「国内組」からなでしこジャパンへ。アジア大会3連覇で見えた現在地と、W杯への生存競争

Opinion
2026.10.05

国内組中心のなでしこジャパンが、愛知・名古屋アジア競技大会で3大会連続4度目の優勝を果たした。海外所属はGK大場朱羽のみ。初招集13人を含む23人は、招集から初戦まで実質4日という短い準備期間から6試合を戦い、決勝ではA代表の主力をそろえた北朝鮮をPK戦の末に下した。7得点で大会得点王となった神谷千菜をはじめ、海外組を含めた代表争いにつながる可能性を示した選手もいる。来年のワールドカップを見据え、アジア大会を戦った23人の現在地と、海外組を含めた代表争いへの可能性を探る。

(文=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=森田直樹/アフロスポーツ)

「3連覇」の先にあったもの

金メダルを手にした23人のうち、何人が次のなでしこジャパンに残るのか。

愛知・名古屋アジア競技大会で、なでしこジャパンは3大会連続4度目の優勝を果たした。決勝では北朝鮮に押し込まれる時間が長く、今大会で初めて失点し、一度はリードも許した。それでも終盤に追いつき、延長戦を含む120分を2-2で終えると、PK戦を5-3で制した。

今回の23人は、海外所属がGK大場朱羽のみで、初招集13人を含む国内組中心の編成。WEリーグで活躍する選手たちが、招集から初戦まで実質4日という短い準備期間から、約3週間で6試合を戦った。最後の決勝で待っていたのは、A代表の主力をそろえた北朝鮮だった。

一方、10月の欧州遠征では、WSL(イングランド・女子スーパーリーグ)やNWSL(アメリカ女子プロサッカーリーグ)など海外のトップリーグでプレーする選手たちが再び代表の中心となる。今回のメンバーにとって、アジア大会は3連覇を懸けた戦いであると同時に、その競争へ割って入るための選考の場でもあった。

狩野倫久監督も優勝後、今回のメンバーについて「ラージリストに入ってくる選手たち(であること)は間違いありません」と明言している。

大勝の先で問われた「国内組の現在地」

日本はグループステージ3試合で20得点。準々決勝のフィリピン戦も4-0で勝ち、準決勝まで5試合26得点無失点という数字を残した。ただ、試合を重ねる中では、引いた相手を崩す際のパスや相手に寄せるタイミングのずれ、クロスに偏る攻撃など、細かな課題も見えていた。

より明確な物差しになったのが、A代表の主力をそろえた韓国、北朝鮮との2試合だった。韓国戦では前線からのプレスを受けてビルドアップに苦しみ、北朝鮮戦ではさらに相手の強度が上がった。特に後半はセカンドボールを拾われ、球際でも後手を踏み、奪った後も前へ運べない。5試合連続7得点を挙げていた神谷千菜にも、いい形でボールを届けられなかった。

成宮唯は、劣勢の中でゲームを変え切れなかったことを自身にも向けた。

「チームがうまくいかない時に、自分も含めて中でしっかり変えられる力や、ゲームを読む力がもう少しあれば、単調な攻撃だけではなく、落ち着いてボールを回せる場面もあったと思います。そこは課題が残ります」

タイやベトナムを相手に何点取ったか以上に、強度が上がった韓国、北朝鮮を相手に何を出せたか。そこに、今回のメンバーが海外組を含めたなでしこジャパン定着を目指す上での現在地が表れた。

ただ、その北朝鮮戦で一度は逆転されながら試合を戻し、120分を耐えてPK戦を制したことも、このチームが6試合で残した一つの答えだ。自分たちの時間をほとんど作れない展開でも、交代選手を含めた総力戦で勝ち切った。短期決戦を戦い抜く力は、最後の一戦で最も強く表れた。

6試合で広げた選手の可能性

来年のワールドカップを見据え、なでしこジャパンの選択肢を広げていく上で、狩野監督がこの大会で重視したのが、一人ひとりの可能性を引き出すことだった。

十分な準備期間がない中でも、選手起用は積極的だった。初戦のタイ戦では途中出場も含めて8人が代表デビュー。第3戦までに23人全員がピッチに立った。

今大会の狩野監督の起用で特徴的だったのが、選手を本職のポジションに固定しなかったことだ。所属クラブではサイドアタッカーとしてプレーする浜田芽来はサイドバックに定着し、前線でプレーする上野真実をアンカーへ。ボランチを主戦場とする伊東珠梨、瀬野有希はセンターバックで起用した。 

短期間で結果を求められる代表で、あえて慣れない役割を与える。その狙いを、狩野監督は大会序盤にこう説明している。

「一番は選手個人の成長です。そのポジションでうまくいく場合もあれば、不慣れな中で考えてもうまくいかない場合もある。でも、そこで試合の展開や状況を把握して、今何をすべきかを考える。それを経験することで、もう一回自分のポジションに戻った時に、さらに良さが出ることもあると思っています」

