金管理問題。「お金の勉強」で未来が変わる?
2024.10.18Business -
最大の不安は「引退後の仕事」。大学生になった金メダリスト髙木菜那がリスキリングで描く「まだ見えない」夢の先
2024.10.16Business -
浦和サポが呆気に取られてブーイングを忘れた伝説の企画「メーカブー誕生祭」。担当者が「間違っていた」と語った意外過ぎる理由
2024.09.04Business -
スポーツ界の課題と向き合い、世界一を目指すヴォレアス北海道。「試合会場でジャンクフードを食べるのは不健全」
2024.08.23Business -
バレーボール最速昇格成し遂げた“SVリーグの異端児”。旭川初のプロスポーツチーム・ヴォレアス北海道の挑戦
2024.08.22Business -
なぜ南米選手権、クラブW杯、北中米W杯がアメリカ開催となったのか? 現地専門家が語る米国の底力
2024.07.03Business -
ハワイがサッカー界の「ラストマーケット」? プロスポーツがない超人気観光地が秘める無限の可能性
2024.07.01Business -
「学校教育にとどまらない、無限の可能性を」スポーツ庁・室伏長官がオープンイノベーションを推進する理由
2024.03.25Business -
なぜDAZNは当時、次なる市場に日本を選んだのか? 当事者が語るJリーグの「DAZN元年」
2024.03.15Business