その一人が、5試合でセンターバックを務め、最終ラインを支えた伊東だ。

「(本職の)ボランチとは違う動きや、ボランチをカバーする動きなど、ディフェンスラインの選手としてリーダーシップを発揮することはすごく意識していました。今大会を通して、自分が意識していたことは最後までできたと思います」

試合中も配置を柔軟に変え、ハーフタイムに4、5人を一気に交代させることも。指揮官の意図は「一気に流れを変える」こと。6試合を通じて試されたのは、個々の適応力でもあった。

選手とともに、新体制のスタッフにとっても初めての大会形式での戦いだった。内田篤人コーチが守備面、近賀ゆかりコーチがセットプレーを中心に担うなど、それぞれの専門性を持ち寄り、選手個々へのアプローチを重視したという。

「スタッフ同士で擦り合わせて要求しながら、確認して追求して、選手と一緒に成長したところが優勝につながったと思います。選手、スタッフ一体となって取ったタイトルという意味では、大きな意味があると思っています」(狩野監督)

短期間で選手の可能性を探りながら、新体制としての連係も深めた6試合。その経験は、来年のワールドカップに向けたチーム作りにもつながっていく。

得点王・神谷千菜と、基準を求め続けた成宮唯

その中で最も分かりやすい結果を残したのが、7得点で大会得点王となった神谷千菜だ。A代表初招集で、デビューから5試合連続得点。7得点のうち3点をヘディングで決め、2アシストに加えてPKも獲得した。

ただ、その可能性を得点数だけで評価するのはもったいない。前線で体を張って起点になり、背後への動き出しで相手の最終ラインを動かす。クロスへの入り方も速く、体勢を崩してもシュートは枠を捉えた。狩野監督も「今までにないタイプのターゲットになれる」と評価している。

「今いる女子のフォワードの中でも、自分はあまりいないタイプかなと思っています。それをどれだけ突き抜けさせられるかが自分の課題です。そこで違いを出せれば、その先にもつながっていくと思います」

その言葉通り、現在のなでしこジャパンのFW陣とは異なる選択肢になり得る。一方、北朝鮮戦では前線で孤立する時間も長かった。より強度の高い相手に同じ武器を出せるか、前線からの守備も含めて次の基準が問われる。

得点数とは違うところで強く印象に残ったのが、今大会でキャプテンを務めた成宮唯だ。本職ではないサイドでの起用も多かったが、攻守の強度を落とさず、韓国戦では中央に移って前線からの守備を活性化させた。さらに、短期間で集まったチームに高い基準を求め続けた姿勢も際立っていた。

「ピッチ上においては、年齢もリスペクトも少しは置いていかないと生き残っていけないと思います。それぐらいギラギラしたものが必要。自分はこの年でも、年下の選手に負けたくないという思いは一番強いと思っています」

練習から一つのパスのずれも曖昧にせず、細部まで互いに要求し合うことを求めた成宮だが、自身にもさらに高い基準を課している。

「自分のストロングの部分にプラスして、海外の選手を相手にした時に、自分はすごく小柄なので、強度の部分で戦える武器を一つ持っていないと、定着するのは難しいと思っています」

「国内組」から、次の代表争いへ

上野真実と塩越柚歩も、それぞれ違った形で存在感を残した。上野はアンカーから前線までを担い、韓国戦では神谷の先制点をクロスで演出し、決勝では自ら先制点。塩越はボールの収めどころとなり、セットプレーや周囲を生かすプレーで攻守をつないだ。

そして、この大会から早くも次の扉を開いたのがゴールキーパーの大場朱羽だ。韓国、北朝鮮との2試合では背後へのボールやクロスに安定して対応し、決勝ではPKもストップ。キックやビルドアップには改善の余地を残すが、海外で磨いた最大の武器を、強度の高い相手に発揮した。

「海外でもクロス対応は伸ばしたいと思っていますし、日常から海外の選手たちとプレーしています。これまでやってきたことを、こういう相手と戦った時にどれくらい発揮できるのかを見ることができた、いい機会だったと思います」

その大場は決勝翌日、10月欧州遠征への追加招集が発表された。今回の23人の中でいち早く、海外組が中心となるなでしこジャパンに加わることになった。

今回のメンバーはそれぞれのクラブに戻り、再び日常の戦いに身を置く。年末には国内でブラジルとの2試合も予定されており、そこでアジア競技大会組に再びチャンスが巡ってくる可能性もある。

アジア大会で示した力は、海外組を含めた競争の中でどこまで通用するのか。今後の代表選考で、その答えが見えてくる。

<了>

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